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プレゼントは物語で

作者:

ストレス発散作品。

設定など支離滅裂。


ご都合主義な作品なので苦手な方は回れ右をしてください。

私の友人が婚約を解消した。

相手側の不貞行為が原因だった。

それなのに、まるで友人が悪者になっていた。


悪者にされてしまった友人は今、社交界から遠ざかっている。

その状況が彼女の評価をどんどん悪くしていった。

悪意ある噂が”元”婚約者側から流れているからだ。


私は我慢ならず、直接的にではなく間接的に友人の”元”婚約者たちを社交界から追放することを決めた。

友人と友人のご両親に計画を話すと瞳をキラキラさせて

「どんどんやってください!」

と後押しされた。


友人の両親と”元”婚約者の両親は親友だったのでは?

と思ったが、どうやらあちら側が一方的にそう思っていただけだそうだ。

情報を巧みに操作されていたようで見事騙されていたわ!

なにより、そのことに欠片ほども気づかなかった自分が情けない。

友人の話をちゃんと聞いていなかった証拠だ。


友人の両親はこれで腐れ縁が切れるならと全面的に協力してくれることになりました。

そこで今まで知らなかった両家の関係を聞いたのですが……


なんでも領地が隣であり、数代前の当主たちが何がきっかけだったか分からないが意気投合し、互いの領地を行き来する仲になったそうだ。

その時、財政難を知った友人の当時の当主は可能な限り手を差し伸べたそうだ。

もっとも友人の一族はかなり反対したらしいが、当主の権限で強引に推し進めたという。

また当主たち本人が仲がいいからと互いの子供たちも仲良くなるだろうと思った当主達は子供たちを社交界にデビューさせる前に顔合わせをさせたが、最初の挨拶の段階で、両家の間に埋められないほどの溝が出来たという。

原因は十中八九相手側の不遜な態度に友人の一族の者達の積み重なっていた鬱憤が爆発したのだろうというのが友人の見解である。

爆発の発端は、相手側の子息が、挨拶もせず友人一族の令嬢に罵詈罵声を浴びせた事だったというから間違いないだろう。

そもそも、身分的に相手側の方が下(しかも没落直前)にも関わらず横柄な態度を取る理由がわからない。


それ以来、友人の一族は相手側と距離を置き始めたが完全に切ることが出来ずにいた。


毎年必ず、隣の領地から難民が流れてくるらしい。

苦しんでいる民を見捨てることが出来ない友人一族は、民には罪はないと受け入れているという。

一応、国の上層部に奏上しているが、途中で握りつぶされているという。

誰が握りつぶしているのかは判明しているが、現在余罪追及の為泳がせているという。

どうやら、その者はそれ以外にも多くの余罪があるらしく、捜査員が報告書にまとめるのを放棄したがっていたというからかなりの数の余罪があるのだろう。

調査に当たった従兄が真っ黒い笑みを浮かべてカウントダウンを数えはじめたから捕縛されるのも時間の問題だろう。


友人の領地は鉱山を持ち国内の半分ほどの宝石の産出地帯であり、またこの国の倉庫と言われるほどの穀物地帯という極めて珍しい領地(本来なら王領となっていてもおかしくない)であり、常に安定した収入を得ていた。

一方相手側は、隣り合っていてもこれほどまでに違うのかと思うほどに土地が痩せており、収入が不安定。

特に他に特産品もなくいつもジリ貧状態。

友人の一族は幾度どなく土壌改造などを教えたが一向に良くならなかった。

なぜなら、相手側は面倒くさがりの一族だったからだ。

せっかく友人の一族が一から丁寧に教えていたのにもかかわらず、右から左へと聞き流し、教えられていた事とは真逆のことを行っていたとか。

友人の一族は改善する気がない彼らに見切りをつけ、距離を置こうとしたが相手側が粘着のようにまとわりついてきていたという。

領地は国から下賜されたものだから領地を変わるという事も簡単には出来ず、嫌な腐れ縁が続いていたという。


友人も”元”婚約者には一ミリほどの関心もなく、どうやって婚約を破棄しようか悩んでいたところに一方的な婚約破棄&下級貴族令嬢(”元”婚約者の浮気相手)へのいじめの主犯者という濡れ衣を着せられたとのことで私の計画に進んで参加してくれることになりました。


そもそもなぜ、婚約していたのかと聞いたら、友人一族は彼の一族と婚約を結んだ覚えはないという。

勝手に書類をねつ造され、国に提出されてしまったという。

気づいた時は時遅く、国王の承認印が押された後だったという。


後日、そのことを知った国の上層部はかなり荒れたという。

友人の件だけではなく、似たようなことが頻繁に起こっていたらしく、これを機に大々的なシステム変更が行われるという噂が流れている。


友人一族には国王自ら頭を下げたと友人から聞いている。

折を見て、婚約は白紙に戻すよう手続きをすると国と話し合いがついた矢先に、公の場で繰り広げられた婚約破棄騒動が起こったのだった。


***


私の婚約者に月一で行うお茶会の時にポロリと今回の計画を話してしまった時、彼は満面の笑みを浮かべて

「俺も協力するよ」

と真っ黒い笑みを浮かべて応援&協力してくださると……

彼だけではなく彼の両親まで乗り気満々でしたが、ご両親にはご辞退願った。

いや違う。

最後の最期にご協力くださいとお願いした。

私のお願いに彼のご両親ばかりずると私の両親と兄姉が拗ねたが、元から家族は巻き込むつもりだったので正直にそのことを告げたら、満面の笑みを浮かべて

「任せなさい!社交界どころかこの国にいられなくしてやるわ」

と口を揃えて息を巻いていた。

息巻いている両親と兄姉を止める手段は……正直ないが、時期が来るまで大人しくしていてくださいねとお願いしたらあっさりと了承したのだが……ちょっと嫌な予感がする。



と、周囲の協力の元、友人の”元”婚約者様+αを陥れる計画が開始した。

そういえば、友人から”元”婚約者様を奪った方って一時期社交界で有名だったあの人だったよね。

ふふ、なんてネタに困らない人なんだろう!

あの人のネタならいくらでも証拠と共に揃っているから、思いっきりやってしまおう!


「お嬢様、だからと言って一月以上部屋に籠らないでくださいよ。昼と夜は社交に励んでくださいね」

にっこり笑いながらもしっかりスケジュールを組む我が家の執事は有能すぎ。

そして私付の侍女も……

「さあ、お嬢様!本日はコーリン伯爵邸のお茶会とジルベスタ公爵様のお屋敷での夜会がございますわよ」

とドレスやら装飾品やらをベッドやソファに並べていく。

「……いつもの仮病は?」

「無理でございます。皆様、お嬢様の次なる作品を今か今かと首を長くしてお待ちしているのです。少しでも宣伝をしなければ!」

執事がものすごーく力を込めて訴えてきた。

「私たちもお嬢様の次の作品が楽しみなのです!お嬢様のファンとして出来上がった原稿を真っ先に目にすることが出来るこのお嬢様付(ポジション)は今この侯爵家では争奪戦なのですよ」

侍女たちからの驚きの情報にどう答えていいものか。

乾いた笑い声しか出なかった。


「それよりも、お嬢様。例のお二人の今の状況ですが……」

執事から聞いた話は私もある程度把握していたが、それは表向き(貴族の間)であって、裏向き(使用人の間)では違った情報があった。

「チャーリー、その話の出所は”元”婚約者である子爵家からの?」

「はい、子爵家の執事長は私の学園時代の同級生で何かと相談を受けておりましたので間違いございません」

「もっと内情を探れないかしら」

「では、子爵夫人付のメイドを買収いたしましょう。彼女はヒステリックな子爵夫人と子爵令息が選んだ女性のワガママに毎日走りまわされ、胃を痛めておりますので、こちらへの転職を条件に……」

「そこら辺はあなたに一任するわ。私の友人であるシャルロット=ローディング伯爵令嬢を傷つけた罪、しっかり償わせなければ!」

ぐぐっと拳を握り締めて天に突き付けると執事であるチャーリーはにっこりと笑みを浮かべた。

「では、お嬢様が令嬢としてのオシゴト(義務)を果たされている間に、我々が情報を集めておきましょう」

あ、あっさりと逃げ道がふさがれてしまった。

情報集めを理由に貴族のオシゴト(義務)を休もうと思ったのに。

「お嬢様、お嬢様はすでに一部の方達の間では有名人なのです。情報収集などは私共、使用人()の役目。お嬢様は今日のお茶会と夜会でシャルロット様の名誉回復のための次回作-ボンクラ子爵令息とビッチな貴族庶子女-の宣伝をなさってください」

「ちょっと、その品のないタイトルは付けないわよ」

「タイトルではなく中身の事です。タイトルはそれとは分からないようつけるのがお嬢様のルールでしょ?」

「……そうよ。でもいいタイトルが浮かばないのよね」

「では、シャルロット様は王妃様より『リリークラウン(百合の王冠)』の称号を頂いておりますから『白百合のためいき』など如何でしょう」

「あら、それなら発売されるまで誰にも予想付かないわね。そのタイトル頂いてもいい?」

「はい、もちろんでございます」


***


今更だけど、私の名はステラ=リナ=ソル。

ソル侯爵家の末娘で両親と兄姉にものすごく可愛がられている。

ただ、可愛がるだけじゃなく厳しく躾けられもしたけどね。

父と兄は剣が、母と姉は刺繍が得意でその界隈では知らぬ者がいないほどの有名人。

だけど私は武術はもちろん、貴族女性の嗜みである刺繍は図柄ではなく血染めにしてしまうほどの不器用さ。

絵を描くことも薦められたけど、人よりちょっと上手いくらい。

ダンスは好きだけど難しい曲は体が拒否るから、いつも婚約者と最初の一曲(簡単な曲)しか踊らない。

表向きは病弱だからで通しているけどそれがいつまで通用するかは……神様次第かしら?


そんな私が唯一自慢できるのが物語を(えが)く事。

最初のきっかけは母が読んでくれた絵本の結末が気に入らなかったから自分なりにアレンジして書いたこと。

それを見た母は「あら、面白いわね。他にどんなお話があるの?」と催促されたことだった。

最初の頃は既存の物語とは違った結末を(えが)くだけだった。

そこから、自分だけの物語を書き始めるのに時間は掛からなかった。

最初の読者は母だけだったけど、姉がこっそりと私が母にプレゼントした物語を読んで自分にも書いてと頼まれて姉を主人公とした物語を書いたら大変喜ばれた。

そこから私の作家生活が始まった。


侯爵家の令嬢が作家生活を送っていると知られると家名に傷がつくと思い、別名で発表していたが友人であるシャルロットにばれた後は社交界の一部の人たち(かなり高貴な方々)に知れ渡ってしまった。

正体がわからない作家としてちょっとばかり有名だったので余計に騒がれた。

侮蔑されるかと思ったら、思いのほかに作品を気に入ってくれて、応援された。

そして今なお、正体不明の作家として活動できるようにしてくれている。

表向きは私がパトロンになっていると公言し、新たな作品を出す時にお茶会などでそれとなく広告してしてくれている方達である。



そして、なぜか社交の場で私の書いた物語が話題に上がることがたびたび起こる。

そうなると、作品を読んでいない人は会話に入れない。

会話に入れないということは話題について行けないという事。

つまり、宴に参加しても肩身が狭くなり、次第に社交の場から遠ざかる。

そして次第に人々の記憶から消えていくという現象が起こる。

それに気づいた人達は新刊が出るとすぐさま取り寄せ、寝る間を惜しんで読むという。


そのおかげで、私個人の財産が増えていっている。

これは素直に喜んでいいのだろうか……


後で知ったことだが、社交の場で私の本の話題がでたのは両親と兄姉の仕業らしい。

姉が「とある作家さんが私の為に素敵なお話を書いてくれましたの~」という自慢話から始まったとのこと。

ただし、私が書いたことを伏せて。

姉の為に書いた物語は多くの令嬢を虜にしたらしい。


なぜだ。

ただ、姉と姉の婚約者の常日頃の行動をちょびっと妄想……こんなことがあったらどうだろうという出来事を練り込んで書いただけの、ほとんどが姉と姉の婚約者の日常茶飯事の出来事なのに……



さて、シャルロットの名誉回復の作品を出す前にもう一作品書くことを思いついた。

シャルロットから子爵令息を奪った男爵令嬢をモデルとした話を書こうと思う。


男爵令嬢がモデルの話はいわゆるシンデレラストーリーと呼ばれているもの。

略奪愛だけど、身分差や周囲の反対を押しのけてのハッピーエンド。

でも、それは男爵令嬢側から見たキレイな物語。


私が本当に描きたいのはその物語の裏側となるシャルロット側からの物語。

ハッピーエンドの裏側で起こった出来事を赤裸々に書くつもりだ。



***


さて、最初に書き上げたのはもちろん男爵令嬢がモデルの物語の絵本。

タイトルは『紫陽花がみる夢』

タイトルだけでは中身がわからないようにしてある。

しかし、わかる人にはわかる。

というか、わからなければ社交に疎い人だ。

主要キャラの名前こそ似せていないが、容姿から行動まですべてそっくりに書いたからだ。

シャルロットからは「貴女には私がこのように見えたのかしら?」と詰め寄られたが他の友人たちからの援護もあり納得してくれた。

だが、なぜ私の言葉だけでは信じられないんだ!?


タイトルに『紫陽花』を入れたのには意味がある。

モデルである男爵令嬢はいろんな男に愛想を振りまいており、その人たちに合わせて態度を変えていたからである。

まるで紫陽花のように土壌によって色を変えていたから陰でこっそり『紫陽花の君』と呼ばれていた。

ちなみに、コレを言い出したのは私の婚約者様だ。

「まるで紫陽花のような人だな」というつぶやきがあっという間に広まったのだった。


『紫陽花がみる夢』は瞬く間に国中に広まった。

平民たち(主に十代前半の女性)には誰もが憧れるストーリーとして受け入れられていたようだ。

反対に貴族層(特権階級層)からは子供たちの教育教材にしたいと言われた。

なぜだ!?と首を傾げた私に婚約者殿が笑いながら

「自分たちは間違ってもこのような不祥事を起こすなっていう意味じゃない?」

と説明してくれた。


まあ、確かに国と家が取り決めた婚約をただ身分が下の者を苛めたからという噂だけで裏付け調査もせずに断罪し、あっさりと破棄して新しい人と生きていくって……普通ならあり得ないのが貴族社会。

友人たちからも

「もし、自分の子供がこんなことをしでかしたら再教育せず放逐しますわ~。それとも、今までの教育費・交際費などを全額、家から追放した後でチマチマと巻き上げようかしら」

と満面の黒い笑顔で言われた時はどう反応したか覚えていない。

多分、いつもの笑顔の仮面でやり過ごしたのだと思う。


『紫陽花がみる夢』の人気が落ち始めた頃、『白百合のためいき』というタイトルの小説が発売された。


うん、意図的にそうしたんだ。

私の婚約者殿が。


まあ、発売されるやいなやすっごい反響でした。

『紫陽花がみる夢』以上の反響でした。


平民層からは「え?貴族様ってこんなに窮屈な生活なの!?いろいろなルールに雁字搦めなの!?爵位によってこんなにも違うの!?私、平民でよかった~間違っても高望み(玉の輿)はしないようにしよう!」という声が。

貴族層からは「これって私たちの常識よね?当たり前のことよね?」と改めて自分たちのありかたを見直す結果となったらしい。



『紫陽花がみる夢』のモデルである男爵令嬢と(いろいろと)関わり合いのあった男性たちは、いつもならば堂々としていた社交の場では、隅っこの方で固まってチラチラと周りの視線を気にしていた。

ふふ、『自分は疚しいことをしていました』って自分から告白しているようななものね。

中には具合を悪くして早々に退出した者もいた。

それを見て私の婚約者殿は頭から黒い角とお尻から黒い尻尾をニョキニョキッと生やすとチクチクと彼らをいじくるという遊びを思いついたようで、笑みを浮かべて彼らを突いていた。

その時の婚約者殿の笑顔は今まで見てきた中でも一番輝いていたのではないだろうか。


私は遠くからシャルロットたち(男爵令嬢の被害者たち)とその光景をただ眺めていたのだった。

その光景を見ていたシャルロットは

「ああ、できる事なら私もチクチクいじくりたいわ~」

と私の婚約者殿と同じような角と尻尾が出たり入ったりしていた。

「なら、彼女達をいじってこれば?ちょうど到着したみたいだし」


会場の入口が妙に静まり返っていると思い視線を向けると例の男爵令嬢と婚約者(シャルロットの元婚約者)とその友人たちが入場してきた。

彼女たちが入場してきた途端に、音楽が鳴りやみ、会場にいた人たちの視線が集中していた。


男爵令嬢は自分に視線が集まっていることに喜び、その婚約者と友人たちは向けられている視線に顔色がどんどん悪くなっていった。

どうやら、男爵令嬢は『白百合のためいき』を読んでいないらしい。

一応、モデルとなってもらったので『紫陽花のみる夢』と『白百合のためいき』を贈呈してある。

もちろん、作者名義で一方的に送り付けた。

もし、読んでいたのなら今、この場に姿を現すことはなかったはずだ。

いや、それ以前にご両親から外出を止められているはずだが、今こうしてこの場にいるという事は、ご両親の目を掻い潜ってきたのだろう。

彼女の婚約者たちはその共犯者ってところね。


きっと彼女の今の心境は

「私が『紫陽花のみる夢』のモデルだって気づいたのね!ああ、大勢の男性からの視線はなんて心地いいのかしら~」

じゃないかしら?

男爵令嬢は男性からの(侮蔑まじり)の視線でも自分の良い方向に脳内変換している事だろう。

彼女は自分が目立つことになによりも喜びを感じる人らしい。

周りに害がなければそれはそれでよかったのだが……彼女の被害者は日を追うごとに増えていったのだから笑えない。

ご両親は何とかして彼女を社交界から遠ざけようとされているようだけど、上手くいっていないらしい。

彼女の婚約者が彼女のワガママを聞いてご両親の邪魔をしているのだろう。



静まり返った会場に小さな足音が響いた。


足音の主を見て私は持っていた扇を落としそうになってしまった。

いち早く気づいたシャルロットのおかげで何とか無様な姿をさらすことがなくて良かったけど……


なぜ、あの方たちがこの場にいるのですか!?


慌てて婚約者殿の姿を探すと、彼も驚いたような表情を浮かべていた。


彼は慌てている私に気づくと足音も立てずに私の元にたどり着いた。

「……どうして、あの方たちが?」

「どうしてって……ステラの本を読んで速攻君に会いに来たんだと思うよ。ただ、俺がここ最近の日程を教えるの忘れていたから突撃してきたんだとおもう」

「でも、どうして今日ここに?」

「あー、うちの人間が話したかも……」

「それにしても、どこから招待状を用意したのかしら」

「たぶん、君のお兄さんじゃないかな?」

「兄上?」

「君のお兄さんの奥さんは誰?」

「……兄上のお嫁さんが元王女様だったこと忘れていたわ」

ため息をつく私に婚約者殿は面白そうに笑っていた。



会場の視線が男爵令嬢から逸れると会場内は元の雰囲気に戻り始めた。

婚約者殿は私を引き連れて先ほど入場された方達の元に向かった。


向かう途中にちらりと男爵令嬢とその取り巻きを見ると取り巻き達はぽかーんとした表情をし、男爵令嬢は顔が真っ赤だった。

思わず笑みがこぼれた私に婚約者殿がくすくす笑っている。

「ほんの短い時間でも会場中の注目を浴びれたんだから彼女たちにとっては良かったんじゃない?」

「それにしてもいつまでも入り口付近にたむろっているのかしら。他の方の邪魔になるとわかってないのかしら」

「どうだろうね。常に彼女はこの世は私が中心なのよ!発言していたから気づいていないんじゃないかい?ついでにいえば、彼女の毒牙に掛かった取り巻き達もね」



「ステラ!レンツォ!どこにいたの?」

私達に気づいたあの方たちは満面の笑みを浮かべて私たちを近くに呼び寄せた。

「ご無沙汰しております。バラッティ大公様、大公夫人」

「ほんと、久しぶりね。それよりも、他人行儀はやめて頂戴っていつも言っているでしょ。私たちのことはお義父様、お義母様って呼んでって」

「しかし」

「よ・ん・で」

「は、はい。お義父様、お義母様」

にこやかなのに逆らえない笑顔を浮かべるバラッティ大公夫人に思わず言ってしまった。

「うんうん、ステラは我が家のかわいいお嫁さんなんだからな。わしらに遠慮することはない」

いえ、まだ嫁ではありません。婚約者ですと思わず言いそうになって婚約者殿に止められた。


「そ、それよりも、確か来訪されるのは来月の予定では……」

お二人がこの国を訪れるのは来月の王家主催の園遊会だったはず。

ちなみに今日は王妃様のご実家である侯爵家主催の舞踏会です。

「ふふ、王妃様から面白い本を頂いてね。読み終わった後に感想を語り合っていたら丸一日話していたのよ。それでも語り尽くせなくて一層のこと予定を繰り上げようってことになって来ちゃったの!あ、国の方は息子に任せて来たから私たちがいなくても大丈夫よ」

「わしらもそろそろ引退を考えておるから、息子にとってもいい経験になるだろう。まあ、もう一人の息子がなかなか国に帰ってこないから負担は大きいだろうけどな」

ふぉふぉふぉと笑っている大公様に婚約者殿は苦笑いをしていた。


話を要約すると『紫陽花のみる夢』と『白百合のためいき』を読んだ大公f……お義母様が早く私に感想を直接言いたくて、親友である我が国の王妃様に「義娘の新作面白かったでしょ?夜通し語らない?」と連絡したら王妃様も「ぜひ!私も早く語り合いたいわ~」と即刻今日のパーティーの招待状を送ったという。

兄夫婦は無関係でした。


大公夫妻と話している途中で私の両親も加わった。

母と大公f……お義母様は新作についてキャッキャ言いながら盛り上がっている。

次第にその盛り上がりは周りの人を巻き込んでいくのはなぜでしょう……


父と大公……お義父様は政治の話をしつつこちらもまた新作について語っていた。

そしてその輪がどんどん広がっていくのは……本当なぜなんでしょう。


ふたつの輪から抜け出した私に婚約者殿はダンスを申し込んできた。

「踊っていれば話しかけられることはないだろ?」

という意見に賛同してクタクタになるまでダンスホールで踊り続けたのだった。


休憩している時にシャルロットから意外な情報がもたらされた。

『白百合のためいき』が発売されてから急激に求婚者が増えたというのだ。

求婚者の中には『紫陽花の君』に傾倒していた者もいたとか。

『白百合のためいき』が出るまでは散々貶していたのに変わり身が早いのねとチクチクといじっては楽しんでいるというので、私からは何も言うまい。

なぜならチクチクといじくっている時のシャルロットが生き生きとしていたから。

彼女のいじくりに耐え抜いた方がきっと彼女の隣りに並ぶだろうというのが私たち周囲の予想。


***


さて、最終報告をしましょう。

男爵令嬢御一行様はその後、社交の場に現れても誰にも相手にされず、次第に姿を現すことがなくなった。

男爵令嬢は子爵令息と婚姻を結ぶも、令嬢の浪費に子爵家は耐えられずあちこちに借金をしているとか。

離縁をしたくても『紫陽花のみる夢』が彼女がモデルだと知れ渡っている(わざと情報を流した)ため離縁は難しいらしい。

ある日、子爵夫妻が息子夫婦を離縁させたいと愚痴っていたいう噂を聞きつけた王妃様が『あら、真実の愛で結ばれたのに離縁なさるの?薄っぺらい真実の愛だこと』とサロンでポロリと零したためにあっという間に社交界……主に女性の情報網に流れたのだ。

シャルロットと婚約破棄する時に『真実の愛』を連呼していたからね。

そして、誰からも見向きをされなくなった御一行様(驚くことに数名令嬢の信者がまだいた)は事実上社交界から追放されたのだった。

社交界を追放されてからの彼女たちの行方は一切情報が入ってこないのでわかりません。



シャルロットは母国では結婚はしないと宣言し、私の婚約者の国へ移住した。

最初は留学という形をとっていたのだが、私の婚姻の日が正式に決まると

「ステラはこちらの国に移住ってことでしょ?なら私こちらに移住しますわ。母国の男には魅力を感じませんもの」

と母国から追いかけてきた求婚者からのアプローチを片っ端から粉砕して私と共に婚約者殿の国に移住したのだった。

そこで、シャルロットは私の婚約者レンツォの従兄フィルミーノと出会い、ゆっくりと愛を育んで実らせた。


シャルロットとフィルミーノの物語(ただし恋物語とは言い難い)は女性に絶大な人気を博した。

え?もちろん、私が書きました。

最初、口喧嘩ばかりしていた彼女たちがくっつくとは予想していなかったので、婚約したと聞いた時はびっくりした。

一体彼女たちがどうやって婚約にたどり着いたのか話を両方から聞いて、こういう愛もあるのね~と書き綴ったものを婚約祝いに物語にして贈ったのだ。

お二人だけに渡すはずだった物語は、大公夫人の目に留まり、あっという間に一般市民向けに出版されてしまった。(多少内容は変えてある)

止められなかった事を謝る私にシャルロットたちは苦笑いをしながらも『大公夫人が相手ではね』と出版阻止を諦めていた。


今では国一番のおしどり夫婦と言われるシャルロットたちである。


私?

私は平穏に旦那様となったレンツォと仲良く暮らしております。

執筆活動は以前ほど行っていません。


子供たちの成長記録を付けているくらいかしら?

そうね、子供たちがそれぞれ独立した時、この成長記録を元に物語をプレゼントするのもいいかもしれませんね。




いろいろとツッコミたいことはあるだろうけど、勢いだけで書き上げたのでご勘弁を( ̄人 ̄)


本当はもっと長くなる予定だったけど、バッサリと切ってしまった[PC]ヾ(ーー;)

主人公カップルの話とか……まあ、それは追々神様が降りてきたら書くことにしますヾ(--;)ぉぃ




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