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青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

9.サザーランド家の父子

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 その翌日から、リディは他の枢密院に接触するのを再開した。彼が従者として選んだのは、いつもの通りアルベルトだった。

 アルベルトは、道すがらリディより詰問を受けることになると予想していた。しかし、実際はまったくの逆であった。馬車に乗り込むときも降りるときも、リディはひどく無口であった。

 ほとんど一緒に育ったようなものであるアルベルトには、彼がここまで覇気を失う理由もよくわかった。

“アル、わかるか? ぼくの父上はえらいのだぞ、すごいのだぞ!!”

 小さい頃、彼は大きな瞳をきらきらと輝かせて、よく自慢してきたものだ。年を重ねるにつれ思いやりを忘れ、周囲を見下すようになってしまったリディではあるが、父を誇りに思う気持ちだけはずっと変わらなかった。

 その父が、隣国の間者と通じていた。
 それも、あちらの国の言いなりになるような形で。

 一つ目の屋敷での用事を済ませたのち、アルベルトは予定を変更して、エラム川のほとりに馬車をとめた。御者席をおりて馬車の戸を叩こうとした時、戸が開かれて顔色の悪いリディが顔を出した。

「なぁ、アル。僕にはここが、バーンズ候の屋敷には見えないのだけど」

「少し約束の時間に早かったので、こちらに寄りました。リディ様はエラム川の景色がお好きじゃないですか。小さい頃、王都のお屋敷にくるときは必ず、川へ連れていけとおっしゃいましたよね」

「……どれだけ、昔の話を引っ張り出すんだ」

 てっきり文句のひとつでも言うかと思ったが、体をひきずるようにしてリディは素直に馬車をおりた。その目の下にうっすらと黒く影が差しているのに、アルベルトは気が付いた。

 特に何を話すでもなく、ぼんやりとエラム川を見つめるリディの背中は、いつになく頼りなかった。ほんのちょっと風が吹けば、その場に崩れ落ちてしまうのではないか。そんな不安を使用人が抱いた時、リディがぽつりと声を漏らした。

「父上は、いつからあの男と会っていたのだろうな」

 それは質問ではなく、独り言だった。そのことを十分理解した上で、少し迷ってからアルベルトは首を振って答えた。

「私は王都のお屋敷にくる直前に知ったので、それより前のことはわからないのです。ただ、旦那様が何やら密かに取り組んでおられたことは、屋敷中の使用人がなんとなく察していたことでした」

「そうなのか」

 少しだけ驚いた様子で振り返ったリディに、アルベルトは頷いた。

 実のところ、ロイドが会っている男がどこの誰で誰と通じているのか、アルベルトは詳細を一切知らない。彼がロイドから言われたのは、とある訪問者とリディとが決して引き合わないよう注意を払えという、それだけだった。

 もちろん、ちょくちょく耳に入る会話の内容から、訪問者がエアルダールに関係する人物であることは察していた。

 とはいえ、父の代からサザーランド家に仕えるアルベルトは、使用人としての分をよくわきまえていた。必要以上に事に関わらず、言われた通り、リディと男とが顔を合わさないよう工面した。

 そんな彼でもひとつだけはっきり断言できるのは、ロイドは自分の謀がリディに知られないよう細心の注意を払っていたということだ。

 その理由はロイドが言うように、リディが隠し事に向かないためであったかもしれない。だがアルベルトは、どうもそれだけが理由ではない気がしていた。

「……まぁ、いつからだったにせよ、大差はないだろうよ」

 自嘲気味にリディは笑った。否、笑おうとした。

「父上が僕の意見に耳を貸すわけがない。もっと早くに僕が知っていたなら……。そんな風に思うだけ、無駄なことだな」

 それはちがう。もう少しで出かかった言葉を、アルベルトは飲み込んだ。

 おそらくロイドは己の決心が揺らぐことがないよう、リディには真相を知らせなかったのだ。リディと違って感情を表に出さない人であるからわかりづらくはあるが、かわいい息子にありったけの尊敬の念を向けられて嬉しくない父親はいない。

 クロヴィスに負けて、リディが父を失望させることを恐れたように。
 父親もまた、道を踏み外したことで息子に失望されることを恐れたのだ。

 だが、そこを指摘するのは使用人の分を大きく超えることになる。ゆえに、アルベルトはその考えを口にしない。ただ、もう少し早くリディが真相を知り得たならば、また違った結果であったのだろうかと残念に思うのであった。

「もう行かないか。この川を見ていたら僕は、色々と考えてしまうみたいだ」

「……そうですね」

 かぶりを振ったリディのために、アルベルトは馬車の戸を開けてやろうとした。

 その時であった。

「リディ卿?」

 空駆ける鳥のように澄んだソプラノがその名を呼ぶ。なんとなく聞き覚えがある気がして、そちらを見たアルベルトは目を丸くした。

 以前に会った時はフードを深くかぶっていたが、見間違えようがない。

 ハイルランド王女、アリシア・チェスターがそこにはいた。



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