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魔王の器 作者:月野文人

第一章 皇国学院編

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合同演習合宿その六 撤退戦

 宿営地を飛び出した騎士団員の突撃は、凄まじいものだ。
 文字通り、命がけの彼らの戦いぶりは、包囲していた魔物たちを、大混乱に陥れ、このまま全てを倒してしまうのではないかと思える程だった。

 それが現れるまでは――騎士団員の目の前に現れた、新たな魔物。

 騎士団員たちと比べても、その倍はあろうかという大きな体。ひざ下まで届く長い手を振り回して、騎士団員たちに向かっていく。
 放たれた魔法は、振り回された腕ではじかれ、振り抜いた剣も、その体に傷一つ付けられないようだ。
 オーガの強さを目で見た事がある訳ではないが、オーガの中でも、更に力持つ者だと思われた。
 もしかしたらと思ったカムイの期待は、どうやら応えられないようだ。こうなるとやる事は一つ。カムイは、五レートの高さはある物見やぐらから、一気に飛び降りると、待っている生徒たちの方に向かって走った。

「ルッツ! 行くぞ!」

「おお!」

 走る速度を緩める事もなく、そのまま剣を抜くカムイ。

「切れ!」

 カムイの合図で、ルッツが入り口の扉に向かって大上段の構えから斜めに剣を振り下ろす。
 切れたようには見えないが、それに構う事なく、カムイは飛び蹴りの形で、扉にぶつかっていった。
 扉の板を一気に突き破るカムイ。そのまま外に出ると、立ち止まることなく、前に進んでいった。

「早いよ!」

 慌てて、ルッツが、残った扉を蹴飛ばしている。やがて、ゆっくりと、外側に倒れて行った。
 ルッツは、倒れた扉を踏みつけながらカムイの後を追った。

「ボケっとしてねえで、外に出ろ!」

 あまりに荒っぽいカムイたちのやり方に、驚いて固まっていた生徒たちが、アルトの怒声で我に返る。
 先に進むのは剣士隊。その後を他の生徒たちが続いて行く。
 彼等全員が外に出た時には、カムイと魔物の戦闘がすでに始まっていた。その様子を見て、また生徒たちは固まる事になった。
 決して止まることなく、流れるような動きで剣を振り続けるカムイ。カムイが剣を振るたびに、魔物の首が宙を舞っている。
 魔物の首から噴き出す血の噴水。その降りしきる血しぶきの中を舞うように動き続けるカムイ。美しくも恐ろしい、圧倒的な強者の姿が、そこにあった。

 やがて、カムイの戦いにルッツが参加する事で、戦い方に変化が生まれた。お互いの背中を守りながら、道を切り開くように進んでいくカムイとルッツ。魔物の群れに、隙間が出来上がった所で、アルトの声が響いた。

「今だ! 続け! 道を押し広げろ!」

「うっ、うぉおおおおお!」「ちきしょう!」「やってやる!」

 狂ったような雄叫びをあげながら、前に進む生徒たち。何といっても、目の前にいるのは二百体に届こうかと言う魔物の群れだ。
 そうでもしなければ、恐ろしくて足が前に進まないのだ。

「魔法隊! 前に出ろ! 一気に突き破るぞ!」

「「「うああああああ!」」」

「続けぇ! 続けぇ!」

 その後を、次々と生徒たちが続いて行く。最後の剣士隊が進んだ所で、アルトも、その後を追った。宿営地に積まれていた建物の廃材に火をかけて。
 燃えあがる宿営地を背中に前に進む生徒たち。もう戻る場所が無い事を背中に感じながら。

「ルッツ! ゴブリンは任せて、ハイゴブリンを狙え! とにかく魔法を止める!」

「了解だ! どけえ! 雑魚ども!」

 ゴブリン相手であれば、生徒たちは十分に戦えると判断したカムイは、狙いをハイゴブリンに変えた。大柄なゴブリンを見つけては、そこに切りかかっていく。

「足を止めるな! とにかく前に進め!」

「「「おお!!」」」

 そうしている間も、生徒たちへの指示は忘れない。倒すことが目的ではない。突破する事が目的なのだ。生徒たちが目の前の戦いに夢中になってしまう事は避けなければいけない。
 魔物は目の前が全てではない。まだこの何倍もの数が残っているのだ。ましてオーガに追いつかれてしまっては、逃げ延びる事は難しくなる。

「カムイ! 先頭がもうすぐ抜けるぞ!」

「俺とルッツには構うな! かまわず先に進ませろ!」

「分かった! 前に出るぞ!」

「任せた!」

 全体が前に進むのに合わせて、カムイとルッツは生徒たちの両脇を守りながら徐々に後方に下がっていた。それと入れ替わるように前に出るアルト。

「抜けた! よし、走れ! 走れ!」

 魔物の群れを抜けた生徒たちに声を掛けていくアルト。

「走れ!」

「怪我が……」

「ちょっとくらいの怪我がなんだ! 死にたくなければ走れ!」

「でも、足が……。ちくしょう!」

 その生徒の足からは、血が流れ出している。とても走れるような傷ではない。。歩く事さえ苦しそうなのだから。

「……カムイ! 怪我人だ!」

「もう少し待て! 全員が抜けてからだ!」

 アルトの声に、カムイは待てと返してきた。見捨てるつもりがないという事だ。

「おい、マジかよ。まさか、あれをやるつもりか?」

「怪我人は、一カ所にまとめておけ!」

 続くカムイの言葉が、アルトの推測が正しいと示してきた。

「そのつもりか……。おい! 少し我慢しろ! ほら、肩を貸してやるから、前に進むぞ!」

「ごめん……」

「いいから、少しでも離れるぞ」

 涙を流しながら、怪我をした生徒は、アルトに肩を借りて、何とか戦いの中心から離れて行く。こんな光景が何度か繰り返された。
 その間も、カムイの方は、一切手を止める事なく、襲いかかる魔物と戦い続けている。そうしていても、周囲の様子は、きちんと把握しているようだ。

「よし全員抜けたな! ルッツ、少し援護しろ!」

「了解っ、て、何するつもりだ?」

「……慈愛の力、癒しの力、その力を顕現し、広く仲間たちに恵みを与え給え、エリアヒール!」

「マジか!?」

 空から降り注ぐ雪のような白い光の粒。その光が、触れた途端に、生徒たちの体が、淡い光に包まれた。光属性の上級魔法に位置する広範囲回復魔法だ。それを知って生徒たちは、怪我が治ったにも関わらず、茫然と立ち尽くしている。

「ぼやぼやすんな! 走れ! 追っ手が来るぞ!」

 そんな生徒たちにアルトの怒声が飛ぶ。それを聞いて、慌てて生徒たちは走り出した。その後を、アルトが追いかけていく。アルトには、まだ役目があるのだ。

「やりすぎだろ?」

 光属性魔法が使える事が、公になれば、学院どころか皇国が大騒ぎだ。カムイの力の中でも、もっとも隠すべきものの一つだった。

「ダン百人将に約束したからな。彼等全員を無事に返すって」

「遺言には逆らえないか?」

「そういう事。さあ行くぞ。追っ手が来るのは本当だからな」

「ああ、急ごう」

 カムイとルッツも又、先に進んだ生徒たちを追い掛けて、その場を離れて行った。

◇◇◇

 あっという間に、先行していた生徒たちに追いついたアルトは、そのまま先頭に躍り出た。

「俺の前に出るんじゃねえ!」

 すぐ後ろに続く生徒に向かって、アルトは、前に出ない様に指示を出す。

「でも!?」

「この速さならゴブリンは追いついてこれねえ! 良いか、走り続ける事が大事なんだ!」

「……分かった!」

 アルトの役割は、走る速度を整える事。要はペースメーカーだ。ゴブリンは、その小柄な体型もあって鈍足だ。だが、その耐久力は、人族に比べれば異常な程高い。一日二日、平気で走り続ける事が出来るくらいだ。
 大きく引き離す事も無く、追いつかれる事もなく、体力と相談しながら、逃げ続けなければならない。

 ゆっくりと走っている事もあって、後続も既に追いついている。後はこのまま、何とか追いつかれずに、目的地まで到達する事なのだが。

「アルト! 一旦歩くぞ!」

 いつの間にか、隣に並んでいたカムイが、アルトに指示を出した。

「平気か?」

「ああ、余裕はあるはずだ。後の事を考えれば、ここで少し体力を戻しておいた方が良い」

「分かった。よし、歩くぞ!」

 カムイの話を聞いて、アルトが後続の生徒たちに声を掛けた。

「このペースだと、後、どれ位だと思う?」

 歩きながら、カムイはアルトに尋ねる。

「麓まで、半日以上は、軽くかかるだろうな」

「完全に夜だな……」

 夜は魔物や魔獣の刻。もっとも危険な時間だ。

「それ以前に体力が持たない」

「半日だろ?」

「あのな、自分らと他の奴等を同じに考えるな。それは俺らがやった、あの泣きたくなるような修行を軽く見てるって事だぞ?」

 カムイたちだけで逃げるのであれば、遥かに早く、麓まで辿り着ける。それが出来るだけの鍛錬を、ずっとカムイたちは続けてきたのだ。

「それもそうか。となると、どうするかだな。もう一発囮をかますか?」

「それ、自分がやる気だろ?」

「他にいないだろ?」

 数百体の魔物の群れの足止めなど、カムイ以外には出来ない。ルッツも、ある程度は、戦えなくはないが、絶対とは言えない。

「大奮発だな。どうすんだよ? 色々とバレバレだぜ」

「それは後で考える。今はこれを乗り切る事だ。道を逸れる事になる。どうすれば良い?」

「方角は、ほぼ真南だ。夜であれば、星を見ろ」

「サウザンクロイツか。分かった」

◇◇◇

 アルトたちを先行させて、カムイはその場にとどまった。木の幹に体を預けて、じっと耳を澄ましている。傍から見ていれば、眠っているようにも見えるだろう。
 今の所、聞こえてくるのは小鳥のさえずりくらい。静かに流れる時間に身を任せていると、午前中の戦闘が嘘のように思えてくる。
 それも、これから始まる激戦の前の束の間の休息。高まりそうになる心を、なんとか落ち着かせて、その時が来るのをじっと待つ。
 カムイにとって、ここまで力を解放するのは久しぶりの事だ。
 本当の命のやりとりとなると、それこそ、いつ以来であろう。それを考えた時、又、自分の気持ちが高まるのを感じた。
 体の中を流れる好戦的な血の存在。自分の父親が誰であるかを、それが、カムイに教えてくれる。
 やがて、遠くから雑音のような声が聞こえてきた。
 徐々に近づいてくる、その音がゴブリンの声だと、はっきりと分かるようになった時、カムイの目が開いた。
 琥珀色の瞳が、普段とは違った光を見せているのは、戦闘態勢に入った証拠だ。
 ゆっくりと木から離れ、腰に差していた剣を抜く。既に目の前には、こちらを睨むように見ているゴブリンたちがいた。

「お前達に恨みはないけど、俺も死ぬわけにはいかないからな」

 こちらの言っていることが、理解出来るとは思っていないが、目の前に現れたゴブリンに、こう言わずにはいられなかった。カムイにとって、この戦いは、本来は何の意味を持たない無駄なものなのだ。

「行くぞ!」

 まるで申し合わせたかのように、カムイとゴブリンの群れが、同時に動き出す。
 突き出される槍をかいくぐり、剣を振るカムイ。数体を倒した所で、群れから距離を置く。
 後を追って襲いかかってくるゴブリンたち。また数体を倒して距離を置く。それを何度も繰り返して、徐々に麓へと通じる道から、ゴブリンを引き離していく。
 ゴブリンから魔法が飛んできた。ハイゴブリンも追いついてきたのだろう。飛来する魔法と、突き出される槍。その両方に注意を払いながら、近づいては逃げ、討っては逃げを繰り返す。
 予定では、これを三刻は続ける予定だ。
 今の所、危なげない戦いを続けるカムイであるが、実際の所、心には余裕はない。三刻もの間、オーガが現れないとは、とても思えないからだ。
 本来、ゴブリンよりもオーガのほうが足は速いはず。今、この瞬間に目の前に現れてもおかしくない。
 その時は、戦う事を諦め、ひたすらに鬼ごっこを続ける事に決めている。命を掛けた鬼ごっこだ。

◇◇◇

 カムイがゴブリンとの戦いを始めた頃、先行した生徒たちは、ただひたすらに、先へ進んでいた。どの顔も、かなり疲労の色が濃くなっている。
 木々の間から覗く空の色は、濃紺に染まり、夜の訪れを示していた。

「ちょっと止まるぞ!」

 先頭のアルトが振り返って、後ろに向かって叫んだ。

「どうした!」

 それに答える声はルッツのものだ。ルッツは最後尾で、追いかけてくる魔物に備えている。

「もう夜だ! 警戒を強めた方が良い!」

「……そうだな! 分かった!」

 先頭のアルトが足を止めた途端に、何人かの生徒たちが、その場に座り込んだ。ゴブリンとの戦いも含めて、半日近く動き続けている。疲労はかなりのものだ。

「他に苦しい奴はいるか?」

 そんな生徒たちを見て、アルトが問いかける。それに答える者はいなかった。

「無理はすんな。ここで無理をされると却って危険だ」

「危険って何が危険なんだ?」

「俺たちを襲ってくるのは、ゴブリンだけじゃねえって事だ。もう陽は落ちている。夜は、魔獣の世界だ」」

「……そうか」

 ゴブリン以外にも魔物や魔獣はいる。これまで、全く出会わなかった事が幸運だったのだ。
 だが、夜となればそうはいかない。夜は魔獣の行動が活発になる時間帯。これからは魔獣と戦いながら進むことになるだろう。

「魔獣との戦いが起こるはずだ。辛い者は、素直に手を上げろ。無理して魔獣にやられちまったら最悪だからな」

 アルトがそこまで言うと、ようやく手を挙げる者が出てきた。その数に少しアルトは顔をしかめる。半数以上の生徒が手を挙げてきたのだ。
 手を挙げていないのが、E組の生徒ばかりなのが、アルトは、少し面白かった。

「分かった。隊列を組み替えるぞ。弱った者は中心に集まれ。それを元気な奴で囲む形だ」

 アルトの言った通りに隊列を整えると、また歩みを始めた。もう走ることはしない。周りを警戒しながら、ゆっくりと前に進んでいく。
 辺りが、すっかり暗闇に包まれるようになると、狼の遠吠えのような声が聞こえてくるようになった。魔獣の時間が、いよいよ始まったのだ。

「なあ、ちょっと良いか?」

 アルトのすぐ後ろを歩いている生徒が、躊躇いがちにアルトに話しかけてきた。

「何だ?」

「カムイは平気なのか?」

「絶対に平気とは、俺も言い切れねえな。数だけじゃねえ。何と言っても、相手はオーガだ」

「……そうだよな」

 百人の騎士団が居ても、防ぎ切れないと判断した相手だ。オーガを知らなくても、その強さは想像がつく。

「人の心配をしてる状況じゃねえだろ? こっちも、いつ襲われるか分からねえんだ」

「まあ、そうだが」

「それにカムイがその気になれば、ここにいる全員よりも強いと思うぞ? 俺らは心配出来るような身分じゃねえ」

「なあ、あいつは何者なんだ? あいつのやった、あれは……」

 剣だけではない。カムイが使ったのは、上級神聖魔法。そんな使い手は、皇国全土を探しても、そうそう見つかるものではない。

「それは俺からは、何も言えねえな。言える事は、カムイが居なければ、俺らは、こんな所を歩けていねえ。歩けてたとしても、その数は、今よりも随分と少ねえはずだ」

「ああ」

「もし、それに少しでも感謝してくれてるなら……」

「何だ?」

「カムイの事は何も聞くな、何も話すな。下手に人に話されると、俺らは困る」

「……ああ、約束する」

 うなずいているのは、この生徒だけではない。話を聞いていた他の生徒たちもだ。
 彼らにとってカムイは命の恩人といえる者。そのカムイを困らせる事など、彼らには出来ない。

「もっとも、生きて帰れなければ、この約束は意味がねえ。……来たぞ! 左だ!」

 生徒たちの左の森の中に、いくつもの小さな光が見えた。やがて、それは速度を増し、どんどん近づいてくる。闇に光る眼は、獣か魔獣の群れだ。

「ルッツ! 前に出ろ!」

「おお!」

 アルトの指示を受けたルッツは、前に出て、剣を構えた。

「弱った奴らは、後ろに下がれ! 後ろへの警戒も忘れんなよ!」

「あっ、ああ!」

 それとは逆に、疲れて動けない生徒たちが後ろに下がる。

「迎え撃つ! 油断するな!」

「おお!」

「火魔法を放て! 少々、外れてもかまわねえ!」

「ああ!」

 放たれた魔法が、森の中に吸い込まれるように、飛んでいく。
 その光に照らされて、黒い毛で覆われた体をもつ、狼のような魔獣の姿が、浮かび上がった。

「ブラッディーウルフだ!」

「速いぞ! 気をつけろ!」

 火の玉と入れ替わるように、森から飛び出してくるブラッディーウルフの群れ。そのうちの一体が、高く跳躍して、ルッツに飛び掛った。

「甘いんだよ!」

 わずかに身をかわして、襲ってきたブラッディーウルフを避けると、ルッツは、そのまま剣を振り上げた。

「ギャン!」

 転げまわるブラッディーウルフに構うことなく、次の魔獣に向かうルッツ。その後を、剣を持った他の生徒たちが続いていく。

「うぉおおおおおっ!」

「せいやっ!」

 一度、ゴブリンとの戦闘を経験したおかげか、生徒たちは見違えるような動きを見せている。
 ブラッディーウルフの、素早い動きにも惑わされること無く、生徒たちは一匹、また一匹と倒していく。
 剣を振るたびに舞うブラッディーウルフの血しぶき。その横を通り過ぎるいくつもの魔法が、まだ先にいるブラッディーウルフを燃え上がらせている。

「……こりゃあ、前言撤回かな? 全員に一斉に掛かられたら、カムイもヤバそうだ」

 その様子を見て、感心したように呟くアルト。

「左に回られた! 後ろ、何匹か、行ったぞ!」

 そんなアルトとは対照的に、ルッツの緊迫した叫び声が響く。

「ちっ! おい、疲れてる暇はねえぞ! 死にたくなかったら戦え!」

「分かってる!」

「来るぞ! 迎え撃て!」

「こっちにも魔法を撃ってくれ! 暗くて良くみえない!」

「待ってろ!」

 更に左側にも放たれる魔法。左に回ったブラッディーウルフが、真っ直ぐにこちらに向かって来るのが見えた。

「よし、見えた! 行くぞ!」

 敵を視認出来た所で、剣を持った生徒が前に出た。

「前に出すぎるな! 防衛線を決めろ!」

「分かってる! 並べ! 隊列を整えろ!」

 生徒たちの叫び声が交差する。そこに焦りの色はない。冷静にお互いに、指示を出し合っている。

「真ん中は任せろ!」

「ああ、俺は左だ!」

「二列目を作れ! 前衛を突破させるな!」

「魔法部隊! 魔力は?」

「少しペースを落とす! 平気か?」

「ああ、もう平気だ! よし、前衛で全て止める! ……かかれっ!!」

 先行するブラッディーウルフに、一斉に襲い掛かる生徒たち。こちらの動きも、中々のものだ。
 とても先程まで、へたり込んでいた者たちとは思えない。

「一匹そらした!」

「任せろ!」

 更に二列目に並んでいる生徒たちが前に出る。

「アルト! 一度引こう! タイミングを教えてくれ!」

 あまりに数が多い為か、ルッツが後退を提案してきた。実際に、襲い掛かるブラッディーウルフの数は、一向に減る様子はない。争いの気配を感じて、次々と集まっているようだ。

「よし、魔法部隊! もうひと頑張りだ!」

「分かった! 任せろ!」

「一斉に行く! タイミングを合わせろ!」

「分かってる! 一気に行くぞ! 前衛! 後退の準備を!」

「「「了解!!」」」

 生徒たちが一斉に放った魔法により引き起こされた爆風が、魔物たちを吹き飛ばす。
 木々の間を吹き抜ける赤い炎。その光は、遠く離れた所でさえ、見ることが出来た。

◇◇◇

 実際に、喧騒から離れた場所で、その光を見ている者が居る。

「随分と派手にやってるね?」

 離れていても、遠くで見える光は、魔法のそれであると分かる。

「そうですね」

「威力は違うけど、あれは、あたしのバーニングと同じかもしれないね」

「そうなのですか?」

 バーニングは、オリジナル魔法だ。他に使い手が居ると聞いて、男子生徒は驚いた。

「……これほどの使い手が、生徒の中に居たなんて、ちょっと驚きだよ」

「カムイ・クロイツでしょうか?」

「かもしれないね? まあ、それは直ぐに分かるさ。準備しな。あの距離だと、もう直ぐ来るよ」

「はい、マリー様」

 宿営地から姿をくらませていたマリーとその部下たちは、戦いの場から程近い、この場所で、カムイが現れるのを待っていた。
 宿営地で何が起こったか、知らないままに。
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