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魔王の器 作者:月野文人

第一章 皇国学院編

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一足早い卒業の日

 校門の近くには多くの生徒が集まっていた。
 その中心にいるのはカムイたち。一足早く学院を去るカムイたちにとって、今日が最後の登校日だったのだ。
 それぞれの生徒たちと別れの挨拶を交わした後、三人はディーフリートとセレネに向かい合った。

「色々とお世話になりました」

「こちらこそ。あっ、今はカムイの方が爵位は上か。クロイツ子爵、お世話になりました」

 カムイは正式にクロイツ子爵家を継承した。学生である間の叙爵は異例ではあるのだが、叙爵を受ける為に、領地に戻ってすぐに、皇都を訪れる事になるのは無駄だと特別に認められたのだ。当然、ソフィーリア皇女の働きかけと、それを受けた皇帝の格別の配慮があっての事だ。

「止めてくださいよ。かえって、馬鹿にされているみたいです」

「馬鹿になんてしてないさ。でも、まあ、これまで通りに話させてもらうよ」

「はい。その方が良いです」

「次に会えるのはいつかな?」

「分かりません。中々、皇都を訪れる機会はないと思いますから」

「その分は僕が頑張らないとか」

「お願いします。ああ、ご婚約おめでとうございます……、と言って良いですか?」

 ちらりと視線をセレネに向けながら、カムイはディーフリートの婚約の件を切り出した。
 視線を向けられたセレネは、カムイたちとの別れの事で一杯一杯のようで、カムイの言葉にも反応せずに、俯いて涙を堪えているだけだ。

「まあ、そうだね。でも、正式にはまだ先の話さ。僕は後二年、騎士学校で学ぶ予定だからね。それに、その前に……」

「そうですね」

 ディーフィリートがソフィーリア皇女と正式な婚約式を挙げるのは、騎士学校を卒業した後。そして、その前には、テーレイズ皇子とヒルデガンドの結婚式も予定されている。

「ああ、その時は来てくれるよね? ソフィーリア皇女の招待となるだろうから、来ない訳にいかないだろ?」

「そうですね。その時には、会えますね」

「二年以上、会えないのか」

「あっという間です。恐らくは」

 カムイは領地に戻れば、たくさんの仕事が待っている。もう領主になったのだ。しばらくは父親が支援をしてくれるにしても、それとは別の仕事もカムイには待っている。ソフィーリア皇女の支援者として自身の名声を高める事だ。その方法については、すでにソフィーリア皇女とも、ディーフリートとも話し合いは終えている。
 そして、ディーフリートはディーフリートで、忙しい日々になるはずだ。ディーフリートもまた、自身の能力を周りに認めさせる努力をしなければいけない。
上級の騎士学校で学びながら、ソフィーリア皇女への助言、優秀な人材の確保、他家との交流等など、やる事はたくさんある。

「セレ、泣いていないで、ちゃんと挨拶をしないと」

「……だ、だって」

 ディーフリートに促されて、セレネは何か言おうとするのだが、声が詰まってしまって何も言えない。結局、気持ちを言葉にする事を諦めて、カムイに抱き付いてきた。

「カ、カムイ……。あっ、ありがと……」

「礼を言われるような事したか? でも、まっ、そうだな。俺もセレに会えて良かったよ。ありがと」

「カ、カムイィィィィ!」

 カムイの言葉で感極まってしまったセレネは、更に強くカムイを抱きしめると、大声で泣き出してしまった。ディーフリートの手前、少し気まずそうな顔をしながらも、そんなセレネをカムイも又、軽く抱きしめた。
 そんな二人の様子を見て、別れを実感した周りの生徒たちからも、すすり泣きの声が聞こえてきた。

 ダダダッ――

 そこへ聞こえてきた足音。何事かとカムイが視線を向けると、紺色のローブを纏った女の子が、もの凄い勢いで走ってきていた。

「えっ?」

 その女の子の姿を見て、カムイから驚きの声が漏れる。

「とうっ!」

 女の子は、カムイに抱き付いているセレネに向かって、駆けてきた勢いのまま、思いっきり飛び蹴りを放った。

「きゃあっ!」

 たまらず、地面に転がるセレネ。そのセレネとカムイの間に、女の子は大きく手を広げて立ちふさがった。

「カムイ兄に纏わりつく虫は、このマリアが許さないのです!」

「虫? 虫って私の事?」

「そうなのです。全く、マリアがちょっと目を離すとこれなのです。困ったものなのです」

「ち、ちょっと、貴女、誰よ?」

「良く聞いてくれたのです! マリアは、ここにいるカムイ兄の許嫁なのです!」

「い、許嫁?!」

「……良い加減にしろ!」

 腰に手を置いて、堂々と言い放ったマリアの頭に、容赦のないカムイの拳骨が振り下ろされる。たまらずマリアは頭を抱えて、その場にうずくまった。

「い、痛いのです」

「誰が許嫁だ? というか何で、マリアがここにいる?」

「それは……」

「マリア! ひどいよ。自分の荷物を放り投げて、先に行くなんて」

 そこに又、新たな人物が登場してきた。漆黒のローブに身を固めて、何処か皮肉めいた笑みを浮かべた一人の男。その両肩には二つの大きな荷物が背負われている。

「イグナーツ! お前まで?」

「おお、カムイ! 久しぶり! 元気だったか!?」

「ああ、元気だ。二人とも来たのか?」

「そう。お前らが戻ってきたら、また忙しくなるだろうから、今の内に見聞を広めておけって、師匠たちが言ってくれたのさ」

「そうか。でも、それなら、先に伝えてくれれば良かったのに」

「脅かせようと思ってさ」

「それは……、ちょっと失敗だったな」

「どうして?」

「俺達、明日、領地に向かって発つ予定だぞ」

「……嘘?」

「嘘じゃない。ちゃんと、予定は送ったはずだけどな」

「へえ?」

 その言葉を聞いて、イグナーツの視線が、アルトに向けられた。

「なんだよ? 俺はちゃんと送ったぜ」

「見てないけど?」

「入れ違いになったんだろ? 届くまでは数か月かかる。そんな事もある」

「それを何とかするのが、お前の仕事だよね?」

「それはこれからだ。ちゃんと、改善策は考えてある」

「だと良いけど?」

「何だテメエ、その言い方は? 文句あんのか?」

「はっ、都合が悪くなると、すぐそれだ。進歩がないなあ」

「……ほう、喧嘩売ってんだな?」

「だったらどうなのさ」

 二人の雰囲気が一気に険悪なものになる。そんな二人を見て、久しぶりに会っても仲の悪さは変わらないのかと、カムイは苦り顔だ。

「はいはい。久しぶりに会って、いきなり喧嘩か? それこそ進歩ないな」

 そして、その二人の間に入っていくのはルッツ。ルッツにとっても、久しぶりの事。なんとなく、嬉しそうに二人の仲を取り持ちだした。実際、カムイたちにとっては、懐かしさを感じてしまう状況だ。

「カムイ? この二人は?」

「マリアはカムイ兄の許嫁……、痛い」

 セレネの問いに、すかさず、許嫁と言い張ろうとするマリアにまたカムイの拳骨が落ちる。

「もう良いから」

「カムイ兄、酷いのです。久しぶりに会ったのに」

「……そうだな。久しぶりだな、マリア。元気してたか?」

 今度は、両手で、マリアの頭を撫でまわすカムイ。髪がクシャクシャになるような、荒々しさなのだが、マリアは嬉しそうに目を細めている。

「元気なのですぅ」

「はは。相変わらず、可愛いな、マリアは」

「ふふん。可愛いって」

 自慢げにセレネに視線を向けるマリア。さすがにここまでされると、セレネも頭に来たようで、本来の気の強さを発揮してきた。

「そうね。お子様は誰でも可愛いものね」

「お子様……」

「お嬢ちゃん、いくつ? そんな小っちゃくて、よく皇都まで来れたわね。お姉さんが褒めてあげるわ」

「ムカッなのです。カムイ兄! 趣味が悪すぎるのです!」

「趣味って、別にセレは……」

「こんな女しか学院にはいなかったのですか? これでは、やっぱり、許嫁の座はマリアのものなのです」

「だから、セレはそういうんじゃ」

「カムイ兄のお嫁さんは、もっと素敵な人じゃないといけないのです。そうですね……、いないのです!」

 周囲を軽く見渡してマリアはきっぱりと言い切った。

「「「なっ?!」」」

 それに反応したのは、カムイのファンの女生徒たち。いきなり現れたマリアに呆気に取られていたが、これを聞いて口々にマリアへの文句を言いだしてきた。

「ふん。雑魚がうるさいのです。……あっ!」

 女生徒たちの文句にも、ふてぶてしく憎まれ口で返したマリアだったが、突然、何かを見つけたのか、女生徒たちを押しのけて、どこかに走っていってしまった。

「……ねえ、カムイ?」

「悪い。ちょっと浮かれてるんだな。皇都は久しぶりだから」

「あれが浮かれてるの?」

「そうだと思うけど」

「……まあ、いいわ。それで結局、二人は?」

「あっ、そうか。マリアとイグナーツ。俺の臣下であり、弟妹でもあるってとこかな」

「もしかして?」

「そう。五人とも孤児院育ち」

「そう……」

 実際にはセレネは聞かなくても分かっていた。カムイたちの間に漂う、何とも言えない雰囲気。それは学院では見せる事がなかったものだ。
 女の子に平気で拳骨をくらわすカムイ。カムイの後ろでは、未だにアルトはイグナーツと口げんかを続けている。そして、その二人の肩を抱き寄せて、笑いながら、二人をなだめているルッツ。自分たちには見せない、相手への遠慮のなさが見える。
 これがカムイたちにとっての仲間。それをセレネは、そしてカムイたちの性格を知る生徒たちは思い知らされた。

 なんとなく気まずい雰囲気が流れる中、ディーフリートが口を開いた。

「カムイ」

「何ですか?」

「二人も……、その、強いのかな?」

「それは……」

「カムイ兄!」

 カムイが口を開こうとした所に、どこかに行っていたマリアの呼ぶ声が響いた。生徒たちをかき分けて、前に進んでくるマリア。

「カムイ兄! マリアを褒めるのです! マリアは、カムイ兄のお嫁さんに相応しい人を見つけてきたのです!」

「「「なっ?!」」」

 その場にいる全員の、そしてマリアに手を引かれて現れた女生徒の口から驚きの声があがる。

「ヒルダ……、いえ、ヒルデガンド様」

「あ、あの?」

「すみません。その子はマリアと言って、俺の妹分です」

「そう、そうなのね。急に手を引っ張られて、それで」

「マリア……」

「おお? マリアは何か間違ったのですか? でも、この、お姉様はカムイ兄のお嫁さんにぴったりだとマリアは思うのです」

「……いや、それは」

「ねえ、マリアちゃん。どうして、そう思うのかな?」

 言葉に詰まってしまったカムイの様子を見て、ディーフリートは場の空気をなごますつもりで、そんな問いをマリアに投げた。

「お姉様は、美人なのです。マリアは将来、お姉様のような女性になりたいのです」

「そう。そうだね。ヒルデガンドは美人だからね」

「それに」

「それに? まだあるのかい?」

「カムイ兄のお嫁さんは、カムイ兄の隣で戦える強い人であって欲しいのです」

「それがヒルデガンド?」

「だって、このお姉様は、ここにいる誰よりも強いのです。マリアたちを除けば」

「「「!?」」」

「マリアちゃんを除いてなんだね?」

「もちろんなのです!」

 はっきりと自分がヒルデガンドよりも強いと言い切ったマリア。それは、そのまま、カムイへのディーフリートの問いの答えだ。学院最強、もちろん、今はカムイの称号であるが、そのヒルデガンドよりも、残りの四人は強い。まだ、子供と言って良いマリアの言葉であっても、その場にいる全員が、それを事実だと認識した。

「はい、マリア。ちょっとこっちにおいで」

「おお? アルト、何をするのです? マリアはもう少し、このお姉様と」

「いいから、空気を読め。この餓鬼んちょが」

 いつの間にか前に来ていたアルトが、マリアを強引にヒルデガンドから引き離していく。
 そのまま、ルッツやイグナーツに囲まれて、頭をこづかれているマリア。

「うおっ! 酷いのです! 暴力反対なのです!」

「お前な、もうちょっと頭使えよ」

「そうだよ。子供みたいに自慢してさ。ああいうの駄目だって言われてるよね?」

「だって……。もう、兄たち、酷いのです!」

「ねえ、カムイ。あっ……。カムイ・クロイツ、良いのですか?」

「あれは、じゃれ合っているだけです。いつもの事ですよ」

「そう。あれが、貴方の臣下。いえ、仲間なのね?」

「はい。共に生きようと誓った仲間です」

 ぎこちなく会話を始めたカムイとヒルデガンド。そんな二人の様子をみて、周りの生徒たちが、距離を取っていく。二人の事は、学院の生徒の多くにとって、公然の秘密。二人の関係が、剣術大会以降、ぎこちなくなっている事も、その理由も、見送りに来ている生徒たちは全員が分かっているのだ。

「今日が最後と聞きました」

 それに気付いたヒルデガンドが、その心遣いに感謝しながら、本当に話したい事を話し始める。

「はい。出立は明日です。見送りに来てくれたのですか?」

「ええ。本当は気付かれない様にと思っていたのですけど、マリアちゃんに見つかって」

「だとすれば、俺はマリアに感謝しないとですね」

「……私も、です」

「最後に話す機会があって良かったです。俺は貴方に会えて……」

「あの!」

「は、はい」

「お願いがあるのです」

「何でしょうか?」

「時間……」

「時間?」

「後で時間を取ってもらえませんか?」

「それは……」

「最初に二人で話した場所で待っています。今日、何時まででも、私は待っています」

 一気にそれを言いきると、カムイの返事も聞かずに、ヒルデガンドはその場を去って行った。その背中を見送るカムイ。

「むむっ、すでに唾をつけていましたか。さすがはカムイ兄なのです」

「マ・リ・ア」

「な、何なのです?」

「ありがとうな。ヒルダを連れて来てくれて」

「おおっ。お安い御用なのです」

 改めて、見送りに来てくれた生徒たちと別れの挨拶を済ますと、五人は、校門に向かった。
 だが、見送りは彼等だけではなかった。校門を出た所で、二人の男子生徒が待っていた。

「マティアスさん、それにランクさんまで」

「やあ、本当は見送りは控えるつもりだったのだけどね。幸いというか、ヒルデガンド様が、あれだったから」

 ヒルデガルト同様、陰から見送るつもりだった二人だが、幸いにもヒルデガンドがマリアに引っ張りだされた事で、こうして出て来れたのだ。

「そうですか。嬉しいです。何というか……、お世話になりました」

「お世話はしてないね。御礼をいうのは、こちらの方だよ」

「御礼ですか? それこそ、俺は何もしていませんけど」

「君には自分の至らなさを教えてもらった。その事に感謝している」

「それって?」

「ヒルデガンド様のお側にいるには、今の自分では駄目だって事さ。あの方の隣に立つに相応しい人間になる為にもっと頑張らなければならない。君を知って、そう思えた」

「そうですか。頑張ってください。マティアスさんなら、必ずなれます。俺が言う事ではないかもしれませんけど」

「いや、そう言ってもらえて嬉しいよ」

「えっと、ランクさんも」

 カムイにとって、ランクの見送りは意外だった。親しくしていたとは間違っても言えない関係なのだ。

「あっ、まあ、そうだな」

「ランク。ちゃんと話しておいた方が良いよ。話せるのはこれが最後かもしれない」

「……そうだな。カムイとは、ほとんど話す機会がなかった」

「そうですね」

「だが、俺はお前を尊敬している」

「はい?」

 この発言もあまりにも意外。尊敬されるような事をした覚えはカムイには全くない。

「剣術大会でのお前を見て、俺は思ったのだ。俺が追うべき理想はお前だと。届くかは分からん。恐らく届かないだろう。それでも、俺はお前を追い続けようと決心した」

「……はい」

「ヒルデガンド様の前にお前が立ちふさがるのであれば、俺は、敵わないと分かっていても、お前の前に立つ。その時は、全力で戦って欲しい。それが俺の望み。その時の為に、俺は、お前を追い続ける」

「はい」

 敵対発言ではあるのだが、ここまで潔いと逆にカムイは嬉しく感じてしまう。敵であっても、敵であれば尚更、認められていると思える事は幸せだとカムイは思う。

「もし、お前がヒルデガンド様の……。いや、俺が伝えたい事は以上だ」

「……俺が言う事ではないかもしれませんが」

 途中で止めたランクの言いたかった事がカムイには分かる。そうであるから、カムイもこれを口に出来る。

「ヒルデガンド様をよろしくお願いします。お二人で支えてあげてください」

「ああ。約束する」

「もちろんさ」

「では、失礼します」

 二人との挨拶を終えた後のカムイは、じっと何かを考え込んだまま、口を閉ざしてしまった。その様子に、久しぶりの再会に浮かれていた四人の心もわずかに冷え込んでしまう。
 前を歩くカムイに気付かれない様に、小声でイグナーツが隣のルッツに問い掛けた。

「さっきの二人は?」

「マリアが連れてきた女生徒の、まあ臣下だな。マリアが連れてきたのが、東方伯家令嬢のヒルデガンド様。二人は東方伯家の従属貴族の子弟だ」

「それって?」

「そう。俺達が担ぐソフィーリア皇女とディーフリートの政敵だな」

「敵か。気持ちの良さそうな男たちだったけどね?」

 イグナーツはわざとらしく横目でアルトを見ている。

「おい、文句の時は俺を見る癖は止めろ」

「ルッツは政略だの策略は担当外。お前の分担だよね?」

「……敵は悪、味方は善。世の中はそんな簡単じゃねえって事だ」

 カムイだけでなく、アルトもルッツも世の中は単純ではないと皇都で思い知らされていた。

「あの女生徒とカムイの関係は?」

「それを俺の口から言わせるな。俺だって人並みの感情は持ってんだよ」

「そういう事ね。それはまた……、困ったね」

 カムイは非情になれる。だが、それは自分が認めた者以外に限っての事だとイグナーツは知っている。ヒルデガンドがこの先の行動の支障になる事をイグナーツは心配した。
 そのイグナーツの心配を払拭しようとアルトが、又、口を開いた。

「それは平気だ。二人とも、お互いの立場は分かってる。だが、分かっていても、どうにもならねえ気持ちってもんがある。それは周りがどうこう出来る事じゃねえ」

「へえ、少し大人になったのかな?」

「それを言われたら益々不機嫌になる。大人の都合が、大人が決めた秩序が、二人を引き離す事になる。そう思うと、大人になんて成りたかねえ」

「そう思うって事が大人に近づいている証拠さ」

「……そうだな。そう言われると、そうかもな」

「そんなのぶち壊してしまえば良いのです!」

「「「マリア?」」」

「馬鹿な大人が作ったものは私たちがぶち壊してしまえば良いのです。そして、また作れば良いのです。もっと良いものを」

 何となく納得してしまいそうになった皆の気持ちをマリアの言葉が吹き飛ばしてくれた。それが分かったアルトは、苦笑いを浮かべながらマリアの頭を撫で始まる。

「……大人になったねえ。マリアから、こんな言葉が聞けるなんて」

「マリアを馬鹿にしているのですか?」

「褒めてんだよ。そうだな。ぶち壊しちまうか?」

「おっ、良いな、それ」

 最初に乗ってきたのはルッツだった。ルッツもルッツなりに思う所があるのだ。

「まあ、俺もそれについてはアルトに乗ってあげるよ」

 イグナーツもそれに続く。

「じゃあ、何からぶち壊すのです?」

「そうだな。どうやってヒルデガンド様をかっさらうかだから」

「皇国を倒す?」

 アルトの言葉にルッツがとんでもない発言を返した。王家に嫁ぐヒルデガンドをさらうとなれば、ルッツの頭にはこれしか浮かばない。

「いきなりそれは無理だよね?」

 すかさずイグナーツが否定してきた。だが、あくまでも”いきなりは”無理だ。

「じゃあ、どこからだよ?」

「おーい。聞こえてるけど?」

「「「「あっ!」」」

 カムイに聞こえないようになんて事はすっかり忘れていた四人だった。

「ネタとして話すのは良いけど、現実には夢物語はなし。とりあえずは、地道に力をつける事だって、分かってるよな?」

「「「「もちろん(なのです)!」」」」

「その力次第で、やれる事は変わってくる。そういう事だ」

「おや?」

 カムイの言葉を聞いたアルトは意味ありげな笑みを浮かべている。

「何だよ?」

「つまり、すげえ力をつけたら、ヒルデガンド様を手に入れるって事か?」

「ば、馬鹿言うな。そんな事言ってないだろ?」

「よし、じゃあ、俺達の最終目標はそれな。カムイの嫁さんを手に入れる」

「おおっ、お姉様をカムイ兄のお嫁さんにですね。マリアは頑張るのです」

「よし、俺も頑張っちゃおうかな」

「俺もだね。あの人は中々素敵だ。義理の姉だと思って良いのかな?」

「……勝手に言ってろ」

 たとえ夢物語であったとしても、カムイの為であれば、全力でそれに向かうのが、四人が成すべきこと。今はまだ、わずかな可能性も見い出せない目標ではあるが、四人の心の中には、もっとも大事な事として刻まれることになった。
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