懐古の扉(超短編集)(4/12)PDFで表示縦書き表示RDF


懐古の扉(超短編集)
作:弥生 祐



ある作家の休日(3分、その他)



 デパート最上階にある、少し洒落たレストラン。いつものように窓際の席で、祐子は外を眺めていた。

『相席しても良いですかな?』

 祐子が振りかえると微笑みを(たた)えた老人紳士が、向かい席の傍に立っていた。

『ええ‥どうぞ』

 そう言いながら祐子は店内を見渡したが、他に空いてる席がある。承諾しながらも祐子は不可解に思った。

『この年になると奥の席は遠くての』

 相変わらず笑みを絶やさないで答える老人。しかし祐子の目には足腰がしっかりして映る。

『(他に何か理由があるのかしら?)』

 祐子は新鋭の小説家だった。日曜ともなれば、こうして窓の外を眺めながら、いつも小説のストーリーを想像している。

 老人がウエイターを呼んでメニューを読み上げた。その量たるや成人男子と、ほとんど変わらない。

『もう食べることだけが趣味でしてな』

 丁寧に折り目をつけられたスーツを着こなす老人は、そう明るく答えて食べ始めた。

『(……刑事さん。ううん、年齢からすると定年だし、探偵かしら?)』

 手前にあるアイスティーを飲みながら、祐子は老人の一挙一頭を観察した。

『そこのボーイさん、ワインを持ってきてくれんかの?』

 店内は昼時を迎えたようで混雑してきている。少し遅れてウエイターがワインを持ってきた。

 それなりに高価そうなワインをグラスに注ぐと、老人は祐子にも薦めた。

『いえ、結構です』

『まあまあ、そう言わんと、一人で飲むのも何ですから』

 仕方なく一杯を頂くことにした祐子は、その想像豊かな頭で思考を巡らせた。

『(どこかのお金持ちの人かな? でもそれならもっと高級そうな店に行くはずだし……)』

 老人はワイン一本を軽々と空けると、満足そうに上品な口ひげを揺らした。

『こんな老いぼれに付き合って下さって、ありがとうございました』

『こちらこそ…… ごちそうさまでした』

 丁寧に頭を下げてきた老人は、そのまま自分の勘定書きと祐子のものまで手を伸ばしてきた。

『せっかくですじゃ、ここは払わせてくだされ』

 勿論、断ろうとした祐子だったが、優しく真摯な老人の迫力に押され、好意に甘えることにした。

『(そうね。きっと奥さんを先立たれて、寂しい生活を送る人なんだわ)』

 そう結論づけて祐子は席を立ち、店を後にすることにした。

『はあ〜、やっぱり小説に使えそうな面白いネタは、そうそう無いわよね』

 エレベーターの前で自嘲気味に呟く。

 そんな祐子の目に颯爽としたフットワークで階段を降りていく、先ほどの老人の姿が入った。

 そして耳に店の方からウエイターの大声が。

『食い逃げだ―!』

 これは小説に使えるだろうか、と、また頭を祐子はひねった。



一度、何を思ったか推理ジャンルで公開、すぐに違う!と思い直し、削除した作品です(汗)











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう