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オキュパイド・アース 作者:振木岳人

閑話休題 「グラビティ・ブースト」編

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思いがけない対戦



 『回転開始前の、荷重調整を行います。シートに座ったまま、移動しないで下さい』

グラビティ・ブースト四日市店の、プレイヤー専用休憩所。ちょっとしたコンビニ店舗程の大きさの、ドラム型回転式、重力発生装置が、始動するにあたって、利用者に向けて、機械的な合成音声が、案内放送を行っている。
公共、民間を問わず、宇宙空間に生きる人類にとってのデフォルト設定で、無重力状態を体験した者は、骨の細胞からカルシウムが溶け出さない様に、骨粗鬆症対策として、必ず重力状況下での休憩が、義務付けられているのである。
悲惨で、恥ずかしい体験をしてしまったカオル達は今、その重力発生装置の休憩所で、身体を休めていた。

片側にはカオル達が横になる、休憩用のシートが配置され、反対側には、ドラムの中心軸から続く、金属製のパイプを通じ、不燃性オイルを溜めるタンクが設置されている。
ドラムが回転を始め、重力が発生した際、ドラム内にいる人間の延べ体重を計測、体重から軸にかかる荷重を均等にする為、同じ重量のオイルが、タンク内に注がれ、回転運動が始まった際に、バランスの取れた同心円運動で、回転軸に負担をかけない仕組みになっているのだ。

ヒュイイイイン…と、鼓膜を静かに刺激する、静かな電気音と共に、回転運動を始めた休憩室。シートに横になっているのは、顔を真っ赤にしたカスミと、顔を真っ赤にした恭香。更には、涼しげな顔をしたヒロノブに、股関に両手を添えて背中を丸めたカオル。
今更何を言ったところで、消す事の出来ない羞恥感に苛まれ、沈黙が続く仲間たちの中で、悔し紛れなのか、「もう、お嫁に行けない」と、ポツリとカスミが呟く。
すると、恭香も涙目のまま「わ、私も…」と呟いたのだが、それに続いて、冗談なのか本気なのか、カオルが「僕も…」と呟いたのだ。

「ぶはあっ!」

奇妙なやり取りに我慢出来ず、とうとうヒロノブが吹き出し、腹を抱えて大笑いする。すると、今迄のやり取りにプラスして、いつも穏やかだったヒロノブの大爆笑する姿に釣られて、「くく…」「ふふっ」「あはははっ!」と、カスミたちも腹を抱えて笑い出した。
爆笑に包まれる休憩室内、カオルがポツリともらした言葉が、あまりに馬鹿馬鹿しくて、仲間達の笑いのツボにハマってしまったのだ。
だが、それが良かったのかも知れない。全力を出して頑張った、結果は結果で過去の話。もう、誰もそれを悔やむ事無く、腹を抱えて笑い飛ばした方が、気が楽になると言うもの。
だがその時、外でカオル達を待っていたショーンが、インターフォンを通じて、驚くべき内容をカオルたちに告げたのだ。

『お、おおい!カオル、みんな、良く聞けよ!【TEAM・GALAXY】との対戦イベント…【チームなかよし】がエントリーされてるぞっ!』

ショーンの話がまったく飲み込めないまま、「なんじゃあ、そりゃあ!」「ひい!?ひいいい!?」と、混乱するドラム内のカオルたちであったが、やがて、係の担当者がカオル達の元に現れ、エントリーされた事と、イベントが始まるので、急ぎ準備をして会場に行く旨を説明し、事務所へと帰って行った事で、顔が真っ青になる、

 『さぁ、やってまいりました!グラビティ・ブースト四日市店のオープニングイベント!5年連続グランプリ・ファイナリスト!3年連続グランプリ・チャンピオン!銀河を駆け抜けるブースター、【TEAM・GALAXY】の入場だああああっ!!』

ライトが消され、真っ暗になった会場の中、7色のスポットライトを浴びて、【TEAM・GALAXY】の4人のプレイヤーが、1人1人名前を紹介されながら、司会者が待つセンターステージに進んで行く。

『まずは、淑女殺しのイケメンスピード・スター!【TEAM・GALAXY】のダイナモ、エルメス・コステロ!』

うわああああ!と言う、観客の巨大な歓声と共に現れたのは、長身のルナリアン。ニヒルな笑みを振りまきながら、エルメス・コステロが現れる。

『続いて、美しき黒豹、悩殺ポイントゲッター!【TEAM・GALAXY】のスコアメーカー、リコ・エルアラメイン!!』

次に現れたのは、小柄なナイスバディの黒人女性。妖艶な笑みを浮かべ、観客にウインクと投げキッスを撃ちながら、優雅に入場して来る。

『続いて、老若男女全ての憧れ、完全無欠のポイントガード!【TEAM・GALAXY】の貴族、リッキー・ローゼス!』

うおおおおお!と言う、男臭い声援をかき消すかの様に、女性の黄色い声援が会場を席巻する。一段とヒートアップしする場内、悲鳴の中から、金髪をキラキラと輝かせた、映画俳優の様な白人選手が、歯をキラキラと輝かせて、入場して来た。

『さぁ、最後を飾るのは、【TEAM・GALAXY】の司令塔!ザ・ギャラクシー!キング・オブ・ブースター!要塞!"ダッジ"ジョンソン!!』

おおおっ!きゃあああっ!最早会場は、声援さえも霞むかの様な地響きに包まれる。
鋭い眼光を隠しもせず、いかつい軍人の様な"ダッジ"ジョンソンが入場し、【TEAM・GALAXY】のプレイヤー四人が全員揃うと、待っていましたとばかりに、会場の興奮は、最高潮に高まった。

『さぁ!グラビティ・ブーストの頂点に君臨する【TEAM・GALAXY】に挑む、選ばれた勇者達!命知らずの猛者どもの入場だあ!!』

ドンドンカッ!ドンドンカッ!
照明が点灯され、勇壮な入場曲が流れると、今度は彼らに挑戦するべく、街の挑戦者たちが入場して来る。

「カオル達だ!」

ミカがいち早く、カオルの姿を捉えて指を指す。現れた挑戦チーム、センターに進む3チームの中に、挙動不審でオロオロする、カオル達の姿が見えたのだ。
他の2チームの若者達は、【TEAM・GALAXY】との対戦を夢見ていたのか、この上無い高揚感に包まれながら、今か今かと、その時が来るのを心待ちにした、「良い顔」をしているのだが、カオル達はもう既に撃沈。何が何だか分からないままここまで連れ出され、もう完全に「おのぼりさん」状態。
挑戦者の元に司会者が進み寄り、インタビューを始めても、カオルたちのそれが収まる事は無く、挙動不審のまま。

 『自信はありますか?』

『正直無いです。だけど、精一杯戦って、最高の思い出にしたいです』

『本日2回戦目の挑戦チーム、【チーム・四日市青年会議所】の皆さんでした』

パチパチと、場内に割れんばかりの拍手が響きながら、挑戦チームが紹介が、どんどん進んで行く中、とうとうカオルたちの紹介が始まった。

『それでは、この後すぐに行われる、第1回戦の挑戦チーム、【チーム・なかよし】の皆さんです!』

チーム・なかよしのネーミングが面白かったのか、会場のあちこちから笑い声が飛んで来る。
ただでさえ、場違いな空気に戸惑っていたカオル達なのだが、場内の笑い声に、いよいよ呑まれてしまい、硬直しながら、耳まで真っ赤にしてうつむいてしまう。

『【チーム・なかよし】の皆さんは、今回最年少の挑戦チーム!社会人ではなく、何と統合宇宙軍の奨学生で、現役の高校生です!』

おおお…、どよめく場内。最年少チームではあるが、軍に所属している以上、どれほどのプレイを魅せてくれるのか、自然と観客の興味は、カオル達に集中する。

『リーダーの美田園恭香さん、代表して【チーム・なかよし】の名前の由来を教えて下さい』

『ひいいっ!…あの…あ、あの…』

完全に舞い上がってしまい、何も言えない恭香。「恭香頑張れえっ!」と、ショーンたちが恭香に向かい、喉が枯れんばかりの応援を捧げているその時、彼らの声に紛れ、女性の大きな叫び声が会場に轟く。闘争心むき出しの最早、ケンカ腰の様な叫び声ではあるが、カオルには聞き慣れた人物の声である。

「カオル!いけえ!ぶちかませえ!」

まだ競技は、始まってすらいないと言うのに、勝手に盛り上がっているかの様な、カオルに掛けられる気合いの入った声援は、次第に周囲の注目を浴び始めている。

「いてこませ、カオル!気合い入れろよ、根性だ!」

「あ、あはは。あれはメリルさんだ…」

声の主に気付き、苦笑いするカオル。メリルの親バカ過ぎる声援は、とどまる事を知らない。

「撃墜王目指してるなら、【TEAM・GALAXY】なんか瞬殺しろ!お前なら出来る!ぶちかませ!」

あまりにも大きな声なので、次第に観客も面白がって、メリルの声援に便乗し始める。

「撃墜王目指してんのか、あんちゃん」

「撃墜王、頑張れよ!」

「いいぞ、あんちゃん!」

「…恥ずかし過ぎます…」

顔から蒸気が吹き出しそうな勢いのカオル。【TEAM・GALAXY】の、メンバーたちも、この異様な空気に飲まれた会場に苦笑いしながら、やがてチーム紹介は終わり、競技開始の時刻が迫って来た。

 ■グラビティ・ブースト、チーム対戦
個人タイムアタック、チーム・タイムアタックとはルールが劇的に変わる。タイムを競うのは、基本的には同じなのだが、各コースに設けられてるポイントは、タッチすると「ペナルティ・タイム」として認められ、相手チームのタイムに罰加算される。
つまり、どれだけ早くチームでゴールしたとしても、相手側が送って来たペナルティ・タイムがゴールタイムに加算され、逆転敗北する可能性を多々秘めるシステムなのだ。
そして、チーム対戦のもう一つの醍醐味、それが【チャージング】。殴る蹴るはもちろん、重大な反則なのだが、相手チームのプレイヤーを【押して】、慣性飛行の軌道を反らす事は認められている。つまり、押すだけの行為ではあるが、威力絶大の、妨害行為が認められているのである。

『さて、【TEAM・GALAXY】とチーム・なかよし、両チームとも、スタートグリッドについた様です』

会場にいる観客に向けて、アナウンサーと解説者が、マイクを通じて様々な説明を行う中、チーム対戦用、上級者向けコースでは【TEAM・GALAXY】のメンバーも、カオル達も、手すりに捕まり、スタートの号砲が鳴るのを待つ。
視界の先にあるのは、強化透明プラスチックで作られたトンネル、一周400メートルのサーキットコース。

「多分このマッチアップ、メリルさんの仕込みだと思います」

「そうね、こんな話聞いてなかったし、裏で何かしたのかもね」

「あ、あはは」

「ヒロノブ君、カスミさん、カオル君、み、みんな…ダメ。今は…集中」

「恭香、ごめん。そうだ、みんな集中!集中しよう!」

『さあ、そろそろ挑戦者チーム、【チーム・なかよし】の先行スタートが始まります!』

世界にその名を轟かす、一流プロチームとのイベントマッチである事から、一般人チームにはハンデが与えられている。先行スタートと言うのがそれで、一般人チームがスタートした後に、規定秒数の間、【TEAM・GALAXY】はスタートグリッドで待たされ、後発スタートを強いられるのである。
そのスタートグリッドで、【TEAM・GALAXY】のエルメス・コステロが、ニヒルな笑いを口に浮かべながら、カオルたちに声をかけた。

「宇宙軍の坊や達、頑張って俺を楽しませてくれよ」

すると、エルメス・コステロの肩に手を当てて浮遊していた美しき黒豹、リコ・エルアラメインが、妖艶で残酷な視線を投げかけて来た。

「手を抜いちゃダメよ、エルメス。子供にはしつけが必要だわ。無茶な挑戦をした事、後悔するぐらいに、メチャクチャにしてあげる♪」

「怖ぇ~…」

「ヒロノブ、飲まれちゃダメだ。せっかくのチャンスなんだから、後で後悔しない様に、やれる事をしっかりやろう!」

5秒前!

4秒前!

3、2、1!

『さあ【チーム・なかよし】が先行スタートだ!GO!GO!GO!』

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