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掌編小説集7 (301話~350話)

目覚め

作者: 蹴沢缶九郎

百年もの長きに渡る眠り、コールドスリープから一番最後に目覚めた彼を待ち受けていたのは静寂だった。街からは一切の音が聞こえず、静まり返っている。その理由は至極単純である。人がいないのだ。

冬眠装置から目覚め、施設を出た彼は、百年前と比べてすっかりと様変わりした街の光景よりも、人の姿形を全く見る事の出来ない奇妙な街の様子に不気味さを覚えていた。

彼は人を求めて街を歩いた。片っ端から建物という建物に入り、人影を探した。だが、人と出会う事は叶わなかった。


ひょっとすると、自分が眠っていた間に人類は未知なる異星人の攻撃を受けて滅んでしまったのか、もしくは、殺人ウイルスの感染により死に絶えた…。可能性ならいくらでも考えられた。




「百年先の未来では、車は空を飛んでいるだろうか…。宇宙旅行が当たり前の世の中になっていると良いな…」


コールドスリープに入る前の彼の未来は、期待と希望で満ち溢れていた。彼はまだ見ぬ未来に想いを馳せながら、長い眠りへとついた。

しかし、目覚めた彼の期待は見事に裏切られる。人のいない世界。まだ夢なのなら、もう覚めてくれと願った。その日、彼は人を探し続けた。


人が消えた本当の理由など、自分の頭で考えた所でわかる訳もなく、最早どうでもよかった。ただ、彼は人に会いたかった。こんなはずではなかったのだ。

空を狭しと走る車、歩かずとも自動で進む道、戦争や公害問題は過去のものとなり、平和で豊かになった暮らしの中で、人々は幸せを感じ生きている、そんな未来が待っているはずだった…。


彼は周りを見渡し、その近辺では一番高いであろうビルの屋上に移動すると、消失した人々がいるかもしれない世界に行ける事を祈って、その場から飛び降りた…。



「皆様、仮想敵国からの攻撃に備えた、三日間に渡る地下シェルター避難訓練、どうもお疲れ様でした。訓練は今回で最後となります…」


彼がビルから飛び降りた数分後、街に訓練終了を知らせる放送が流れ、開放されたシェルターの出口から姿を現した人々は、それぞれに笑いながら話している。


「…やっと終わった。こんな訓練意味あったのかな?」


「さあね、もしもの時の為だったらしいが、今回で最後らしいぞ。科学が発達して、戦争などとうの昔になくなり、完全に平和となった今の世界では皆が幸せなんだ。昔の人間は、まさかこんな世の中が来る事を想像出来ただろうか…」

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