FILE17:嵐の始まり
嵐は突然やってくる。
「うむ、ではそちらのお嬢さんにはこちらの紫陽花を。食間に一日3回、分けて、この紙に書いてあるとおりに煎じ、服用してくれ。そうすれば徐々に熱も下がり大分楽になる。なぁに、そんな心配しなさんな、小さい子供にありきたりのただの風邪だ。」
「−…っ!、ヤン先生っ、本当にありがとうございます!」
「お姉ちゃん…、ありが…とう。」
「あぁ。早く病を治して君の可愛い笑顔を私に見せてくれ。今そんな状態の君に無理して礼を言われるより数倍嬉しいからな。−…では、次の者…」
それはヤンが、昨晩から寝る暇も惜しんで深夜に突然訪れた急患達の薬草をそれぞれにあった形へと調合している時の事だった。
「−…そうか、では採取したアオキの生葉を弱火であぶり黒色に変化したら患部にはり、布で軽く押さえ…」
「ヤン殿っ!!ヤン殿!!ヤン殿ぉぉぉぉお〜!!」
健気にも深夜、一歳違いという弟を背負い、遠く離れた村からヤンの元に弟の治療にと訪れたという幼い兄の姿に彼女が感動し、「偉い、偉い。」と疲労困憊中の兄を労わり、弟がおったという酷い火傷の治療をし、今後の為のレクチャーを幼い兄弟達の前でヤンがしていると…。
その感動場面をぶち壊すには十分な騒音が。
自分の名を呼ぶ声と共に駆け込んできた。
「大変、大変、大変、たいへんたいへんたい、変、態っでございますっ!ヤッ!グハッ!!」
「あぁ、ホモリス、お前がな。間違っても私が変態のような言い方をするのではないよ。」
自分の名前を変な名詞の後に呼ばれる直前、立て付けの悪い押し戸を吹っ飛ばす勢いで入ってきた人物に顔も見ずに見事な回し蹴りを食らわすとヤンは、己の蹴りに一発KOで床に沈んだ男の背にすかさず蔑みの視線を送った。
「いいか、良く聞け。そして胸に刻めホモリス。私は馬鹿と変態とマヌケとアホとついでに禿げたオヤジが大っ嫌いなんだ。なんせそんな奴等をただ見ているだけで虫唾が走ってこの世から抹消したくなるからな。」
「なっ、なんだその−…この世で頑張る全てのお父さんを敵に回すような発言は…。」
彼女のぶっ飛んだ台詞に唖然と口を開け固まるホモリス。
自分だって深夜に、ノックも無しに人ン家の、しかも薬師といえ独身女性が一人住まう家に入って来た男にしては酷く常識はずれの行動を取った変人の癖に。
正に、自分のことは棚に上げ他人のことはなんとやら、だ。
しかし、そんな彼の発言は、圧倒的なるヤンの力によりねじ伏せられる。
「黙れ。どっかの馬鹿を彷彿させる様な台詞を吐くな。忌々しい。」
「えっ、他の誰かにも同じ台詞を言われっグハッ…、ゲフ!」
「だ、ま、れ。と私は言っている。」
ヤンに蹴り倒され、不恰好にも倒れこんだ床の上から、ヨイショとユルユル起き上がろうとするホモリスの両腕をヤンは再度脚で払い床に押し倒す。
そして、素早く懐から鋭く尖った銀色のメスを取り出すと、彼の首筋の真ん中辺り−…、ちょうど頚動脈が走る皮膚の真上にソレを押し付けると、彼女はソレを男に見せ付けるかのように光にキラリと反射させ鈍い銀に輝かせるとニヤリと笑った。
「これ以上馬鹿なことを言えば切る。」
すっと、ソレは愛撫するかのように男の首筋をゆっくり撫であげる。
少しでも力を入れればプッツリと首の肉ごともって行きそうな程鋭いブツを繊細な手つきで操り、自分を問答無用で脅してくる薬師の姿にホモリスは怯え、コクコクと無言で頷くしかなかった。
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