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魔王の器 作者:月野文人

第二章 魔王編

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テレーザの誘惑

 テレーザに案内されて部屋に入ったカムイは少し戸惑った。
 ベッドと小さなテーブルセットが一組、壁にタンスが一つ置かれているだけの部屋。置いてあるものは、それなりに豪華さを感じるものであるが、それを除けば、その辺の宿屋と代わりのない造りだ。

「ここで打ち合わせを?」

「あっ、いや。話し合いをするのは別の部屋だと思う。ここは、それまでの間を過ごしてもらおうと思って」

「何のための部屋なのですか?」

「お前みたいに急な宿泊が必要になった人の為に用意されている部屋だ。他にもいくつかある」

「なるほど。急に決まったはずなのに準備が良いですね」

「いや、ここは必要になればいつでも使える部屋だから」

「そうですか。まあ、これくらいの方が落ち着くか。案内してくれて、ありがとうございました」

「あ、ああ」

 カムイは、さりげなく用は済んだという意味を込めたつもりなのだが、テレーザは部屋から去ろうとしなかった。だからと言って何かを話す訳でもなく、所在なさ気に部屋をうろうろしている。

「何か?」

「あっ、私も時間になるまで、ここで待たせてもらおうと思ってな」

「ここで? テレーザさん、城内に部屋ありますよね?」

「そうだけど、遠いからな。呼びに来てもらうのも悪いし」

「そうですか……」

 明らかにおかしいのだが、カムイは、テレーザの意図を知る為に、放っておくことにした。自分から探りを入れる訳ではなく、そのまま放置だ。
 しばらく、沈黙が続いたが、なにやら覚悟を決めたようで、テレーザが口を開いた。

「な、なあ」

「何ですか?」

「このドレスどうかな?」

「……へっ?」

 全く予想していなかった質問に、カムイの口から間の抜けた声が漏れる。

「だから、似合っているか?」

「はあ」

 そこで、改めてカムイはテレーザをまじまじと見始めた。初めて見るドレス姿もそうだが、テレーザの顔には綺麗に化粧が施されている。ドレスに合わせたような真っ赤な口紅。少し、きつめの印象を与えるが、もともときりっとした顔立ちのテレーザには、それが良く似合っている。
 澄ましていれば、美女と表現出来ない事もない。

「まあ、似合ってますね。普段のテレーザさんを知っているから、尚更、見違えるほど、女性っぽくなっていて驚きました」

「そうか。それは良かった」

「えっと。それが何か?」

「いや、別に」

 そこで又、テレーザは黙りこくってしまう。カムイの方も、今のやりとりに何の意味があるのか、全く分からなくて、考え込んでしまった。
 また部屋に重苦しい雰囲気が漂う。

「な、なあ」

「何ですか?」

「だ、だ、だ」

「だだだ?」

「抱いてくれ!」

「ああ、抱いてね……、ええっ!? 今、何て?」

「だから、私を抱いてくれ」

「……抱っこ? そういう趣味があるのですか?」

「違う!」

「じゃあ、抱きしめろって事ですか?」

「ち、違う」

「……冗談ですよね?」

「冗談じゃない。わ、私はずっとお前の事が好きだったんだ」

 学院での二人を知っていて、これを信じる者など誰もいない。当然、当人であるカムイが信じられるはずがない。

「……そう」

「だから……、抱いて欲しい」

「良いですよ」

「えっ!?」

 今度はテレーザが驚く番だった。こんな事をしても、カムイが受け入れる訳がない。そう思っていたからこそ、恥かしい思いを押し殺して、テレーザはこんな事を口に出来たのだ。

「あれ? それが望みなのですよね?」

「……そうだ」

「じゃあ、早くベッドに横になってください」

「ベッド……」

「ベッドがあるのに、使わないのはおかしいですよ?」

「そ、そうだな」

「さあ、早く。ぐずぐずしていると人が来てしまいます」

「分かった……」

 カムイに促されて、テレーザはベッドに向かって歩を進めた。一歩、また一歩と、震える足をなんとか前に出していく。ようやくといった感じで、ベッドに辿り着いたテレーザだったが、それ以上は覚悟が決まらない様で、ベッドの脇で立ち尽くしてしまった。

「止めておきます?」

「い、いや」

「じゃあ、さっさと横になれよ」

 カムイは、肩を掴んで無理やり振り向かせると、ベッドにテレーザを突き飛ばした。

「あっ」

 白いシーツの上に赤いドレスが映える。乱れた髪が、その顔に降りかかって、なんとも言えない艶めかしい雰囲気になっている。

「あれ? 何か思っていたよりも、そそるな」

「…………」

「さてと」

 カムイは自分もベッドに上がると、テレーザの上に圧し掛かっていった。口元を震わせて、そんなカムイを見つめるテレーザ。
 普段とは違う弱々しい感じのテレーザは、カムイでなければ、そのまま襲いかかってしまうのではないかというほど、男の欲望をそそる雰囲気を醸し出していた。

「調子狂うな。それで、何を考えている?」

「何?」

「何を企んでいるって聞いている」

「別に何も」

「そんな訳あるか? そんな見え透いた嘘をついて、俺を誘ってどうするつもりだ?」

「…………」

「本当の事言わないと、このまま襲うぞ」

「か、構わない」

「そうか。本当に抱かれる事が目的なのか。そうなると、その先に何があるかだが」

 自分と関係を持つ事に何の意味があるのか、まだカムイには見当がつかない。

「何も企んでない! ただ私はお前が好きなんだ!」

「じゃあ、一緒にノルトエンデにくるか?」

 カムイは一つ一つ探りを入れる事にした。これに対してテレーザがどう答えるか。普通に考えれば、テレーザがクラウディア皇女から離れるような事をするはずがない。

「それは、け、結婚という事か?」

「まあ、そういう関係になったら、そうなるかな?」

 最初の質問で、あっさりと答えをカムイは得られた。テレーザが自分を好きなはずがない。それで結婚なんて言葉がいきなり出てくるとなると、あらかじめ、そういう事を考えていたという事だ。

「私はそれでかまわない」

「……なるほどね。俺を懐柔する事、いや、繋ぐことが目的か。男女の関係を持てば、それで俺を縛れると考えるとは、何か馬鹿にされている気がして来た」

「そんな事、考えてない」

「惚けても無駄。それで誰の策略だ?」

「…………」

「あの男、ケイネルあたりかな? いや、待てよ。彼奴の策で体まで投げ出すか? そこまで言う事を聞かなければいけない相手……、まさか?」

 カムイが知る限り、テレーゼがここまでの無茶をさせる事が出来る相手は一人しかいない。

「わ、私が考えた! お前をソフィーリア様の下に繋ぎとめるには、それが一番だと思って!」

「お前がそんな事、思いつくか? お前は俺がいなくなった方が良いだろ?」

「そんな事は、ない」

「好きでもない相手に体を与えてだ。あり得ないな」

「それ位の事は出来る」

「全然出来てないだろ? 自分で考えたという割に、全然覚悟が定まってない」

「そんな事ない。ちょっと、いざとなったら、あれだけど……」

「はあ。呆れたな」

 一つため息をついてカムイはテレーザから離れて、ベッドの端に腰掛けた。策というには、あまりに稚拙で、それでいて惨いもの。それを強いられているテレーザが少し可哀そうになってきている。

「テレーザさんのその態度が何よりの証拠だろ? テレーザさんがそこまで庇わなければならない相手なんて、一人しかいない。それにしても……、何故、そこまで?」

 敢えてその一人の名前を口に出さないのは、カムイの優しさだ。普段は鈍いテレーザも、このカムイの優しさには気付けた。

「私は……、お前とは違う」

「それはそうだ」

「そういう事じゃない。私は頭も悪い、剣も自慢出来る程じゃない。そんな私が出来る事なんて限られている」

「だからと言って、女性が体を投げ出すなんて馬鹿げてる。そこまでしなければならない相手か?」

「……私は、影なんだよ。光があるから、私は存在を許されているんだ」

「影?」

「物心ついた時から側にいた。でも、それだけ。側にいるという事だけで、私は周りからそれなりの態度で接してもらえているんだ」

「たったそれだけの事で、と言ったら怒られるのかな?」

「怒らないけど。何も持たない私の気持ちはお前には分からない」

「持つことが辛い時もあるけど?」

「その気持ちも分からない」

「そうか……」

 カムイとテレーザは、考え方が違い過ぎる。そうであっても、カムイは気持ちは何となく分かる気がした。

「なあ、頼むから抱いてくれ」

「まだ、それを言うか?」

「失敗したと思われたら。役に立たないと捨てられたら、私はもう生きていけない」

「それ間違い。役立たずと捨てられても、ちゃんと生きていける。俺がそうだったからな」

「……私はお前みたいに強くない」

「そうかな」

「抱いてくれ」

「何度言われても無理」

「私はそんなに女として駄目か?」

 抱いて欲しい訳ではないのに、ここまで拒まれると不満に思う気持ちが生まれる。テレーザも女だという事だ。

「いや、そんな事はない。言葉遣いを直して、澄ましていれば、結構いけると思うけど。実際に一瞬やばかったし」

「……じゃあ、どうしてだ?」

「別に好きな人がいる女性を抱けるほど、俺は無神経じゃない」

「……態度に出していないつもりだったのに」

 図星をさされて、テレーザは驚いている。カムイに知られるような事ではないはずなのだ。

「ああ、さっき知った」

「えっ?」

「声には出てなかったけど、名前呼んでただろ? あれじゃあ、俺じゃなくても無理だ。抱いている女が、自分以外の男の名を呟いている。男としては堪らないと思う。まあ、実際分からないけどな」

「そうか……」

「誘うなら好きな人にしろよ」

「無理。決まった相手がいる。裏切る訳にはいかない」

「そうか。でも、男の場合はそこまでじゃないだろ?」

「だからって」

「……好きなのか? テレーザさんじゃなくて、その裏切りたくない人は」

 カムイは誰か分かっている。テレーザが裏切りたくないと思う相手は一人しかいないのだ。

「好きではないだろうな」

「じゃあ、テレーザさんの気持ちは知っているのか?」

「…………」

「知っているのか……。知っていて、こんな事を?」

 カムイの中のクラウディア像がどんどん変質していく。

「だから言っている。これは私が勝手にやっている事だ」

「強情だな。まあ、今回はそういう事にしておくか……、なあ」

「何だ?」

「ノルトエンデに来ないか?」

「えっ?」

「……悪い、こんな軽々しく言う事じゃないな。ノルトエンデに来たからといって、居場所を約束出来る訳じゃない」

「そうだろうな」

「でも、離れた方が良いと俺は思うな。そうじゃないと、テレーザさんは、これからも辛い思いをするだけだ」

「私は……」

「本当は分かってるんじゃないか? 逃げ出したいと思ってないか? それなのに」

「そんな事は無い!」

「考える事さえ、拒むつもりか? それじゃあ意志を持たない人形じゃないか」

「人形……」

 その言葉にテレーザの心が大きく揺れた。クラウディア皇女の心をくみ取り、それに沿って行動をしてきた自分。それが忠臣としての、あるべき姿だと信じてきたのだが、そこに、自分の意志がない事に気が付いたのだ。
 クラウディア皇女の意志に沿って動くだけの自分は、操り人形と同じなのではないか。
 ようやく少し考える様子を見せたテレーザに、ほっとしたカムイであったのだが、すぐに、その気持ちが暗く陰る。

「テレーザ、お待たせ」

 声を掛ける事も、何の合図もする事もなく、いきなり部屋に入ってきたクラウディア皇女の姿を見る事によって。

「あっ、えっ、ごめんなさい」

 いつもの少し抜けたような反応なのだが、今のカムイの目には、あざとさしか感じられない。クラウディア皇女が後ろにいる者たちの目を意識して、そんな反応を見せているのは明らかだ。

「何を謝っているのですか?」

「だって……」

「時間ですか?」

「あっ、そう」

「では、テレーザさん、いつまでも寝てないで行きましょうか?」

「えっ、ああ」

「寝たいのは俺のほうなんですけどね。こっちは、ほとんど休憩を取る事なく、皇都まで駆けてきたのですよ?」

「……あ、ああ。悪い」

「さて、クラウディア皇女殿下、自らでご案内して頂けるのですか?」

「う、うん。あっ、皆いるから、私がって訳じゃないの」

「そうですが、じゃあ、行きましょう」

 一度気が付いてしまえば、もう騙される事はない。テレーザを見るクラウディア皇女の笑みに隠された、かすかな蔑みの色と、それに怯えているテレーザ。
 二人の関係がどういうものなのか、カムイには、はっきりと分かった。
 そして、それに対して何も出来ないであろう自分が、無性に情けなかった。

◇◇◇

 部屋では既にソフィーリア皇女とディーフリートが待っていた。
 会場での様子に相当に焦りを覚えていたようで、カムイたちが部屋につくなり、ソフィーリア皇女は、本題に入ってきた。

「ディーから詳しい話は聞いたわ。まんまとやられたわね」

「まあ、そうですね」

「それで、どうすれば良いのかしら?」

 これがそもそもの問題である事に、ソフィーリア皇女は気が付いていない。皇都にいないカムイに頼っていても仕方がないのだ。

「どうと言われましても、私からは特になにも」

「えっ? 対応を考えないといけないのではないの?」

「はい。ただ対応としては、何もしないのが一番ではないかと思います」

 実際にカムイが話したかったのは、これだけだ。今回の件で、軽挙妄動はして欲しくない。それをきっちりと伝えたかったのだ。

「……どうして? 今回の件で、明らかに情勢は向こうに流れたわ」

「それに何か問題がありますか?」

「ちょっと?」

「では、もう少し説明を致します。そもそもソフィーリア皇女殿下は、私に何を求めていらっしゃるのですか?」

「何を……」

「あっ、そうか」

 そこで声を上げたのはディーフリートだ。

「そういう事です」

「すまない。ちょっと、僕も冷静じゃなかったね。僕の場合は、ヒルデガンドの方が、衝撃は大きかったけどね。まさか、あんな態度に出てくると」

「それも問題ありませんね」

「まあそうだね」

「……二人で納得していないで説明してもらえるかしら?」

「そうだね。じゃあ、僕が説明しよう」

 それがカムイの意図している所だと察して、ディーフリートは自分の口で説明する事にした。カムイの考えている事は、ディーフリートも思いつく。そう周りに示す為だ。

「ええ、お願い」

「カムイの役目は辺境領の意見をソフィーリア様支持でまとめる事だよね?」

「そうね」

「そうであれば、今回の事はどうでも良い事だね。会場には辺境領主は来ていないし、この様子が広まる事もまずない。仮にあったとしても、辺境領主にはどうでも良い事だ」

「どうでも良いって事はないでしょ?」

「どうでも良い事だよ。だって辺境領主は、誰が皇位に就いても良いのだから」

「ちょっと!?」

「極端に言えばだよ。辺境領主はカムイが付く方に付く。こう言えば分かり易いかな?」

「……そうね。でも、中央の貴族たちは」

「そこに頼る予定だったかな? 全く無視する事はないけど、今は、重要視する必要はない。どちらかと言えば、当面は今回のような事が合った方が良いかな」

「どうしてかしら?」

「右に左にと振れてくれれば、自然と信用できる者が浮かび上がってくる。信用出来ない者もね。今はそれの見極めだけで良いと僕は思うね」

「今はって言うけど、それはいつまでなの?」

「それは……」

 言葉に詰まったディーフリートの後をすかさずカムイがつむいだ。

「まだ動き出していない者たちの動きが見えだすまでです」

「まだ動き出していない者?」

「例えば南北伯家。この両家は本当に最後まで、動かないのでしょうか? それと宰相を始めとした高位高官たち。この方たちの動きは全く見えません」

「そうね。その辺はどうなのかしら? 貴方の父上は何か知っている?」

 ソフィーリア皇女は、ここで騎士団長を父に持つオスカーに話を振ったのだが、その答えはソフィーリア皇女の望まないものとなった。

「父は支持を表明しているとはいえ、何か行動を起こすことはございません」

「えっ? どうして?」

「父が動けば魔道士団長も動きます。あまりに、それが激しくなって騎士団と魔道士団の間に大きな溝が出来てしまっては皇国の為になりませんから」

「そう。そうなると手を伸ばしようがないわね」

「そこで諦められると困るのですが。取り込めとは言いません。でも、せめて動向を掴む努力はして頂かないと。その方たちに対しては、私が出来る事はありませんので、これについては他の方にお願いします」

「そ、そうね」

「ただ南北伯については、慎重に願います。先代の方伯の意向を受けているのであれば、継承争いとはいえ、皇国を分裂させるような動きは不快に思う可能性があります」

「……そうね」

「それと、宰相についてですが」

「何?」

「あの方はどの様な素性の方なのですか?」

 さりげなく問いかけたが、カムイが一番話したかった事は実はこの事だ。

「お父様が抜擢した事は知っているわ。でも、それ以上詳しい事は」

「どこからでしょう? その抜擢した経緯は?」

「何か気になる事があるのかい?」

「はい。どうも、私に、私でなくても、ノルトエンデに悪意を持っているような気がします。接点のない宰相に悪意を持たれる理由がすぐには思いつきません」

「どうしてそう思ったのかな?」

「二回分の戦費の支援が届いていません。その分は当家の負担になっているのですが、意図してそうさせているような気配を今日感じました」

「ノルトエンデをと言うより、辺境領の力を弱めようという意図じゃないかな?」

 皇国の文官として、辺境領の力を押さえようとする事は、普通と言えば、普通の事。これまで、ずっと皇国はそうやって辺境領を扱ってきていたのだ。

「それはありえますが、それは皇帝陛下のご意向に沿う事ですか?」

「……違うね。勝手に動いているという事か。陛下のおかげで今の地位にある宰相が、その意向と異なる動きをしている。それは問題だね」

「悪意が私だけであれば、それはまあ構いません」

「そんな事ないよね?」

「それはクロイツ子爵家の問題ですから、継承争いには関係ありません」

「……まあ、そうだけど」

 ディーフリートとしては、カムイにも頼ってもらう機会を作りたいのだが、今回もそれは話が進む前に断ち切られた。

「調べられるなら、調べた方が良いと思います。これも慎重にですが。気付かれて反感を持たれたらいけませんので」

「そうだね。それは僕が調べるよ。うちの実家の事だ。いきなり出てきた宰相の事を何も調べていないなんて事はないだろうからね」

「ああ、それであれば気付かれる事もありませんね」

 だが、それは西方伯家の力を持ってしても調べ切る事が出来なかった事に繋がる可能性もある。あくまでも宰相に問題があるという前提ではあるが。

「後は何かあるかな?」

「これは、南北伯家の動向などにも絡む事ですが、そろそろ目途感を知りたいですね。婚約が済めば、次はご結婚となります。それをひとつの機会と捉えると、残された時間は少ない。それを全く意識されていないのであれば、全く見当もつかない事にもなりますし」

 テーレイズ皇子とヒルデガンドが一気に結婚まで行った一方で、ソフィーリア皇女とディーフリートは婚約という段取りを踏んでいる。それがディーフリートの資質を確かめる為の期間だという事は、分かっているが、そうなると、結婚がその判断の時期という事にもなる。

「そうだね。こちらとしては、どっちが良いのかな?」

「こちらと言うより、皇国の事を考えれば、出来るだけ早くです」

「あれ? 状況が変わった?」

 元々は、先であればあるほど良いと、カムイは言っていた。それが正反対になったのには理由がある。

「ソフィーリア皇女殿下の事を考えれば遅くは変わっていません。前回、王国と争いになった事で、その動きが気になりだしました。もし、俺が王国の人間であるなら、継承争いに何とか介入して、それを激しいものとします。完全に二つに割れるまでいけば、大成功ですね。迷うことなく、攻め込みます。どちらかを支援するなんて口実があれば、最高です」

「そこまでの脅威なのか」

「知りませんでしたか? もしかして東方伯家からの情報が伝わってないのでしょうか?」

「まあね。今は完全に敵対状態だから。でも皇国から話が来てもおかしくないのだけどな」

「とにかく、今、東方の反乱の裏には必ず王国がいると言って良い状態のようです。今は大人しくしている辺境領もいくつかは寝返っている可能性がありますね」

「カムイはどうやって……、なんて聞くまでもないか」

「はい。王国から接触があった事を教えてきてくれる辺境領主の方たちがいますから。時には反乱の裏事情も教えてもらえます」

「場合によっては、継承争いなんてやっている場合じゃないか」

「まあ。この事があるから、皇帝陛下も一切意向を漏らさないという可能性もあります」

「激しさを増さないようにだね。逆に決めるときは一気かな?」

「その可能性もありますが、その辺は分かりません。ソフィーリア様も、その辺りは意識しておいてください。決して、皇国が二つに割れる事態にはさせないように」

「ええ、それは分かっているわ」

「こんなものですかね?」

「そうね。とりあえずは今話せるのはこれ位ね。では解散にしましょう。全員分の部屋は用意してあるわ。この時間ではもう、城を出るのも面倒でしょ?」

「……では、そう致します」

 また変な事にならないかと心配して視線を向けたカムイであったが、クラウディア皇女は何やら考え込んでいるようだった。それはそれで気になるのだが、何を考えているのかと聞くわけにもいかず、カムイは部屋を離れた。
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