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vol.15-diary10 キミの弟

明奈が初めて翔の家に来たときのエピソードです。

「ごめんね。わざわざ、弟のために。」


「ううん、いいよ。翔の家族に会ってみたいし。」


今日は明奈が翔の家に遊びに来たのだった。







5日前のこと…


翔と小学3年生の弟、優也は茶の間でポケモンカードゲームをしていた。


「あーあ、また負けちゃった。」


「もーう、翔お兄ちゃん弱すぎ! つまんない。」


今まで数え切れないほどカードゲームをしている2人だが、今まで翔が勝ったことは数えるほどしかない。本日5連勝した優也は飽き飽きした顔をしている。


「ごめんごめん…今度はもっと強くなるから。」


「いっつもそればっかり。もう翔お兄ちゃんと対戦するの飽きた。」


そう言った優也だったが当然何かをひらめいたようだ。


「そうだ!翔お兄ちゃんのカノジョってポケモン好きなんでしょ。ポケモンカードゲームも出来る?」


「うん、確か少し持ってたよ。」


「じゃあ、今度お家に連れて来てよ。僕、翔お兄ちゃんのカノジョ見てみたい。それで、カードゲームもしたい。」


「えーっ、そんな…気を使わせちゃうよ。」


翔はあまり乗り気じゃないようだ。


その時、台所で晩ご飯を準備していた母親が口を開いた。


「私も明奈ちゃんに会ってみたいな~。翔と付き合いたいなんて言う優しくてボランティア精神の強い子がどんな子か見てみたいもん。大丈夫。明奈ちゃんには、あんまり気を使わせないようにするから。」


「母さん…。…う~ん、じゃあ聞くだけ聞いてみるよ。明奈が嫌そうな顔したらすぐ諦めるからね。」







…明奈は翔の頼みを快諾してくれたのだった。


明奈を迎えに行き、自宅まで案内する翔。無事にたどり着くと玄関の扉を開けた。


「さあ、入って。」


「おじゃまします。」


明奈は玄関に足を踏み入れる。すると、すぐに優也が飛び出してきた。


「こんにちは!」


「こんにちは、優也君。」


「こっちだよ。」


翔と優也は明奈をリビングに案内する。


「こんにちは…」


挨拶する明奈だったがリビングには誰もいなかった。翔から父親と母親もいると聞いていたのだが…。


これには翔も驚いたようだった。


「あれ? 優也、お母さんとお父さんは?」


「…僕知らないよ。さっきまで部屋で宿題してたもん。」


「そっか…。きっと散歩にでも行ったのかも。うちの親、よく2人で散歩とか買い物とか行くんだよね。」


…“あまり気を使わせないようにする”って言ってたし…と、翔は思った。


「さあ、適当に座って。今お菓子持ってくるから。」


「ありがとう。私も持ってきたから先に開けておくね。」


そうして、明奈と翔と優也は、お菓子を食べながらおしゃべりを始めた。







そんな3人の姿を隣の部屋のドアを少しだけ開けてこっそりのぞいている人物がいた。


翔の両親だ。


「ねぇ、お父さん…何かすごく悪いことをしてる気分なんだけど…」


「ここはロケット団になったと思って…。これが明奈ちゃんに気を使わせない究極の方法だと思うんだ。」


「そうかしら…それにしても明奈ちゃんってとってもかわいい子ね。」


「ああ、翔にはもったいない気がするよ。あんなかわいい子を恋人にするなんて、翔なかなかやるな~」







約束通り、明奈は優也とポケモンカードゲームを始める。


明奈はカードを持ってはいたものの対戦ルールは知らなかった。しかし、翔と優也が教えるとすぐに理解し、最初から優也と互角に戦っている。


「明奈お姉ちゃん、すごーい。翔お兄ちゃん、今でもたまにルール間違えるんだよ。」


そう言う優也に明奈はクスクス笑う。


「ちょっと優也。あんまりお兄ちゃんの悪口言わないでよ~。」


たしなめる翔だったが、


「悪口じゃないもーん。」


すぐに優也に反論されてしまった。


そうして、3人は楽しく笑い合って過ごした。




カードゲームは明奈も優也も同数勝って終わった。


「明奈ちゃんありがとう。楽しかったよ。」


「どういたしまして。優也君、私のカード少しあげるね。」


そう言って、明奈がカードを手渡す。


「ありがとう! 本当にカードもらっていいの!?」


「うん、いいよ…」




その時、隣の部屋では翔の母親が慌てて立ちあがっていた。


「優也ったら、明奈ちゃんからカードをもらったみたい。私からもお礼言わなきゃ。」


「でも、隠れてた意味が…」


そう言って父親が、ドアを開けかけた母親を止めようとしたが、反対に勢い余ってドアを思いっきり開いてしまった。


翔と優也、そして明奈の視線が同時に降りかかる。


「あっ、パパとママだっ!」


「えっ、散歩に行ってたんじゃなかったの?」


「こっ…こんにちは…」


明奈は慌てて両親にあいさつした。


「「明奈ちゃん…ようこそ…。」」


両親も恥ずかしそうな声で明奈にあいさつした。




それから、翔と明奈は翔の部屋で、優也と両親はリビングで過ごすことになった。


「明奈…変なとこ見せてごめんね。」


「いえいえ、私に気を使っていただいたみたいで…翔の家族って面白いね。」


「うん、結構仲良い方だと思うよ。」




優也は両親と過ごしながらも、翔の部屋のある2階をずっと気にしている。


そんな姿を見て、両親は顔を見合せて笑った。




「それでは、おじゃましました。」


明奈が帰る時間になった。


「明奈ちゃんまた遊びに来てね。」


「遠慮しないで来てほしいな。」


翔の母親と父親が温かく言った。


その時、翔の隣にいた優也が、笑顔で明奈の目の前に来た。


「どうしたの?優也君。」


「ねえ、僕、明奈ちゃんと結婚したい! 優しいし、一緒に遊んでくれて楽しかったから。大きくなったら、僕と結婚してくれる?」


優也の言葉を聞いて、クスクス笑う両親。でも、翔は戸惑いの表情を見せていた。


「優也! ダメ! そんなの絶対ダメ!」


たかが弟が相手なのに…翔の様子は冷静とは言えない…。


「どうして? だって、カノジョっていうのは、結婚とは違うんでしょ? だから僕が明奈ちゃんと結婚しても良いんだよね?」


「ダメなものはダメなものはダメ! …だって…その…いつかは…」


翔はチラッと明奈の様子をうかがう。


「う~ん、どうしようかな~。翔より優也君の方が賢そうだしな~」


明奈は意地悪な表情をしてそう言った。


「明奈…」


翔が肩を落とすと、玄関に笑い声があふれた。








その夜、翔の母親は優也にこう言った。


「優也は明奈ちゃんと結婚するのは難しいかな~。でも、明奈ちゃんは将来、優也のお姉ちゃんになるかもしれない…」


「ん?」


意味がわからないという顔をしている優也に母親は優しく微笑んだ。



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