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魔王の器 作者:月野文人

第四章 大陸大乱編

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オッペンハイム王国滅亡

 オッペンハイム王国の王都ベステンブルーメ。その中央にある城の窓からディーフリートはあちこちから火の手が上がる街の様子を眺めていた。ルースア帝国軍に外壁の突破を許したオッペンハイム王国軍は住居地区を放棄して城内に退却。今は城壁を頼りに最後の抵抗を試みている最中だ。間違いなくこれが最後の戦い。自国の敗戦を確信した兵士の中からすでにかなりの数が離脱しており、城内に入った軍勢は三千ほど。オッペンハイム王国軍六万に抗える数ではない。ただ逃げ出した兵士がいなくても追い詰められたオッペンハイム王国軍に逆転の可能性は限りなくないに等しい。命を惜しんで逃げ出した兵士たちを責める気にはディーフリートはなれない。負けが見えた以上は道連れは少ない方が良いくらいに思っていた。
 もっとも逃げ出した兵士たちを待っていた運命は過酷なものだ。王都ベステンブルーメの周囲はルースア帝国軍に完全に囲まれている。オッペンハイム王国軍から離脱しても逃げ場はないのだ。今、ディーフリートが眺めている炎は離脱したオッペンハイム王国軍兵士とそれの掃討に動いたルースア帝国軍との戦いによって発生したもの。炎の数だけ戦闘が行われているということだ。

「殲滅を図るとは、騎士の情も知らぬ野蛮人との戦いはこれだから嫌だ」

 ディーフリートの背中から聞こえてきた声。父であり元西方伯であるオッペンハイム国王のものだ。
 居住地域で戦っているオッペンハイム王国の兵士に戦意はない。どこか一カ所、逃げ道を用意すればそれで逃げ去っていくはずだ。そうであるのに四方を塞ぎ殲滅を図ろうというルースア帝国のやり方にオッペンハイム国王は憤っている。

「その野蛮人の半分近くはディア王国の者たちだと思いますが」

 ディア王国軍は元シュッツアルテン皇国中央の騎士や兵士たちで構成されている。野蛮人と呼べるような相手ではないはずだ。

「中央で生まれ育ったからといって上品であるとは限らない。クラウディアが良い例ではないか。保身の為には国さえ売ってしまう厚顔さは、とてもシュッツアルテン皇家の生まれとは思えんな」

「そうであっても、そのクラウディアに我が国は滅ぼされようとしております。偉そうなことは言えません」

 今は何を言っても負け惜しみにしかならない。オッペンハイム王国は破れ、滅びようとしているのだ。

「……そうだな。何故、こうなってしまったのか」

 反乱を主導しルースア帝国を打ち払った後には、オッペンハイム王国が西方を統べるはずだった。それが出来れば次は大陸制覇。ルースア帝国に代わってオッペンハイム王国が大陸の覇者となるはずであった。だが、目の前の現実はそうではない。ルースア帝国を打ち払うことさえ出来ないで終わってしまった。

「力がなかっただけです」

「大陸西方の半分を押さえた。それでも力が足りなかったというのか?」

 自国周辺の大陸西方西部、シドヴェスト王国連合の南部。そして北部侵攻によりその大半を支配下においた。オッペンハイム王国とシドヴェスト王国連合同盟は一時、大陸西方の半分を支配下に置いていた。大陸西方において最大の支配地域を有していながら結果はこの通りだ。

「……それもただの勘違いだったのです」

「勘違いだと?」

 ディーフリートの勘違いという言葉にオッペンハイム国王は顔をしかめている。自分が馬鹿にされているような気がしたのだ。

「そうではないですか? 最後の最後でシドヴェスト王国連合は崩壊しました」

「それはお前が連合をしっかりとまとめていないからだ」

「それについては認めます。ですが多くの味方が離脱したのはオッペンハイム王国も同じです」

「それは……」

 オッペンハイム王国軍からも多くの軍勢が離脱していった。主に元西部辺境領主たちだ。今となっては元従属貴族家からも背いた者は少なくないが。

「我々はずっと勘違いをしていたのです。それこそシュッツアルテン皇国時代から」

「皇国時代? 何故そこまで遡るのだ?」

「そうではありませんか? 皇国はカムイを討とうとしていましたが、そんなことを考えている時からとっくに負けていたのです。ルースア王国が攻め込んできたから、そのルースア王国に敗れたから気が付かなかっただけで、カムイはいつでも皇国を滅ぼすことが出来たのではないでしょうか」

 元辺境領主のほぼ全てがカムイに従った。それだけではない。カムイたちは大陸西方の流通を支配している。その力を使えば、シュッツアルテン皇国も滅ぼすことは出来たはずだとディーフリートは考えている。

「……さすがにそこまではないだろう」

 オッペンハイム国王はディーフリートの考えを否定した。
 これはオッペンハイム国王が正しい。ディーフリートはカムイたちを買い被りすぎだ。当時はまだ辺境領主たちの多くはシュッツアルテン皇国を裏切ってカムイに付く覚悟はなかった。ノルトエンデという攻めるには難しい本拠地を持つカムイたちとは異なり、辺境領主は容易にシュッツアルテン皇国に攻められる位置にある。ニ家、三家で背いてもすぐに鎮圧されて終わりだ。従うにしても後の方で。これが多くの辺境領主の気持ちだった。

「この力があって何故、カムイは……いや、こう考えるのは間違いか」

 カムイは何故、ルースア帝国の成立を許したのか。かつて何度も頭に浮かべたそれを、ディーフリートは考えることを止めた。考えても意味はない。カムイと自分では価値観が違う。結局はそれだけのことだと分かっているのだ。

「カムイ・クロイツに従う道を選んでいたらどうなっていたかな?」

 オッペンハイム国王が別の可能性を口にした。未練たらしく「たられば」を口にしているだけではあるが、分かっていてもそうしたい気持ちがオッペンハイム国王の胸に湧き上がっているのだ。それはやはり「たられば」であるが。

「……兄上、ですか?」

「不思議なものだな。カムイ・クロイツと親しかったはずのお前はカムイと競うことを選び、直接話したこともなかったディートハルトは従うことを望んだ」

 ディーフリートの兄であるディートハルトは実際には従うとまでは口にしていないが、決してカムイを敵に回してはならないと訴えていた。その言葉に耳を傾けていたら。オッペンハイム国王の胸に浮かんだ思いはそういうことだ。

「……私が愚かだっただけです」

「そうかもしれない。だが離れて見ているからこそ分かることもあったのかもしれない……それが分からない私が愚かなのか」

 遠い近いなど関係ない。欲に曇った目で物事を見ていたオッペンハイム国王はいくつもの判断を誤った。その中でも最悪な過ちの一つがディートハルトにディア王国の王都ウエストミッド攻撃を命じたこと。もしそれがなくディートハルトがあのまま北部の鎮圧そして懐柔に努めていたら、オッペンハイム王国は大陸西方北部を完全に掌握出来ていたかもしれない。これも「たられば」だ。

「……どうでもいいけど、その下らない会話はいつまで続くんだ?」

 突然掛けられた言葉。オッペンハイム王国の国王と王太子という二人にこのような無礼な口を効く者が臣下にいるはずがない。振り返ったディーフリートの瞳に映ったのは。

「……なっ!?」

 不機嫌そうに突っ立っているカムイだった。

「男二人でうじうじと。しかもその二人がこの国の頂点なんだからな。それじゃあ勝てるはずがない」

「……どうやってここに?」

「案内してもらって」

「誰に?」

「さあ、お前たちの臣下だろ? 俺は正面から堂々とカルロスからの急使だって名乗っただけだ。ああ、信用してもらう為に書状は本物を使った」

「カルロスか……」

 カルロスがカムイの為に動いている。シドヴェスト王国連合の解散にカムイが裏で糸を引いていることの証明のようなものだ。それを今追求しても意味はないと分かっていてもディーフリートは釈然としないものを感じている。

「それだけではどうやってルースア帝国軍の包囲をすり抜けてきたか分からんが、まあいい。わざわざこんな危険な場所に何の用だ?」

 そんなディーフリートの代わりにオッペンハイム国王がカムイに用件を尋ねた。戦いの真っ只中、しかもそう遠くないうちに落ちようという城に訪れてきたのだ。どのような用件かは気になる。

「ディーフリートをこちらに渡してもらう」

「……それはどういう意味だ?」

 ただ渡せではカムイの意図が分からない。オッペンハイム国王はカムイに理由を尋ねた。

「王后か王太子妃かは知らないがセレネの身柄はこちらが預かっている」

「何だって!?」

 セレネがカムイのところにいると聞いてディーフリートが驚きの声をあげた。

「何を驚く? 戦争の最中に十分な護衛もいないような場所に置いておくほうが悪い。こちらが攫わなくても帝国に攫われたはずだ」

 これは嘘だ。護衛は充分にいた。だが堂々と現れたアルトにセレネは面会を許し、そのあと自ら付いていくと言い出したことで、それを防ぐ必要性を誰も感じなかっただけだ。実際に防ぐ必要はない。

「……もしかして保護したってことかい?」

「ちゃんと人の話を聞いていたか? お前の家族の身柄はこちらの手の中にある。殺されたくなければ言うことを聞け」

「カムイがセレを殺す? 無理だよね?」

 セレネに向かって「もう仲間ではない」と決別を宣言したカムイ。だが、カムイとセレネの仲がその程度で終わるとはディーフリートは思っていない。それはとても悔しいことであったとしても。

「……意地悪は出来る」

 少し考えたカムイの口から出てきたのはこの言葉だった。

「いや、意地悪って……」

 それを聞いた途端にディーフリートは緊張感が解けてしまった。それは人質に対して行うようなことではない。学院時代にカムイがセレネにしていたことだ。

「学院の時とは違う。俺たちはもう大人だからな。あんなことやこんなこと、色々やってセレネを泣かせてやる」

「……あんなことやこんなことが何かはちょっと気になるけど……そうか、セレはカムイのところにいるのか」

 セレネはカムイに保護されている。複雑な心境ではあるが、ディーフリートにとってそこはどこよりも安心出来る場所でもある。これから死のうという自分にとって心残りがなくなるのはありがたいことだとディーフリートは思った。

「だから勘違いするな。言うことを聞かなければ、セレネが酷い目に遭うからな」

「いや、それはカムイには出来ないよ」

「……ほんと情けないヤツだな。俺のところにいると聞いて、どうして取り返そうとしない?」

 これでは前回と同じだ。結局、ディーフリートは体面を気にすることを止めていない。それがカムイを苛立たせる。カムイはディーフリートの為にこの場にいるわけではない。セレネの、そして仲間たちの思いを考えてディーフリートの命を助けに来ただけだ。

「そうしたいけど僕はこれから死ぬ身だ。そして僕が死んだ後、セレを託せるのはカムイ。君しかいない」

「……どうして俺がお前の願いを聞かなければならない?」

「いや、それは最後の頼みということで」

「お前は昔からそうだ。人の良さそうな顔をして実はすごく我が儘で、なんでも自分の思い通りに進めようとする。だが、それももう終わりだ」

「……カムイ。我が儘なのは分かった。でも頼む! それでも僕の最後の願いを聞いてくれ!」

「断る!」

「カムイ?」

 ディーフリートはセレネを頼むと言っているだけだ。それを何故、カムイが断るのかが分からない。そうであれば何故、セレネを保護するような真似をしたのかが。

「おふざけはここまでだ。俺はまだ要求を言っていない。一方的な要求は止めて、まずはこちらの話を聞いたらどうだ」

「……何かな?」

 確かにカムイは「言うことを聞け」と言っただけで具体的なことは何も言っていない。それを思い出したディーフリートはカムイの言うとおり話を聞くことにした。

「……俺に仕えろ」

「えっ?」

「王の器だなんて持ち上げたことは謝る。俺の間違いだった。お前に人を従わせる器量なんてない」

「カムイ……」

「だから俺に従え。俺ならお前の能力を最大限に発揮させてやる。まあお前の能力なんてたかが知れている。出来ることなんて限られているからな。それでも……このまま終わるよりはマシだろ? 俺に従えばまだ夢は続く」

「君は……」

 カムイのこのような自信に満ちた言い方を聞いたのはディーフリートは初めてだった。この期に及んでもまだ自分の知らないカムイを見ることになった。自分はカムイのことを何も分かっていなかった。ディーフリートがこれを思うのはもう何度目か。
 だが、それもまだ早かった。

「もう一度言う。ディーフリート・オッペンハイム! 俺に臣下として仕えろ! 否応はない! これは臣下であるお前に対する最初の命令だ!」

「…………」

 相手の瞳を真っ直ぐに見据え、朗々とした声音でこれを告げるカムイ。アーテンクロイツ連邦共和国において何度か見たことのあるカムイの姿だが、それを自分に向けられたのはディーフリートは初めてだった。
 カムイの体からあふれ出す覇気。ディーフリートはその威厳に思わずその場に跪いてしまいそうになる。王の器がどういうものかディーフリートは初めて知り、それに圧倒された。そしてそれはディーフリートだけではない。

「……カムイ・クロイツ殿」

 隣で話を聞いていたオッペンハイム国王が口を挟んできた。

「何だ?」

「私、オッペンハイム王国国王ディーテリヒ・オッペンハイムは貴方に臣下としての忠誠を誓おう」

「……はっ?」

 まさかの言葉に戸惑うカムイ。カムイにオッペンハイム国王を従わせるつもりはない。仕えられても面倒なだけだ。だが、オッペンハイム国王も本心から仕えたいわけではなかった。

「王である私が貴方の臣下になったのだ。その私の臣下もまた貴方の臣下。陪臣ではありますが、どうかディーフリートのやつをこき使ってやって頂きたい」

「そういうことか……」

 臣下になると言い出したのはディーフリートをカムイに従わせる為。オッペンハイム国王の気持ちをカムイは知った。

「その上で私にご命令を。貴方を逃すために死ねと」

「父上!」

 オッペンハイム国王の言葉に隣で呆気にとられていたディーフリートが声を上げた。

「主人の前で騒ぐな!」

「父上だけを死なせるわけにいきません!」

 父親はけじめをつけようとしている。ディーフリートにはそれが分かった。そうであれば同じく戦いを引き起こした自分も死んでけじめをつけるべきだとディーフリートは考えている。これはもう前から覚悟していたことだ。

「お前にそれを言う資格はない!」

「なっ?」

 だがオッペンハイム国王はそれを許そうとしない。

「オッペンハイム家をずっと蔑ろにしてきたお前にオッペンハイム王国の最後を背負ってもらうつもりはない。それはずっと私に心から仕えてくれた臣下たちだけに許された権利だ」

「しかし私にも私に従ってくれた臣下に対する責任があります!」

 オッペンハイム王国については確かに父親の言うとおりだとディーフリートも思う。だがシドヴェスト王国連合を戦いに引き込んだ責任は自分にあるとディーフリートは考えている。その通りではあるのだが。

「お前に従っている者など何処にいる? さっきお前自身が否定したではないか」

 オッペンハイム国王はディーフリートを生かしたいのだ。共に死ぬことを認めることなど決してない。

「それは……」

「カムイ様。どうか私の願いを聞き届けて頂けますようお願い申し上げます」

 ディーフリートが口ごもったところでオッペンハイム国王はカムイに話を向けた。一気に物事を決めてしまおうという考えだ。その気持ちは当然、カムイにも分かっている。

「……ああ、良いだろう。ディートリッヒ。これが俺の最初で最後の命令だ! 俺を逃がすためにその命を捧げよ!」

「はっ! ご命令承りました! 皆の者! 出陣だ! 最後の死に花を咲かせたいと思う者だけ付いてこい!」

「「「おおっ!!」」」

◇◇◇

 城に残っていたほぼ全ての騎士と兵士がオッペンハイム国王に従って、最後の戦いに挑むことを決めた。そういう者たちであるから城にこもったのだ。逃げ道のない城で最後の時を過ごす覚悟で。
 だが彼らの最後の時は城中ではなく、城壁の外で迎えることになった。城門を開けて飛び出していく三千の軍勢。死を覚悟した彼らの勢いはすさまじく城門の前に陣取っていたルースア帝国軍を大混乱に陥らせている。だがそれもいつまでも続きはしない。敵は二十倍の数だ。やがて気力も体力も使い果たし、彼らは死んでいくことになる。

「そうなるのは分かっているだろ? 感傷にふけっている時間はない。さっさと行くぞ」

 死に向かう彼らを見つめているディーフリートにカムイが声を掛ける。

「……ああ、分かったよ」

 無事に逃げられなければ父親の、臣下の奮闘を無駄にしてしまう。それが分かっているディーフリートは感傷を振り払ってカムイの後について歩き出した。

「どうやって街を抜け出すつもりかな?」

「……門を抜けて。この街には抜け道がまだないからな」

「門は塞がれているよね?」

 まだ出来ていないという抜け道についても気になるところだが、城門を突破しようとするカムイの考えのほうが今は問題だ。

「それは当然、ルースア帝国軍はいる」

「……見つからないで外壁門を抜けるなんて無理だ」

 ここは西方伯時代からの都。ディーフリートが生まれ育った街だ。街の出入り口のことはよく知っている。そうでなくても隠れて通り抜けられる門など門とは呼べない。

「……お前、俺の臣下になったこと忘れているだろ?」

「あ、ああ、えっと、無理ではないですか?」

「見られるのと見つかるは違う」

「……どういう意味……ですか?」

「ちょっと黙ってろ。その時になれば分かる」

 あとはもうカムイはディーフリートの存在を忘れたかのように周囲を探りながら先に進んでいく。本当に忘れたわけではないが、気配を探るのに気持ちを集中させているので、そう見えるだけだ。
 そうしてしばらく進んだところで、カムイはある建物の前で足を止め、そのまま扉の中に入っていった。あわててその後を追うディーフリート。

「さっさとこれに着替えろ」

 建物に入ったディーフリートに鎧が突き出された。突き出してきたのはカムイではない。ディア王国軍の兵士、と同じ格好をした者だ。そして突き出された鎧もその兵士と同じディア王国軍のもの。

「……どうしてこんなものを」

「考えていないで手を動かせ。時間がない」

 奥の方からカムイが文句を言ってくる。カムイもまた同じ鎧を身に着けていた。

「偽装か。よくこんなものを用意出来るな」

 鎧を身に着けながらも、感心したように呟くディーフリート。だが、まだ甘い。

「偽装じゃない。彼らはディア王国の正規軍だ」

「えっ!?」

「まあ、それも今日までだな。お前を助ける為に彼らを動かすことになった、そうなれば彼らをディア王国軍に残しておくわけにはいかないからな」

 街を出てそれで終わりではない。ルースア帝国軍とディア王国軍は周辺にも展開しているのだ。その両軍の間をすり抜けて安全圏に逃れるまでにはそれなりに時間がかかる。その間に彼らが持ち場を離れていることが知れてしまう可能性は高い。もう戻るわけにはいかないのだ。

「……他にも大勢?」

「大勢いるわけないだろ。植えたばかりの草をお前を助ける為に使うことになった。その分はきっちり働きで返してもらうからな」

「あ、ああ」

 かつてシュッツアルテン皇国もルースア王国も多くの草を抱えていた。何年にも渡って敵領内に住み着き、敵国民と同化しながらも自国の為に働く間者。混乱の中で両国が忘れてしまったその存在を、混乱の中でカムイたちは新たに植え付けていたのだ。
 ――この日オッペンハイム王国軍は国王を含むほぼ全員が戦いの中で討たれ、王都ベステンブルーメはルースア帝国軍の手に落ちることとなった。それからしばらくして、ルースア帝国は王太子であるディーフリートの生死を確認出来ないままに戦いの勝利、そしてオッペンハイム王国の滅亡を宣言した。
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