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第十八話:闇神
 雅人達がいる場所から数百メートル後方の場所では、蝶と神狼が未完成の闇神と戦っていた。

「邪魔じゃな、余を誰だと思っておるんじゃ!」

 憤慨するように闇神の顔面へと肘を打ち付ける。
 その近くでは蝶が闇神達を、黒刀で次々と切り刻んでいた。

「神狼……武器はどうしたの?」

 目の前に迫る敵を薙ぐように横へと一閃する。
 闇神が爆発するように切り口から黒い霧を放出すると消滅した。
 返事を返さず余裕の笑みを浮かべ敵を殴打していく神狼。
 
「聞いてるの? 殺すわよ?」
「なんじゃと〜? 貴様如きに殺られる余ではないわ!」

 地団駄を踏みながら、敵の顔面を掴むと力を込めて握りつぶした。
 拳の隙間から黒い霧が煙のように空へと上がっていく。
 蝶は敵の胸元を黒刀で突き刺すと、神狼へと顔を向けた。

「武器をどうしたの?」
「ふん、そこまで言うのなら見せてやるのじゃ」

 神狼の体がバチバチと音と共に電流を前方へ向けて放出した。
 数体の闇神が巻き込まれ、眩しい光に包まれたかと思うと、蒸発するように一瞬で消滅した。

「どうじゃ! 余の力を見くびるな!」

 嬉々とした口調で、掌に電流を掻き集めると周りに打ち込んでいく。
 そして、蝶へと振り向いた神狼の手が止まる。

「なにをしておる?」

 蝶が苦痛の表情を浮かべ、胸元を押さえながらうずくまっていた。
 手放したのか地面を転がる黒刀から、黒い煙が立ち上るようにでていた。

『グルアアアアアアァァァァァァァァ』

 大地を揺らす咆哮、枝が折れて地上へと落ちていく。
 葉が吹き飛ばされていく。恐ろしい暗く冷たい咆哮が轟く。

「なんじゃ?」
「雅人……」

 蝶が苦しそうに額に汗を浮かばせながら名をポツリと思わず呟いた。

『――アァァァァァ』

 闇の奥底から響いてくる咆哮、大地を揺らし夜気を貫く。

「なんだ……?」

 足がすくむほどの恐怖が全身を縛り付ける。
 少女が立ち止まると、後方についてきていた執行部と呼ばれる不気味な仮面をつけた集団が、少女が立ち止まるのをあらかじめわかっていたかのように、慌てることもなく立ち止まる。
 仮面の集団の中心から、掻き分けるように他の者と違い上半分だけ仮面で顔を隠した者がでてくる。

「お嬢様……もしや神狼では?」
「……違う、この霊力は……」

 少女は瞼を閉じると、闇に体を預けるように力を抜いた。
 数秒が経ち、顔が見る見る悲痛な表情へと変わり、両腕をダラリと下げる。

「また救えなかった……」

 瞼をゆっくり開けると闇を見据えながら呟く少女。
 枝と葉の隙間から差し込む月の光が、悲しみに歪む顔を照らしていた。

「お嬢様、まだ諦めるのは早いかと」

 顔を上半分を仮面で隠した女性らしき声の人物。

「そうだね……とりあえず、この連中をどうにかしなきゃね」

 少女は両手で頬を叩き表情を引き締めると、辺りに首を巡らせる。
 いつの間にか人の形をした黒き者に取り囲まれていた。
 スーツの上着のポケットから、灰色の札を取り出す。

「君たち、ついてないね。今日の僕は優しくないんだ」

 少女が呟くと、札が光を発する。
 同時に不気味な仮面をつけた集団が瞬時に札を取り出す。

「二秒で終わらせる」

 札が弾けると少女と仮面をつけた集団が、その場から消えた。
 未完成の闇神達が、次々と崩れるように消滅していく。

 闇神の神狼が封印されていた場所は、地獄へと変貌を遂げていた。
 幾人もの人が息絶え、幾人もの人が血を流し、幾人もの人が怒声をあげ、幾人もの人が涙を流す。
 阿鼻叫喚の図と化した地獄とも呼べる世界で、闇が深淵へと変わり、深淵から闇が生まれ、闇が闇を襲い始めた。

 秦は混乱に陥っていた、唐突に訪れた深淵。
 深淵の中から一体の闇神が這い出てきて、咆哮を轟かせ周りにいた未完成の闇神達を無差別に襲いだした。
 時間にして数秒の出来事、たった数秒で何十もの未完成の闇神達を喰らった……否、取り込んだ。

「はは……なんですか? あなたは何者ですか?」
『おマエを……喰ラウ者」

 何十にも折り重なるように、まるで壊れたステレオのようにダブり雑音が混じったような声。
 その声を聞いて秦は汗が噴き出し、震えが止まらなくなった。

「雅人ちゃん……?」

 千代が祖母、幸長、蓮の身を守るように辺りを警戒しながら、黒い人に向かって呟いた。

 ――数十分前。

 膝を折り曲げ背を反らせ雅人が唐突に叫び声をあげた、取り囲むように黒い霧が現れると、雅人を――呑み込んだ。
 深淵から這うようにでてきたのは黒い人だった、全身が黒く染まり、両手の甲からは黒い光を放つ刀身が爪のように片方三本づつ、合計六本が突き出すように出ている。
 背中には黒い霧をマントの様に羽織り、生きてるのかのように蠢いている。そして黒い顔からは人の瞳らしき物が黄金色に輝いていたのだった。

 一歩踏み出す度に、その闇神は周りの闇を取り込んでいく。一歩踏み出す度に、その闇神は周りを深淵へと変えていく。
 恐怖を振り払うように秦は叫ぶ、

「面白い――私に恐怖を与えるとは面白い! いいでしょう、あなたを喰らいましょう」

 震えを無理矢理押さえ込むように、自身の足を叱咤すると秦は笑みを浮かべた。
 だが、秦は気づいてない。口を引き攣らせ笑みが作れていないことを……。

『怖いノか? 闇神モ恐れルか? 安心シろ、その恐怖心ゴト喰ラッテヤル』
「あはははは、私の能力は相手を惑わし、そして支配する!」

 ゆっくりとした動作で近づいてくる闇神に、腕を広げ壊れた笑い声をあげる秦。
 だが、その言葉が闇神の耳に届くと同時に、闇神が吹き飛んだ。

「どうですか? 私は闇神二十神将の一人、闇神の秦! 私の幻惑こそ最強! それは何人たりとも破ることはできない!」

 楽しそうに叫ぶように言う秦。
 地へと倒れた闇神が上から叩きつけられてるかのように、地面にめり込み沈んでいく。
 鈍い音だけが辺りに響き渡る。
 
『弱いナ、オマエは弱すぎル』
「えっ……」

 先程まで地中へと埋められるように沈んでいた闇神が、目の前にいた。
 秦は口を開けたまま呆けたように硬直する。

『喰ラッテヤル』

 闇神の体から黒い煙が大量に放出されていく。
 深淵が支配する世界で、唯一輝くのは闇神の黄金色の瞳。
 それは輝きを増していく、まるで闇を晴らそうとするかのように燦然と輝く。

 深淵が通常の闇へと戻った時、気を失った千代と闇神使い達、そして地面に転がり喘ぐように息を吸う秦の姿と、それを見下ろす闇神。
 更に近くに倒れるのは、体長十メートル以上ある大きな狼、美しい銀の毛を風になびかせ、闇の中で銀の毛が煌めいていた。
 それは神狼の本体であり、もう一つのかくでもあった。
 銀狼は、砂のように細やかな粒子となり吸い込まれるように闇神に喰われていく。

『オマエが操っていタ、闇神の神狼は喰らっタ』

 腰を曲げると闇神は手を伸ばすと、秦の頭を掴み無造作に持ち上げた。

『楽しイカ? 笑えルか?』

 淡々とした口調で呟く闇神。
 秦は冷ややかな瞳で闇神を見つめる。

「笑ったら殺さないでくれるのですか?」
『死ネると思っタノカ?』

 可笑しそうな声をだす闇神。

「許してくれるのですか?」

 秦の表情が一瞬和らいだが、

『僕が作り出した世界で永遠に生き続けろ。苦しんだまま生きろ。藻掻きながら生きろ。―――オマエニ、世界ノ深淵ヲ見セテヤル』

 怒気、悲しみ、苦しみ、痛み、全ての感情を織り交ぜた声――言葉に、表情が青ざめていく秦。

『天二式』

 闇神の体から黒い霧が溢れ出す。
 残った片方の腕をあげると、秦の胸に当てた。
 刹那――漆黒の刀身が秦の体を貫く。

「あがっ!?」

 いくつもの刀身が秦の体から突き出してくる。
 秦の表情が苦痛に歪む、息ができない秦は、首をひっかくように藻掻き始めた。

黒滅月光こくめつげっこう

 淡々と気にも留めずも続ける闇神。
 突き出した刀身が黄金の光を発した。
 それはまるで満月の光のように輝き始める。

「あっ……ああああ」

 秦の表情が恐怖に塗り替えられる。苦痛よりも、恐怖がまさった。
 抗えない力、耐えきれない力、圧倒的な力。

「そうだ、最後に教えてあげるよ。僕は――――」

 驚愕の表情を浮かべる秦だったが、全身から辺りを埋め尽くす程の黄金の光を発し消滅した。
 あとに残されたのは、傷付き気を失った闇神使い達と、気を失った千代、祖母、蓮、幸長。
 地面へと前のめりで倒れていく雅人だけだった。
 やみがみっ! をご覧頂き、ありがとうございます。
 本日は楽しんで頂けましたか?

 少しくだらない話をさせて頂きます。

 今日は野性のリスを見たんです。

 チョロチョロと木を登り、細い枝を綱渡りのようにバランスよく走るリスを見て、すごいな〜と感心しました。

 とても可愛くてですね、あれは癒されますね。

 でも、威嚇されたので、怖くて触りませんでした。

 何が言いたいのかっていうと、野性のリスがでるくらい田舎だってことです。

 それでは、次回あとがきにて、お会いしましょう。

 引き続き、やみがみっ! を宜しくお願いします。
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