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FILE24:可愛い悪戯
−…こ、こ、殺してやるっ!

バサッ、と何の抵抗も無くヤンの頭の上に掛けられたシーツ。
それは容易く彼女の平均よりやや低めの身体、全体を覆い隠した。

「〜!!」

突然訪れた暗闇。
呼吸を止め、声にもならない悲鳴を胸中で空しくかみ殺しながら、ヤンは己の細い手足を精一杯バタつかせ最後の抵抗をする。
しかし、無駄に馬鹿でかいそのシーツは、更に彼女の小柄な身体へと絡まり…
彼女が暴れれば暴れるほど複雑なシワを生み出しては彼女の身体に絡まるという、なんとも複雑な悪循環な道のりを辿る結果となってしまった。

「っ!!」
結局、彼女の無駄な抵抗も空しく、何の心の準備も出来ぬまま、激しい運動で呼吸困難に陥ったヤンはその1点だけ丸いシミがついた物凄く怪しいシーツの中で呼吸せざる得なかった。

「ぷはっ…、」
「何を先程から遊んでいらっしゃるのですか?」

何分かして、ようやく巨大シーツの出口を見つけることが出来、ヤンはそこに向かって勢い良く頭を出す。久方ぶりに見る光が眩しい。
「あぁ、空気が…美味い!」胸に広がる郷愁じみた思いを深く噛締めながらヤンは、己の瞳から次々と溢れ出してくる水を手の甲でいささか乱暴に拭うと、すぐ自分の隣でポカンとしたマヌケ面を曝し自分を見てくるホモリスをギロリと睨んだ。

「私が、“遊んでいる”…、だと?」
「え、えぇ…」

ただ一人、このだだっ広い部屋の中。
馬鹿みたいに頭から一点だけ丸いシミがついた乳白色のシーツを被り、あたふたと内で必死にもがいていたヤンの姿は、さぞかし滑稽に見えたことだろう。
ホモリスのいつもに増して穏やかな口調が、異常にヤンの気に障る。
未だしぶとく彼女の身体に纏い付くシーツを己の身体ごとフルフル震わすと彼女は拳を振り上げた。もちろん傍にいるホモリスを殴るために。
しかし、ただいま身体の自由がこの頭から掛けられたシーツのせいで全く利かないヤンの身体から放たれた拳は生意気なホモリスにより簡単に避けられ、その勢いを殺しきれなかった彼女の身体は情けなくも見事に冷たい床へと「こんにちわ」をする羽目となってしまった。

「ヤ、ヤヤ、ヤン殿…?」
「き、貴様、ホモリス…、後で覚えていろ…」

まさか自分でも避けきれるとは思えなかったホモリスは、コテンと床にひっくり返ってしまったヤンの姿に顔を青ざめる。慌てて彼女に助けの手を伸ばすがバチンと手痛く叩かれてしまった。

「わ、わわわ私は別に、こんなつもりでは無…」
「−…薔薇の…、香り…?」

くしくも二度、ホモリスの醜態を曝すこととなってしまったヤンは心底悔しげに唇を噛むとフルフル己の身体を震わせた。是も否も、何も口にせぬまま、ホモリスのなすがままに無理やり押し付けられた悪魔のシーツに再度顔をうずくめヤンは「もう、嫁に行けん」と嘆く。
そんな彼女の珍しく落ち込んでいる様にオロオロと情けなく言い訳の言葉を上げるホモリス。

「ほほ、本当に私には悪気は無かっ…、いえ、ほんのチョッピリ…」
「まさかコレは…。」

しかしそんな彼の言い訳じみていてその本、全く言い訳になっていない言い訳を、ヤンは己の耳から完全シャットダウンすると心底不可解そうな顔でシーツを眺め、今度は自らそれに形がいい鼻を寄せる。するとそこからは確かにあの、薔薇の甘い香りがした。その事実に、彼女は何とも言えない顔で眉を寄せ、首を横に傾げた後、何回かその行為を繰り返す。

そうして繰り返すこと三回目。
「あぁ!」とまるで何かに閃いたかのように、ようやく何かに気づいた彼女は、その青き蒼穹の瞳をキラキラ輝かせると深く頷いた。

「−…成る程な…」
「だって仕方が無いじゃ…、ってヤン殿どこへ行かれるのですか?」

未だグダグダと理解不能なことを口走るホモリルを完璧無視すると、ヤンは己の身体に最後の最後までシツコク纏わりついていた馬鹿でかいイシスの絹糸で織られた高価なシーツをササッと手際よくほどすと、スタスタまっすぐこの広い部屋の一番隅に置かれた花瓶に向かって歩き出した。

「ヤン殿、一体…」
「まぁ、見てろ。」

見事な赤い薔薇が五輪、飾られているソレ。
彼女はソレを勢いよく掴むと、薔薇を壷から引っこ抜き壷をひっくり返した。

「何を…!、あれ?」

あまりにも急で野蛮なすぎるヤンの行動。
そのあまりにも行き過ぎた彼女の行動に、目を三角に尖らせ怒鳴ったホモリスは、本来花を生けるための水が入ってる壷の中に、一滴の水も入っていないことに驚愕し言葉を失う。

「そのおねしょの正体はこの水だ。」
「なんと?! では一体誰が王が眠るこのベットの上に垂らしたと…」

「あぁ、こいつらだ。」
あまりのヤンの爆弾発言にホモリスは唖然と固まった。
今までの喜びは一体なんだったのか…。
急激に冷めていく己の感情に戸惑いを隠せない。

よろよろと「まさか、まさか、-…そんな!」その赤茶色の瞳をあさっての方へ向け、なにやらたそがれている彼の背を横目で見やりながらヤンはこの国の王、リオルが眠るベットの下をじっと見つめると、不自然に揺れ動いた布を勢い良くめくりあげた。

すると…。


「あ〜ぁ、ヤン姉さまにバレちゃった。」
「あ〜ぁ、ヤン姉さまに見つかっちゃった。」

もぞもぞと淡い金髪がかった茶色い髪が除き、全く同じ顔をした二人の小さな少年が勢いよく飛び出してきた。

「「ご機嫌麗しゅう、ヤン姉さま、ホモリス宰相」」

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