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青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

7.ローゼン侯爵、ジュード・ニコル

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 ハイルランドで栄える職人産業が、将来的に諸外国との競争に負けてすたれる。社交界に滅多に顔を出さない変わり者が出した予測は、あまりに大胆だ。

「その打開策として、あなたが出した答え。それが、『流通に特化した広域商会の創設』。そういうことですね」

「なに、エアルダールのイスト商会を真似ただけだよ。あ、イスト商会というのが、女帝の許可であれこれ売り込んでいる巨大商会のことでね」

 軽く肩を竦めて、若き領主は答えた。

 そのイスト商会というのは、エアルダールに点在する商会の情報を一挙に集め、国外に自国の産業を売り込む際の窓口として機能しているらしい。ようは、究極の仲介業である。

 そのメリットは、注文する側がわかりやすいということだ。ドレスを仕立てたい、カトラリーを一式注文したい。要望はなんでもいい。どんな要望でも、イスト商会に相談すれば、願いを叶えるにぴったりの商会に引き合わせてくれるのだから。

 同時に個別の商会にとっても、うまみがある。仲介料を支払うかわりに、個別の商会ではとれないような注文、たとえば王宮や大貴族からの注文なんかも、イスト商会を仲介することで受けられるようになった。

「なるほど。イスト商会のような広域商会がハイルランドにもできれば、我が国の商圏は一気に広がりますね」

 クロヴィスが合いの手を入れると、ジュードはひどく嬉しそうに頷いた。

「クロヴィス、いや、クロくん。君はあらためて僕の話を聞いたりしなくたって、全部わかっていたんじゃない?」

「クロくん……? いえ、買いかぶりです」

 突然の呼び方に動揺しつつも、あくまで謙虚に、黒髪の補佐官は恭しく目を伏せた。

 これで、一通り、ジュードの提言書について確認ができた。

(本当に、話をすすめてかまわないわね?)

 念押しの意味をこめてアリシアが隣をみると、補佐官も静かに頷いた。それで、王女は背筋を伸ばし、改めて若き領主に向き直った。

「ねぇ、ジュード卿。わかっているとは思うけれど、あなたが説明してくれたことは、筋は通っていても根拠には欠けているの」

「手厳しいなぁ」

 苦笑しつつも、降参するようにジュードは両手を軽く広げてみせた。

「地方院からも、そう回答がきましたよ。各領地から上がっている報告を見る限り、我が国の職人産業が衰退するなど想定しかねる、とね」

 聡明な瞳でジュードを見据えたまま、アリシアは続けた。

「それに、あなたの提言を実現させるには、ハイルランドに領地を持つすべての貴族の了承を得なくてはならないわ。一番の難関は、いうまでもなく枢密院よ」

「そうでしょうとも」

 大きく頷いて、ジュードは悩まし気に顔をしかめた。

「目指す商会は、領地の枠組みにとらわれず、あちこちを自由に出入りできる必要がある。けどそんなこと、貴族の皆々さまが許すわけない。加えて、自領に属する商会がよその商会に仲介料を払うなど、我慢がならないでしょう」

「ええ。地方院があなたの提言を却下した理由は、ざっとそんなところね」

 一度も噛まずに言えたことを安堵しつつ、アリシアは重々しく頷いた。当然のことながら、彼女がすらすらと述べたことの大半は、事前に補佐官に教えてもらったことである。

 さぁ。ここからが勝負所だ。いっそうの気を引き締めて、アリシアは口を開いた。

「それでも、私はあなたのアイディアを採用したい。あなたの提言をもとに原案をまとめて、国の議題にあげるつもりよ」

「そう。そこですよ、よくわからないのが」

 両手を絡みあわせて、身を乗り出すジュード。と、話に熱中しつつも、「紅茶、飲んでくださいね」とアリシアとクロヴィスにすすめることを忘れない。たくさん話して喉が渇いた王女は、ありがたくカップに口をつけた。

 二人が一息ついたのを確認し、自身も紅茶で喉を潤してから、ジュードはいいたずらっぽく眉を上げて、アリシアを見た。

「自分で言うのもなんですが、あなたが私の提言に、なぜそこまで入れ込んでいらっしゃるのか、ついぞ不思議なんです。それも、一度地方院で蹴られた内容に、ですよ? どう考えても、尋常なことじゃない」

「理由は二つ」

 小さな手を掲げて、アリシアは指を2本立てた。

「一つ目は、成功したときのメリットが大きいこと。枢密院という壁があって、実現が難しい内容ではある。けれど、うまくいけば、ハイルランドの職人に未来を約束することができる」

 そして、二つ目。告げながら、アリシアは瞼をわずかに伏せた。

「二つ目は、そうね、個人的な私の願い。たとえ困難な道でも、それによって民が救われるなら、私が頑張りたいの」

“愛におぼれ、心の目を曇らせ、民から背を向けた結果がこれだ”

 怒りに燃え上がる男の声が、耳に蘇る。
 だから、アリシアはもう間違えない。

 <傾国の毒薔薇>。そう呼ばれていた頃の自分を、反面教師に。

 ほんの少しでも、民が飢える可能性があるというなら、それを無視することなど出来ない。王女という立場を最大限に利用して、自分にできることはなんでもしようと、アリシアは固く胸に誓ったのだから。


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