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魔王の器 作者:月野文人

第一章 皇国学院編

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剣術対抗戦その一 番狂わせ

 皇国学院と王立学院の剣術対抗戦は、一学院の行事に治まらない程の盛り上がりを見せている。先帝の崩御以降、皇都における初のイベントという事でまるでお祭りのような騒ぎだ。
 会場に選ばれた皇立闘技場の周辺にはいくつのも出店が並び、皇都や皇都近くの街から訪れた見物客によって、大いに賑わっている。
 そして見物に訪れているのは、皇国の民ばかりではない。周辺各国からの来訪者も決して少なくない数が、はるばる皇都まで来ていた。
 学生の競技会とはいえ、大陸の二大強国による対抗戦。その関心は決して低くない。
 次代の皇国が変わらず、強国であり続けるのか、それとも王国が皇国を超える力を見せつけるのか。先帝の崩御以降、皇国の武に不審を覚える周辺国にとっては、外交に関わる事になるかもしれない、重要な関心事なのだ。
 そんな事で、剣術競技会は、様々な思惑を持ったもの達が見守る中で、いよいよ開幕を迎えた。
 それは波乱の幕開けとなる。

「ば、馬鹿な……」

 信じられないといった面持ちで立ち尽くすランク。

「中堅、勝者! 王国学院 イーゴリ! 王国学院の三勝により、一回戦の勝者は王立学院Aチーム!」

 皇国学院のエースであるヒルデガンドたちのチームの敗戦が決まった。
 優勝候補であるはずの皇国学院Aチームのまさかの一回戦敗退に闘技場を埋め尽くした観衆も声を失っている。

「まずい!」

「どうすんだよ? 完全に予定が狂ったじゃねえか」

 ヒルデガンドのチームに賭けておけばまず間違いない。倍率は低くても、確実な利益をと考えていたカムイたちにとっても、大きな誤算だ。

「完全にやられたな。あいつら順番を考えてきてる」

「どういう事?」

「強い順で言うと、中堅、次鋒、先鋒で並べてるんじゃないかな」

「そういう事ね。先に三勝してしまえば、それで勝ちだものな」

 対抗戦は五対五の星取戦。先に三勝した方が勝ちだ。逆に言えば、先に三敗しまえば、副将、大将の出番はない。結局、第一試合はヒルデガンドもマティアスも剣を取ることなく終わってしまっている。

「どうする?」

「急いでオットーに伝えろ。裏を取れって」

「裏?」

「王国に賭けろって事だ。俺達を除いてな」

「残りのチームも同じって事か?」

「多分な。相手は騎士の礼儀なんてかまっていられないって事だろ」

 強い順に大将から並べて行くのが、一般的な団体戦の礼儀。王国側はそれを完全に無視しているのだ。

「分かった!」

「ディーに伝えないと」

 セレネの心配事はカムイたちとは違う。当たり前だが、次に対戦に出てくるディーフリートに気持ちが向いていた。

「伝えてどうする?」

「それは必要な対策を」

「順番は変えれないぞ。重鎮たちが臨席している前で、そんな事してみろ。ディーの面目は丸つぶれだ」

「じゃあ、どうするのよ?」

「代わりにセレが勝てばいいだろ。いいな、一回も負けられないからな」

 そう言うカムイの視線はセレネではなく、闘技場の先に向けられていた。
 敗北に落ち込むランクの肩を叩いて、励ましているヒルデガンドの姿がそこにあった。

「……そうね。負けられないわね」

 この日の為に、血を吐くような鍛錬を続けて来たのに、剣を持つこともなく、終わってしまった事の無念。そんな様子を全く見せていなくても、セレネには、心の中でヒルデガンドが悔しさに泣いている様子が感じられた。

「でも勝てるかしら?」

「相手がちゃんとこっちを研究してきたなら、勝てるだろ」

「えっ? どういう事?」

「俺達には一番弱いチームを当ててきているはずだ」

「なるほどね。でも二回戦は?」

「それこそ、セレの頑張り次第」

「あんたが頑張れば良いでしょ!」

「最悪な」

「最悪って何よ?」

「四チーム中、三チームが負けなんて事になれば、周りはどう思う?」

「それは」

「皇国の威信はがた落ちだ。それ自体はどうでも良いけどな」

「良いんだ」

「だが、それでこの世代の面目が潰れては困る。この先の発言力が低下する事になるからだ」

「だから?」

「この対抗戦の意味を少しでも薄れさせる必要がある。大将が一度も戦わない大会って、どう思う?」

「変ね」

「そうだろ? 負けたと言っても実力者は出ていない。それでは、王国が優れているなんて言い切れない。そういう筋書きだ。その為には俺も戦わない方が良い」

「……なんか、誤魔化してるでしょ?」

「別に……」

「やっぱり。もっともらしい理由つけて、自分が戦いたくないだけじゃない」

「じゃあ、負けるか?」

「それは……、嫌よ」

 ヒルデガンドたちの悔しさを思えば、絶対に負けたくない。まして、カムイの言う通りだと、ディーフリートも剣を取ることなく負ける事になるのだ。

「セレが頑張れば必然的に俺は戦わない。そういう事だ」

「アルトは? 見た目より強いのは知っているけど」

「そこは、ちょっと工夫する」

「また悪巧み?」

「向こうが仕掛けてきたことだ。こっちがやって悪いという事は無い」

「はい、はい」

 カムイたちには騎士の規範も、貴族の面目なんてものもない。手段を選ばない。それはカムイたちにとって望む所だ。

 そして、カムイの予想通り、皇国の他のチームも副将戦に至る前に敗北する事となった。
 会場はもう、始まる前の賑わいはすっかりと消え去り、沈痛とも言える雰囲気を醸し出している。

「三戦全敗とは」

「これでは、皇国の威信が」

「まずい、まずいぞ。周辺国からの来賓も何人もいるのだ。その目の前でここまで不甲斐ない所を見せては」

 慌てているのは、対抗戦を観戦している皇国のお歴々の方々。東西方伯、皇国騎士団長も含め、早々たる面子が揃っている。
 もっとも、文句を言っているのは、それ以外の参列者。両方伯は、負けたのが自分の子供のチームとあって何も言う事が出来ずに、気まずそうにしている。

「最後はカムイ・クロイツか」

 そんな周りに構わずに皇国騎士団長がぽつりと呟いた。

「騎士団長はその者をご存じなのですか?」

 やや、喜色を表して周りの者が騎士団長に問い掛けた。騎士団長が名を知るものとなれば、期待できる。そう思ったのだ。
 だが、その期待は騎士団長の次の一言であっけなく消さる事になる。

「部下から名を聞いた。元ホンフリート家のカムイ。今はクロイツ子爵家だ」

「……それでは、もう負けは」

 悪名高いホンフリート家、そんな輩が勝てるわけがないと思うのも当然だ。ソフィアの事を知っている者たちも、だからこそ、カムイが魔法を使えない事を知っている。
 がっくりと肩を落とす、お歴々の面々。

「それは、どうかしら?」

「ソフィーリア様?」

「カムイ・クロイツはそれなりの戦いを見せてくれると思うわ」

「ソフィーリア様も彼をご存じで?」

「ええ、良く知っているわよ。クラウのクラスメートなのよ。彼」

「はあ」

「まあ、大人しく見ていましょう。私達には、それしか出来ないのですから」

「はあ……」

 ソフィーリア皇女にそう言われても、何も知らない来賓が期待出来るものではない。

◇◇◇

「これより一回戦、第四試合を始める! 先鋒、前へ!」

 審判の号令で、先鋒の二人がそれぞれ前にでる、カムイ側の先鋒はセレネだ。やや、緊張した面持ちのセレネにカムイたちから激励の声が飛ぶ。

「セレネ、気楽にな!」

「でも負けるなよ!」

「負けたら覚悟しろよ! あっ、でも気楽にな!」

「どっちよ!?」

 後ろを振り返って、カムイたちを怒鳴りつけるセレネ。

「先鋒! 早く前に!」

「……すみません。あの馬鹿たちが」

 セレネの緊張はすっかり解けている。緊張が解けたことさえ、セレネが気が付いていないくらに、自然に。

「構え!」

 審判の構えの声とともに、それぞれが身体強化魔法の詠唱を始める。それが終わるのを見計らって、審判が開始の声をあげた。

 一気に前に詰めて、剣を振るう王国の先鋒。それをセレネは横にステップを踏むことでかわした。更に横に振るわれる剣をセレネは剣を合わせる事で防ぐ。

「おおっ! 女の子相手に手加減なしか?!」

「王国ってエゲツねえな!」

「女の子には優しくしろって教わってないのか!?」

 今度は相手に向かってヤジを飛ばすカムイたち。

「まっ、待て!」

 すかさず審判が待ての声で試合を止めた。そのまま、カムイたちの方に向かって審判は歩いて行く。

「君たち、見苦しい声援は皇国の恥だと思うが?」

「それを言うなら、聞き苦しいだな」

「そうそう。見苦しくはないと思う」

「とにかく! 静かに見ていなさい!」

「「「はぁい!」」」


 そんなカムイたちを茫然とした様子で見つめる観戦者たち。沈痛な雰囲気は薄れたと言えば薄れたのだが。

「あの、ソフィーリア様。彼等は本当にお知り合いですか?」

「お、大人しく見ていましょう。それが良いわよね?」

「はあ」

「くっくっくっ、や、やっぱり、お、面白いな」

「テーレイズ皇子?」

「だ、黙って、み、見ろ」

「はあ」

 いつになく楽しそうに笑っているテーレイズ皇子に戸惑う周りの者たち。
 そんな彼らに構う事なく、試合は先に進んでいた。

 相手の剣を躱しざま、後ろに回ったセレネは相手の背中に剣を思いっきり叩きつけた。
 前のめりに倒れる王国生徒の背中を更に足で蹴りつける。王国の先鋒はそのままの勢いで闘技台の上から転がり落ちていった。
 剣技会の規則では場外は即、敗北となる。セレネの勝利だ。

「場外! 勝者! 皇国先鋒 セレネ!」

「やった!」


 跳びあがって喜ぶセレネを見詰めるお歴々の方々。

「えっと、勝ったわね」

「しかし、最後のあれは?」

「足ね……」

「足で蹴るなどと、騎士の戦いではございません」

「良いではないですか。勝ったのですから」

「そういう問題では」

「そ、その、き、騎士の、た、戦い方、とやらを、ま、守った、けっ、結果が、今だろ」

「あの、それは?」

「だ、黙って、み、見ろ」

「はあ」

 いつになく能弁なテーレイズ皇子に戸惑う周りの者たち。
 そんな彼らに構う事なく、試合は続いて行く。


「し、勝者! 皇国、次鋒、ルッツ!」

「楽勝!」

 わずかに二撃。その二撃でルッツは相手の次鋒を場外に叩き落した。吹き飛ばしたと言った方がその様を表すには正しい。

 あっと言う間に終わってしまった次鋒線に驚きに目を見張っているお歴々の方々。

「また、勝ったわね」

「は、早い」

「これで二勝。あと一勝ね」

「だが、問題は次ですな」

 これまでじっと黙って試合の成り行きを見詰めていた皇国騎士団長が口を開いた。

「どういう事かしら?」

「王国は中堅にもっとも強い生徒を置いております。その次が次鋒、次が先鋒で
すな」

「ちょっと、それって?」

「騎士の礼を無視したやり方です」

「なんと? そんな事が許されるのか。すぐに王国学院に改めるように言わなくては」

「今更だ。それに、どう言うのだ? そちらの副将と大将は弱いのではとでも言うのか? そんな事を言っても、しらばっくれられて終わりだ」

「しかし」

「とにかく、もう事は進んでいる。残るはあの一チームのみなのだ、こちらの中堅は強いのですかな?」

「それは分からないわ。どちらかと言えば、頭脳派という感じね」

「なるほど。こちらのチームも騎士の礼は無視ですな」

「でも、それをしたから勝てているのではないかしら?」

「そうですな。しかし、礼のない戦いは悲惨さしか生み出しません」

「そう。まあ、何度も言うようだけど、私たちは見ているしかないわ」

「そうですな」

「中堅! 前へ!」

 王国から中堅の生徒が闘技台に昇ってくる。それに対するのは……、一振りの剣。

「皇国Dチーム、中堅、前に」

「こちらの中堅はその剣です」

「はっ? 言っている事がわからん。とにかく早く上がりなさい」

「それは今は無きクラスメートが使っていた剣です」

「いや、だから、それがどうした?」

「せめて彼の剣だけでも、この場に参加させてあげたいと思いまして」

「いや、そう言われても」

「とにかく、こちらの中堅はその剣です。戦いを始めてください」

 審判が何を言おうとカムイたちは、中堅は剣の一点張りだ。

「ふざけるな! ただの剣とどう戦えと言うのだ!」

 王国側の生徒がたまらず文句を言ってきた。

「どうとでも、はじいて場外に落とせば、そっちの勝ちじゃないか?」

「なんだと?!」

「それとも置いてある剣にも勝てないのか?」

「そんなわけがないだろ!」

「じゃあ、戦えよ。審判、お願いします」

「いや、しかし」

「僕たちの友の為にもお願いします!」

「……いや」

「審判! こんな戯言に付き合うのはまっぴらだ! とっとと始めてくれ!」

「……そちらが言うのであれば。では、構え!」

「構えなどいらん!」

「それはそうだな。始め!」

 始めの号令とともに前に歩き出した王国の生徒は、置いてある剣の所までくると、かるく蹴って、闘技台の下にそれを落とす。

「おおっ! オットー! 良く頑張ったな!」

「お前の戦いは無駄にしないぞ!」

 その剣に駆け寄るカムイたち。

「審判!」

「勝者、王国、中堅」

「何なんだ一体」

「……君、早く降りなさい。次は副将戦だ」

「なっ!? えっ? そんな馬鹿なっ!?」

 ここでようやく王国の生徒は自分の戦いも終わってしまった事に気が付いた。
 そして次の副将は、チームで四番目、下から二番目に弱い生徒だ。


 なんとも馬鹿馬鹿しい、寸劇を見せられて、すっかり固まってしまっているお歴々の方々。

「……あの、あれは?」

「さ、さあ。何かしら?」

「今は亡きクラスメートと言っていましたな。そんな生徒が彼らのチームに」

「今は無きね」

「はっ?」

「そのクラスメートは今も元気に生きているわ。学院は去りましたけどね。だから、亡きではなく、無きね」

「それはペテンではないですか?」

「ぶっ、ぶわぁっはっはっ」

「テーレイズ皇子?」

 堪え切れずに噴き出したテーレイズ皇子はそのまま腹を抱えて笑っている。普段は決して見られない様子に戸惑う周りの者たち。

「と、とにかく、こちらの負けです」

「だが、一番強い中堅は潰した。後に残るは、四番手か五番手だな。それであれば勝てると見込んだのであろうな」

「そうでしょうね」

「勝ったか。やり方はとても褒められたものではないがな」

「それでも全敗は免れたわ」

「次に負ければ、それも大した意味はなさないと思いますが」

「次も勝つわよ。きっとね」

「そうですか。次の手が楽しみですな」

「私もよ」


「勝者 皇国副将 アルト! これにより皇国学院Dチームの勝利!」

 そして、案の定、アルトが勝ち。カムイたちのチームの勝利が決まった。

「一回戦は楽勝だったな」

「ああ、問題は次か」

「セレネが勝てれば勝ちだろ?」

「まあ、という事でセレ、頑張れ」

「ちょっと、重荷を背負わせないでよ」

「多分、大丈夫。一回戦を見た限りは、ぎりぎりでセレの勝ちだ。油断しなければな」

「そう。まあ、頑張るわ」

◇◇◇

 そして、二回戦に移る。二回戦の第一試合は王国同士。まったく内容のない戦いで終わった。当然、勝ち上がったのはAチームになる。
 そして二回戦 第二試合が始まる。

「先鋒! 前へ!」

 向かいあう先鋒の二人。

「構え!」

 小さく詠唱の声を呟かれる。それが終わるとそれぞれが剣を構える。

「始め!」

 最初に前に出たのはセレネの方だった。上段から振り下ろされる剣、その剣に真っ向から王国の生徒も剣を交差させる。金属音が鳴り響く。
 そのまま、押し込もうとする力を斜めに反らして、相手の態勢を崩そうとするセレネ。
 だが、相手の方も無理押しをせず、横に跳んで間合いを取った。
 そこに飛び込んでいくセレネ。向かえ討つ態勢を取った相手の更に横に回り込むようにステップを踏む。
 横に薙いだ剣は相手に剣に防がれたが、その後も、セレネの動きは止まらない。常に相手の横を取るような形で攻め続けていく。

「ほう。あの女生徒。思ったよりやる」

 感嘆の声をあげたのは騎士団長だった。

「そうなのですか?」

「何よりも重心が安定している。女生徒とは思えない安定感だ。あれは力というよりは全体のバランスだな」

「なるほど」

「これは勝てるかもしれんな。相手のほうが崩れ始めている」

 右から左からと攻め込まれている相手は、徐々にその動きに遅れが出てきている。

「今だ!」

 カムイの声が響く。それに反応するように、セレネが大きく剣を突き出した。それを避けるために、体を沈める王国の生徒。
 その顔面にセレネの膝が直撃した。
 カウンターとなって決まった膝蹴りによって、王国の生徒はそのまま前のめりに崩れて行った。

「おい、最後は膝蹴りか」

 軽い突っ込みを入れる皇国騎士団長。

「あれは?」

「誘いですな。しかし思い切った事をする。沈み込まなかったらどうするつもりだったのだ」

「自信があったのかしら?」

「癖を見抜いていたと? だとすれば、ますます大したものだ」

「とにかく、これで一勝ね」

「そうですな」

 倒れた相手の首筋にセレネがぴたりと剣を当てている。

「勝者 皇国Dチーム 先鋒、セレネ!」

 それを確認して、審判がセレネの勝ちを宣言した。

「うおおおおお!」

 闘技場に大きな歓声があがる。諦めかけていた皇国の観衆に、もしかしたらの期待が生まれた瞬間だ。

「次鋒戦! 両者、前に!」

「おおおお!」

 闘技場の観衆に完全に活気が戻った。次戦は一回戦で圧勝したルッツ。期待は高まる。

「始め!」

 次鋒戦も先手を取ったのは、皇国側のルッツ。一瞬で間合いを詰めると、下から上で剣を振り上げる。それを防ぐ王国の生徒であったが、ルッツの剣の勢いに押されて、体が後ろに流れる。
 更にルッツが振り上げた剣を逆に振り下ろした時点で、もう相手は完全に態勢を崩してしまった。あとはもう、ルッツの猛攻に押されるばかり。
 闘技台のはじまで追い込まれ、更に防ぎきれずに場外に落ちて行った。

「場外! 次鋒戦 勝者 皇国Dチーム ルッツ!」

「うおおおお!」

 会場は多いに盛り上がっている。それはお歴々の面々も同じ。

「二勝目です。後、一勝」

 ルッツの圧倒的な強さを見て、ソフィーリア皇女も興奮を隠せなくなっている。

「ふむ。彼は強いですな。どこの家の者ですか?」

「クロイツ子爵家。正確にはカムイ・クロイツに仕える者よ」

「なんと? クロイツ子爵家はともかく、その子供の部下と言うのですかな?」

「ええ。ちなみにもう一人のアルトくんもそうよ」

「クロイツ子爵家はノルトエンデ。さすがはという所ですか」

「さすがは?」

「ノルトエンデを任される程の者です。クロイツ子爵自身も相当の強者ですからな。なるほど、次代もクロイツ子爵家の武は健在ですな」

「そうだったのですね」

「次はまた、あの茶番ですかな?」

「まあ、それで勝つのであれば良いのでしょう」

「しかし、王国もやや形振り構わぬという感じですな」

「えっ?」

「前に出て来た者。あれは、一回戦の副将だったはずですが」

「何ですって?」

「まあ、大人しく見ていましょう」

「中堅戦! 勝者……、ん?」

 早々と勝者を宣言しようとした審判だったが、皇国側の生徒が前に出てくるのを見て、言葉を止めた。

「君、まだ中堅戦だが?」

「ああ、分かってる。俺が中堅だ」

 アルトが剣を持って、立っていた。

「しかし、さっきは」

「いや、さっき、かなり文句を言われたからな。今回はちゃんと出る事にした。何か問題が?」

「いや、特に」

「ちょっと待て! それはおかしいだろ! さっきは剣だったではないか!」

 審判に文句はなくても王国側にはある。これでは順番を変えた意味がない。

「別に前倒ししてもかまわねえと思うけどな?」

「……卑怯な」

「それはどっちの事かねえ。お前、確か一回戦は副将だったはずだよな?」

「何だと?! 君、それは本当か?!」

「い、いえ、それは」

 順番に関して王国が文句を言う資格はない。

「まあ、別にこっちは構わねえ。審判さん、さっさと始めてくれ」

「……分かった。では、構え!」


 そしてまた呆気にとられる事となったお歴々の方々。

「くっくっくっ」

 どうにも笑いが堪えられない様子のテーレイズ皇子。

「剣技を競うというよりは、化かし合いですな」

「ま、まあ。カムイくんたちだからね」

「騎士道という点から言えば、中々に許しがたいものがあるが。まあ、戦巧者と言えば、言えない訳でもない。勝つために手段を講じるのは間違いではない」

「そうよね。でも、ここで出てきたという事は」

「勝つのでしょうな。これで決勝という事か」

「そうね」

 そして問題なく、アルトの勝利が決まった。

「中堅戦 勝者、皇国Dチーム アルト! これにより決勝進出は皇国Dチームに決定!」

「うおおおおおおおっっっ!!」

 まさかのDチームの決勝進出に大いに沸き立つ闘技場の観衆。

 一方で納得いかないのは王国学院側だ。

「これは、どういう事ですか?!」

 王国学院の教師、という名目で、同行してきた王国政府の人間が、同じく教師を名乗っている王国騎士に詰め寄っている。

「それは……」

「Dチームは落ちこぼれの集まりという話ではありませんでしたか?」

「いえ、確かにそういう情報でした」

「あれのどこが落ちこぼれですか! 少なくとも次鋒の実力は、剣の素人である私が見ても圧倒的なものでしたよ!」

「しかし、あんな卑怯な手を使われては」

「手段の問題なのですか? 彼等は一人も負けていないのですよ?! それを分かっていますか?」

「分かっています」

「どうするのです? こちらか仕掛けておいて敗北なんて事になったら」

「決勝で勝てば良いのです」

 Aチームの中堅がそこで口をはさんできた。

「それはそうですが、本当に大丈夫なのでしょうね?」

「大丈夫だ」

「負けは決して許されないのですよ。ああ、こんな事なら欲を欠かずに優勝だけを狙えば良かったのです。それを皇国には一勝もさせないなどと余計な事を考えるから」

「しかし、それは実際にうまく行っていた」

「それは優勝出来ればの話です。絶対に絶対、負けはないのですね?」

「そこまで言われては。組み合わせ次第では、絶対とは言い切れない」

「ほら見なさい! Aチームでさえ一般の生徒は二人いる。その二人が負けてしまって、貴方たち、騎士団の」

「そこまでです!」

「……すいません。興奮しすぎました」

「ちょっと冷静に考えましょう。彼等も騎士の礼など全く気にしていない。恐らく、平気で順番を変えてくるでしょう。しかも、その後でもこちらの順番を見て、一人分はずらす事が出来る」

「ええ、一人少ないというハンデをあんな風に使ってくるなんて、頭の回る連中です」

「確実に勝てるであろうと思えるのは、自分と、ルードルフの二人」

「千人将! 自分は!」

「馬鹿野郎!」

「あっ! 失礼いたしました! イーゴリさん、自分では勝てませんか?」

「あのルッツという生徒を相手では無理だ。それに、どうもあのアルトという生徒も自分は気になる」

「あの生徒が?」

「実力を隠しているのではないかな。どうもそう思える」

「なぜ、わざわざ?」

「組み合わせでこちらの判断を誤らせる為だろうな。星取戦など、所詮組み合わせ次第なのだ。だから、我等は勝ったのだろう?」

「はっ、そうですね」

「ちょっと、ちょっと、結局の所どうなのですか?」

「星取戦では絶対とは言えない。足元を掬われる可能性は充分にある、という事です」

「そんな? そんな事が許される訳ない。下手すれば私達全員が国に帰れなくなりますよ」

「星取戦でなければ良いのです」

「ん? どういう事です」

「決勝戦の戦い方の変更を。勝ち残り戦に変更させてください」

「そんな事を相手が飲むわけがない!」

「飲ませるのです! 人数の問題でも、全員が戦えないでも、何でもかまいません!」

「勝ち残りであれば絶対に勝てるのですね」

「もちろんです」

「あのルッツという生徒は?」

「負けません。それに相打ちという手もあります。その為のメンバーもこちらにはいるのですから」

「わかりました。とにかく交渉してきます」

「千、いえ、イーゴリさん」

「我等はどんな手を使っても負けるわけにはいかんのだ。王国騎士である我らまで紛れ込ませているのだぞ。それが学生に負けたなど。彼の言うとおり、国には帰れなくなる。いや、帰っても居場所などない」

 王国学院の生徒の三分の一以上は、本当は王国騎士団の騎士たちだ。ほとんどが、騎士団に入って間もない新米騎士ではあるが、イーゴリは違う。
 確かに騎士団に入ってからの期間はそれ程長い訳ではないが、王国史上、最年少で千人将まで上り詰めた人間。それがイーゴリ・ミハイロフだった。
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