FILE16:王様の朝
イーシス国第三十六代目国王、リオル・ラー・エクセルトの朝は早い。
若干14歳という若さで今から約六年前、歴代最年少の王としてこの、自然豊かな、神に愛されし最後の国、イーシス国国王に即位した彼には未だ、だらだらと寝ている暇も、友と遊ぶ暇も、恋する暇もないのだ。
才色兼備、雲中白鶴、温厚篤実、英雄豪傑な性を持つ、この国にとって最高の赤の秘宝、リオル・ラー・エクセルト。
最初こそ彼のその、即位した幼さからアレコレと非難を上げては彼を利用した傀儡政治を企む者は決して少なくは無かったが、彼のその、王と即位して以来メキメキと頭角を現し始めた天性なる王の才に、いつの間にか彼に対し反抗心を抱くものもはいなくなっていった。
そんな、まさに国民にとっての理想、王道楽土な国の王、リオル。
しかし、そんな鬼才天才の彼にも、唯一完治出来ない悪癖があった。
そう、それは−…。
「「おっはようございますリオル様!」」
バンッ、となんの予告も無しに大きく開かれた扉。
トンッ、という水の精、ニンフを思わせるかのごとく優雅で、軽やかなステップと共にこの王が眠る寝室に突如として現れたのは、二つの全く同じ形をした黒いシルエットだった。
「さあ、さあ、さあ、さあ、朝ですよリオル様、起きてください。」
「そう、そう、そう、そう、いつまでそんな何の一文の特にもなら無い無駄な惰眠を貪っているおつもりですか、リオル様。」
「「朝は三文の徳ですよ、早くお目覚めになってください。」」
この国の最大権力者であり、神にも等しき存在でもある、この国の王の部屋、しかも寝室に、ノックも礼儀も無しに、無断で入室しては、何やら2,1チャンネルサウンドで騒ぎ立てる彼ら。そんな彼らの顔は全くの瓜二つだった。
時はまだ、日も明けぬ早朝。
この数百人という使用人たちが住まう城内の中でさえ、今目覚めて働いているものは少ないだろう。
しかし、そんな人様の迷惑などまるで考えない唯我独尊を素で行く彼らは、リオルが眠る直ぐ目と鼻の先のベットの脇で、朝からアレコレと煩く騒ぎ立てていた。
「いやぁ、今日はなんて美しい天気なんでしょう。見てくださいリオル様っ!」
「あの今にもズドンと地上に落っこちてきそうなほど分厚い積乱雲。」
「青く雲の中でスパークする金色の光。」
「天の竜の如き低い唸り声。」
「「本当、たまりませんなぁ〜。」」
外を忽然とした潤んだ瞳で見つめ、二人が話すあまりにも息が合った、しかし普通の感覚とはかなりズレタ会話。
もしそこに通常なる精神を持つものがいたならばすかさず「オイッ」と即座に突っ込んだことだろう。
しかし、悲しいかな。
この部屋には王一人しか居らず(当たり前だ)、
彼らが煩くはしゃいでいるというにも拘らず、この国の王、リオルが目覚める様子は全く無かった。
眉一つ動くこともない。
「これは完璧寝入っちゃってるね、ボクの弟ヨンよ。」
「これは完璧ノンレム睡眠だね、ボクの兄様、ユン。」
かれこれ騒ぎ立てること十分。
未だその…、この国最大の秘宝とまで謳われるリオルの赤い瞳が表にさらされることはなく、深い、深い眠りにその身を預ける彼の、ユンとヨンが入ってきたときから全く変わらない、成人男性にしては酷く幼く、愛らしい寝顔で意地汚く睡眠を貪る彼に、彼らは某宰相の如く胸キュンすることも、ましてや鼻血を垂らし朝から悶え苦しむことも無く、ただ疲れたように、呆れたように、深い溜息を吐いた。
淡い金がかった栗色の長い髪がサラリと肩を滑り、意地悪そうにつりあがった冷たいアイスブルーの瞳が次第に何か悪いことを企んでいるかのように弧を描く。
「ヤン姉様に頼まれたから態々起こしに来てあげたのに。」
「ヤン姉様に頼まれたからあの変態宰相が来る前に来てあげたのに。」
「「−…ムカツク。」」
唇をプーと尖らせプイと横を向く二人。
その角度といい、横を向く速さといい、その二人が見る視線の先といい、全く同じモノだった。
「これぐらいの悪戯良いよね?」
「これぐらいの悪戯許されるよね?」
お互い向き合いニヤリと笑いあう。
そして二人は歩き出した。
彼らが見つめるその視線の先へと。
今、その彼らの頭の中にはこれから面白い大事件を引き起こすであろう悪戯の下準備しか頭に無い。
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