FILE29:歴史が動くとき
リゴーン−…
最後の鐘が鳴り響いたとき、城内は冷たい緊張に包まれた。
「−…以上をもって、只今より“ノウェイサス”を始める。」
この国の宰相、ホモリス・ルート・ダンの何の感情も篭らない冷たい、しかしどこか威厳を帯びた開催宣言が、この国、イーシス国第三十六代目国王リオル・ラー・エクセルトの住まうオシリス城地下深くに存在するアヌビスの地下宮殿全土に響き渡った。
その瞬間、ボッ、と硬い石壁に立てかけられた何百もの松明に火が灯りこの国の宰相、ホモリスを除く四人それぞれの顔をユラリと照らした。
面妖な顔があった。
一人は妖猿の面を、一人は妖狼の面を、一人は妖鳥の面を、一人は妖狐の面を被っていたのだ。
「−…毎度ながら…くだらない会議だ。」
一番初めに口を開いたのは妖狼の面を被った者だった。
広い円卓に弧を描くようにして座る彼ら四人、それぞれの国の代表者たちは、一様にして顔に奇妙な面をつけていた。長く黒いあつぼったいフードを席について早々外した妖狼は、そういうと笑った。妖狼の口から飛び出た二本の鋭い牙が、ギラリと松明の火を受け獰猛に光る。
「話し合い?んなもん今更何になる。−…今のこの世で一番大切なモンはだなぁ、力だ、力!そうだろっ?!」
ギャハハハハ。
ガンガン机を叩き、ただ一人そう言って獰猛に吼え笑う妖狼は心底面白そうに他の三妖の面をつけた残りの代表者達を見渡した。妖狼の金に輝く瞳がギラギラと光る。
「ふん−…。相変わらずの単細胞馬鹿わいなぁ、北の。」
「…ぁあん?何だとこのチキン野郎が!!」
「“今のこの世”だからこそ話し合いが必要なんですわい。」
ククッ。
長く鋭利な口ばしを扇子で隠し、そんな妖狼の様を見、クスクス笑う妖鳥。
「てめぇ…、西の、何が言いたい?」
そんな妖鳥を禍々しい眼差しで睨み据えながら、不機嫌そうに妖狼が唸る。
しかし妖鳥は何も応えず、ただニコニコと沈黙を守るばかりだ。
「−…下らぬ。」
バチバチと激しい火花を散らし、互いを睨み合う妖鳥と妖狼。
そんな彼らの、今にも喧嘩が勃発しそうな…、険悪とした空気が漂う最中。
妖狐の面を被った者は静かに口を開いた。
「…、何だと?」
「…、ほぅ?」
途端、彼らの怒りの矛先が妖狐へと向けられる。
「今てめぇ…、なんつった南の」
「南の。お前の見解も聞こうわいな」
妖狼はその鋭く尖った牙を。
妖鳥はその鋭利な口ばしを。
ギラリと餓えた眼差しで見つめ光らせる。
空気が軋み、背筋を凍らす殺気が大気を揺るがす。
部屋の一番済みに待機していたホモリスは、この、あまりにも殺気渦巻く部屋の冷たい空気に思わず生唾を飲んだ。米神からツッ…っ、と氷のように冷めた汗が流れ落ちる。
二人から問いを問いかけられた妖狐は、しかし決して口を開かなかった。
ただ、その人を小ばかにするように釣り上がった細い目で静かに二人を見つめるだけだ。
三者三様。ただ静かに己の腹内で、見も凍るような冷戦を繰り広げている中、今まで全く口を開かなかった妖猿が、ようやく重い口を開いた。
「…まぁまぁ、まだ会議は始まったばかりだぜぃ、お三方よぉ。初っ端からそんな勢い出してどうするよぉ。もっと気楽に行こうぜ、気楽に。」
恐らくその面の下は笑っているのだろう。
深く掛けられた黒いフードをスルリと外し、ニヤニヤと妖猿はマヌケ面の顔を大きく曝し豪快にいった。
ワッハッハ。ただ一人、この殺気ばった空気の中で笑う妖猿。
そんな彼の様子に、今まで鋭い殺気を放っていた他の三人は気が逸れたのか…、各々小さな溜息を吐くと身も凍る鋭い殺気を己の中に沈めた。
「相変わらず東の野郎は抜けてやがるぜ…」
「しかし、その実抜け目は無いわいな。」
「−…いけ好かぬ。」
妖狼、妖鳥、妖狐、それぞれ嫌そうに妖猿を見る。
妖猿はそんな彼らの様子にただ不気味にそのマヌケた顔で笑うだけだった。
北の国ノース、南の国サウリア、西の国ウェス、東の国イーシス。
四カ国、全ての者が参加しなければならない四カ国会議“ノウェイサス”。
四カ国それぞれの国から選抜された曲者ぞろいの代表者四人による会議が、今始まる。
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