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特別な日
作:奈哉


これは、8月が始まったばかりのある日の出来事。珍しくないいつもの日常の1ページの筈だった。しかし、この日が新一と蘭にとってとても大切な日になった。





「はい・・・分かりました。お待ちしてます」
いつもの如く新一は、高木から呼び出しをうけた。今回もちょっとした『難事件』らしい。
「よりによって今日もかよ・・・あと3時間で帰ってこれっかなー」
普段ならば嬉しそうに出掛けるのだが、今日ばかりは違った。今夜、蘭と共に夏祭りに行く約束をしているのだ。時間は今から3時間後の午後5時。引き受けなければ、良い話。だが、探偵の本能が行きたがっていて、その顔を見た蘭に後押しされ、急いで出てきたというわけだ。





午後4時30分・・・
日本警察の救生主、平成のシャーロック・ホームズ、迷宮なしの名探偵、とまでうたわれる工藤新一の推理力をもってでも中々糸口の見付からない事件だった。
「(くそっ犯人の目的はなんなんだ!?)」
新一から殺気めいたオーラが出ているのに周囲の刑事達は、気付いていた。それ以前に気付いかない者はいるのか?という程濃いオーラを発していた。勿論、蘭絡みだと言っていないが、バレバレだ。
「(容疑者の一致しない話・・・見付からない凶器・・・誰が嘘をついている?・・・ん?まさか!)」
ある事に気付いた新一が、走りだして行く。
5分後、戻ってきた彼の手には凶器と思われる血まみれのナイフがあった。
「目暮警部、凶器見付かりましたよ。もしかしたら、指紋があるかもしれませんね。でも・・・」
新一は目暮に凶器の刃物を渡し、3人の容疑者達にちらっと視線を投げ掛ける。どうやら真犯人がもう分かったようだ。
「ん?でも・・・なんだね、工藤君」
「恥ずかしながら、今まで真犯人が分からなかったんですが、やっと分かりましたよ。この事件の犯人が。貴方ですよね!?」





「いやー工藤君。本当に助かったよ」
いつもの如く背をバシバシと叩かれつつ、にこやかに目暮と会話する新一だったが、内心ヒヤヒヤであった。現在刻、午後4時45分すぎ。間に合わなそうである。
「では、僕はこれで失礼します」
「おぉ。高木君、工藤君を送ってあげたまえ」
「はい、分かりました」
高木に送ってもらえると分かり、ほっとするが、ピンチなのは変わりない。





午後5時。新一と蘭が待ち合わせをしている、米花公園噴水前。
「新一、早く来ないかな・・・」
蘭は、鮮やかなピンク色の浴衣に身を包み、新一を待っているのだが、同じように彼女を待っている男共の視線を集めていた。まぁ、蘭の様な美人が立っているのだから、視線が集まるのは仕方ないのだが、彼氏としては面白くない。
「・・・蘭ッ!」
「新一・・・!」
蘭は、新一の姿を見つけた途端、花が咲いたような笑顔を見せる。その顔で彼氏がいるのを見たにも関わらず、男共は鼻のしたを伸ばし、みいる。勿論新一は、そんな輩をギロリと睨みつけたが。
「今日は、間に合ったんだね!」
今日は、を妙に強調する蘭にちょっと機嫌を悪くしつつも、今までの後ろめたさもある為か、苦笑い程度にしておく。
「俺だっていつも遅刻するわけじゃねーよ」
「そう?今まで殆ど時間通りに来なかったじゃない。現に今日も少し遅れてるし。今までに比べたら、可愛いものだけど」
そう悪戯っぽく笑われてしまったら、最早返す言葉などない。
「悪かったよ。じゃあ、行くか?」
「うん!」
恭しく右腕を蘭に差し出すと、その新一の腕に蘭は飛び付いた。少し頬を赤く染めて。その様子がとても可愛らしく、新一の心臓は少しだけ鼓動のスピードをあげた。





「わー相変わらず賑やかだね!」
「・・・そうだな」
人混みが好きではない、新一にとっては、ちゃんとだけ嫌な所。でも、蘭が隣にいるだけで好きな所に変わってしまうのだから、重症だ。
「・・・金魚ってなかなか取れないよね」
金魚すくいにチャレンジした蘭の一言である。良い所だったのに、するりと逃げられた。
「そんなに、欲しいのか?金魚」
「そんなんじゃないけど、金魚がいたら、新一いなくても寂しくないかなーって思って」
そうわざと明るくいう蘭の瞳に陰が差しているのに、新一が気付かないわけもなく。蘭を寂しくさせているのは、紛れもなく自分自身なのだから。
「・・・しゃーねーな」
「えっ・・・?」
新一は料金を払い、ポイとお椀を受け取り、にっと笑って蘭に尋ねる。
「何匹欲しい?」
「え、えと・・・」
「早く」
そう言いながら、新一はひょいっと金魚をすくう。その鮮やかな手捌きと女優の母親譲りの整った顔に注目が集まる。
「さ、3匹!」
「了解」
短く答え、さっさと残り2匹をすくう。そして、ポイはまだ大丈夫そうだが、これで!と差し出す。うっかり、新一にみとれていた露店商は慌ててその金魚達を袋に入れる。
「蘭。ほら」
「あ、ありがとう・・・」
側で新一の手捌きを見ていた蘭は、感心しきっていた。
「ねぇ、新一。・・・金魚すくい慣れてない?」
「ん?いや、1・2回しかやった事ねーよ」
「嘘っ」
「嘘じゃねーって」
びっくりして思わず叫んだ蘭に苦笑する。
「だって慣れた人!って感じがしたもの!」
「んなこと言われたってそんなにやった事ねーよ。もう行くぞ?」
と新一が立ち上がると野次馬達が一斉に離れていった。勿論、新一は気配で群がっていることは気付いていたが、その人の多さに驚いていた。





「新一、早くー」
「花火は逃げないって。それに、蘭。走ると転ぶぞ?」
「大丈夫よ・・・きゃあっっ!!」
大丈夫と言っているそばから蘭の体がぐらりと揺れた。その瞬間、新一が今までにない物凄い速さで動き、蘭を支える。
「・・・言ってるそばから転ぶなよ・・・心臓止まるかと思った・・・足とかくじいてないか?」
「う、うん」
「本当か?」
新一は、曖昧に頷く蘭に不安を覚え、再度聞きなおしつつ、自らの目で足を確認する。
「大丈夫そーだな。じゃ、行くか」
「うん」
蘭の答えが先程曖昧だったのは、近くにある新一の顔にドキドキしてしまったから。遠くの出店から、照らされる新一の顔がとても綺麗で格好良くて、儚げな心配顔に見惚れてしまったのだ。





「綺麗・・・」
「そうだな」
感嘆する蘭に、短く答える新一。蘭が見ているのは、お目当ての花火だが、新一が見ているのは、蘭だった。本当に嬉しそうに花火を見る蘭。その顔が見れただけで、一緒に祭りに来た甲斐があったというもの。
「ねぇ、新一?」
「ん?」
急に新一の方を蘭が向いたので、
自分も今、振り向きました!
という顔で、返事をする。勿論、『ん?』を返事と考えるのなら、だが。
「・・・来年もまた一緒に来ようね?」
「蘭・・・」
幼き頃からずっと一緒に来ていた、この祭り。小学6年までは両親たちと来ていたが、中学1年からは友人たちと来ていて、高校1年の時は、2人だけで来ていた。
去年は新一として来る事が出来なかったが、コナンとしてはいた。でも、蘭にとってコナンと新一は同一人物であるが、違う人間でもある。蘭が望むのは、勿論新一と、である。
「当たり前だろ?今までもちゃんと来てたんだし、これから来なくなるなんてないね」
新一は、不安がっている蘭を元気付けるようにわざと明るく言った。
「そうだよ、ね。違う大学行っても来れるよね?」
今までずっと同じ学校に通ってきた2人だが、志望校が別な為、来春からは学校が変わる。今までみたいに会えなくなるから、蘭は不安だったのだ。
「あぁ。それに・・・」
蘭の問いを肯定した後、新一が何か続けようとしたのだが、新一らしくなく口ごもる。
「それに、何?」
この沈黙が嫌で蘭が先をせかす。意を決したように新一が何かを取り出す。それは小さな箱だった。
「何、それ?」
「・・・開けてみな」
新一から箱を受け取り、蘭がそっと開けてみるとそこには・・・

「ゆび、わ・・・?」

箱の大きさから大体は予想出来たが、箱の中には真ん中にダイヤモンドをあしらい、そのダイヤモンドを引き立てるように2人の誕生石であるエメラルドがついていた。シンプルだが、センスのあるリングである。
「エンゲージリング。受け取ってくれないかな・・・?」
「エンゲージリングって・・・」
蘭が目を見開く。
エンゲージリング=婚約指輪。
「高校卒業したら、いやいつでも良い。俺、蘭以外考えられねーんだ」
「嘘・・・」
夜でも分かる真っ赤な新一の顔。いつもならば、そらされているこの顔が今は蘭を真剣な目で見ていた。嘘じゃないと分かってはいたが、驚きで出た言葉だった。
「嘘じゃ、こんなこといわないさ」
苦笑して、一呼吸おいて新一が話出す。
「これからも蘭に心配かけるだろうし、探偵なんて仕事だから、休みも不定期で蘭が必要とする時にいてやれないかもしれない。でも、俺は。我が儘だろうけど、俺の帰る場所が今までもこれからも、蘭であって欲しい」
「・・・私は、ただ待つことしか出来ないの?」
蘭はうつ向いたまま、静かに口をはさむ。
「そうじゃない。今まで蘭が待っててくれたから頑張れた。蘭がいてくれるから、俺は頑張れるんだ。だから、だからな。俺と結婚して欲しい。これからもずっと側にいて欲しい」
結婚して欲しい。新一が言ったその時、目に涙をいっぱい溜めた蘭が顔をあげる。
「い、いや・・・か?」
やはり、新一らしくなく不安そうに聞く。
「違うの!・・・凄く嬉しくて・・・」
蘭は、自分で涙を拭い、新一が大好きな笑顔で幸せいっぱの顔をして言った。
「新一が嫌って言ってもずっと側にいるから・・・新一の隣を私に下さい」
そう言い切って新一に抱きつく。新一はその蘭を抱き締めながら、蘭の耳元で囁く。
「バーロ・・・俺が嫌なんて言うわけないだろ」





この一週間後、小五郎と英理に挨拶に行った新一が『蘭をもう泣かさない』と約束させられたのは言うまでもないが、目にゴミが入った云々で涙を溜めた蘭を見ただけで、小五郎にどやされるようになったのは、ここだけのお話。


そうそう、あの金魚だが毛利家ではなく、工藤邸で飼われることになった。名前は・・・皆様の御想像にお任せしよう。


朝に読まれている方、おはようございます。
昼に読まれている方、こんにちは。
夜に読まれている方、こんばんは。
下手くそ作家、奈哉です。

この夏、私は人生で最も避けられない『受験』の夏となりました。
現在連載中の『天使が悪魔に恋をした』ですが、この夏中に最低2話更新したかったのですが、どうやら1話が精一杯そうです。
次話更新後は、来れそうにありません。それだけは、御了承下さいませ。


更新遅くなり、申し訳ないですが、それも2月までです。推薦で受かって帰って参ります。

では。













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