FILE34:隠れた心
「賑やかだなぁ」
「あぁ。」
「何やってんのかなぁ」
「さぁな。」
天に向かって高く聳え立つ、何者の侵入をも拒む大地から伸びる分厚い白壁。
どこまでも白く、分厚い白壁に背を凭れながら二人は特に何をする訳でもなく空を仰いでいた。
風が二人の間を通り抜け、何者に縛られることも阻まれることも無く青い青い、どこまでも青く透き通った空へと舞い上がる。
夏告げ鳥がそんな風と戯れるように灰褐色の翼を広げ優雅に踊り、どこからともなく姿を見せた紋白蝶が、風と共に舞い降りた淡い桃色の花弁と共にヒラヒラヒラヒラ楽しげに軽いステップを踏む。
風に擽られ大きくざわめく青い木々、南に上がった日差しが青々と茂った草花に命を育む力を与えキラキラと輝いている。
口を閉ざせば、
目を閉ざせば、
耳を澄ませば、
直ぐ聞こえてくる肥沃なイーシス国の大地が奏でる自然のアリア。
その歌声に二人はただ静かに聞き惚れ、目を閉じた。
いったいどれほどそうしていただろうか‥。
小さな大気の揺れと共に二人はゆっくりと身体を白壁から起こすと目を開けた。
いつもは「本当に人が居るのか?」と疑わしいほど静寂に満ちる神殿が、今日に限って分厚い白壁を通してまで聞こえる大きな喧騒が止まない。むしろ徐々に大きくなっていっていると言ってもいいだろう。
-…まさか賊でも入ったのか‥?。
神門の前にまるで敵を待ち構えるかのように立ち、もしものときを備え腰に手を当てるヤン。
「なぁ、ヤン」
「何だ?」
使い古された短剣の柄がヤンの細く長い指先にあたり彼女の心を少しだけほっとさせる。
「なんで態々陛下は-…ここから聖女様を‥お前の家に匿う事にしたんだ?」
「-…。」
ヤンと同じく気配を完全に絶ち、門の横に並び内の気配を鋭い目つきで伺うオルガ。
白壁の周りに一定間隔の間を置き佇んでいた武装神兵達に手を用いて静かに慣れた仕種で合図を送りながら彼はふと言葉を漏らした。
分厚い白壁に覆われた内部をまるで透視でもするかのように獰猛に輝くエメラルドの瞳を細め、睨み据えるその姿は、普段ヤンが見る彼の姿とはあまりにも異なっていた。
さすがこの国切っての出生頭、と言ったところだろうか‥。
自分が生まれながら持つ権力、地位に、決して頼ることもせず、ただひたすらに己の力のみでここまでのし上がってきた男。
普段は「甘ちゃん」とも言えるぐらい馬鹿な男だが、一旦切り替えると彼はどこまでも冷酷無慈悲な男となる。
傍から見れば、二重人格に見えてしまうかもしれないが彼は決してそうではない。
己の意思で、己を律している。ただそれだけだ。
けれども-…、
「だからコイツは馬鹿なんだ。」
ヤンはそう思わずにいられない。
「ここなら絶対に‥、」
「-…、はぁ。 だから貴様はいつまでたっても馬鹿なんだ。」
「んなぁ!!」
「いいか、その頭の面積の割にはスカスカで足りない脳に私の言葉をしかと刻めよ?」
「ちょっ、」
「まず、先日の聖女お披露目によりこの国のもの含め、聖女と言う存在を知らぬものはもはやいないだろう。この意味が解るかオルガ?」
己の職務に忠実ゆえにこの馬鹿は、自分で物事を考えることを、読むことを放棄しているのだ。
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