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魔王の器 作者:月野文人

序章 宿命との出会い

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宿命との出会い

 司教が出て行って、二人きりになった部屋。クロイツ子爵夫妻は口を開く事なく、それぞれが何かを考え込んでいた。
 部屋の沈黙を破ったのは扉を叩く音。返事を待つ事もなく扉を開けて中に入ってきたのは、夫妻が中庭で見た少年、カムイだった。

「あっ、間違えた。失礼しました」

 部屋に司教が居ない事に気付き、慌てて部屋を出ようとするカムイ。

「いや、君と話がしたいのは我々だ」

 そのカムイをクロイツ子爵は、慌てて引きとめた。

「……司教様は?」

「三人だけで話すようにと、席を外された」

「そうですか……。分かりました」

 司教が居ない事に、腑に落ちないものを感じながらも、カムイはクロイツ子爵夫妻の前の席に座る。

「どこかで会った事がありましたか?」

「いや、君と会うのは初めてだ。まずは自己紹介をしよう。私はケイオス・クロイツ子爵、辺境領を治めている。となりは私の妻のフロリアだ」

「初めまして。カムイくん」

「……初めまして」

 目の前にいる二人が貴族であると知った途端にカムイの顔がわずかに歪む。カムイにとって貴族とは、ホンフリート家の者や学院の生徒たちが全てだ。良い感情など持てるはずがない。

「いきなり本題に入らせてもらって良いかな?」

「どうぞ。他に話題はありませんから」

 素っ気ない態度を取るカムイに、わずかに苦笑いを浮かべながら、クロイツ子爵は話を切り出した。

「実は我等がここに来たのは、養子を探す為なのだ」

「養子……。貴方たちは貴族ですよね? ここがどんな所かご存じで?」

「ああ、勿論だ。君が来る前に司教様とも話をしている」

「そう。貴族の養子ね」

「どうだろう?」

「そうですね。俺が思いつくのは二人です。一人はルッツといいます。剣術が好きで、人を纏めるのも得意です。もう一人はイグナーツ。こちらは魔法が得意です。といっても本格的に使える訳ではありません。それでも俺が見た所、きちんと授業で習っていた学院の生徒たちより、覚えはかなり早い方だと思います。人を纏めるのもルッツと同じくらいに得意です」

 クロイツ子爵の問いに、一気に答えを返すカムイ。だが当然、クロイツ子爵が聞きたいのは、こういう話ではない。

「いや、そうではなくて」

「養子という事は、後継ぎの男子を希望しているのですよね? そうなると今言った二人しか思い付きません。二人を呼んできましょうか?」

 クロイツ子爵の戸惑いを、カムイは無視している。つまり、わざと違う答えを返しているのだ。

「ちゃんと話を聞いてくれ。私たちは、君に養子に来てもらいたいと思っているのだ」

「お断りします」

 クロイツ子爵の誘いを、間髪入れずに拒否するカムイ。

「理由を聞かせてもらえないか?」

「俺は貴族になんてなる気はありません。もう分かってるでしょう? 俺は貴族が嫌いなんです」

「それは君の態度で分かっている。だが何故、そこまで貴族を嫌う?」

「司教様からは、何も聞いていないのですか?」

「君がホンフリート家の人間だったという事は聞いている。魔法を使えない事もだ」

「そう。その魔法が使えない事で俺は酷い目にあった。虐められていたのですよ。毎日毎日、虐めっ子に囲まれて、水を掛けられたり、泥水を飲まされたり。それをやっていたのは学院に通う貴族の子弟です。ホンフリート家でもそうです。ホンフリート家の屋敷に居た時から、俺はその家の人間だなんて認められていませんでした。やっとそんな境遇から抜け出せたのですよ? 何故わざわざ、そこに戻る必要があるのです?」

 死んでしまいたいとまで考えていた時期だ。そんな環境に戻りたいと思えるはずがない。

「我等は君にそんな思いはさせない」

「仮に貴方がたはそうだとしても、周りはどうですか? まさか、ずっと屋敷に籠ってろなんて言いませんよね?」

「つまり魔法が使えないからなのだな?」

「他にもありますが、それが一番ですね」

「我等の養子になる事で、それが使えるようになるとしたら?」

「はあっ!?」

 クロイツ子爵の言葉は、カムイを多いに驚かせた。

「妻はその可能性があると言っている。我等の領地には、魔法に長けた者がいる。その者に教えを請えば、君は魔法が使えるようになるかもしれない」

「……それは養子にならなくても出来ますね?」

 クロイツ子爵の提案に、カムイの心はわずかに揺らいだが、それで養子を認めるカムイではない。平民となったカムイにとって魔法はそれ程重要ではない。それよりも貴族に近づく事への拒否感の方が強かった。

「いや、その者は我等の願いでなければ、受け入れてくれないだろう」

「では他の人を探します。誰に教わっても同じ事です」

「何故、そこまで拒絶する?」

「だから言っているでしょう。貴族が嫌いなんです」

「しかし、平民のままでいたとしても、全く貴族に関わらないでいられる訳ではない。この国で生きるという事はそういう事ではないか?」

 この国だけではない。貴族制度がない国など、この大陸にはないのだ。

「でもそれは最小限に抑える事が出来る。貴族になってしまえば、そういう訳にはいかない。ましてや後を継がせようというのだろ?」

「それはそうだが……」

「だから俺は無理。さっき言った二人の方が良いと思う」

「そうやってずっと逃げ続けるのですか?」

「何?」

 急に口を挟んできたフロリア。挑発的な言葉に、カムイの表情に、わずかに怒気が浮かんだ。

「さっきから話を聞いていると貴方は、ただ貴族から逃げているだけのように聞こえます。そんな生き方で貴方は本当に良いのですか?」

「……それと貴族になるのは別だ」

「そうかもしれません。でも貴族になれば、もう一度立ち向かう機会を得る事が出来ます」

「立ち向かったとして、何をもって乗り越えたと言えるんだ? まさか自分を虐めた奴等を一人一人叩き潰す訳にはいかないだろ? そんな事をすれば困るのはそっちの方だ」

「別に相手を倒す事が勝つ事ではありませんよ。自分らしく生きる。それでも相手に勝つ事になります」

「そんな事で?」

「あら、自分らしく生きるという事がどれ程難しい事なのか貴方は分かっていないのね? 考えて見なさい。自分を殺さず、人と接する事がどんなに大変な事か。貴方であれば、少し考えれば分かるはずよ」

 隣に座るクロイツ子爵が軽く目を見開いている。フロリアが子供に対して、いきなり難しい話を始めた事に驚いているのだ。
 だが、フロリアは、それに大丈夫だと目で応える。
 じっと黙って会話を聞いていたが、フロリアは内心でかなり驚いていた。カムイはまだ十才前後であろう。そのカムイが辺境とはいえ、領主である夫と対等に話をしているのだ。

「……確かにそうかもしれない」

 案の定、カムイは少し考えた後で、納得の言葉を口にする。

「どうかしら、それに挑戦してみない? 私たちはそんな貴方を助けてあげられるわ」

「それが魔法?」

「剣術もよ。こう見えて私の夫は強いのよ。だから今の領地を任されているの」

「今の領地……。それはどこなんだ?」

 フロリアの言葉に、わずかではあるがカムイは考える余地を持ったようで、領地に興味を示してきた。

「場所を言っても分からないわね。元魔王領、こう言えばどういう所か分かるかしら?」

「魔王領……、つまり魔族の国か?」

「そうよ。魔王が倒された後、魔族は国を捨てて各地に散ったの。その後を私たちは任されているの」

「そうか、魔族の国は無くなったのか」

 魔族は世界から迫害されている、そんな中で一生懸命に生き延びようとしているのだ、そう魔族が言っていた事をカムイは思い出した。
 どうやら、それは事実であったようだ。魔族は国を滅ぼされ、行き場を失くして各地に散っている。そんな魔族に安息なんてないのだろう。あの時、出会った魔族の悲しみが、今になってカムイは少し分かった気がした。

「どう? もう一度考えてもらえないかしら?」

「……やっぱり断る」

 少し考えて、カムイの口から出たのは、拒絶の言葉だった。

「どうして!?」

「強いから、その領地を任されたという事は、今も魔族と戦っているんだよな?」

「それが怖い?」

「いや。俺が養子になれば、魔族を殺さなければいけないのだろ? 俺は種族が違うというだけで、相手を殺すなんてしたくない」

「なっ!?」

 カムイの発言に、大きく目を見張るクロイツ夫妻。その反応を見たカムイの心境は、ああ、またやっちゃった、こんな感じだ。
 以前にもカムイは似たような発言をして、司教にこっぴどく怒られた事がある。それこそ独房入りだった。軽々しくそんな発言をしていては、いつか周りから危害を加えられる事になる。司教はそんな思いでカムイに厳しい罰を与えたのだが、そんな機微を、まだ子供のカムイが分かるはずがない。

「私たちは……、運命に感謝しなければいけませんね?」

「ああ、そうだな」

「えっと……」

 夫妻の言葉が、カムイには理解出来ない。小首を傾げて不思議そうに見ているカムイにフロリアは、にっこりとほほ笑みながら、カムイが想像していなかった言葉を口に出した。

「貴方は私たちの養子にならなければいけません」

 フロリアの口から出た言葉はなって下さいではなく、ならなければいけない、だった。

「どうしてそうなる?」

「私たちの領地に来れば、貴方が心配するような事は、決してないという事が分かりますよ。いえ、貴方はそうならない為に、私たちの養子となるべきなのです」

「意味が分からない」

「今は分からなくても良いです。でもこれだけは信じてください。貴方と私たちの出会いは、きっと運命に導かれたものです」

 運命などという大げさな言葉を吐くフロリアに呆気にとられたカムイであったが、自分を見るフロリアの目はどこまでも真剣なものだった。
 その目を見た瞬間に、又、カムイの心が揺らぐ。

『カムイ、貴方はいつか辛い運命に巻き込まれるかもしれません。でもそれこそが、貴方が持って生まれた宿命なのです。だから決して、そこから逃げないで。これは私が貴方に残せる最後の言葉。お願い、カムイ。強く、強く生きて……』

 ずっと忘れていた母の最期の言葉が心の中に広がっていく。

「運命か……」

 噛みしめるように、運命という言葉を呟くカムイ。いつの間にか、涙がその頬を伝っていた。

「どうしました?」

「……母の言葉を思い出しました。ずっと忘れていた言葉です。母の最後の言葉だったのに、俺はずっとそれを忘れてしまっていたのです」

「そう……」

「一つ条件があります」

「条件……、えっ、という事は?」

 条件を出す。それは条件が満たされれば、受け入れるという事だ。

「はい。養子にさせてもらおうと思います」

「ああ、良かった。その条件というのは?」

「ここの仲間を何人か一緒に連れて行って良いですか? あくまでも希望する者だけです」

「それは構わないが、全員を養子という訳にはいかないぞ」

 カムイの問いにはクロイツ子爵が答えた。これを許可出来るのは、領主であるクロイツ子爵だけだからだ。

「勿論です。養子は俺一人、他の仲間は、まあ、色々と助けてもらえたらありがたいなと」

 これは、半ば本気で、半ば口実だ。養子先を見つけられる者は限られている。多くの孤児は、ロクな伝手もなく世間に放り出される事になるのだ。養子でなくても、貴族家で働けるのであれば、こんなに良い事はない。

「臣下という事か?」

「形としてはそうなります。ただ、これで希望者がいないと俺が恥ずかしいですね」

「それはまあ、誘ってみなければ分からないだろう」

「ええ、早速、話に行っても?」

「ああ、行ってくるが良い」

「あっ、出立はいつですか?」

「準備が出来たら直ぐに発ちたい。あまり領地を空けておくわけにはいかないのでな。そうは言っても養子縁組の手続きに、どれ位掛かるかは正直分からん」

 カムイとの話が付いたからと言って、養子縁組が纏まったわけではない。貴族家の養子だ。国へ届け出て、承認を得る必要があった。

「分かりました。俺の準備はないに等しいですから、その手続き次第ですね?」

「それはこちらが進める事だ。まずは司教様との話からだな」

「はい、そうですね」

「……おい」

 仲間たちの所に向かう為に、部屋を出ようとするカムイを、クロイツ子爵が引き止める。

「何ですか?」

「さっきまでの口調の方がうれしいのだが……」

「はあっ? あの不機嫌な口調がですか?」

 クロイツ子爵の言葉に、カムイは驚いた表情を見せる。孤児の面倒を見ている司教でさえ、カムイの言葉遣いを注意するくらいだ。礼儀作法にうるさい貴族が言う台詞ではない。

「あれが本来なのだろう?」

「それは微妙ですね。元々はこっちの口調だったのですよ。でもあいつ等と話している内に、どんどん口が悪くなりました。まあ、そうだな。今はこっちの方が楽かな」

 司教が怒るのは、元々はちゃんと話せるのに、カムイが変えるからだ。これがカムイには分かっていない。

「では、それで話してくれ。こっちも他人行儀な口調は止めさせてもらう」

「分かった。あっ、でもいきなり父上と呼べなんて言うなよ? さすがにそれは抵抗があるというより恥ずかしい」

「……駄目か?」

「呼んで欲しいのか? まあ、呼ぶとしても夫人の方が先かな?」

「あら?」「おい、どうしてだ?」

 カムイの言葉に夫人は喜び、子爵は不満気だ。

「亡くなった母に似ている。始めは、全くそう思わなかったんだけどな。話しているうちに、なんだか重なってきた。あっ、だから母上の言葉を思い出したのか」

「それは嬉しいわね」

「ああ、喜んで良いと思う。母上は美人だし、それなりに有名人だ。光の聖女の再来なんて呼ばれていたらしいからな」

「「なっ!?」」

 今度は、クロイツ子爵夫妻が驚く番だった。ただ、この驚きは、カムイのそれとは比べ物にならない。二人共、大きく目を見開いて固まってしまっていた。

「えっと……。これは聞いていなかった?」

「光の聖女の再来とは、母親はソフィア様か?」

「そうだけど」

 クロイツ子爵は、カムイの母親の名を知っていた。自分の母親が、どれほど有名人であるかを、改めて、カムイは思い知った。

「……ホンフリート家は何を考えているのだ? ソフィア様の息子を追い出すなんて、正気とは思えん」

「もう母上は亡くなっているから」

「いや、そうだとしてもだ。ホンフリート家がどういう家か……、聞くまでもないな。そこに居たのだから」

「ああ。現当主は祖先の功績を誇るだけのどうしようもない男だ。そして次代も欲の皮の突っ張ったボンクラだな。その子供たちは……、記憶にも残ってない」

「随分の言い様だな。まあ、実際周りの評価もそんなものだ」

 ホンフリート家は名門となっているが、ここ何十年と功績らしい功績を残していない。歴史が古いだけで何の役にも立たない家。下手に名門に位置する分、周りの評価は厳しかった。

「やっぱりな」

 つまりカムイを罵倒していた祖父も、何の功績も上げていないという事だ。そのくせ、エラそうな事を言っていた祖父を思い出して、カムイは少し気分が悪くなった。

「そんなホンフリートを一時的にとはいえ救ったのがソフィア様だ。光の聖女の再来とまで言われた実力と名声、そして極めつけは、勇者の同行者に選定された。まあ、その結果は残念なものであったのだが……。それでもソフィア様を輩出したホンフリート家は一時、大いに称えられていたのだ。その功労者であるソフィア様の息子を勘当? 愚かとしか言いようがない」

「別に俺がホンフリートの名をあげた訳じゃないからな」

「それはそうだが……」

「そんな事はどうでもいい。今は追い出してくれた事を感謝してるからな。それに、その事でホンフリートが愚か者と呼ばれるなら、ささやかな復讐が果たせた訳だ。だからどうって訳ではないけど」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、仲間の所に行ってくる」

「ああ、我等は司教様の元に向かうとしよう」

 結局、帝都を立つまでには、二週間の期間を必要とした。
 子爵家の養子縁組。領地を任されている貴族家の後継者となる人物であるからには、それなりの手続きが必要になるのだ。
 もっともクロイツ子爵から見れば、かなりスムーズに進んだほうだった。
 養子にするのは孤児院に居たカムイ。それを貴族家に入れるのは、相当な労力が必要になると予想していたのだが、カムイの素性がそれを容易にした。
 なんといってもカムイはソフィア・ホンフリートの息子である。
 ソフィアを知る者たちは、それなりにカムイに期待の目を向けており、名を知っていた。
 それが期待外れであった事は、そんな彼等を大いに失望させたものだが、だからと言って、自家からカムイを追い出したというホンフリート家の所業は、許されるものではない。
 一方で、そのカムイを貴族に戻そうとするクロイツ子爵の行動は、好意の目で見られる事となり、孤児院に居た事実など全く問題視される事はなかった。
 幸いなのはホンフリート家の人間が、他家との接触をほとんど絶っていた事であろう。
 カムイが受けていた虐めの件で、他家から侮りの目で見られるのを嫌がったホンフリート家は、公の場からしばらく姿を消していた。そのせいで、カムイを勘当にした自分たちの行動こそが、軽蔑の目で見られていることに気が付いていなかったのだ。
 それ故に確かに除名となっているのかという役人からの問い合わせが来た時も、何も考えずに一切関係ないと答えてしまった。養子縁組には触れずに、そんな問い合わせの仕方をした役人には、ホンフリート家への悪意とクロイツ家への好意が含まれている。
 こうなればカムイとクロイツ家の養子縁組を阻むものはない。二週間の期間の半分は書類の回付と承認に必要な期間だった。

 どちらかというと困難は孤児院のほうだった。
 子爵家の養子になるから一緒に来てくれないかというカムイの誘いに、仲の良かった仲間たちのほとんどが同行を希望した。それに司教が待ったをかけたのだ。
 同行を希望した孤児の一人一人と話し合い、時に怒鳴り、時に優しく、同行を取りやめるように説得を始めた。実際にその司教の説得に何人かの者は折れ、同行を取りやめた。
 それを一週間続けたところで、まだ説得に折れなかった孤児たちに、ようやく司教は同行を認めたのだ。
 孤児たちにとっては、嫌がらせにしか思えないが、半端な気持ちで辺境の、しかも旧魔王領などという危険な場所に、子供たちが向かう事を止めようとする司教の親心だ。

 カムイと同行するのは四人。

 ルッツ――孤児院の前に捨てられていた所を、司教によって拾われた男の子。実際の年は本人もよく分かっていないが、カムイと同い年くらい。

 イグナーツ――両親が強盗に殺されて孤児となった男の子。親戚は誰も引き取ろうとせず、そのまま孤児院に送られた。カムイより一つ年上になる。

 この二人に関しては司教の説得もそれほど熱を帯びたものではなかった。二人とも付いて行くのが当然と、司教の話など聞く耳を持たない。司教も最初から二人が決して折れない事は分かっていたのだ。

 最後まで揉めていたのは残りの二人だ。

 マリア――娼婦を母に持つ女の子。父親が誰かは母親も知らない。育てる事が出来ないという事で、わずかな金と共に孤児院に預けられた。それ以降、母親が姿を見せた事はない。カムイより三つ年下の七才。年令もあって司教は最も熱心に同行を止めさせようとしたのだが、その説得にも頑として首を縦に振らず。なんと司教が根負けする形で同行を認める事になった。

 そしてアルト――父親の暴力から守るために母親によって孤児院に預けられた男の子。いつも冷めた目でカムイたちを見ていたアルトが同行を希望した時は、全員が驚いた。司教の説得にも、泣き叫んで同行を望んだマリアとは対照的に、じっと黙って話を聞いているだけ。最後に一言、何を言われようと俺はカムイに付いて行く、これを告げた時のアルトの目に、普段決してみせない熱いものを感じて、司教は説得を諦めた。

 彼等四人はこの先、悪名、勇名を馳せながら、その生涯に渡って忠臣としてカムイを支える事になる。カムイが孤児院に居たのは、わずか半年。その僅かな期間に、四人の天才が同時に孤児院に存在していたという事実は、後にカムイ・クロイツの運命の奇跡の一つにあげられる事となる。

 カムイ・クロイツと四柱臣と呼ばれた五人の運命は、この時から動き出す。
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