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魔王の器 作者:月野文人

第一章 皇国学院編

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剣術競技会その一 迷監督

 皇国学院の剣術競技会。学院における最大のイベントと言っても良い。
 何といっても皇国は武を重んじる国。学生の競技会とは言っても、その重みは他国とは異なるものが古くからあった。
 皇国が多くの国を併合したこの時代では、同じような大会が開かれているのは、他にルースア王国の王立中央学院くらいとなっており、伝統の重みが、益々皇国学院剣術競技会に箔を付けている。
 更に今年は近年では最大の盛り上がりを見せている。黄金の世代と言われているヒルデガンドたちの学年が、初めてその実力を公にする時なのだ。注目度は高い。
 こうなると苦労するのは競技会を運営する教師たちだ。

「はあ。これだけ気を遣う大会は初めてです。特別手当とか無いのですかね?」

 毎年、大会運営に関わっている教師であったが、今年はやはり、かなり大変だ。その口からは愚痴が溢れる。

「出るわけがないでしょ? そんな事より、グループ分けについて、三年生からのクレームはありませんか?」

 対戦のグループ分けには特別の配慮がなされている。有力家のチームが潰し合うのを避ける為だ。

「ある訳がないでしょう? それにあったとしても認める事も、見直す事も出来ません」

「そうですね。クラウディア皇女殿下の所は?」

「D組と同じグループです。マリーさんが出ていないので」

「良かったですね? 魔導士団長の娘で」

「何の慰めにもなりませんよ。教師という立場にありながら、一部を贔屓するなんて胸が痛みます」

「気にする必要はありません。三年生にとってもある意味、チャンスです」

「チャンス?」

「対戦で実力を認められれば、引き立てられる可能性があります。目立たない所で下手に潰し合いをするよりはマシです」

「……そういう考え方もある訳ですか。少し気が楽になりました」

 そうだとしても不正をしている事に変わりはない。納得しているのは、自分への言い訳だ。

「気楽になるのはまだ早いですよ。次は来賓に気を使わないと。各選手の情報は頭に入れましたか? 対戦相手の事は必ず聞かれますよ」

 来賓も相手が有力貴族家となれば、教師が付きっ切りで、解説という名の接待を行う事になる。
 二人はその役目も押し付けられているのだ。

「……胃が痛くなってきました。東西方伯家からは誰が?」

「当主、自らが」

「えっ……、そ、そんな」

 貴族の頂点が相手と聞いた教師の顔は、一気に青ざめている。機嫌を損ねる様な事になれば、どんな目に会うか。それを思うと。

「……帰って良いですか?」

 こんな気持ちになるのは当然だ。

「駄目です! 私一人にするつもりですか!?」

「ちなみに学院長は?」

「どちらか片方の相手をする訳にはいかないと言って。運営席にずっと居るそうです」

「逃げましたね?」

「ええ。それで、どちらにしますか?」

「勝つ方でお願いします」

 負けて不機嫌になる方の相手などしていられない。

「駄目です」

 その思いはもう一人も同じだ。

「……ではくじ引きで」

「良いでしょう」

 教師たちの苦労は、大会が終わるまで続く。

◇◇◇

「まあ、予想通りというか、何というか」

 発表されたグループ表を見て、呆れた様子でカムイが呟いた。
 抽選であるはずのグループ分けだが、見事にヒルデガンド、ディーフリート、オスカーのチームは別のグループになっている。ついでに言えばクラウディア皇女のチームもだ。

「そりゃ仕方ねえだろ? 学院には学院の都合ってもんがある」

「おっと、どうした? アルトがそんな事を言うなんて」

「世間の厳しさを少し知ったかな。なんてな、教師たちの顔を見ていたら、さすがに同情した」

「それは言えてる」

 続々と来場してくる来賓を迎える教師たちの様子をカムイたちは見ていた。どの顔も、雲の上の存在を迎えて、その緊張に強張っていた。

「それで、どっちを見る?」

「俺はオスカーさんのチームが居るグループ」

「はあ? ヒルデガンドさんとディーフリートさんは良いのか?」

「予選は問題ない。情報収集が優先だ」

 大会当日になってもまだカムイは情報収集を止めるつもりはない。

「ちなみに思わぬ伏兵ってのは?」

「ヒルダのグループには居ない」

 きっぱりと言い切るカムイ。それが出来るだけの調査を済んでいる。

「尽くすねえ」

「請け負った仕事だ。気になるのは二チーム。一つはオスカーさんと同じグループ」

「もう一つは?」

「クラウディア皇女のグループ」

 カムイのこの言葉だけで、アルトには、それがどのグループか分かった。

「よく出てきたな」

「何でだろうな? 俺にも理由が分からない」

「どう考えても予選敗退だろ?」

 クラウディア皇女は神聖魔法の使い手としては評価されているが、それ以外はさっぱりだ。テレーザの剣も弱いとまでは言わないが、学年の上位には居ない。
 勝ち上がるには、後の三人がどれ程のものかとなるのだが、さすがに同級生の実力は、カムイたちも把握している。

「でも相手が気を遣えば分からない」

「まさか?」

「あるかもな」

「それを人は八百長と呼ぶぞ?」

「まあ。そして見る人が見れば、八百長だと分かる」

 クラウディアのグループには、八百長を隠せる実力もない。

「無いことを祈るしかねえな。ソフィーリア皇女の評判を落とす事に繋がりかねねえ」

「アルトはそっちな」

「つまんねえ方を見させるなよ」

「オスカーさんのグループの二位がヒルダの一回戦だから」

「……それなら仕方ねえか。まあ、任せておけ。それで見るのは、どのチームだ?」

「三年E組」

「それって?」

「辺境組」

「何で又? まさか勝つつもりか?」

 辺境領主の子弟が、自ら実力を示そうとするなど、普通ではあり得ない。皇国に目を付けられて良い事など何もないのだ。

「そのつもりだろうな」

「目立つだろ?」

「まあ、どこまで勝ち残るかによる。と言ってもな、グループに恵まれた。決勝進出は間違いない」

「困ったもんだ」

 カムイたちは、他の辺境領主にも目立って欲しくないのだ。

「刺激したみたいだ。実力を隠すばかりでなく、見せつける事も必要じゃないかって言っていた」

「一部がそれをやっても半端なだけだろうが」

 一つ二つの辺境領が実力を見せつけても、意味は無い。それは個別に反乱を起こすのと同じ事だ。

「年上は扱いが難しい」

 カムイがやろうとしている事に同意はしても、それでカムイに全て従うわけではない。それぞれの思惑は辺境領の間でも存在していた。

「それを言ったら、うちのクラスの奴らは、ほぼ全員が年上じゃねえか」

「わざわざ入学を遅らせている事に考えの深さの違いがある」

「それもそうか」

 カムイの同級生の辺境領の子弟たちは、ヒルデガンドたち有力家の子弟が集中する事を調べた上で、この学年を選んでいる。その上の学年は、それをせずに入学した者たち。周到さの違いは明らかだ。
 それを考えると、辺境領の子弟も優秀な者がカムイの学年に集まっているという事になるが、それに気付いているものは、当人たち以外には居ない。

「一位通過だと、順当に行けばヒルデガンドさんの二回戦。二位通過だと、ディーフリートさんの一回戦か」

「相手は目立つ相手だろ?」

「どっちが良い?」

「一位通過。一回戦は注目されない。そして二回戦に進んでも手も足も出ずに完敗だ。目立たないな」

「お前なあ。情報収集する必要あんのかよ?」

「万一、二位通過の場合は、ディーの所で完膚なきまでに負けてもらわないと。その為だ」

「……じゃあ、お前が見ろよ」

「クラウディア皇女とテレーザの戦いなんて見たくない」

「それが本音か!?」

「良いだろ? 剣を侮辱するような所業があったら、俺は本気で怒る」

 剣に関しては、カムイはとことん真面目だ。もし、本当に八百長なんて真似をすれば、その場で、暴れだすかもしれない。

「……分かった。見りゃあ良いんだろ?」

 そんなカムイの性格を、アルトは良く分かっている。

「よろしく」

◇◇◇

 そして、各グループ総当りの予選が始まる事になる。

「中央の貴族だからって、馬鹿に出来なかったな。ちょっと反省」

 カムイが見ているのは、予定通りオスカーのチームがいるBグループ。会場では、カムイが注目していたチームがオスカーのチームと戦っていた。
 マリーのクラスのチームだ。カムイが注目しただけあって、オスカーのチーム相手にも全然負けていなかった。
 一人だけが。
 初戦こそ圧倒的な力を見せつけたのだが、後が全く続かない。結果は一対四で負け。これでは、予選は通過出来ない。
 カムイがわざわざ見に来た甲斐は全くなかった。

「……まあ、良いか。強い人の試合は見ていて楽しい。次は三年生同士だな」

 そして、次の対戦。それなりにカムイは競技会を楽しんでいる。自分の実力は隠していても、剣が好きである気持ちは、誰にも負けていないのだ。
 目の前では三年生同士の戦いが進んでいく。

「うーん。やっぱり、研究する事を知ってるな。練習を見ていた時よりも手強い感じだ」

 対戦に夢中になっているカムイは、独り言を呟いている事にも気が付いていない。

「……左✕、右○。足元攻めろ。……駄目か。まあ、次戦で確認だな」

 何か呟いては、ノートに書き込む。そんな不気味なカムイに誰も近づこうとしない。一人を除いて。

「ん?」

 誰かの気配を感じて、カムイが後ろを振り返ると、そこにはマリーが立っていた。

「気付かれたか。夢中になっていたから、分からないと思ってたのに」

「気配が近づけば気付く。当然だろ?」

「学生でそれを当然とは言わないよ。全く、観戦してる側じゃないだろうに」

 そう言いながら、マリーはカムイの隣の席に座る。

「観戦じゃない。研究中。マリーさんこそ。剣なんて興味ないだろ?」

「一応は自分のクラスが出てるからね」

「応援? 柄じゃないな」

「うるさいよ。クラスメートを応援して何が悪い?」

「だから、それが柄じゃない。クラスメートの応援って、女子生徒じゃあるまいし」

「女子生徒だよ!」

「そうだったっけ?」

「……もう良い。無駄口叩いていて良いのかい? 次が始まるよ」

「おっと。いけない。えっと……、足元✕、……右も✕。反対だな。……攻めろよ」

 カムイは、又、対戦を真剣な目で見つめながら、何かを呟いてはメモを書くを繰り返している。

「何してるんだい?」

「研究って言ったろ? やっと攻めた。うわっ、酷いな。あれじゃ駄目だ」

「何が?」

「力の差がありすぎて、参考にならない」

「✕ってのは?」

「苦手な所……。終わった。なあ、強い順番に戦うんじゃないのか?」

 カムイの目には勝った方の次鋒は、それなりに強さに見えた。

「お前、こういう事にほんと疎いな。実家の序列が影響するのさ。あたしだって、それ位知っているのに」

「なるほどな。爵位が理由なら順番を変えて良いのか。それは面白い」

「おや、そういうの嫌いじゃないのかい?」

「普通は嫌いだけど、対戦だと面白いだろ? 結果が最後まで分からない」

「……剣馬鹿」

「魔法馬鹿に言われたくない。よし、次と」

 そして、又、カムイは対戦に熱中していく。中堅戦は実力が伯仲していて、中々の戦いになっていた。

「なあ?」

「ん? 今、忙しいんだけど?」

「アルトは?」

「ほう。なるほど、それを聞きたかったのか」

 試合から視線を外して、マリーを見るカムイ。その顔には意味ありげな笑みが浮かんでいる。

「研究は良いのかい?」

「こっちの方が面白そうだ」

「面白くはないよ。ちょっと相談があっただけだ」

「恋愛相談はアルトには無理だな。あいつ、そういう事に鈍感だから」

「お前が言うな」

「……何故?」

 心底不思議そうな顔をしているカムイ。自分が鈍感である事にも気付かない鈍感ぶりに、マリーも呆れてしまう。

「もう良いよ。アルトには設計の事で、少し聞きたい事があっただけさ」

「アルトなら、Dグループを見てる。話があるなら、そっちに行け」

「……別に。急ぎじゃないから」

「無理しちゃって」

「無理なんてしてないよ。ほら、試合終わっちまうよ」

「おっと。……終わったじゃないか」

「自分で目を離したんだろ!?」

 お前の責任だとばかりに、睨んできたカムイに、又、マリーは声を荒げてしまう。

「……それもそうか。よし、次だ」

 あっさりと納得して、又、視線をカムイは対戦に戻した。
 このあっさりさも、マリーをイラッとさせるのだが、ここで激昂しては負けだと、気持ちを落ち着かせる。

「……そんな研究してどうするつもりだい? 学生の間の実力なんて役に立たないだろ?」

「知らなかったのか? 俺、ヒルダに雇われてる」

「雇われてる?」

「剣術競技会までの間、剣を教える事。研究はヒルダのチームに対戦相手の情報を教えるだめだ」

「へえ。そういう事になってたのかい。ディーフリートはよく納得したね?」

「元々、ディーがルッツを貸せと言うからだ。ルッツを貸す事をヒルダに許してもらう代わり」

「それは又、律儀な事だね」

「そんな事はない。最初に会った時、言ったからだ。自分の部下を誰かに渡す気はないって。嘘をつく事になるだろ?」

「それを律儀って言うんだよ。それでヒルデガンドのチームは勝てそうかい?」

「当たり前。余程の事がない限り、優勝は間違いない」

「例えば?」

「縁起でもないけど、ヒルダとマティアスさんが今死ぬ」

 そんな事が起こる可能性は無に等しい。つまり、ヒルデガンドのチームの優勝は揺るぎないという事だ。

「……何の為の研究?」

「引き受けたからには全力を尽くす。それが俺の主義だ」

「ああ、あんたはそういう奴だったね」

 こういうカムイだから、自分の魔道具が出来上がったのだとマリーは思っている。心の中で思っているだけで、感謝の言葉を口にする事など決してないだろうが。

「……このチームで決まりか。そうなると……、対戦は……、ギルベルトさんくらいか、気をつけるのは」

「結局?」

「最悪でも四対一、順当なら全勝」

「全く研究の意味が……」

「次はオスカーさんのチーム。研究する意味はある」

「強いのかい?」

「強いかな? 初戦は相手が弱すぎたから、実力を測れなかったけど」

「オスカーの所を強いのかと聞かれて、疑問符をつけるお前があたしは恐いよ」

 ヒルデガンドが学院最強なら次席はオスカーだ。これはマリーでも知っている学院の常識。

「じゃあ聞くなよ」

「ちなみに予想は?」

 聞くなと言われても、それに従うマリーではない。

「三対二でオスカーさんのチームが勝ち」

 そして、カムイも聞かれた事に素直に答えを返す。憎まれ口は二人にとって、会話を弾ませる合いの手のようなものだ。

「ぎりぎり? 三年ってのはそんなに強いのかい?」

「あんまり自信はない。さっき言った通り、実力測れなかったから」

「普段も見てるだろ?」

「やっぱり大会となると三年は違う。相手を研究して、それに合わせた戦いをしてる。経験の差かな? それに比べると、オスカーさんのチームは授業の時と変わらない」

 経験もそうだが、授業内容が違う。二年生までは、もっぱら自己鍛錬だが、三年になると、相手を意識した戦い方を学ぶ様になるのだ。

「どこまで相手に研究されているかって事だね?」

「そう」

「ちなみに、オスカーの弱点は?」

「……情報はタダじゃない」

 メモを懐に隠して、警戒の目をマリーに向ける。当然だが、本気ではない。マリーをからかっているのだ。

「ケチるな。あたしは剣の実力知ったからって、何の意味もないよ」

「じゃあ、聞くなよ」

「大会を楽しんだって良いだろ?」

「……じゃあ、分かる範囲で解説してやる」

「偉そうに」

「じゃあ、しない」

「お願いします」

「全く……。じゃあ、あの人から」

 文句を言いながらも結局、カムイはマリーに説明する事を了承する。
 付き合いもそれなりの時が経って、マリーもカムイの扱いには少しは慣れてきていた。

「オスカーを聞きたいんだけど?」

「大将だから最後だろ。それまでの繋ぎだ」

「はいはい。じゃあ、説明お願いします」

「はい。先鋒の人は攻撃型。ところが、本人は万能を目指しているのか、ああやって、相手が打ち込むのを待ってる。でも、守りはそれ程、得意じゃない」

「……そう」

「相手はそれが分かっているから、攻撃の手を緩めない。少々、無理をしても、ああやって攻め続ける」

「そうだね」

「そして……、思惑通り、攻め切った」

「負けたね」

「これで一敗。次も怪しい。まあ、負けるな」

 そして、カムイの予想通り、次鋒戦もオスカーのチームの負け。途端にオスカーたちが色めき立っている。

「二敗目だね。オスカーの所は、本当に強いのかい?」

「相手はここまで、次鋒が一番強いからな。この先、強くなっていくオスカーさんのチームのメンバーには勝てない」

「なるほどね。三年は爵位の序列。オスカーの所は、実力順って訳だね」

「そう」

 この後もカムイの予想通り。オスカーのチームが三連勝で逆転して、勝利となった。

「決勝進出決定と。次はもっと弱いから、一位通過。負けたチームも、次は間違いなく勝てるから、二位通過間違いなし」

「お前の予想通りだね」

「そんな大層な事じゃない。順当って言ったほうが良いな」

「そうかい。それでオスカーはヒルデガンドに勝てるのかい?」

「解説しただろ? あれじゃあ、勝てない」

「よく分からなかった」

「せっかく説明したのに」

 これはカムイの方が悪い。カムイの説明は抽象的であったり、逆にすごく細かい技術についてであったりと、剣については素人同然のマリーでは理解出来ないものだった。

「もう少し分かり易く説明しなよ」

「……オスカーさんは万能型。そう言えば聞こえは良いけど、突出した所がない。恐くないって言っても良い」

「ヒルデガンドは?」

「攻撃型。攻めが飛び抜けている。オスカーさんは防ぎ切れない」

「オスカーが攻め続けたら?」

「それは良い質問だ」

「偉そうに」

「…………」

「答えを下さい。先生」

「良いだろう。ヒルダはそんなに甘くない。そうだな、ヒルダが一番凄い所は、実は目だ」

「目?」

「そう。相手の剣を見切る力。目が良いから、少々、守りの技術に拙い所があっても、相手の剣を躱せてしまう」

「へえ。才能だね」

「まあ、そういう事。だからヒルダはもっと強くなる。技術的には足りない所がまだ多くあるからだ」

「それは又」

「もっと言うとオスカーさんは少し完成し過ぎてる。小さい頃から、教えこまれているからかな?」

「つまり伸びしろがない」

「本人には言えないけどな。もっと、きつい事を言うと、早熟なだけ。鍛錬を怠れば、後々、他の人にも抜かれる可能性がある。まあ、俺は才能が全てとは思わない。努力に限界があるとも思ってない。結局はこの先のオスカーさん次第だ」

「お前ってさ」

「カムイ!」

 マリーが何か話しかけた所で、それを邪魔するようにカムイを呼ぶ声が聞こえてくる。

「ア、アルト!」

 反応したのは、マリーが先だった。

「ほう。声だけで分かるとは?」

「誰だってわかるさ」

「そういう事にしておいてやろう。どうした、早いな?」

「……マリーも居たのか?」

 カムイの隣に座っていたのが、マリーだと知って、アルトは軽く驚いている。

「悪いかい?」

「いや、悪くはないが……」

「何かあったのか?」

「ああ、クラウディア皇女のチームが予選を通過した」

「あれま。やっちまったね」

 アルトの言葉に、又、カムイよりもマリーが先に反応した。すっかり呆れ顔だ。

「マリーさんも分かるのか?」

「剣はからっきしのあたしだって、分かるくらい弱いからね。それが予選突破なんて。可愛い顔してやってくれるね」

 剣に関しては、マリーもクラウディア皇女の事は言えない。そのマリーが弱いと言えるくらいの実力で予選突破など、普通では出来ない。

「全くだ。やるならバレない様にやれ。マリーさんでも明らかに弱いと分かるくらいだ。他の生徒にも気付いた者はいるだろうな」

「間違いねえな。だが、それは、それで問題だが、もっと大問題がある」

「ん? どういう事だ?」

「クラウディア皇女のチームは恐らく一位で予選を通過する」

「何だと!?」

 カムイの体から、一気に怒気が吹き上がる。

「奴らがクラウディア皇女のチームに負けた。つまりは、そういう事だ」

「ふざけやがって……」

「ちょっと何を怒ってるのさ? 一位でも二位でも不正をした事に変わりないだろ?」

「これはマリーには関係ねえ事だ」

「あっそ。あたしは仲間外れかい」

「今回はだ。ちょっと黙っててくれ。というか話を聞かないでくれねえか」

「はいはい。あたしは何も聞こえない」

 両手で自分の耳を塞ぐマリーだが、そんな事で全く聞こえない訳が無い。それは分かっているが、カムイはアルトとの話を続けた。

「……どんな状況だ?」

「三対二。俺の目には勝った二人は、その相手も真面目に戦っているように見えた」

「転がったのは、残りの三人か」

「一人はどうかな? 負け方がな」

「どういう負け方だ?」

「クラウディア皇女と対戦した奴だが、開始の合図と同時に棄権した。皇族に向ける剣はないと言っていたが、あれは嫌味だな」

「仕方なくか……。まだ見込みはあるな。他の二人は駄目か?」

「今はだ。ひっくり返す事が出来ないとは思えねえ」

 信念を持っての行動とは思えない。そうであれば、いくらでも転ばせようがある。信頼出来る相手には、もうなれないが。

「失敗だと思わせる必要があるな。脅しをかけるか……、その前に。その大将に話を聞いてくれ。そいつの本音だけじゃない。後の二人がどこまでかを確かめたい」

「ああ、分かった。後は?」

「他に居ないかの、洗い出しが必要だな」

「そうだな。それも調べておこう」

 辺境領の生徒が競技会に参加しておいて、クラウディア皇女に負ける。わざわざ、そんな事をするからには、協力と引き換えに、何かを得たはず。
 それが何であったとしても、カムイを外しての直接交渉であり、抜け駆けというものだ。

「……あの馬鹿姫が」

 カムイの怒りは、恐らくは唆した側であろうクラウディアに向いている。

「おい、ここは学院だぞ」

「分かっている。しかしな、裏切りは許せないんだよ。そして裏切らせた奴もな」

「その気持ちは分かる。分かるが、相手はクラウディア皇女だ」

「知るか……、とも言えないか。まあ、いいか。どうせ恥をかくだけだ。それで許すことにしよう」

「それ許すことになるのか?」

「その程度で終わらせる事に感謝してもらいたい所だ」

「……怖い怖い。まあ、俺達が何をする訳でもねえからな」

「そういう事。さて、急いで見に行こう。まだ間に合うよな?」

「多分な。二人は中堅と副将だ」

「よし、行こう」

 ほんの短い時間で摺合せを済ませると、カムイとアルトは行動に移る為に、その場を去ろうとした。

「ちょっと、何処に行くのさ。まだこっちも終わってないよ」

 その二人をマリーが止める。マリーには珍しい事だ。

「別のチームの研究が必要になった。ここは……、アルトに任す」

「お、俺?」

 マリーが止めた理由はカムイは敏感に察している、……つもりだ。

「二人で観戦してろ。じゃあ、俺は行くから。……ごゆっくり」

「「馬鹿!」」

 どんな時でも楽しむ事を忘れないカムイだった。
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