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青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

8.誇り高き、枢密院

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8-1



 ハイルランドの政治の中枢をつかさどる、王の諮問機関たる枢密院。

 二人の王子の継承闘争に端を発した双頭戦争により、かつて、ハイルランドは長きにわたって二分された。若く才覚あふれる二人の王子が対立を深めるのを、当時、どの貴族も間にたって諫めることができなかったために、起きた戦乱の時代であった。

 そうした反省から、君主を支えるのと同時に、王や王族を間近に見張り諫める役割を担う機関が必要であると、人々は強く認識した。

 そうした願いを込めて、枢密院は組織されたのだ。

 そして今日、現王ジェームズの出した触れに従い、王国の各地から枢密院に名を連ねる貴族が、エグディエル城の門をくぐった。

 議長を務める、補佐室の筆頭であるナイゼル・オットー補佐官。

 ダン・ドレファス地方院長官をはじめとする、王国を支える各府省の長官たち。

 そして、国内の主要領地を任される、侯爵以上の肩書を持つ古参貴族の当主たち。

 その一人、シェラフォード公爵ロイド・サザーランドを乗せた馬車も、他に漏れずエグディエル城へと到着した。黒地に金の金具を取り付けた物々しい馬車の扉が開き、真っ白の髪を撫でつけた鷲鼻の男が姿を現した時、その威圧感に思わず門番は目を伏せた。

 蛇を思い起こさせる冷たい目つきで城を眺めるロイドの背後から、もう一人、若い男が馬車から地におり立った。その青年――リディ・サザーランドは、他にも止まる馬車を見渡しながら、父にだけ聞こえる声音で吐き捨てた。

「まったく。たった10歳の子供の思い付き一つで、こうして枢密院が呼び出されるなんて。こんな馬鹿げたことがあっていいものか」

「口を慎め、リディ」

 怒りをあらわにするリディとは対照的に、ロイドはまったく温度を感じさせない声で、無表情に息子を諫めた。

「お前にも、責任の一端があるのだ。王の信頼を得るどころか、あろうことか穢れたグラハムの血に出し抜かれるから、このようなことになる」

「……申し訳ございません、父上」

 口だけは詫びつつ、リディの燃えるような瞳はそびえるエグディエル城をにらみつけていた。まるで、その中にいるであろうクロヴィス・クロムウェルを、視線だけで射殺せないかと本気で願っているかの如くであった。

「落ち着くのだ。王族が道を違えることあらば、それを諫めるのも枢密院の役目」

 後からやってくる馬車に道をあけるため、息子を伴って、ロイドは城の扉へと歩みを進める。地面に敷かれた赤いカーペットの上を歩き、二人は階段に差し掛かった。

「王女殿下に教えて差し上げるのだ。真に手を組むべきは、この国の誰であるか」

 そういって、当主はステッキを地に打ち付けたのであった。





 枢密院の集会は、窓のない部屋で行われる。それは、王国の重要な決め事を行う際に、万が一にも外に秘密が漏れ出ないようにするためである。だが、初めてその場に参加したアリシアは、その場に座ることに息苦しさを覚えた。

 アリシアが座るのは、U字型の机の端側、オットー補佐官に次いで王に近い場所だ。反対側に座るのはサザーランド家当主ロイドであり、その隣にはリディの姿も見える。そして、ジェームズ王はというと、細長い広間の前方に用意された独立した席に腰かけていた。

 集められた無数の貴族たちが、ジェームズ王が口火を切るのを待っている。彼らの頭上ではシャンデリアが明るい光を放っているが、立ち込める雰囲気の重さが、どことなく室内の印象を暗いものへとしている。

 そんな中、こんな時でも変わらないきらきらと輝く瞳で一同を見渡して、ついにジェームズ王が口を開いた。

「誇り高き枢密院、この国の支えとなる我が友よ。我が求めに応じて集まってくれたこと、まずは深く感謝したい」

 ここで一呼吸おいてから、王はアリシアを手で示した。

「先に文にて伝えたことだが、此度の議題となる提言は、ここにいる我が娘、アリシアの名のもとに補佐室と地方院の共同案として提出された。よって、異例なことではあるが、当人であるアリシアとその補佐官クロヴィスも、この場に出席させている」

 ジェームズ王の説明により、貴族たちの関心がアリシアとクロヴィスへと移る。無数の目がこちらを向いていることを意識しながら、アリシアは努めて平常を装おうと背筋を伸ばした。

「彼らが提言する広域商会は、この国の民に多くの光をもたらすことになるだろう。ゆえに、メリクリウス商会の実現のため、皆には力を貸してほしい」

 だが、とジェームズ王は見る者を安心させる笑みを浮かべた。

「ハイルランドはチェスター家のものではない。ここにいる皆をはじめとする民があってこそ、この国はハイルランドでいられる。だからこそ、嘘偽りのない誠の心を、この場で明らかとしてほしい。私からは以上である」

 そう締めくくって、ジェームズ王はこれを開幕の言葉とした。

 続いて、議会の進行を担うオットー筆頭補佐官が、改めて枢密院を招集した意図を説明した。その中で、メリクリウス商会を設立する意義や、各領主に協力を仰ぎたい事柄についてなどが、特に詳しく説明された。

 ナイゼルの言葉に耳を傾ける傍ら、アリシアは緊張した面持ちで、貴族たちの顔を見回した。


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