懐古の扉(超短編集)(2/12)PDFで表示縦書き表示RDF


懐古の扉(超短編集)
作:弥生 祐



不死者(3分、文学?)


 
 ――雑多に賑わう大通り。行き交う人々は私に気づくと、同情や嫌悪といった感情を瞳の色に浮かべる。

 幾重にも刻まれたしわと、私の痩せこけた風貌が幽鬼さながらの印象を与えるのだろう。

 浮浪者。乞食。敗残者。負け犬……

 呼び方などはどうでも良かった、私は死ぬことだけを望み生きていた。この数十年の間で、己の命を捨てようとしたことが何度あったことか。時だけは無情にも味方になってしまっている。すでに何歳だったか覚えてもいない。

『ハアァ……』

 深い溜め息は後悔という二文字から紡ぎ出された吐息で、私は間断無く沈んだままの感情を表現する他の(すべ)を知らない。

 かっては永遠の生命を望み、長く過酷な冒険の末に断崖の洞窟で不老不死の妙薬を手にしたものだが。いや、だからこそか、今の私が過去を振り返ってばかりいるのも。

 誰でもいい。聞いて貰えるだろうか。そして教えてくれないだろうか。  

 私がどうすればよかったのかを。
 
 平和な生活など嫌だった。小さな町で生まれ育った私は、成人を迎える頃には同世代の仲間のような、地道に働いて、結婚して、子供を作るなんて平凡な一生は送りたくないと考えていた。

 そんな退屈な生活なんかより、広い世界に飛び出して生きたいと思っていた。だからそうした。一獲千金を夢見て、トレジャーハンターという冒険家になった。

 幾つかの冒険を果たした私は、ある洞窟に不老不死の妙薬が隠されているという話を聞いた。手に入れたものには、不幸が訪れるというよくある噂と共にだ。


 噂は信じなかった。すでにトレジャーハンターとして、それなりの世界的名声を得ていた当時の私は、何事にも冷静かつ沈着な性格だから平気だと、自分を奢っていたのかもしれない。

 失敗という二文字とは無縁だと思っていたのだ。

 今にして振り返るとあの選択自体が罠だったのだろう。

 不老不死の洞窟の最深部、幾つもの危険なトラップをくぐり抜けた私は、ついにお宝の前に辿りついた。

【不老と不死を求める者。汝、選択を誤るなかれ……】


 そんなことが刻まれた台座には二つの薬があった。


 恐らくどちらか片方が本物に違いない。そう考えてどちらの薬を取ろうかと、私が思案を巡らせた時だった。

 薬に触れてもいないのに、床下が抜けるトラップが突然作動して、私は咄嗟に片方の薬に手を伸ばした。

 眼下に広がる無数の剣山に串刺しになる直前、私は不老不死になることを信じて、薬を飲み干した。
私の感は当たったと思った。何故なら全身を鋭い突起物で突き刺されても、私は死ななかったからだ。

 そして、それから数百年の時が流れ、現在に到っている。

 どんなに肉体が老いて、朽ち果てても、立ちあがることも出来なくなっても、冥界の扉は私をいざなってはくれない姿で。

 どうして私はあの時、不死の方では無く、不老の方を取らなかったのだろう? そうすればこうして無為に過去ばかりを振り返ることもないかと思うのだ。

 だから誰か教えて欲しい。やはり私の選択は誤っていたのかどうか。

 頼むから教えて欲しい。私の人生はどこから間違ったのかを。






今作は公開中の短編、【不老・不死】のプロトタイプみたいなものです。
見比べてみますと人称から描写の濃さから、違いが丸分かりかも?











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