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vol.14-diary9 公園デートと帰り道

とある日曜日…


明奈と翔は自然公園に散歩しにきた。


「わ~、久しぶりだな~」


翔が小学生の頃まで良く来ていた場所らしく「久しぶりに行ってみたい」と言って、明奈を案内したのだ。


「へぇ~、翔、いっつもここで遊んでたの?」


「う~ん、時々かな。ほら、ちょっと遠かったでしょ?」


確かに翔の家からこの自然公園までは歩いて30分ちょっとかかった。しかし、公園の周りはイチョウの木で囲まれており、中央には噴水がある。そして、色とりどりの花の植え込みや新緑の芝生がとても美しい。30分以上歩いて来る価値はある。


「秋になるとね、木がイチョウでいっぱいになって、地面もイチョウのじゅうたんになって、もっときれいな景色になるんだ。」


「そうなんだ。じゃあ、秋にも絶対来ようね!」


「もちろん。」


そんなことを話しながら公園内を歩いていると、明奈が突然子ども用の遊具に飛び乗った。


「これ、懐かしい~。翔もこういうので遊ばなかった?」


「うん、遊んだよ。僕も乗ってみよう。」


2人の乗ったヒヨコの乗り物は、下部のスプリングで揺れる仕組みになっている。子ども用の遊具に大人が揺らしているわけなので揺れは大きくなる。それは2人を楽しませるのに十分だった…。


「翔、これ結構面白いね~。」


「なんか童心に帰るね~。」


その時、母親と手をつないだ7歳ぐらいの男の子が通りかかる。そして、翔と明奈を見てこう言ってのけた。


「…ねえ、お母さん、あの人たち、バカだね。」


男の子の母親は「そんなこと言っちゃダメでしょ。」と小声で言って、足早に息子と共に去って行った。


男の子の声は、翔と明奈の耳にも入り、慌てて遊具から飛び降りた。そして、小声でボソボソと話し出す。


「明奈、僕たち本当にバカだったね…」


「でも、あんなにはっきり言わなくたって…(;_:)」


「子どもは正直だからね…」




* * *




公園のベンチでゆっくり休んだ翔と明奈は、翔の家の方面へ戻ることにした。


ところが、歩けば歩くほど、元来た道とは全く違う風景になる。


「あれ、翔、何か変じゃない?」


「ごめん…来たの10年ぶりくらいだったから、迷っちゃったかも…、いや、迷いました…。ごめんね…。」


「アハハ、やっぱり、迷っちゃったんだ♪ でも、いいよ。近道探して帰ろう。時間あるんだし、ゆっくり帰ろうよ。」


どうやら、もう20分くらい違う方向へと歩いていたらしい。翔と明奈は近くの個人店で地域マップを手に入れ、すぐに近道を見つけることが出来た。その道に沿ってゆっくり歩く。


「なんか、こういうのも良いね。」


「うん。知らない道を一緒に歩いてみるのも楽しいよね。…迷った僕が言うのも難だけど。」


「ううん、私だって気付かなかったわけだし…。」


その時、目の前に小さなログハウスが見えてきた。


「ねぇ、明奈あれ見て。何かオシャレだね。」


「うん。あっ、見て。ここ喫茶店みたいだよ。」


明奈がログハウスの入り口にある看板を指して言う。


「せっかくだから寄って行こうか。」


「そうだね!」


翔と明奈は喫茶店の中に入る。


「いらっしゃい。」


お店の中に入ると、優しそうな老夫婦が出迎えてくれた。店内の小さなイスやテーブルも木でできており、壁やカウンターには、蔦で作ったリースのようなものや木彫りのかわいらしい動物が飾ってある。


翔と明奈は席に着くとそれぞれケーキセットを頼んだ。


「オシャレなお店だね。」


「そうだね。」


翔がうなずくと、お婆さんがやってきて、お皿いっぱいのクッキーをテーブルに置いた。


「かわいいカップルさん、サービスだよ。」


「「ありがとうございます!」」


お婆さんの笑顔を見て、翔と明奈も自然と笑顔になる。「かわいいカップル」なんて言われてのは恥ずかしかったけれど…。


お婆さんはカウンター内に戻ると、オーブンから焼きたてのガトーショコラを取り出した。お爺さんがそれを受取ってナイフで切り分ける。夫婦2人で寄り添って仲睦まじい様子であった。


翔と明奈はその様子を見ていた。


「明奈、あの夫婦仲良しなんだね。」


「うん、あっちこそかわいいカップルだよね。」


その時、今度はお爺さんがケーキセットを持ってきてくれた。


「お待たせ。ゆっくりしてお行き。」


「「ありがとうございます。いただきます!」」


クッキーもガトーショコラも、とってもおいしかった。




日が傾きだした頃、翔と明奈は喫茶店を後にした。


「ありがとう。」


「また近くを通ったら来ておくれ。」


老夫婦が温かく見送る中、2人はゆっくり歩き出した。


夕暮れの道を手をつないで歩く二人。


「ねえ、明奈、あのお店に行けて良かったね。」


「うん、あの老夫婦、本当に仲良しなんだね。」


「クッキーもケーキもおいしかったし、いろんな意味で温かかったし。」


「なんか道に迷って本当に良かった。」


明奈がそう言って笑うと、翔がそっと口を開く。


「ねえ…、僕たちもあんな風に…」


しかし、そこで口を閉ざした。…こういうことは軽々しく口にしてはいけない…


「あんな風に…何?」


明奈が続きを求める。


「…えっと、僕たちもあんな風に今度一緒にお菓子作らない?」


「良いね♪ じゃあ、次会うときはウチでお菓子作ろうよ。」


心もつないだ手も温かい翔と明奈だった…。




…僕たちもあんな風に、お爺ちゃん、お婆ちゃんになっても、ずっと仲良く暮らそうね…

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