vol.3 明奈の過去 ※番外編
翔に恋をした明奈ですが、実は彼女には暗い過去がありました。vol.5で、告白を思いとどまろうとする原因が描かれています。
私の本来書きたい作風とは、ずれてしまっているので番外編とさせていただきました。
中学2年生の秋…
明奈には付き合っている彼氏がいた。
学校祭で、同じ大道具係を務めたのをきっかけに話すようになり、学校祭終了後に彼に告白された。
大道具係のリーダーとして、若干強引に皆を引っ張る部分もあったが、力仕事を手伝ってくれるなど、優しい印象だったので明奈も付き合うことを承諾したのだ。
男らしいと評判の彼は、女子にも人気で、明奈を羨ましがる者もいた。
…きっと付き合っていくうちに好きになるだろう。
だが、付き合ってすぐに、彼は自分には合わないと感じた。
*
「なあ、お前ってさ…」
「その、『お前』って言うのやめてくれる? 私苦手なんだ…」
「はあ、女って『お前』って呼ばれたら普通喜ぶもんじゃないの?」
*
「俺、カバン持ってやるよ。」
「大丈夫。私、持てるから。」
「はあ、俺が持ってやるって言ってるんだから、大人しく持たせろ。かわいくねぇやつ。」
*
「明奈、プリント俺の分も持ってこいよ」
「なにそれ!?そんな言い方するんだったら、自分で持ってきて!」
「チッ、面倒くせぇ。」
*
支配欲の強い彼は、明奈には合わなかった。付き合っていくうちに好きになるというのは、もはや、あり得なかった。
そのため、放課後の教室で彼とその友達が
『「なあ、明奈とはまだなのか?」
「ああ、まだだけど、近いうちに上手いこと言って家に呼んでみるよ。アイツ、ガード堅そうだけ ど、家に入れちゃえばこっちのもんだろ。」』
という会話をしていたのを偶然聞いた日、明奈は彼にきっぱりと別れを告げた。
明奈はあんな彼と付き合ってしまった自分が憎く悔しかった。
その日、明奈は自分の部屋で涙を流していた。
すると、玄関のドアが開く音がする。父親が帰ってきたようだ。
普段、父親は家族に説教することはない…が、褒めることもない。明奈がどんな進路を選んでも文句は言わない…が、応援もしてくれない。…要するに、家族に無関心なのだ。
小さいころからそうだったので、明奈は、父親に干渉されなくてラッキーと気楽に考えていた。
それに、母親と弟とは、非常に仲が良いのでそれで良かった。
しかし、時々、ストレスがたまると家族を下僕のように扱ったり、自分にとって都合の悪いことは何でも家族のせいにしたりするので、それは耐えられなかった。反論すれば、ここは俺の家だ、気に入らないなら出てけと威張り散らす…
…今日はその“時々”の日だったらしく、すぐに低い怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、今日使う会議資料がなかったんだ。お前がなくしたんだろう!」
母親を責めているらしい。…いつも、そうだ。自分の非はすべて母親に押しつける。
だが、母親は父親の部屋に入ることを許されておらず、部屋には鍵がかかっているので仕事に使うものをなくすなどあり得ない。
矛盾があっても何でもとにかく人のせい…。
彼とのことで心が傷ついていた明奈は、運悪く父親の悪癖に遭遇してしまい、ますます涙が止まらなくなってしまった。
(男なんて最低…どうして父親の性格悪いの見てわかってて彼氏なんて作っちゃったんだろう、バカみたい…)
(私は一生恋愛も結婚もしない…)
明奈は友達と母親と弟がいて、趣味の時間さえあればそれで幸せだった。
あの日以来、カップルを羨ましがることも、「彼氏ほしい」「結婚したい」の言葉に共感することもなかったし、男性に不信感を抱くことはあっても恋愛感情を抱くことは決してなかった。
長瀬翔に出会うまでは…