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FILE21:宰相の災難
一般庶民としての極普通の感覚を持つヤンには、思わず目が眩む、あまりにも華やかで眩し過ぎる赤い道を大分過ぎれば、その先にはたった一つの巨大な扉があった。

いかなる者の侵入も決して許さぬ、この世で一番硬いとされる鋼で出来た強固の扉。
取っての先では黄金の鬣を持つ獅子達が吼え、アメジストの瞳を邪な侵入者に対し光らせている。


「こちらです。」

首から恭しく下げられたこの国ただ一つの、王の寝室へと繋がる銀の鍵を取り外すと、ホモリスはソレをゆっくりと鍵穴にさしこんだ。

カチッ、カチッ、カチッ、
手前で一回、奥で半回、右に左にと、決まった回転数で鍵を回していくこと数分。

酷く軽やかな、歯車同士がかみ合う銀の音色が響き、キキキキッ…、と誰もその戸には触れていないにも関わらず、自然にドアが開かれていく。

王の寝室の扉に施された、あまりにも壮大で素晴らしい、匠の技。
一体コレだけのものを創るのにどれだけの時間と年月が費やされたことか…。
ヤンがあまりの驚きに目を丸くし、声を失くしていると−…、


「王が眠る“月の宮”にようこそ。」

少々芝居がかった仕種でホモリスがスッ、とヤンのほうを振り向き、優雅な仕種で腰を曲げ、左手を胸に、右手を伸ばし、まるで姫を王の寝室の中へと誘う騎士の様な仕種をした。

切れ長で涼やかな赤茶色の瞳が優しくヤンに向かって微笑み、少々灰色がかった銀髪がさらりと彼のその細身の見た目に反してやけにがっしりとしている武人の肩に流れ落ちる。


「−……、」

まるで絵本の中にでてくる名場面、女の子なら誰もが一度は夢みる、白馬の王子様のような…、優しくかっこいい一枚の絵画のような姿。そんな姿をもし女の子が、たったの一目でも現実で見てしまったら、そんな彼に恋堕ちない女など一人もいないことだろう。

が、

しかし、どこのどんな場所にも必ず例外というものはいるもので、かくいうヤンもその一人である。


「そいつはどうも。」

彼女はそんな彼の姿を、ヤンへと差し出された右手を、チラッと横で見たものの、酷く冷めた眼差しは決して変わらず、全くの無表情で簡単な礼儀を彼に向かって軽く口にすると、さっさと寝室の中へと入ってしまった。


「−……え、」

自我呆然と固まるホモリス。
決してヤンにとられるとが無かった、己の外気にあたり、今はもう冷たくなってしまった右手を唖然と見つめる。

こんな冷たい態度は、うまれてこのかた初めてだ。

今まで彼は仕事上何十人もの女性と色々懇意にしてきたが、はたしてこの様に冷たい態度を彼女たちが自分にとったことはあるだろうか…?、いや無い。

大抵の女性たちは自分にこのようにされると、白い頬をばら色に染め、瞳をうるわせ、まるでホモリスに恋をしているかのように恥ずかしげに、しかし大胆に自分の手を取り嬉しげに彼と共に歩く。

しかし、―…しかし。

これはいったいどういうことなのだ?!

初めて取られた女性のあまりにも冷たい態度に、心に大きく打撃を受け、その場に蹲るホモリス。

それは先に寝室へと入ったヤンが、王の様子を観察し、あまりにも普段と変わらない彼のいたって健康状態な様子に首を傾げ、いつまでたっても入ってこないホモリスに痺れを切らし、彼を呼びに廊下までヤンが呼びに出るまでずっと、ずっと、その場で彼は固まっていた。





「あぁぁ…、なんて愛くるしい寝顔なのでしょう。そ、そんな男を、私をっ!あなたは誘うかのようにそんな悪戯に服を乱れさせて…なんて破廉恥な。あぁ、あなたのその乱れた服の隙間から覗く淡雪のように美しく白い滑らかな肌に今すぐ口付けをして私の−…etc…」


ようやくたどり着いたこの国の王、リオル・ラー・エクサルトが眠る寝室。
何故か先程まで酷く憂鬱気に落ち込んでいたホモリスだったが、その王が未だ眠る寝所を前にして、ヤンが思わず身を引いてしまうほど酷い興奮状態にあった。

すぐ傍から聞こえる彼の鼻息は異常に荒く、その瞳はやばいくらいに充血している。


(極度の興奮状態…。いったいどうしたんだコイツ?)

つい先程までの暗さはどこへやら。
そんなホモリスの、傍目、あまりにも逝っちゃってる様子を見てヤンはいかぶしげに目尻を寄せる。

彼女のほんの直ぐ隣では、リオルに完全傾倒敬愛しているこの国の宰相、ホモリス・ルート・ダンが、今にもファイト一発、彼女が見ている直ぐ目の前で始めてしまいそうなほど危うい、リオルの寝込みに襲い掛からんばかりに、彼の耳元でなにやらおかしなことをブツブツと口走っているこの国の宰相の姿があった。


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