挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

8.誇り高き、枢密院

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

56/120

8-5



「彼らは、信頼に足る人物です。彼らが私を担ぎ上げ、気ままに振る舞っていると疑うのなら、それは大きな間違いよ。彼らがこの国のために、どれだけ身を粉にして尽くしてくれているか……!」

「わかっています。わかっています、アリシア様」

 ゆっくりと大股に歩みをすすめ、いつの間にか目の前にたったロイドの大きな手が、アリシアの肩に置かれる。優し気に笑みを浮かべる傍ら、まったく笑っていない瞳に王女を映し、彼は口を開いた。

「私はあくまで、そのように不安に思う者もいるでしょうと、警告を鳴らしたのです。なぜなら、あなたが提唱したメリクリウス商会は、あまたある他国の広域商会の中でも、特に隣国のイスト商会に似ている」

 そして、と言葉を切って、ロイドはクロヴィスを手で指示した。

「加えて、こたびの提言を中心的にまとめ上げたのは、こちらにいるクロヴィス卿。彼はたいそう優秀な人間ではありますが、隣国に使節団として派遣された折、エアルダールの体制の在り方にいたく感銘を受けていたと聞いております」

 だんだんと彼が何を言おうとしているのか、アリシアはその先が読めてきた。その嫌な予感は、ありがたくないことにぴたりと的中してしまう。

「隣国の女帝が目指す国家のように、ハイルランドの根本たる領主制についても改革をすべしである。そのような理想が、彼の胸の内にもあるのではないか……。そのように、胸を不安に染める者も、あるいはいるやもしれませぬ」

 今度こそ、大広間の中は騒然とした。

「おいおい、いくらなんでも、それは勘ぐりすぎじゃねえのか?」

 ドレファス長官が呆れたように野太い声をあげたが、その声ですら、他の貴族たちによるざわめきに飲み込まれてしまう。

 実はこの時、そのことについて意見を交わすタイミングこそなかったものの、クロヴィスとナイゼル、二人の補佐官は同じ違和感を抱えていた。

 ロイドの発言は、どう考えても過ぎたものであった。アリシアは幼いとはいえ、王族だ。加えて、この場には父であるジェームズ王も席を並べている。

 王女付き補佐官であるクロヴィスを貶めるということは、その主人であるアリシアを侮辱するのと同義であり、下手をすればジェームズ王の不興を買う恐れがある。

 いくら彼が新商会の設立をよく思っていないにしても、王の怒りに触れてまで足をひっぱるというのは、いささか合理性に欠ける行為である。

 と、二人の補佐官が思案する中、広間をうめる喧噪が不意に終わりを告げた。今まで静観していたジェームズ王が、静かに右手を掲げたためだ。

 王が動いたことにより、たちまち枢密院の貴族たちは口を噤み、敬意をこめて頭を垂れる。それは、すっかり場を支配していたロイドにしても、同じであった。

「ロイドよ」

 アーモンド色の瞳を臣下にむけて、ジェームズ王は穏やかに問いかけた。決して声を張ったわけではないのに、その声は、広間の中によく響いた。

「感心せぬのう。お主ほどの男が、推測のみでいたずらに不安を煽るとは。それでは、まるで扇動じゃ」

 ジェームズ王はいつもと大きく調子をかえることはなかったが、言っている内容にはついては厳しかった。それでも父親の方は堂々とした態度を崩さなかったが、息子のリディの方は、どきまぎと視線をさまよわせた。

「シアがこの男を信頼するように、私もこの男を買っておる。お主がクロヴィスを疑うと言うのなら、私とて、この王冠を返還せねばならぬのう」

「あぁ、陛下。ご不快に思われたのなら、申し訳ございません。しかし、王国に調和をもたらすことこそ、私の目指すところであるのです」

 胸に手にあてて深くふかく頭をさげ、ぬけぬけとロイドが答える。こうした芝居がかった仕草は、間違いなく息子のリディにも引き継がれていた。

 いたって本人は真面目な顔で、サザーランド家の当主は王に訴えた。

「私が申し上げたかったのは、小さな疑念が、時に大きな不安を呼び覚ますこともあるということ。このまま決をとっても、胸に芽生えた邪推に各自が苛まれ、枢密院の心をばらばらにほどいてしまうことでしょう」

「その疑念を植え付けたのは、あなたでしょうに」

 誰にも聞こえない声音で、ナイゼルが小さく呟く。的確な指摘はこの場にいる誰にも届くことはなく、当のロイドの勢いを止めることはなかった。

「ゆえに、お願い申し上げたい。本日、このまま決を採るのではなく、提言を一度枢密院で預からせていただきたい。我らのうち数名が内容を検分すれば、根拠のない疑念はたちまちに晴れ、後々に憂いを残すことはありますまい」

「ふむ……」

 あくまで、提言を取り下げるのではなく、決議を先延ばしにしたい。そう提案したロイドに、ジェームズ王は人のよい丸顔に手をあてて、しばし思案した。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ