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降下する五芒星

虚空の主

作者:小倉蛇
Pentagram Falling 1.
"The Dweller in the Void"
 君島克与(きみしまかつよ)はスズキ・ジムニーで山道を下り、春山教授を見つけた。
 教授も君島を見つけ軽く手を振った。
「いやあ、すみませんね。こんな山奥でお待たせしちゃって」
「いいんだよ。何しろタクシーがここから先へは行けないというんだからね」
「ええ、道がひどいですから、四駆じゃないと、とても」
 君島は教授の荷物を受け取ると、荷台に積みドアを開けた。
 助手席で教授がシ-トベルトを締めたのを確認すると、車を出した。
「で、遠いのかね、その泥目遺跡というのは?」
「まあ、三十分もあれば着きます」
 泥目遺跡――それは、この人里離れた山中で突如おこった地滑りの結果、新たに発見された遺跡で、周辺の地名を取ってそう呼ばれている。
 地元の大学が予備調査を行ったところ、縄文中期のもと思われる土器や土偶が発掘された。そこで東京からその筋の権威である春山茂弘教授が呼ばれたのである。
 君島は、春山の助手を務める大学院生で、多忙な教授より一足先に現地入りして調査チームと合流していたのだ。
「それで、どういうことなんだね君島君」と教授は尋ねた。「土器が消えたというのは?」
「ええ、そのことなんですが……、当初、いくつか土器の破片が発見された後、完全な形の土器が見つかったんです。それは今までに見たことのない形のものでした。全体に樽のような形状で上の部分が火焔土器のような飾りがついていました」
「ふむ、それならメールで送ってもらった写真を見たが……それが?」
「それが、消えてしまったんです」
「消えたというのは、どういうことなんだね」
「他に言いようがないんですよ。その土器は保管用のケースに入れてあったんですが、今朝になってみるとなくなっていたんですから」
「誰かが持ち出したということではないのかね?」
「発掘チームのメンバーは皆、信用できる人ですし、こんな山奥じゃあ外部の人間が侵入するってこともまずないでしょう。それでも一応おたがいに荷物の中身をチェックしたり、周辺を細かく調べたりもしたんですが、何も……」
「動物が咥えていったなんてことはないだろうね」
「いやあ、保管用のケースは簡単に開けられるものじゃないですから」
「では、ほかに何か変わったことは?」
「そうですね、あ、そう言えば皆、発掘が始まってから、やたらと白い蝶を見かけるって」
「白い蝶?」
「ええ、ぼくも何度か見ましたけど。モンシロチョウなんかともちがって、真っ白な小さな蝶なんですけど。地元の人もあんな蝶は見たことないって。まあ蛾じゃないかって説もあるんですが」
「止まってる時に翅を閉じていれば蝶、開いていれば蛾だよ」
「はあ、止まってるところは見なかったな」
「しかし、それと土器の消失と関係あるのかね?」
「いや、そりゃあないでしょうけど」
「それにしても、ひどい道だな」激しい振動に耐えながら教授は言った。「本当にこの道であってるのかね?」
「ええ、一本道ですから間違うはずは……、あれ、でも、おかしいな……行き止まりだ」と、君島は車を止めた。
「行き止まりって、キミ……」
 前方は大木が並んだ森林で、とても車で進める状態ではなかった。
「おかしいな……」
 君島は車を降りて周囲を見回した。あたりは雑草の茂みに覆われていて、いつの間にか道を外れて走行していたようだ。
「すみません、引き返しましょう」
 と、運転席に戻りかけた時、君島は森の奥で何かが木洩れ日を受けてきらきらと光っているのを目に止めた。
「教授、見てください、あれ。あの蝶です」
 春山も車を降りて、君島の指差す先を見た。
 そこには、無数の鱗翅目が群れを成して飛び回っているのだった。
「あれは……、行ってみよう」
 春山教授は茂みをかき分けるようにして森へと近づいて行った。君島も後をついて行く。
「見たまえ、君島君」
 蝶の群れの近くまで来て教授は地面を指差した。
「何です?」
「岩が、輪を描くよう配置されている。環状列石だ」
「えっ、じゃあここも遺跡なんでしょうか」
「それはわからんよ。最近並べられたものかもしれんし」
 そこにある岩は、さほど大きくはないものが十数個で直径十メートルほどの円を描いていた。
 蝶の群れはちょうどその円の中央あたりに集まっているのだった。
「しかし、この蝶の飛び方……不思議だな。なんだか幾何学的に飛んでるように見える」
「ふむ、確かに。これは不自然だぞ」
 蝶たちは、刻々と形を変えながらも、その都度、十字や円弧を複雑に組み合わせた布置で飛翔していた。
「まるでマンデルブロ集合だ」
 君島はつぶやいた。
「おい、こっちへ来るぞ」
「えっ、わっ」
 白い蝶の集団が移動し始めたかと思うと、あっという間に二人を取り囲んだ。
 蝶は二人の周囲を円を描いて飛びつづけ、次第に速度を上げていった。それとともにあたりには光の粒のようなものが散乱し始めた。
「すごいスピードだ」
「この光ってるのは何だ。鱗粉かな」
「いや、蝶が、蝶が分解して、光の粒子に……!」
「そんなばかな……。いかん目が回る」
 それはもはや鱗翅目の外見をとどめず、光の矢と化して猛スピード旋回していた。
 君島と春山は、二人とも光の回転に幻惑され、茫然としていた。
 するといきなり二人の身体は一方向へ引き寄せられる感覚があった。
「わっ」
「ああっ!」
 いつの間にか環状列石の中心に暗黒の穴が口を開けていた。
 まるでブラックホールのようなその暗がりへ、二人は回転する光の矢とともに吸い込まれていった。


「君島君、しっかりしたまえ、君島君!」
 肩をゆすられ、呼びかける春山教授の声で君島は意識を取り戻した。
「ん……、あ、教授……ここは……?」
 君島は頭がぼんやりしたままあたりを見渡した。
「な、何なんだ、ここは!」
 彼の視線の先には驚異的な世界が広がっていた。
 地面は、半ば埋め込まれた巨大な生物の骨のようなものによる凹凸がどこまでもつづいていて、その上を溶けたガラス状の物質が覆っていた。空には厚い灰色の雲が渦巻いていて、ところどころ朧な燐光が明滅していた。遠い雷鳴のような轟きが聞こえ、生暖かい風が吹きつけていた。
「まるで別の惑星に飛ばされて来てしまったようだな」
 教授が言った。
「べ、別の惑星って、そんなバカな」
「うむ、しかし呼吸はできるし、重力も地球と変わらん」
「じゃあ、どこなんですかここは?」
「そんなことはわからんよ。星が見えれば手がかりになるんだが」
「この空じゃ無理ですね」
 君島は曇天の空を見上げて言った。
「ここでじっとしていてもはじまらん、移動してみよう」
「えっ、ちょっ、どこへ……」
 君島は歩き出した教授の後をついて行った。
 異様な生物の骨が無数に埋め込まれた大地のガラス状の表面は、踏む度に泥のように足のからみついた。
「見たまえ、君島君」
 教授が指差したのは、地面に半ば埋もれている巨大な人間の頭蓋骨だった。その大きさは普通の人間の五倍はあった。
「あれが頭部だとすると、かなりな巨人ですね」
 周囲には通常のサイズの類人猿を思わせる骨も散らばっていた。よく見ると中には明らかに現代人のものである骨格も混じっていた。
「ああ、ぼくらも白骨になるまでこの世界をさまようんでしょうか」
「バカなことを言うんじゃないよ君」
「しかし、どうしていきなりこんな世界に……」
「ふむ、原因はあの蝶だろうな」
「蝶……ですか」
「あの蝶は遺跡の発掘とともに現れたと言ったね」
「ええ、地元の人も見たことがないって」
「では、やはり発端は遺跡の発掘か。それがあの蝶を呼び出した……。それに不可解な土器の消失もある」
「土器が消えたこととも関係が!?」
「そう考えるのが妥当だろう」
 教授は腕を組んで考え込むポーズをとった。
「あっ、あれは」と、君島は前方を指差した。
 そこには黒い物体が存在していた。樽型の胴体の上部に百合の花びらのような飾りがついていた。
「あの形は……!」
「どうかしたかね?」
「あの形、あの消えた土器とそっくりですよ」
「あれが縄文土器だというのかね。ずいぶん大きいようじゃないか」
「ええ、大きさはともかく、形が」
「ふむ、言われてみれば似てるな。近づいてみよう」
 二人はその縄文土器に似た何かのほうへ足を進めた。
「全長二メートルといったところか」
 数メートルまで接近したところで教授が言った。
「あっ、今、動いたような……。もしかしてこれ、生き物なんじゃ……」と、君島は思わず後ずさった。
「どうしたんだね君島君。まさか取って食われることもあるまい」
「いやいや、こんな世界じゃどんな化け物がいるか知れたもんじゃないでしょう」
「君はそれでも学者か。未知のものへの探求心がないのか?」
「教授こそ命知らずもいいとこですよ。こんな化け物に近づくなんて」
 君島は教授の腕を引いて黒い物体から遠ざけようとした。
 その時、二人の脳裏に声が響いた。
――聞ケ、人間タチヨ!
「な、何だ!?」
「君も聞いたかね、君島君」
「ええ。“聞ケ、人間タチヨ”とか」
「どうやらテレパシーのようだ」
「テレパシー……」
――恐レル必要ハナイ、ツイテ来ナサイ。
 そう告げると黒い樽型の存在は、百合の花びらのような器官を揺らしながら、ナメクジが這うように動き出し、斜面を滑るように見る見る遠ざかって行った。
「ど、どうしましょう、教授」
「行ってみよう。言葉が通じるなら野蛮なものではあるまい」
「いや、言葉の通じる殺人鬼だっていますって」
「では、君はここにいたまえ」
 そう言って教授が怪物の去った方向へ歩き出したので、君島も慌ててその後を追った。
 しばらく進むと黒い怪物は、洞窟のような穴ぐらへと入っていくのが見えた。
「あんなところへ……、やっぱりやめましょう教授」
「今さら何を言っとるんだ君島君」
「今なら逃げられそうですよ」
「逃げると言ったって君……」
「とにかく離れましょう」
「いや無駄なようだ、見たまえ」
 教授は君島の背後に目を向けて言った。
「えっ」振り返った君島は、そこにさらに四体の黒い樽型の怪物が彼らを取り囲むように迫ってきているのを目にした。「わっ、いつの間に」
――恐レルコトハナイ、進ミナサイ。
 テレパシーが命じた。
 二人は追い立てられるように洞窟の中へと入っていった。
 そこはクジラのような巨大な生物の肋骨の内部で、表面は半透明のガラス状の物質で覆われていた。ガラスの壁自体が微かに発光していて洞窟の中でも明かるかった。
 前方に、先に入った黒い怪物が待っていた。
 春山と君島が足を止めると、すぐ後ろから四体の怪物が来て、二人は周りを囲まれた。五体の怪物はそれぞれ百合状の器官を動かしたり、胴体の各部を脈打たせたりしていた。
「きょ、教授ぅ」
 君島は震えながら春山にしがみついた。
 怪物たちは百合状の器官から細長い触手を何本も伸ばして揺らめかした。
 すると、二人の足元にいくつかの小さな物体が出現した。
「あっ、これは、消えた縄文土器!」
 そこに現れたのは、樽型の黒い怪物をミニチュア化したような縄文土器だった。他に水煙土器や遮光器土偶などもあった。
「うむ、見たこともない土器もあるな。いずれも縄文中期のもののようだが」
 春山が未発見の土器をしげしげと観察していると、再度テレパシーが響いた。
――聞ケ、人間タチ。
 君島と春山は顔を見合わせ、目の前の怪物に視線を向けた。
――コレラノ土器ハ、オ前タチガ作ッタモノダナ。
 怪物は触手を指差すように土器のほうに向けて言った。
「い、いや、われわれと言うか、われわれの遠い祖先が作ったんだが」
 春山は説明した。
――ソレハワカッテイル。ダガ、オ前タチニモ、土器ニツイテノ知識ハアルナ。
「ああ、われわれは考古学者だからな。土器の研究もしている」
――デハ、同ジモノヲ作レルナ。
「作るって、いや、そう簡単には……」
――ワレワレハ、コノ種ノ土器ヲ、早急ニ必要トシテイルノダ。ワレワレニ協力シテホシイ。
「協力……と、言われてもな……」
 春山は君島の顔を見た。
「ここは一体どこなんだ? お前たちは何者なんだ?」
 と君島は尋ねた。
――デハ、ワレワレノコトヲ説明シヨウ。ココハ、時ノハザマ、えあぽけっとノヨウナ、異次元空間ダ。
「異次元……」
――ワレワレハ、君タチノ言葉デハ“フルキモノ”アルイハ“イニシエノモノ”ナドト呼バレル存在デアル。
「古きものって、あの……」
「ミスカトニック大学の探検隊が遭遇したという記録があるな」
――ソウ、ワレワレノ存在ハ、一部ノ人間タチニハ知ラレテイル。ワレワレガコノ地球ニヤッテキタノハ、モウ十億年以上前モ昔ノコト。見ルガイイ、ワレラノ記憶ヲ。
 〈古きもの〉がそう告げると、二人の脳内に圧縮されたイメージの奔流が一気に送り込まれてきた。
 古生代の地球、ロディニア超大陸。生命はまだ海中に微生物がいるのみである。そこへ〈古きもの〉たちが膜のような翼を広げて飛来した。かれらは超能力を用い、独自の文明を築き上げた。最盛期の巨大都市では、生命の創造すら行うことができた。だが、異形の神々との戦争、さらに奴隷種族の反乱を経たことで、都市は崩壊、わずかに生き残った〈古きもの〉たちは離散し、時の放浪者となっていたのだ。
 春山と君島は、短時間のうちに〈古きもの〉の歴史を学習していた。
――ワレワレニハ、イマダ多クノ敵ガイル。敵ト戦ウタメニ精神えねるぎーヲ貯エル必要ガアルノダ。
「しかし、それと縄文土器とどんな関係が?」
 と春山教授。
――ソンナコトモワカランノカ。縄文土器ハ、精神えねるぎー貯蔵庫トシテトテモ優レテイルノダ。
「ああ、それでぼくらに土器を作れと」
 と君島。
――ソノトオリダ。材料ト道具ハ用意シテアル。
 二人は〈古きもの〉に導かれて洞窟の奥へと進んだ。
 そこには人間のサイズに合わせたテーブルと椅子があり、粘土と工具類が載せられていた。
――土器ガ完成シタラ、モトノ世界ヘ帰シテヤル。
 そう言い残し、黒い怪物は姿を消した。
「ど、どうしましょう、教授」
「うむ、土器を作れば帰すと言ってるんだ、とりあえず従うしかあるまい」
 そこは洞窟の一番奥の行き止まりで他に道はなかった。
 二人は仕方なく席に着いた。
 テーブルの中央に粘土が山になっていた。教授が糸を使って塊を二人分切り分けた。
「しかし、こんなところで粘土細工をやらされることになるとは……」
 君島は粘土をこねながらぼやいた。
「われわれも伊達に長いこと縄文土器の研究をしてるわけじゃないんだ。ここはひとつ、かれらも驚くような品を作ってやろうじゃないか」
 と、春山教授はやる気を出して言った。
 二人は土器製作に没頭した。
 粘土が土器らしい形になってきた頃、教授は君島の作品を見て言った。
「それは何だね。君には縄文的な感性が欠けてるようだね。そりゃまるで埴輪だよ。それにしてもおかしいがね。言うなればピカソが作った埴輪だな」
「いやあ、それほどでも……」
「うん、褒めてるわけじゃないんだ」
「はあ、しかしお言葉ですが教授が作ってるそれは……頭の吹っ飛んだオバQってとこですよ」
「失礼な君島君、オバQとは何だ、オバQとは!」
 二人がそんなことを言っていると、そこへ〈古きもの〉たちが近づいてくる気配があった。
「かれらが来ますよ」
「うむ、これを見せるしかあるまい」
 五体の〈古きもの〉が二人いるテーブルを取り囲んだ。かれらは百合の花弁状の器官をゆらめかせて、二人には聞こえない会話を交わしているようだった。
 やがて、テレパシーが語りかけてきた。
――オ前タチハ、スッカリ縄文ノ精神ヲ失ッテシマッタナ!
 さらに別の個体らも言い出した。
――マッタク、科学文明ニ毒サレキッテオル……。
――役立タズノ猿ドモメ!
「なんか酷い言われようですね……」
「土器がこの出来ではな、仕方なかろう」
――!!!
 その時、二人の脳裏に今までとは別種の緊迫した波動が響いた。それは言葉にならない警告の知らせだった。
〈古きもの〉たちが一斉にざわめきだした。百合状の器官をうごめかしながら、巨体を右往左往させた。
――何事ダ!?
――ココヲ奴ラニ嗅ギ付ケラレマシタ!
――大変ダ!
――間モナク来マス! スグデス!
――脱出シナケレバ。
――コノ人間ドモハドウスルノダ?
――足手マトイダ。送リ返セ。
 そんなやり取りがあって、春山と君島の身体は旋回する光の粒子に包まれた。光が矢のように回転を速めるにつれて、二人の意識は遠のいていく感覚があった。
 その間にも〈古きもの〉たちのテレパシーが飛び交っていた。
――間ニ合ワナイゾ!
――来タ、奴ラダ!
 身体が消え去りつつある二人が最後に目にしたのは、「テケリ=リ! テケリ=リ!」と叫びながら流れ込んできた灰緑色のゼリー状の物体に飲み込まれる〈古きもの〉の姿だった。


「う、うーん」
 かすかな頭痛を感じながら君島は目を覚ました。
 彼は森の中に倒れていた。すぐとなりには春山教授が気絶して横たわっていた。
 少し離れたところに、ジムニーの銀色の車体が見えた。
 身体を起こすと目の前をひらひらと一匹の小さな白い蝶が飛んでいた。その姿はやがて森の奥へと消えていった。
 彼は教授の肩をゆすった。
「教授、起きて下さい。教授」
 春山も目を覚ました。
「おお、君島君……、どうやら無事に戻れたようだな」
「ええ」
 春山は立ち上がりあたりを見回した。
「ここには確か環状列石のようなものがあったはずだが」
「あっ、そう言えば、失くなってますね」
 君島は地面を調べたが、岩のようなものがあった痕跡すら見つけられなかった。
「あれは幻覚だったのだろうか……?」
「幻覚って……、ぼくらは確かにあの、異次元世界で〈古きもの〉にあって土器を……」
「それはわかっている。しかし……」
 それきり教授は黙り込んでしまった。
 二人は車に乗りこみ、遺跡への道を辿り始めた。
 しばらくして君島は尋ねた。
「いったいどう報告すればいいんでしょうね?」
「報告などせんよ」
 教授は答えた。
「えっ、しないんですか?」
「ああ、君も学者なら非科学的な発言は慎んだほうがいいよ」
「で、でも、現実にぼくらは……」
「現実と言ったって君、異次元の出来事だよ。そんな報告をしたって、キャリアに傷がつくというものだ」
「ええ、教授がそうおっしゃるのなら……」
 車は無事に泥目遺跡へと到着した。二人は車を降りた。
 調査チームのメンバーらは発掘現場に集まってさかんに議論をしているようだった。
 春山と君島が近づいていくと学生の一人が言った。
「また、新たな土器が出土したんです。しかし、どうも妙な形で……」
「見てみよう」
 人々の輪を割って入り、二人は出土したばかりの土器を見た。
「あっ、こ、これは!」
 それは紛れもなくあの、ピカソ風の埴輪と頭の吹っ飛んだオバQなのだった。


 それから五日後、君島克与は遺跡付近の山中で、左足を切断され、肝臓を抜き取られた死体で発見された。
予告
第二話「湖底に潜むもの」
――タコですよ、タコ! 大ダコです!
公開中

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