懐古の扉(超短編集)(9/12)PDFで表示縦書き表示RDF


懐古の扉(超短編集)
作:弥生 祐



巡りて叫べ!(2分、二人称)


 
 これは誰もが通る道。生きとし生けるもの、その全てが……

 貴方は覚えていらっしゃいませんか、見知らぬ場所で横たわっていたことを。

 その好ましくない匂いが、貴方をそこはかとない不安に導いたことを。

(……ここは何処?)

 思い出しませんか。ここは乳白色に彩られた空間。一様に並ぶのは貴方と同族。

(わたしは一体…… 誰?)

 思い出せないでしょう。思い出せないでしょう。

 何故ならそのとき貴方は、一切の記憶を無くしていました。

 現在に至るまでの過去が脳裏から消滅しているのです。周りを見渡しても、全ての物に関する記憶が欠落しているのです。

(何、何なの?)

 怖いですか。名前すら覚えてないことが。

(分からない、分からない)

 引き出そうとしても、努力という名のエネルギーは、ことごとく霧消しますよ。

(えっ、何で、わたし!?)

 気づきましたか。裸になっている自分に。

(うぁ、ああぁ!?)

 逃げるのですか。一糸まとわぬその姿で。どこにも行けませんよ。精一杯、身体に力を込めても、その意志を肉体が受けることはないのです。

(あぁ、ああぁ……?)

 ね、動けないでしょう。

(ああ‥ああぁ!?)

 ふふ、縛られてるわけではありませんよ。

(分からない! 力の入れ方が、起き上がり方が分からない!?)

 おや、貴方にお迎えが来たようですね。立派な体格をした男性です。女性もいますね。

 ほら男性の方が、貴方の顔を覗き込んで来ましたよ。

(こ、この人は誰? 嫌だ。近づかないで、あっちへ行って!)

 駄目ですよ。声も、いえ言葉の発し方も、覚えていないでしょう?

(嫌だ、来ないで! 何で、何で動かない、どうすればいい。やめ‥お願い! うあああ‥あぁ、ぎゃぁ――!!)

 ふふ、そうですよ、貴方が最初に覚えたのは、呻くこと。
 
 そして大声で泣き叫ぶこと。

 そのことで貴方は、新たな自分の存在を知るのです。


*****


『ほ〜ら、パパでちゅよ〜 元気かな〜』

『馬鹿ね〜、まだ分からないわよ』

『おぎゃあ! ぎゃあー!!』


 ふふふ…… さあ新しい世界へ、いってらしゃい。


今作は春野 天使先生が主催した二人称作品に参加した作品になります。











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