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FILE22:爆弾発言

「あぁ、やはり女性などという野蛮で腹黒く、狡猾で醜悪な者よりあなたは何千倍も美しい!!美しすぎる!!その太陽の木漏れ日の如くほのかに輝く…、金色の御髪、深い深海に眠るあの伝説の千年真珠のように白く艶やかな珠色の素肌…、あぁ…、我が君よ…、あなたはもはや人という−…etc…」

その巷で噂される麗しい女のような優顔をほのかに赤く上気させ、傍目やや細身の身体をフルフル震わせ、恍惚と天に向かって彼の君主、この国イーシス国の王を称えるこの国の宰相ホモリス・ルート・ダン。彼のすぐ傍らでは、彼の妄想曰く、もはや“人間の美を超越した神の如き美を持つ最高の男”であるこの国、イーシス国の若き君主、リオル・ラー・エクセルトが爆睡していた。

こんなすぐ近くでこの国の宰相ホモリスに「キャーキャー」男の低い黄色い声で絶叫されていると言うのにも関わらず、彼は全く起きるそぶりを見せない。わが国特産、イシスのシルクにその身を包ませ、空に浮かぶ雲のように柔かい、スワンの羽毛枕に心底気持ちよさそうにうつ伏せて、クークー無邪気な幼子のように眠っている。

「−…まだ眠っているのかコイツ…。」
優に十人は軽く寝れるであろう広いベットの上から、床に円を描く様にして広がる薄いカーテンを脇にどけながら、ヤンは呆れたように溜息を吐いた。こんな煩い、しかも下手をすれば某宰相に己の操を奪われるかもしれないと言う男としてはかなり危機的状況の中、グースカ呑気に寝ている彼が信じられない。

「本当寝癖が悪い。−…よくそれでここまで生きてこれたものだ…。まったく、大した奴だよお前は。」

人間にとって一番危険なのは寝ているときだろう。
優れた武人は常に己の周りに気を張り、外の気配を読むことでその身を敵から守るが、そんなこと一般人が出来るわけないし、たとえ修行して相手の気を読むことが出来たとしても、常に自分の周りに気を張り続けているなんて馬鹿なことしたら直ぐに疲れてしまう。リオルの場合後者だ。この国の王となって以来ありとあらゆる方面から命を昼夜構わず狙われ続けた彼はある日突然、己が寝てまで気を張り続けることを放棄した。彼曰く「こっちは政務で疲れているんだ。寝させろ馬鹿。」らしい。それからというもの彼はこうして朝まで寝腐っている。まぁ、そんな彼がグースカ眠っている裏側では、王の気を張る負担を全て引き受けざるえなかったとある可愛そうな騎士達の見るも無残な涙を誘うそれはそれは壮絶な苦労話があるのだが…、その話はまた今度にしよう。

彼女にしては珍しく彼を誉めると、ちらり、と右を見ると「ううっ」と面を覆った。
彼女の直ぐ隣では未だホモリスの独白が(「あの時私は16歳」愛の独奏パート2)、永遠とその薄く形が良い唇から語られていた。

(−…あぁ、こんな姿見たくは無かった。)

父がこの国一番の優秀宮廷薬師であったが故、幼い時から何かとこの国の重臣達と深い関わりを持ったヤン。身分の低い薬師の娘であるにも拘らず、幼い頃からいろいろな面に置き才能を芽吹かせていたヤンは、僅か6歳にして大人たちから一目置かれ、色々な貴族の子供達の優秀な遊び役として活躍してきた。

そうして知り合ったのが現大尉であるオルガであり、現宰相であるホモリスだ。

大きくなるにつれ未だ近所に住まうオルガ以外だんだんと疎遠になっていったが…、まさか、あの天使のように可愛かったホモリスがこんな風に成長しているとは…。

昨夜から続く寝不足に頭を痛ませ、たとえどんなに耳をきつく塞いだとしても指の隙間から図太く入り込んでくる彼の低いテノールにヤンは胸を痛ませる。

イーシス国城下では、その美しい容姿と穏便な性格から若い女性に大人気の彼。
しかし、まさかそんな彼が男好き…、所詮ホモだとは…。いや、女もいけるようだしバイか?
誰も思うまい。



「で?結局用事とはなんだ?」

欲望と理性の、悪魔と天使の仁義無き戦い。
それにめでたく勝利したのは彼の鋼の理性だったらしい。
ブツブツとこの国の王の直ぐ目の前でなにやら危ないことをつぶやいていたホモリスは、突然聞こえたヤンの問いにようやく現状を思い出した。

「え?あぁ、実は…」
「貴様、今の今まで完全に忘れてたな…」

エッヘヘと笑う男に対しヤンは不機嫌そうに顔を歪める。
しかし、彼女にしては珍しくそんな彼を怒鳴り散らすことも、殴る蹴るなどの暴行もせず、ただ静かに続きを促した。

我慢、我慢だ自分!

心の中でそう何度も自分に暗示を掛けて。
彼への怒りをぐっと堪える。


「コレを見てください。」

ホモリスはそんな彼女の様子に不気味そうに顔を引きつらせながらも、彼女をここまでよんだ原因を見せるための行動に移した。

ガバッ、と大胆にも王、リオルが眠る掛け布団を外し、未だ図太く眠っている彼の身体をヨイセと向こう側に転がす。

「お、おい…」

そんなホモリスのあまりにも大胆不敵な様子に、不安と疑問を隠せない様子で眉を顰め眺めていたヤンだったが、王の身体を動かした途端そこに現れた光景に思わず頬を引きつらせた。

「−…何だソレは…」

その答えが解っていたとしても誰かに問いかけずにはいられない。
しかし、その問いはあっさりと、王の横で今にも鼻血を噴出しそうな勢いでその白いシーツに出来た丸いシミをガン見しているこの国の宰相ホモリスによって簡潔に解答される。


「おねしょのようです。」

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