懐古の扉(超短編集)(11/12)PDFで表示縦書き表示RDF


B’zの同タイトル曲『もうかりまっか』の歌詞をモチーフにしたブラックコメディーのつもりで書いた作品です。
懐古の扉(超短編集)
作:弥生 祐



もうかりまっか(3分、詞小説)


 蒸し暑く寝苦しい夜には、決まって生暖かい風が入ってくる。

 今夜の風も同じだ。ベッドに仰向(あおむ)けになって見る天井の染みは、薄いようでいて、深く、黒ずんでいて、僕を奈落の世界へ導く夢魔の使いに見える。

《ブウゥ……ン》

 冷蔵庫のモーター音がやけに大きく聞こえた。

 大丈夫、眠くない。今日は平気だ。今日こそ(まぶた)は閉じない。閉じなければ見ることは無い。

 不意に誰もいない筈の部屋に、自分以外の気配を感じた。

 僕は布団を引き寄せくるまった。

 徐々に(ぬく)もりが(からだ)を支配していく。

(行かなければ良かったんだ)

 心地良い熱に(うなが)され、全身から力が抜けてくる。

(駄目だ、寝ちゃ、いけ、な……)

 けれど先月の旅行から持ち帰った疲労は、僕の明確な意思に逆らった。

(駄‥目……だ……)

 結局、僕は母親に抱きつく赤ん坊のように身を固くさせ、連夜続いている恐怖の夢世界に転がっていった。

 彼等は僕が張った見えないバリアを、いとも簡単に突破、あるいは無視してくる。
 常に、常に、常に……!

『もうかりまっか?』
 無遠慮に中年の男が声をかけてきた。

(……やっぱり)
 分かってはいたが、これで何度目だろう。

『もうかりまっか〜?』
 こいつは別の奴だ。

『もうかりまっか?』
(…………)
 
 僕は(うつむ)き黙り、足早にこの場を離れようとした。
 やはり一夜目に調子に乗って、ぼちぼちでんな〜、とか、あきまへんわ、とか、答えたのがいけなかったのだ。

『だははははははっ!』

 い、いきなり大きな笑い声がした。
 見ると怪しい豹の柄で全身をコーディネイトした、中年のおばはんが僕の肩を叩こうとしている。
それを避けようとした僕は、いつの間にか大勢の人に囲まれていることに気がついた。

(な、何なんだよ)
 戸惑う僕に構わず、一斉に笑い声を浴びせてくる。

『わははははーー!』
『クスクスクス……』
『ぎゃはは、ぎゃは!』
『ププッ……』

(な、だから何なんだよ)
 しかし僕の訴えはまるで効かず、連呼する響きは、まとわりついてきた。

(やめろよ、やめろ! 何がそんなにおかしいんだよ!)
 
 僕は呪縛をはねのけようと大声で叫んだ。

『まあまあ、こんなときゃ好きなよ〜に、やらしてくれる可愛い女に会いたいね〜』

 はあっ? 意味が分からない。いや、きっと意味など無いに違いない。この街には不条理な法則、僕を相容れさせない力が働いているのだ。とにかく逃げなくては。とにかくここから逃げなくては。

 だが、景色を群集に染めた人たちから、どうやって逃げればいい。
『もうかりまっか〜?』
(だから唐突に入ってくるな!)

『祐ちゃん、どう思う〜?』
(僕は祐ちゃんじゃない!)

『笑いが止まりまへんわ〜』
(止めようとしてないじゃないか!)

 心臓が痛い、張り裂けそうだ。 なのになのに彼等は密着してくる!
『しゃあないやんけ、とりあえず裏のお好みで、本日も朝まで行きましょか〜』
(嫌だ! 絶‥対に、嫌だ!)
 前後左右を(ふさ)がれ、もう口でしか拒絶することが出来ない。

『もうかりまっか?』
(やめろ!)
 担がれて、空を飛ぶ。

『もうかりまっか?』
(やめてくれ!)
僕の目に有名な、あの川が映った。

『もうかりまっか?』
(う、うわあぁーー!!)
 そして僕は、かのケン○ッキーのおじさんのように、泥臭さが待つ川へと投げ出された。

《ガバッ‥!》

 身を起こした僕は部屋を見渡した。

『はあ、はあ……』

 慣れたカーテンを見つけて、息を落ち着かせようとする。先月の旅行から帰って、間もなく始まったこの悪夢。今夜も何とか現実世界に戻ってこれたらしい。

 安堵の息を吐いた僕は気がつかなかった。

 カーテンの陰に隠れた、食い倒れ人形が薄笑いを浮かべていることを……


なろう短編として公開した当時はコメディーと思ってもらえず、ホラーじゃないの? との批評を受けた作品でした(苦笑)

ええと関西(大阪)にお住まいの方、あくまで勝手なイメージですので怒らないで下さいねm(__)m











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう