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青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

2.青薔薇姫は、かく目覚めり

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2-5


 進言をさえぎられたオットー補佐官は、わずかに瞑目してから、隣にたつ野暮な乱入者に厳しい目線を向けた。

「リディ卿、王の謁見に割り込むとは、いささか無作法ではないか? 」

「申し訳ございませぬ。共に遠征に出た見知った顔ばかりであったため、つい、口を挟んでしまいました」

 口だけは恭しく、リディ・サザーランドは謝罪の言葉を述べた。だが、赤みがかった髪から覗く目は、抜け目なくこの場に集うメンバーを見渡していた。一向に引く様子のないリディは、あろうことか、するりと王の前に体を割り込ませた。

「ところで、陛下。まさかとは思いますが、補佐官殿は、ここにいるクロヴィス・クロムウェルと陛下の謁見を望まれたのですか? 」

「そちの推測の通りであるぞ? 」

 王の肯定に、リディは大袈裟なほどに身をのけぞらせた。

「あぁ、なんと嘆かわしい! 血塗られたグラハムの血族を、王の御前になど! 」

「やめないか、リディ卿!! 」

「血塗られた……? 」

 しまった、と思ったときには、遅かった。オットー補佐官の制止も間に合わず、リディはアリシアの間近に身をかがめた。その顔は、これからクロヴィスを貶めることが叶ったことへの愉悦が、醜く浮かんでいた。

「これは、アリシア王女様。どうやら貴方様の教育係殿は、この話をまだ無用と判断されたようだ。しかし、王家にまつわる大事なお話し故、僭越ながらこのリディ・サザーランドめがお話しいたしましょう」

 まるで吟遊詩人にでもなったかのように、芝居がかった仕草でリディは胸に手を当て、口早に、しかし朗々と語りだした。

「時は、先王ヘンリ7世の御世。友好の証として、若き王は、隣国エアルダールの姫君を迎えられた。もちろん、キャサリン王太后様のことでございます」

 知った名前が登場したことで、つい、アリシアは頷いた。体調を崩したために早めに王位を息子に譲った先王ヘンリ7世は、キャサリン王太后を伴い、今は離宮へと身を引いている。距離のため滅多に会うことは叶わずとも、優しくて大好きな祖父母だ。

「さて、キャサリン妃が嫁いできた当時、隣国との関係はかろうじて雪解けと言える程度でした。過激な思想を持つ貴族の中には、キャサリン妃の輿入れを好ましく思わなかった。その筆頭が、そう! そこにいるクロヴィスの祖父、ザック・グラハムだった」

 ぱちりと指を鳴らしてから、リディの指先がまっすぐにクロヴィスに向けられた。クロヴィスはというと、苦痛に耐えるように、じっと口を引き結んでいる。それに恐らく気が付きながら、リディは滑らかに続けた。

「ああ、グラハムのなんと罪深きことか! 彼は隣国エアルダールを憎むあまり、キャサリン妃を亡き者としようと企んだ! 」

「リディ・サザーランド! 」

「やめませんよ、補佐官殿。ここまで話しておいて口を閉ざしては、聡明なるアリシア様に却って失礼というものではありませんか」

 怒りをあらわにするオットーも珍しかったが、それよりもアリシアが気になったのは、クロヴィスの方であった。みるみる青ざめていく青年の姿は痛々しく、先ほどまで彼に感じていた恐怖など嘘のように、アリシアは彼が気がかりであった。

「だが、彼の企みは、実行に移す前に暴かれた。追い詰められたグラハムは、館になだれ込んだ騎士を相手取り、使用人、騎士を問わず死体を積み上げた。ええ、彼は素晴らしき剣の使い手だったそうですよ。すべてが終わったとき、館は鮮血にまみれていました」

 だが、ついにグラハムは死にました。誇りある、騎士たちの手によって。
 にんまりと形の良い唇を釣り上げたリディは、あっさりとそう告げた。

「罪人として当主が死に、グラハム家の栄華は地に落ちました。侯爵をはじめとする数々の爵位が奪われ、実質的に家は滅んだ。しかし、恐ろしいかな。その血は引き継がれ、恥ずかしげもなく陛下の御前に姿を見せているわけです」

 それが、クロヴィス・クロムウェルという男ですよ。

 秘め事を告げるように、リディがそうささやいて話をしめた時、ついに限界を迎えたらしいクロヴィスが踵を返した。かろうじて見て取れた表情は、今にも倒れてしまいそうなほどに蒼白であった。

 その後を、短い礼をとってからロバートが足早に追いかける。オットー補佐官までもが彼を追うわけにはいかず、足を踏みとどめて、乱入者への怒りをあらわにした。

「リディ卿! あなたは、なんてことを!」

「これは、奇異なことを仰る。私は、何も嘘を言っていない。アリシア王女に王家の歴史をお教えしたまでです」

 肩をすくめてとぼけてから、リディは意地悪く目を細めた。

「それと、オットー補佐官。秩序を無視したあなたのやり方は、少々度を越えている。あなたが新規に登用した、補佐官のメンバーはなんですか? 古参貴族の中には、あなたが好んで新参貴族だけを選んでいるという見方すらありますぞ」

「私は、王のお役に立つにふさわしい、有能な人材を選んでいるに過ぎない!」

「わかっていますとも。ジェームズ王の右腕たるあなたが、“秩序を掻きまわして遊んでいるだけ”というわけがないと、私も皆に申しているのですよ」

 ちゃっかりとジェームズ王へのフォローをはさみつつ、それでもリディはオットー補佐官への追及の手を緩めはしなかった。

「ですが、この国の根幹を支えてきたのが誰であったか、それを見失ったまま政治をすすめれば、他の枢密院は黙っておりますまい。そのことを、ゆめゆめお忘れになるな」

 表情をゆがめた筆頭補佐官に、ついに勝ち誇った笑みを向けてから、リディは王に対して無礼を詫びた。心優しく、今のやり取りに胸を痛めているはずの王は、しかしながら黙ってリディの謝罪を受け入れた。

 王としても、ここでオットーに肩入れすれば、筆頭補佐官と他の枢密院メンバーとの対立を深めるばかりである。表情を曇らせながらも、クロヴィスが去っていくのを見守るほかないのだ。

 そんなことは、10歳にアリシアですらわかる。わかってはいるが――。
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