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021

焼けつく頬の痛み。彼は一瞬理解が及ばなかった。


先の自らの暴言も、直前にほんの一瞬聞こえた、軽く硬いものが盤上を転がる音なども脳裏から消えた。


目の前の銀色の髪の女の拳が、雷火を纏う本性を現してはいないとはいえ、この身体に痛みを与えたことが信じがたかった。



「貴様っ…、何をした!?」


「……うっさいですね、全知全能なら少しくらい自分で考えやがれです」



苛立つような女の言葉に、主神たるこの自分を眼中に入れていない態度に、ゼウスはさらなる苛立ちを覚える。


このような不可解な女が今の今まで存在しただろうか?



「くっ……くく、いいだろう女。その神を敬わぬ傲慢さ、我自らが組み敷きその蒙昧さを認識させてくれよう」



彼は認識を改める。目の前の女はただの辺境の小国にいるような、蝶よ花よと育てられたような姫君などではない。


見た目や感じられる気配に騙されてはならない。


あれは古き太陽神と海神の神統に連なる、強力な女神と見るべきだ。



「後悔するがいい!」



咆哮と共に彼は彼本来の姿を現す。





だが、この時彼は大きな過ちを犯していた。彼はもっと慎重に事象を見定め、深く思考をめぐらせるべきだったのだ。


いや、それも無理からぬ事かもしれない。何故ならそれこそが―






とりあえず主神をぶん殴ったら、手がすごく痛いでござるの巻。


というか、今のは迂闊だった。手品の種が割れるかと思ったが、そのままスルーされたので万事OK。良しとしよう。


神話的な意味でも、コイツ、けっこう迂闊だしな。全知全能のくせに、うっかりが多すぎなのだ。


それはともかく、熱い。


某超野菜人バリに黄金闘気的な雷電バリバリされると、か弱い私などは一瞬で茹で上がりそうである。



「……アルテミス様、彼女たちをよろしくたのみます」


「ん」



主神ゼウスの真の姿を見たテーバイの王カドモスの娘セメレーは、彼の纏う雷光の灼熱に焼き尽くされて死んだのだという。


ダイダロスやイカロス、英雄とはいえアタランテがそれに耐えきれるかは微妙なところなのだが、どうやらアルテミス様は自主的に守護してくれているようだ。


感謝である。いまだにペロペロキャンディー舐めてるけど。融けないのかな、あの飴。


なお、私は反則技があるし、何より頭の上の蜥蜴が守ってくれているので大丈夫。


そんな中、アタランテちゃんが私に向かって声を張り上げてきた。



「メディアっ、大丈夫なのか!?」


「まあ、なんとかしてみますよアタランテ。勝ったらほっぺにキスしてください」


「……相変わらずだなお前は」



うん、まあ、その、ラストキャンペーンだけれどもこんなノリなんだ許してほしい。


さて、



「話は終わったか?」


「話が終わるまで待ってくれているなんて、意外と太っ腹ですね」


「神であるからな。こと、争いにおいては無様は晒さん」


「あの軍神の親とは思えない発言です」



私の皮肉に雷神はニヤリと口元を歪める。意にも介さぬといったところか。意外と薄情だ。そう思ったが、



「あれは大器だ。数百年もすれば案外、我を超える信仰を集めるだろうよ」


「なるほど、親馬鹿でしたか。しかし流石は主神ですか」



ローマ神話ではものすごい優遇されているのに、ギリシア神話ではどうしてああなったし。


まあ、マルスとアレスが厳密に同根の神であるかというのには異議が付きものなのだけれど。



「アレの話はここまでにしておけ。それよりも、貴様の頭の上のモノを、さっさと起こすがいい」


「ぴぎゃ?」


「おや、分かっていましたか?」


「知らいでか。貴様の集めたモノを考えれば、そしてソレが放つ悍ましき気配を感じれば、いくら貴様の魔術で隠そうとも隠しきれるものではあるまい」


「それでは、お言葉に甘えまして……」



これはごく単純な話だ。


ゼウスに対抗するためにはどうすれば良いか。ギリシア最強にして最高の神。ヨーロッパからインドにかけて古くから主神として信仰される天空神を根とする偉大なる雷神。


その神話において、彼は常に勝利を飾ってきた。自身の父親に勝利し、兄たちを差し置いて最高神の座を手に入れた。


が、そんな彼に土をつけ、唯一敗北を許した敵が存在した。


すなわち、大地母神ガイアが創造した最強の怪物。


蛇の女を妻とし、


磔にされたプロメテウスの肝をついばんだ鷲、無数の頭を持つ冥界の番犬、紅い牛を守る双頭の犬、九つの首を持つ毒蛇、黄金のリンゴを守る百頭竜、金羊毛の守護竜といった多くの怪物たちの父。


母親由来の余計な要素は引き算してしまえばいい。不完全な部分は他で補え。作者ガイアの許可は既にとっている。


まあ、そのまま再現するのは能がないので、少しばかり別の要素を加えたが。二次創作です、オマージュです、リスペクトです。


さあ、後は名前を付けるだけだ。最強の怪物に相応しい名称を。私はゼウスに向って手をかかげた。



「さあ、目覚めろ―」



高らかに腕を天に上げ掲げ、呼ぶ。



「―バハムート!!」


「PIGAAAAAAAA!!!」



次の瞬間、頭上の蜥蜴の眠たげな瞳が青白い光を放って大きく見開かれる。刹那、世界はその光によって文字通り埋め尽くされる。


遠方から観測したのならば、その青い光は一条の光線として知覚されただろう。そして、その光線がオリュンポスの山頂を神殿ごと飲み込んだことも視認したはずだ。


莫大な神威と熱量を孕んだ閃光はおよそ1秒間放たれた。光は浅い角度で放たれ、射線直下、山頂を囲む雲海を真っ二つに割り、まっすぐに天を突き刺した。


光が収まった後、オリュンポスの壮大な山頂は何かスプーンで抉り取られたかのように無残な姿を晒すのみ。


それは間違いなく、《目ビーム》だった。



「目がフレア。なんちゃって」



いえ、その、もう何て言っていいか…。ごめんなさい、私も想定外だったんです。口から出ると思ってたんです。さり気無くバフかけてましたけど、私は悪くない。


というか、目からとかどういうことなの? 私もドン引きです。巨大化してずいぶん大きくかっこよくなったのに、目ビームですか?


オプティックブラストってレベルじゃねぇですよ。真の怪獣王は目で殺すんですか? 新劇場版の初号機なんですか? わけがわからないよ。


っていうか、主神生きてますよね? こんなギャグみたいな死に方とかないですよね!?



「ぐぉぉっ…」



氷河にでも浸食されたかのように刳り貫かれたU字型の底、半身を抉り取られた雷神が土から這い出す。


ゼウス生きとったんかワレ



「こ、このような馬鹿な事があるものか…。テュフォンとは別物ではないか!!」



ゼウスは私の背後に佇む巨大なドラゴンに対し憤怒を込めて声を荒げた。


そう、ドラゴンである。いや、形状がドラゴンであることは基本的に私の趣味であるのでどうでもいいのだけど。


とはいえ、本来の怪物王、大地母神がオリュンポスへの最後の切り札として用意した怪物の中の怪物、《テュフォン》とコレを別物と認識されるのは、ある意味において仕方がない。


そもそも《テュフォン》はドラゴンではない。下半身は蛇とされるが、上半身は人体を模した巨人の姿として神話では描写されている。


少なくとも《目ビーム》はでない。


しかし、コレは完全に西洋竜の外見をしている。


漆黒の鱗の、多少人体っぽい要素のある腰のくびれた逆三角の胴体、蝙蝠のそれに刺々しさを加えたような翼、蜥蜴のそれを凶悪に剣呑にしたような頭部。


なんとなくサブカル的な要素を見て取れるものの、やはりどう見ても竜である。竜は《目ビーム》しないけど。


さて、何故竜なのかと問われるなら、それは《テュフォン》の忠実な再現が不可能だったからとしか言いようがない。


結局のところ、いくら怪物王の子らから遺伝子を集めたとしても、エキドナが混ざってしまっている以上、完全な再現にはサンプルが足りなかったわけである。


そもそも、怪物王の子供たちはその父親に比べれば随分な型落ちだ。どれもゼウスに太刀打ちできるような存在ではない。


だからこそ、エジプトくんだりまで行ってトート神に例のブツの製造を依頼したのだし。


再現ではなく超越。いや、実際にテュフォンとか見た事ないから、どっちが強いかとか知りませんが。


ちなみに、《目ビーム》は預かり知りませんので、念のため。



「というわけで、降参してくれると有難いのですが?」


「笑えぬ冗談だ」


「さいですか」



ゼウスの肉体の欠損部に雷光が走り、それとともに肉体を速やかに復元していく。流石神様。


特別な手順、アダマントのような金属で製造された刃物で外科的に切除し、その部分を封印するといった手順を踏まないと肉体欠損などすぐに復元されてしまう。


ダメージが入っていないわけではないだろうけど。



「ここからが本番だ!」



ゼウスの右手に雷霆の槍が握られる。


あれこそ単眼の巨人キュクロプスが鍛造したとされるギリシア神話最強の兵装ケラウノス。その一撃は世界を溶解させ、全宇宙を焼き尽くすという。


まあ、かなり話を盛ってるんですけどね。


本質的に地球で生じた神様が地球の存続を危ぶませるほどの出力を得ることは出来ない。


何故なら、地球で生じた神々は結局のところこの星で起こる自然現象の延長でしかなく、地球の一部でしかないのだから。


ただし人間は死ぬ。いや、だってあれ、地震一回分のエネルギーが乗るんだぜ。戦略核クラスな。



「まあ、ここまで来たらヤるしかないですねっ。さあ、咆えろバハムート!!」


「PIGAPI!」





「はい、ヘカテーです。ここで一度CMに入りますね。番組はCMの後も続きます!」



青く美しいエーゲ海。白い砂浜のビーチにはカラフルなビーチパラソル、そしてビーチチェアに横たわる水着姿の絶世の美女。


そんなアフロディ…絶世の美女の横でカクテルを給仕するのは、スキュ…ゆるふわ系の可愛らしいメイドさん。


そう、ここは真に楽園。


しかし、そんな桃源郷のような美しい海と浜辺も今や人間活動による環境破壊により危機的な状況に追い込まれています。


河川を通じて海洋に排出される汚染物質や大量のゴミ。これらが母なる海の生態系に深刻な悪影響を与えているのです。


なんと嘆かわしい。


ほら、ご覧ください。このように心無い者によって打ち捨てられたゴミが浜辺に打ち上げられ…



「み、水を……」



白い砂浜に打ち上げられ、うめき声をあげる軍神アレス。海藻とかが巻き付いたその体の上をヤドカリさんがトコトコと歩く。


ゴミ?



「ちょっ、アレス何してるのよっ。マジウケるんですけどー。キャハハハハッ」


「はわわっ、大変です~、早く助けないとっ」



打ち上げられたアレス君を指さして笑う美のアフロディーテちゃん、悪役令嬢が似合いそうなギリシア女神ナンバーワン。


対照的にワタワタと血相を変えてアレス君を助けようと駆け寄るスキュラちゃん。なんて健気なメイドさん。ヒロイン力が違います。


ただし、ドジっ子メイドは何もない所で躓く。



「はわっ!?」


「っ、ふぶっ!?」



しかし流石は主神の息子アレス君ですね。主人公属性あるんじゃないでしょうか?


転んだスキュラちゃんったら、そのまま勢いよくアレス君に突っ込んでいきます。大きなバストでフライングプレス。



「き、きゃぁぁぁぁぁっ!!?」


「へ…? ぷにぷに?」



お約束ですね。


しかし、ラッキースケベの後はぶん殴られるのが世の定め。どこからともなくスキュラちゃんの腰から生えた触手が壮絶な空中コンボ64発を叩きこみます。



「い、いや、これは不可抗りょ……、はがぁぁぁぁっ!!!!?」



そして最後に弾き飛ばし。アレス君は星になりました。様式美ですね。



「というわけで、ヘカテーちゃんとの約束っ。自然を大切に! ポイ捨てダメ絶対! えーしー」





闘争は大気圏に収まる事なく、熱圏に至る空の戦いとなっていた。雷霆が闇を引き裂き、目ビームが雲海を割る。


一見して、この戦いは均衡しているように見える。


両者ともに血を流しているが、掠り傷に過ぎず、戦争の続行に支障があるようには見えない。


雷神と竜は音速を遥かに超えた速度で相対し、交錯し、その中で互いの必殺を紙一重で回避する。


まるで流星が天空にて交錯し、かろうじて衝突を免れたかのような。


雷神はそのまま急制動をかけつつ、背後に振り向く。人間ならば押しつぶされただろうが、ギリシア世界の神の王にこの程度の慣性力など意味をなさない。


しかし、その表情は晴れず、一切の余裕は見えない。むしろ眉根を寄せ苦々しさを表しているように見える。


それは実に奇妙なことだ。このような強敵との闘争であれば、本来の彼ならばその表情に鬼のごとき表情を張り付けているだろうに。


そして、振り向き敵に正対する雷神はその右手の雷霆を構えようとして、次に目を見開いた。


上方から真っ直ぐに彼に突撃する竜の姿を視界に映したからだ。


種を明かせばさほど難しい話ではない。第三者の視点から見れば単純な話。


竜は恐るべき速度をそのままに上昇しながらのターンと共に、体の上下を修正する180度ロールを行うインメルマンターンをやって見せただけの話。


慣性法則を捻じ曲げるほどの急制動と空中静止を行って見せた雷神ではあるが、一度失った運動量はそう簡単には取り戻せはしない。


上空から降り注ぐ無数の火球は彼の怪物王がかつて見せたもの。今の雷神が身に纏う《恐怖》の名を冠する鎧とて、それを完全に防ぐことは能わない。


爆炎に視界を遮られる中、雷神は腕で顔を庇いつつ前方から突進してくるだろう竜を睨んだ。


天上よりギリシア世界全てを見渡す彼にとって、この程度の目眩ましはさほどの問題にはならない。


故に彼の超感覚は正確に迫りくる竜のその速度、入射角度、彼我の距離を知覚し、


― その時、再び彼の耳に軽く硬いものが盤上を転がる音が聞こえて ―


その違和感の認識に失敗した彼にその正体を知る機会はもう与えられない。


雷神は己が認識に従い、彼自身の父親から奪い取った最強の武装、万物を引き裂くアダマントのハルペーを満を持して構える。


農耕神の象徴であった大鎌は、生命を刈り取る収穫の象徴であるとともに、雨をもたらす稲妻の象徴でもある。


そして、ペルセウスによるメドゥーサ討伐にも用いられたそれは、不死である神すらも殺しえる対神兵装に他ならない。


ゼウスは己が必殺の意志を以て、その神殺しの鎌を振り抜いた。


手に伝わる感触は、


― カラコロッ ―


直後、彼は信じがたい事実を認識する。



「馬鹿なっ…?」



必殺を以てはなった一撃。しかし手に残る感触は不完全な、とても敵を両断したとは云えないもの。


驚愕は致命的な隙となり、直後、彼の下腹部に抉り込むような衝撃が撃ち込まれた。


目の前には、左翼を引き裂かれ失った竜が、己の懐に食い込んだ姿。そして気が付けば彼の腕は竜の手によって掴まれていた。


そして、そのまま両者は大地へと墜落していく。



「うぉぉぉぉぉっ!!!!?」


「ちょっ、無理無理っ、バハムートさん私が乗ってるの忘れてませんかっ!? これ死にますっ、死にますからぁぁぁっ!!!!」



どっかの田舎の魔女の悲鳴が聞こえたような気がするが、たぶん気のせいである。


竜と共に雷神がオリュンポスの麓に叩きつけられる。世界が揺れ、神々の山に巨大な亀裂が走る。


そして同時に爆炎と雷光が爆心地に轟いた。





「ふぅ、一仕事終えましたので、お邪魔しますねヘラ」


「……弟子が心配でいられなかったのかしらヘカテー」


「いえいえ」



唐突に現れた魔術の女神(幼女形態)にヘラはジト目を送るも、すぐに視線の先で繰り広げられる壮絶な闘争に視線を戻す。


その戦いはギガントマキアの直後の、彼の怪物王との大戦争を彷彿とさせた。


女の身ですら、その闘争からは目が離せない。


世界を震撼させ、大地を溶解する、ギリシア神話世界最大の決闘の再現。


だが、先の戦いにおいては、その終始においてゼウスは基本的には優勢を保っていた。ゼウスという神々の王はそれほどの力を保有しているのだ。


だというのに、



「おかしいわ…。ゼウス様は…、どこか身体の調子が悪いの? いえ、でもそんなことは……」



女神ヘラは主神ゼウスの全盛を知っているだけに理解できる。ゼウスの動きにキレというものが失われていることを。


ぎこちない、まるで枷か何かを嵌められたかのような、動きづらさを思わせる状態。


それ故に、竜が雷神を押しているように見えた。



「メディアはゼウス様に毒でも盛ったというの?」



かつてゼウスを追い詰めた怪物王は、運命の女神によって食わされた毒の果実によりその力を失った。


であれば、その可能性は無いとも言えない。だが、そのような機会はあっただろうか?



「ヘカテー、何が起こっているの?」


「おや、夫が危機的状況にあるのに、落ち着いていますね」


「……質問に答えなさい」



からかうような言葉に苛立ちを覚え、ヘラはヘカテーに説明を早くするように求める。するとさらにニヤニヤ顔になったヘカテーにヘラはさらに苛立ちを募らせていく。



「これはどうして、おかしなことになっていますね」


「私の事は置いておきなさい」


「弟子の将来を考えると捨て置くこともどうかと思いますが、まあ私には関係ないですし。……さて、あの子は見事に怪物王の再現をやってのけましたが、しかし、その目的はあくまでこの拮抗状態を生み出す事です」


「そうなの?」



怪訝な表情のヘラに、ヘカテーは訳知り顔で伊達眼鏡をかけると、教師面で説明しだす。なお、幼女なので女教師には見えない。



「そもそも、怪物王が一度ゼウス様に勝利したことも運によるものに近いですし。故に怪物王では神の王には勝てない。そもそも、ギリシア世界の存在は最高存在である主神ゼウスに勝つことは出来ない」



ギリシア神話の内の世界において、主神ゼウスが覇権を握るというストーリーはそう簡単に揺らぐものではない。


何故ならば、ギリシア世界における主神の陥落は予言に基づくものでなければならず、そして彼の破滅に関する予言は全てゼウス自身の手によって成就を妨げられたからだ。


よって、魔女メディアによる勝利が約束される予言が存在しない以上、ギリシア神話の登場人物であるメディアの勝利はあり得ない。


そう、これがギリシア神話内の内輪揉めである限り、この定理は覆らない。



「だから、あの子はギリシアの外側を引き入れたのです。まったく、無茶をする」



エジプト神話における偉大なる神トートがコルキスの王女に力を貸した。


よって、エジプト神話のルールに基づき、偉大なトート神に力を授けられたメディア姫は偉大な成果をあげなければならない。ヒエログリフにもそう書かれている(予定)。


モーセがコルキスの王女の言葉に導かれ、神との邂逅を果たした。


それだけ重要な役割を果たした彼女は、当然、アブラハムの宗教のルールに基づき、偉大な預言者でなければならない。聖書にもそう書かれている(予定)。


いったい誰が想像するだろうか? コルキスの王女メディアの逸話を、ギリシア神話以外の神話体系に挿入するなどと。






「貴様っ、その力、トート神のものだけではないなっ!?」


「神の変容は内部からではなく、むしろ外側からもたらされる事が多いって知ってますかぁっ?」


「PIGAAAAAA!!!」



宗教や神々の変容というものは、本来はゆっくりとした、数世代程度では起こりえないものだ。


だが、外的要因が加わると話が異なる。


異なる文化圏との接触および交易、異民族の侵略、または民族集団の危機的状況、とりまく外交関係の変化。


例えば、どこぞの島国はお隣の大陸からの影響により神話を変容させてきたし、強大な西洋文明を前にして付け焼き刃で国家宗教を生み出そうと試みたりした。


ローマの軍神マルスはその逸話のほとんどを、おそらく全く異なるルーツであろうギリシアの軍神に塗り替えられた。


ぶっちゃけ、ギリシアの神々なんて最後にはキリスト教に蹂躙されるわけだし、アブラハムの宗教とかギリシア神話の天敵ですしおすし。


さて、争いは板野サーカスじみた複雑な軌跡を空に刻む空中戦から、野蛮極まりない殴り合いへと姿を変えていた。


燦然と輝く様に神々の頂点に座していたあの頃のゼウスの姿は今やなく、血まみれ火傷まみれの無残な、いや、ある意味超かっこいい状態になっている。


むろん、バハムートも無事ではない。アダマントの鎌は胴体こそ引き裂かなかったものの、バハムートの片翼を切り落とした。


これではしばらくは高機動の飛行は不可能だろう。飛べないわけではないが。


つか、



「だから私が乗ってるの忘れてませんかね、この蜥蜴。この状態で殴り合いとか、揺れが激しすぎて酔うんですけど。うぷっ」



背中にへばり付いている私は超戦々恐々。じゃあ降りろって? この目ビームとか雷霆が荒れ狂うインファイトの中を? ご冗談を。



「何をした貴様っ、答えろっ!!」


「おや、ようやく目星にでも成功しましたか?」


「何を言っているっ!!」



まだ気づいていなかったか全知全能。インドのハラッパーでも出土してるんですから、それぐらい考えついてもよさそうなのに。


そもそも、ヘルメスなんかは賭博を司っているわけだし。エジプトとかメソポタミアには紀元前3000年前よりも昔からボードゲームがあるわけだし。


TRPGは無かっただろうですけどね。



「それではヒントです。とある偉い人はこう言いました。《神様はサイコロを振らない》と」


「なんだその言葉は?」


「ヒントはここまで、後は自分で答えを導いてください。というわけで、さあ、貴方のターンだ《神様》、《サイコロを振れ》。決まりきった結末のゲームなんて、とっくの昔に飽いたでしょう?」



智慧の女神を喰らいては全知を手にし、掟の女神と契っては運命の女神を因果を越え娘とし、結果として運命をも支配するに至った最高神ゼウス。


そろそろ予定調和にも飽きたのではないかと思い、このような趣向を凝らしてみました。


まあ、『科学』とかで振ればいい目が出るかも知れませんよ?



「馬鹿に…するなっ!!」



私の言葉に激昂した雷神の手に雷霆が輝く。太陽をも塗りつぶす光量。主神ゼウスはそれを力の限りバハムートに向かって投擲しようと、



― そして、一対のサイコロが架空の盤面に投げられた。 ―


<1><1> 判定:ファンブル(クリティカル)



「あ…」


「なっ!?」



次の瞬間、ゼウスの手にあった雷霆は投擲されず、あろうことか彼自身の胸に突き立った。


ゴジラは流石に自重した。怪物王ならゴジラだけど、バハムートならいちおう神話関係あるし。(なお、こっちの使用許可はとっていない。)



なお、ゼウスさんは最初の判定でファンブル出したので、音で手品の種に気づく機会を逃しましたん。


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