FILE35:予感
ヤンの鋭い空の青さを写し取ったかのごとく青く輝くサファイヤの瞳に睨み据えられオルガは思わず数歩後ろへとたじろいだ。
長年彼女のおかげで嫌でも培わされた習慣のせいか‥。つい特に彼女が自分に何をする訳でもないと解ってはいるものの、条件反射的に身構えてしまう。
「で、どうなんだオルガ?」
そんな小さいときから彼女の前では弱小者である自分の心など手に取るようにわかるであろうヤンの更なる追い討ちの如く冷たく紡がれた女性にしては少し低い声音にオルガは思わず足を竦ませ、瞳を潤ませた。
-…俺、もしかして何かコイツに恨まれるようなことやったか?!
自己の過去を嘆くように振り返り、自問自答を繰り返す。
直ぐ真横からまるで幾万の針で全身を突かれている様に感じるヤンの目線が痛い。
「なんだ?貴様のその口は飾り物か?それとも…」
「だぁぁ!!そ、そんなこと言われなくたって解るつーの!!つまり、ほれ、あれだろ?!俺の大切な、大切な、世界で最も美しく、神々しく、愛しいあの聖女様の命が他の奴等から狙われてるっ、て事だろ!?」
これ以上の毒がヤンの口から出る前にオルガは大きな声を上げた。
「あぁ、すまないオルガ。私としたことがとんでもない勘違いをしていた…。飾り物は貴様の頭だったようだ。」
しかし、彼女は彼に対しどこまでも無情な女だった。
「俺だってやれば出来る子なんだぜ!」と子供の主張のように叫んだオルガの顔をチラリと見ると、はぁ、と重い溜息を吐いた。「これ以上、お前に付き合ってられん。」とでも言うかのように肩をすくめ無言で頭を振る。
「な、なんだよその態度は!!」
「なぁに、お前の頭は外観が言い分中身が少しばかり足りなくとも高く値がつくことだろうよ。」
「なんの話だ?!」
現状を忘れ、身体を用いて大きくヤンに突っ込むオルガ。
しかし、「シッシッ」と犬の如く追い払れた。
「お前って-…。昔っからそんな奴だったよな…。」
あまりにも酷い扱いに思わずつい最近まですっかりさっぱり忘れていた今思い出しても全身の身の毛が立つも程恐ろしい過去を思い出しながらオルガはガクッと肩を落とした。
途端、今までのこの国随一と歌われる大尉としての威厳が一瞬にして消えうせる。
ヘナヘナと腰を落とし、地面にのの字を書きながらイジケルもういい年こいた男の姿にヤンは内心呆れ果てながらその広い背中を数分眺め…
そしてとうとう重たい口を開いた。
「この国の聖女が他国に伝わることにより聖女を何としてでも手に入れようとするのが我が国と同教の西の国ウェスだ。そしてそれとは真逆に、聖女を何としてでも消そうとするのが北の国ノースと南の国サウリアだ。それ以外にも我が国内部で聖女の命を狙う者達が大勢聖女を指示する人々の影に居ることをお前は知っているだろう?」
「-…あぁ。」
「お前の言うとおり聖女はありとあらゆる方面からその存在をこれから狙われるだろう。故に私たちは聖女を絶対的安全な場所に置きたがる。それがここホルス神殿だ。」
「なら、ここに」
「…確かにここなら安全だろう。なんせ神に祝福されし者以外決してこの神門を潜り抜けることはおろか、神殿の中にさえ入ることなど出来ないだろうからな。だがもしも、この神殿内部に協力者が居たとしたらどうする?」
「まさか…」
「この世に絶対などと言うそんな都合が良い言葉は存在しない。どこかしら穴と言うものが在ると言うものだ。よく覚えておくと言いさ。」
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