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青薔薇姫のやりなおし革命記 作者:枢 呂紅

6.青薔薇に課せられし試練

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6-1

 赤やオレンジの屋根がならぶ、美しき城郭都市エグディエル。その中心にそびえるは、古城としての風格を漂わせつつも決して時代遅れにはみえない美しさを備えたエグディエル城。

 かつては軍事拠点としてそびえ、今は王の住まいであり、ハイルランドの政治・文化の中心として機能する城の一角を、輝く青髪をなびかせて少女が突き進む。

「行くわよ、クロヴィス! 今日は北部の情報を集めるわよ!」

「かしこまりました、姫様」

 勇ましく先陣を切るのは、ハイルランドの可憐なる姫君、アリシア・チェスター王女。その後に礼儀正しい番犬よろしく従うのは、黒髪の美貌の青年にして王女付き補佐官、クロヴィス・クロムウェルである。

 事情を知らない者がみれば、10歳のわがまま盛りの少女が、従者を連れまわして城を闊歩しているようにみえなくもないが、実際はそうではない。

 王女にかねがね好意的、もとい、専らその愛らしさに骨抜きの臣下たちは、早速みなれたこの光景をほんわかと見守る。すなわち分単位で刻まれたスケジュールの合間を縫って、アリシアが補佐官と共に書庫に突撃するのは、今日に始まったことではないのだ。

 はたして、王の筆頭補佐官であり、王の右腕として政治・軍事・外交と幅広く目をひからせる王国一の文官ナイゼル・オットーも、王女と部下がいそいそと歩み去っていく背中を見て、銀縁の眼鏡を押し上げた。






「なんだ、ナイゼル。眼鏡などかけて、イメージチェンジというものか? 似合ってはいるが、そういうアピールは奥方の前でしてくるがよい」

「お戯れを、我が君。目をしばたたかせる臣下をあわれに思い、こちらを贈呈くださったのは陛下であらせますに」

 あいさつ代わりにジェームズ王が発した冗談を一蹴してから、ナイゼルはかちゃりと新品の眼鏡を押し上げた。その口が、重々しくため息をはく。

「この頃、めっきり老いを感じます。細かき字が見えづらくなり、階段に息があがり、酒も多くを飲むのはきつうございます」

「だから、お主に眼鏡をやったのだ。頼りにする右腕が書類を読み違え、せっかくの能力を発揮できなくては困る。老体に鞭打つとは、よく言ったものじゃ」

「恐れながら陛下。さすがに言いすぎにございます。私が老体なら、陛下も十分に老体です」

 積み上げられた書類の向こうからころころと笑い声をあげる王に、ナイゼルはきっぱりと反論した。四十を超えたぐらいで老体呼ばわりは、いささか不名誉なのだ。

 とはいえ、そろそろ自身の後継者についても、考えておいた方がいいかもしれない。もちろん、王が求めてくれる間は現職を続けるつもりではあるが、ある日急にぱったり、なんてこともあり得なくはないのだから。

 幸いにも、今の補佐室のメンバーであれば、誰がトップになっても申し分ない。と、部下たちの顔を順番に思い描いたところで、執務室にくるまでに見かけた光景を彼は思い出した。

「ところで陛下。こちらに参ります途中、アリシア様をお見掛けいたしました。クロムウェルを伴い、書庫に向かわれたのかと存じます」

「ほぉ。精がでるのぉ」

 眼鏡越しに伺うように観察すれば、王はにこやかに微笑むだけだ。その当たり障りのない返答に、ナイゼルは思い切ってもう一歩踏み込んでみせた。

「姫様は、ここ最近かわられました。特に、先日の城下への視察から戻られた後は、ことに熱心に国内の情報を集めておられます。何か、あの方とお話しされたのでは?」

「ふむ。なにかあったかの」

 とぼけた調子で天井を見つめたりしているが、アーモンド色の小さな瞳はきらきらと輝いてご満悦のご様子。せっかくの楽しい秘密を、打ち明けようかどうしようか悩んでいるのはまるわかりであった。

 王の右腕が辛抱強く待つこと数分、ようやく王はぽんと手を打った。

「そうそう。シアがの、次期王位に立候補すると申したのだ」

「………………は?」

 ぽかんと口を開いて、この時ばかりはナイゼルは完全に無防備な顔を王の前にさらしてしまった。王が即位してからというもの、筆頭補佐官として側に仕え上げてきて早十数年。たびたび突飛なことを言い出す主君への耐性は、とうの昔についていたはずなのに。

「は、あの、それはいつにございますか?」

「うむ。あれが城下の視察にでた、その日の夜だったかの」

 ふむふむ、なるほど。何度か頷き、ナイゼルは王の言葉をたっぷり咀嚼して己の中で消化してから、―――――温厚で知的な紳士然とした外見に似合わず、藍色の目をくわっと見開いた。

「そういう大事な話は、火急に! 速やかに! 教えていただきたいと、何度申し上げれば!?」

「おーおー。ナイゼルよ。すっかり素がでたお主も、ひさしぶりだの」

「誰のせいだと!? というか、もう私もいい年なのですから、あまり興奮させないでください!」

 ぜーはーと肩で息をしながら、ナイゼルはつい声を荒げたことを恥じた。若い頃は、いたずら好きでお茶目な主君に対し、こうした歯に衣着せぬ物言いをしょっちゅうしていたものだが、自分もいまや年下の部下を数多く持つ身なのだ。

 別に今更遠慮もあるまいとほのぼのと笑ってから、王はいたずらが成功した喜びを瞳に宿して補佐官を見た。

「お主も、私がシアを次期王にと望んでいたことは知っていただろう。それを、なんと向こうから名乗りあげてくれた。それだけのことだろうて」

「それで、陛下はなんとお答えされたのです?」

 いささか冷静さを取り戻しつつ、ナイゼルは重要な質問を口にした。


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