第八十二部〜ラプソディーと前奏曲〜
第八十二部〜ラプソディーと前奏曲〜
どんなに主観的に見れば重大な事でも客観的に見れば案外どうでもよく見える、それでも何所までも主観的に見てしまうのは人間・・・いや心があるからでしょうか?
「おはようございます先輩、ご飯ください」
「ん、おはようさん」
何時もの朝、何時もの食事、そこには変わらない平穏があります。
この世界の食事ってわりと和食っぽいんですよね、味付けも薄めだし舌に合います。先輩が作っているからかもしれませんけど。
このお城、みんな朝が弱いです、お化けだからだろうけど、朝の食堂って昼に比べるとそれほど混んでないように見えます。
「先輩ご機嫌ですね」
「んー、やっぱこの時が落ち着くんだよ」
先輩は慣れた手つきで料理を始めます、確かに一番落ち着いていますよね。
先輩はお休みが入ると決まって何かします、いえ起こします。まぁ、それは先輩の見の振りのせいでもあるんですけど・・・それ以外もあるんですよね。
「ところでさ、香山さん何時まで先輩って呼ぶつもりなんだ?」
「は?」
「俺らもう学校無いんだぞ?そりゃ年は俺が上だけどさ・・」
確かに学校は無いし年下でも後輩と言うわけではないんですよね、先輩って言うのもおかしいかな?
「伊吹さん、のほうが良いんですか?それとも名前とか?私は構いませんけど」
試しに伊吹さんって呼んでみると先輩は難しい顔をしてます。ほら、言われたら違和感が出てくる、私はどっちでも良いんですけどね。
「・・・やっぱ先輩で」
「了解です、それよりご飯まだですか?」
先輩がこうやってのんびりしている間にも世界は回り続ける、先輩の周りの人も自分の考えを持って動き始める。
当然の事ですけど考えると不思議な気分、けど目の前にしたらちょっとだけ世界に不満を持ってしまう・・・・最近は特に。
二週間に一、二回、普段は使われることの無い場所でそれを感じる事が起きている、これは先輩もこのお城の主も彼女を討伐しようとしていた人も、私の世界出身の殆どの人も知らない事実です。
私がこの世界で始めて出た場所、地下のあの暗い部屋でそれは起きてます。
今日もそれがある日、夜に長谷川先輩が寝たのを確認すると部屋をこっそり出てそこへ向かう。
「あ、天瀬先輩お疲れ様です」
「や、お互い様ね」
廊下であった先輩も私と同じ、ちょっと疲れた様ですけどその気持ちは分かります。
「これ何時までやるんですかね?」
「・・・さぁ」
全く何時なったら終わるのか、少しだけ憂鬱な気分で私達は会場へと向かいました。
地下室、薄暗い部屋には明かりは蝋燭が一本だけ円卓の中央に置かれています。円卓には何人かの人影が蝋燭を囲むように座り、沈黙を保ち続けています。
私と天瀬先輩もです。
「・・・全員いるようだな、始めるぞ」
誰かが言うと突然、蝋燭の火が大きくなり部屋全体を明るく照らす、部屋全体を見れば座っている人たちの後ろにまた何人もの人が囲んでいました。
「これよりキュマリ委員会より!!第17回伊吹会議を行う!!」
後ろから歓声があがります、何でこんなにハイテンションなんですか。
『伊吹会議』
これは何時まで経っても鈍臭い先輩の様子に痺れを切らした城の人たちの集まり、彼らは何とか先輩にきっかけを作ってやろうとしている集団です。因みにキュマリはこっちでお節介と言う意味らしいです、当てはまってます。
もっとも、私と天瀬先輩は巻き込まれただけですけど。
「まず来週の小僧についてだが・・・」
司会をしているのはそう、ケンさんです。この人がなぜかリーダーなんですよね。
幽霊の一人が一メートルほどの紙を持ってきて空中で開きます。
「来週は七日中三日間休みがありま〜す、因みにその間の予定は全くありませ〜ん」
事務室から持ってきた勤務表ですね、プライバシー無しです。
「んでもって現在の状況だが・・・」
「お待ちかね〜♪」
別の幽霊が今度は別の紙を広げます、今度はこう書かれています。
『オッズ表
エレン様 1.20倍
勇者 1.30倍
坂下雪野 1.34倍
長谷川彩花 1.41倍
独身貴族 4.62倍
??? 10.0倍』
これを見てみんな悩みます、はい、そうなんです。
先輩賭けの対象になってます。
まだ王都のほうに気軽に行けない人たちって周りの物に刺激を求めてたら丁度言い対象がいたんですよね、それでそのうち先輩の恋愛に興味津々な人たちがさらに集まってこうなったんですよね。
だからちゃんと派閥もあるんですよね〜。
「・・・勝手にして」
坂下雪野派代表 天瀬先輩、「一応親友だからね」だそうです。主に団員は本好きだそうです。
「いや、あたしゃぁ何かあると思うんだけどね」
勇者派代表 食堂の班長、「若い頃を思い出すね」で団員は主に食堂員。
「旦那ぁ、前回とあんまり変わっちゃいねぇぜ」
魔王様代表 シンさん、「やっぱここはあの人だろ」で城の人たちの殆どがこの派閥です。
「どう見たって独身貴族だろ!!てかする!!」
独身貴族派 山口先輩、「漢としてこれは譲れないね!!」で団員はゾンビが多いとかなんとか。
・・・で、私が・・・
「正直どうでもいいです」
長谷川彩花派代表って事になってます、団員は主に幽霊で勝手になってました。
周りの人たちも表を見てざわめきます、すると純粋にギャンブル派のケンさんがざわめきを止めました。
「まぁ、おめぇらの言いたいことも分かる。その前に今回は別の発表があるんだ」
「なんだい旦那?」
「新しい候補が入った、代表は席を外しているがな」
どよめきが起きます、新入りって事ですよね?誰が・・・って最近来たと言えば宰相さんじゃないですか!!口癖が悪いけどまさか・・・
「アリス派のグリムさんだ」
『なんで!?』
皆同意見でした。
「ちなみに団員は本人のみで倍率は100.0倍だ、今ならいらねぇ称号もつくぞ」
「本当にいりませんよ!!」
まったく、あの父親は何を考えているんですか!!連れ帰したいんじゃなかったんですかね!?
第一に年齢差がありすぎます、先輩が相手にするわけ無いでしょうに。
馬鹿です、馬鹿すぎます。異世界だし人外だけあってずれているとは思いましたが自分の娘を対象にするなど呆れた行為です、あ・・・だからかも。
「静かに、静かに〜。で、最近の小僧だがどうも自分の置かれている立場ってのをわかっちゃいねぇ」
それを聞くと回りの何人かがうんうんと頷いています。
「私折角班長を本人の前でエレン様から引き離したのに挨拶だけして終わった〜」
「町にラミアちゃんと買出し行ってって頼んだのに寄り道しないで帰ってきたし・・・」
「彩花ちゃんが折角勤務表狙って調整してるのに気付いてないし・・・」
「図書室で二人きりになってもあいつ寝てるんだぞ、信じられん」
・・・先輩ったらへタレっぷり炸裂してますね、これだけあっても気付いてないんでしょうか?中には抗争まで起こっているのに・・・実際見えないところで各派の団員が喧嘩している事もあるんですよ。
その時、突然ケンさんが円卓を強く叩きました、それに皆驚いて静まり返ります。
ケンさんはわざとらしく手を組んで周りを見ると一呼吸しました。
「だから・・・一発仕掛ける」
ざわめきは起こりません、その代わりに生唾を飲む音が聞えます。
「キュマリ委員会より・・・伊吹大戦を勃発させる!!」
歓声、全く物好きですね。先輩どうなるんだか・・・
「前から疑問に思ってたんですけど10倍って誰ですか?」
「ん?本人が会議を知ってる上に恥ずかしがりやだから隠してたが・・・ありゃミオンだ」
「誰ですかそれ・・・」
「兄貴が戦争で死んで一人ぼっちの所を先代が拾ったんだが間に合わなくてな、そのまま幽霊になってここにいるんだが・・・始めは男友達だが最近は小僧に兄貴を重ねて戸惑っているらしい」
「知るか」
そんな裏設定はどうでもいいです。 |