巡りて叫べ!(2分、二人称)
これは誰もが通る道。生きとし生けるもの、その全てが……
貴方は覚えていらっしゃいませんか、見知らぬ場所で横たわっていたことを。
その好ましくない匂いが、貴方をそこはかとない不安に導いたことを。
(……ここは何処?)
思い出しませんか。ここは乳白色に彩られた空間。一様に並ぶのは貴方と同族。
(わたしは一体…… 誰?)
思い出せないでしょう。思い出せないでしょう。
何故ならそのとき貴方は、一切の記憶を無くしていました。
現在に至るまでの過去が脳裏から消滅しているのです。周りを見渡しても、全ての物に関する記憶が欠落しているのです。
(何、何なの?)
怖いですか。名前すら覚えてないことが。
(分からない、分からない)
引き出そうとしても、努力という名のエネルギーは、ことごとく霧消しますよ。
(えっ、何で、わたし!?)
気づきましたか。裸になっている自分に。
(うぁ、ああぁ!?)
逃げるのですか。一糸まとわぬその姿で。どこにも行けませんよ。精一杯、身体に力を込めても、その意志を肉体が受けることはないのです。
(あぁ、ああぁ……?)
ね、動けないでしょう。
(ああ‥ああぁ!?)
ふふ、縛られてるわけではありませんよ。
(分からない! 力の入れ方が、起き上がり方が分からない!?)
おや、貴方にお迎えが来たようですね。立派な体格をした男性です。女性もいますね。
ほら男性の方が、貴方の顔を覗き込んで来ましたよ。
(こ、この人は誰? 嫌だ。近づかないで、あっちへ行って!)
駄目ですよ。声も、いえ言葉の発し方も、覚えていないでしょう?
(嫌だ、来ないで! 何で、何で動かない、どうすればいい。やめ‥お願い! うあああ‥あぁ、ぎゃぁ――!!)
ふふ、そうですよ、貴方が最初に覚えたのは、呻くこと。
そして大声で泣き叫ぶこと。
そのことで貴方は、新たな自分の存在を知るのです。
*****
『ほ〜ら、パパでちゅよ〜 元気かな〜』
『馬鹿ね〜、まだ分からないわよ』
『おぎゃあ! ぎゃあー!!』
ふふふ…… さあ新しい世界へ、いってらしゃい。
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