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魔王の器 作者:月野文人

第四章 大陸大乱編

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力試し

 戦場に現れたシドヴェスト王国連合の別働部隊。騎馬だけで編成されたおよそ三千の部隊は、駆けてきた勢いそのままにルースア帝国軍を急襲した。
 城砦への突入に向けて前懸かりになっていたルースア帝国軍は、後背を突かれて大きく混乱。陣形を乱して、戦場は一気に混戦となった。
 シドヴェスト王国連合の新手の出現に驚いたのはルースア帝国軍だけではない。味方である城砦に籠るシドヴェスト王国連合軍も同じだった。

「……あれは誰が率いているのだろう?」

 ディーフリートは城砦内の高所にある指揮所で、ルースア帝国軍の背後を駆けまわっている自国の軍勢を眺めながら問いを口にする。

「それは本気で聞いているのか?」

 その問いにレムは質問で返す。誰が率いているかなどレムであっても明らかだ。騎馬部隊を率いる者の顔は見えないが、小柄なシルエットはそれが女性であると分からせる。シドヴェスト連合王国において女性で軍を率いる者などセレネしか思いつかない。

「……セレだろうね」

 ディーフリートにいたっては頭を働かせるまでもなく、シルエットを見た瞬間にセレネだと分かっていた。分かってしまい、それを信じたくなくて問いを発したのだ。

「勇ましい王妃様だな」

「以前は割と戦場に出ていたからね」

 ルースア帝国がまだ王国であった時代に南部に侵攻してきた時。その後の南方伯家との戦いなどで、セレネは戦場に出て戦っていた。

「そうだとして……強いのか?」

「それは……」

 その辺の王妃よりは強い。だが、レムが聞く「強い」がその程度で納得するものであるはずがない。

「打って出るには良いタイミングではあるな」

 じっと戦況を見守っていたバッカスが出撃を進言してきた。たしかに今、ルースア帝国軍は混乱を見せている。ディーフリートにも押し返すには絶好のチャンスに思える。

「……そうだね。出撃しよう」

 機会云々は関係なく、ディーフリートには出撃という選択肢しかない。今は押している自国の別動隊ではあるが、ルースア帝国が落ち着きを取り戻せば、また形勢は逆転する。ルースア帝国軍は別動隊の三倍の軍勢であり、帝国の勇者もいるのだ。
 それが分かっているからレムはディーフリートに尋ねたのだ。勇者と戦えるほど強いのかと。

◇◇◇

 シドヴェスト王国連合軍の城塞側も一気に攻勢に出た。城砦内へ侵入しようと城壁に空いた穴に殺到しているルースア帝国軍。その敵兵に向かって、魔族部隊が襲い掛かる。ルースア帝国軍の切り札が勇者の魔法による狂戦士部隊であれば、シドヴェスト王国連合の切り札は魔族部隊。本来は早々に戦場に投入したいのだが、勇者がいる以上は「ロイエ平原の戦い」の二の舞になってはならないと魔族部隊は温存されていた。「ロイエ平原の戦い」における魔族部隊の被害は大きく、虎の子の様にせざるを得ないほど数が減ってしまっているのだ。
 それでも城砦の守りと魔法士部隊の支援を受けながらの、魔族部隊の攻勢は効果を発揮し、前後から押し込まれた形になったルースア帝国軍の混乱はますます激しくなる。

「押せ! 押し込めろっ!」

 ルースア帝国軍を押し戻そうと奮闘を続けるシドヴェスト王国連合軍。その勢いに押されて、徐々にルースア帝国軍は後退を始める。

「魔法士部隊! 一斉攻撃だ!」

 ルースア帝国軍を城塞から何とか引き離したところで、魔法攻撃の指示を出すディーフリート。押し込んで終わりではない。一気にルースア帝国軍を崩壊にもっていきたいのだ。
 後方で戦っているセレネが心配でもあるし、城壁を崩された状態ではこの先守り切れるか不安でもある。ディーフリートとしては何とかルースア帝国軍を撤退させ、城壁を修復する時間を稼ぎたかった。
 一斉に赤と緑の魔法の玉が、ルースア帝国軍の前線に撃ち込まれる。
 だが敵をなぎ倒すはずのその魔法は、ルースア帝国軍の手前で光の壁に遮られた。

「……防御魔法。しかも、これだけの規模で……」

 ルースア帝国軍の前に展開したのが魔法防御魔法であることはすぐに分かった。だが二百人を超える魔法士の一斉攻撃を完璧に防ぎきる防御魔法を展開するなど並みの使い手ではない。 

「勇者か……」

 味方を狂戦士にさせる魔法以外で、勇者の力を見せつけられたのはこれが初めて。少しずつ勇者はその実力を発揮しようとしている。その得体の知れなさにディーフリートの胸に不安が広がっていく。

「狂戦士部隊だっ!」

 ディーフリートの不安をさらに煽る声が戦場に響き渡る。ようやくルースア帝国軍を城砦から引き離したのだが、その間を突き進んでくる五百名ほどの敵部隊。シドヴェスト王国連合が放つ魔法や矢を物ともせずに突き進んでくる姿は間違いなく狂戦士部隊だ。

「どれだけの魔力量を……なんて考えている場合じゃないか」

 こんな調子で狂戦士部隊を何度も送り込まれては、守り切ることなど出来ない。敵を崩壊させるどころか、ここで一気に城塞を落とされる可能性も出てきた。

「ディーフリート様! 東方の敵が攻勢をかけてきました!」

 さらにディーフリートを追い詰める伝令の声が響き渡る。
 敵はこちら側だけではない。本来正面に位置する東側に布陣している敵も動き出した。分かっていたことだ。ずっと敵は両方面から攻め立ててきていたのだ。そして恐らくは東側の攻勢もこれまでにない激しいものに違いない。 

「どうするのじゃ!?」

 伝令の声を聞いてバッカスがディーフリートに近づいてきた。

「……後方の別動隊は?」

 ディーフリートはそのバッカスの問いには答えず、伝令に別動隊の様子を尋ねた。

「詳しいことは分かりません。ただ、ここに来るまでに見た限りは敵の騎馬部隊と戦っておりました」

 城塞内から来たこの伝令が後方の戦況を詳しく知っているはずがない。それでも移動中のどこかで戦っている様子は見ていたようだ。

「敵騎馬部隊か……」

 ディーフリートの表情が曇る。騎馬に対して騎馬を出すのは当たり前で、これは予想出来ていたことだ。だが、この予想できた状況になった場合、別動隊は追い込まれることになる。
 ルースア帝国軍の騎馬隊とシドヴェスト王国連合別動隊では、数だけでなく質もシドヴェスト王国連合側が劣っているはずなのだ。だからこそ、別動隊は後方であるエリクソン王国で留守居を任されていたのだから。

「早く決断してもらえるか? 総大将であるお主が悩んでいては、ただでさえ薄い勝ち目がさらに薄くなるぞ」

 バッカスが決断を求めてくる。この言い方ではもう負け戦と半分諦めている様子だ。

「勝てませんか?」

「こちら側は侵入を防ぐので精一杯。守り切ろうと思えば犠牲を出し続ける覚悟が必要だ。だが、それをすれば兵の数は減り、正面東側の守りも薄くなる」

「……そうですね」

「ここで玉砕するつもりであれば構わんが、そうではないのだろう?」

 この城塞を突破されてもまだ後方に防衛拠点がある。それを突破されても、さらに。その時にはオッペンハイム王国軍と合流しての戦いが出来るはずだ。ここでの敗北だけで全てが終わるわけではない。

「もちろんです」

「そうであれば、ここは放棄して後方に下がるべきではないかな?」

「……分かりました。一つだけお願いがあるのですが?」

「何じゃ?」

「後方の別動隊に退却するように伝えてもらえますか?」

「……それは無理じゃな。敵は別動隊と合流させないように、攻勢をかけながらも守りを固めておる。そこを突破するのは無理じゃな」

 ルースア帝国は狂戦士部隊の突撃と、それを支援する一部の部隊だけで攻勢をかけてきている。それ以外の軍勢は固く陣を守って、シドヴェスト連合軍の突破を許さない構えだ。
 これはディーフリートも分かっている。だが魔族であればと思ってバッカスに頼んだのだ。

「……レム殿は?」

「夜の闇の中であれば引き受ける気にもなれたが、こんな明るい中では突破は無理だ。大きく迂回して伝えるということであれば引き受けてもかまわないが、どうする?」

「……いえ、結構です」

 レムの言う迂回は、恐らく脱出路を先行するというもの。普通の伝令よりは速いだろうが、それであればもっと早く伝える方法はある。

「私は指揮所に下がる。前線の指揮は……マルス。君に頼む」

「……はっ」

 指揮を任された配下のマルスは、緊張した面持ちで返事をした。
 確かにここは今前線だが、ディーフリートたちの話を聞いていれば、すぐに前線の指揮から殿の指揮に変わることは分かる。生き残るのは難しい殿の指揮に。
 それが分かっていても嫌とは言えない。一人でも多くの味方を救う為に、誰かが犠牲にならなければならないと分かっているのだ。
 前線を離れて城塞内に戻ったディーフリート。指揮所に戻ってすぐに各所に伝令を飛ばす。撤退指示だ。

◇◇◇

 シドヴェスト王国連合別働部隊を率いているセレネ。ルースア帝国軍の後背を襲って、混乱させたまでは良かったが、やがて敵は落ち着きを取り戻し、後方の陣を固めると共に騎馬部隊による迎撃に出てきた。
 数は同数かルースア帝国軍の方が少し多いくらい。だが、ディーフリートが懸念した通り、騎士の質が段違いだった。
 ルースア帝国軍の騎馬部隊とは速さが違った。馬の足ということではなく騎乗技術や相手の進行方向の見極め、適切な位置取りなど技量の差が部隊の速さの違いになっていた。
 後ろに付かれて攻め立てられる。何とか振り切った思っても、すぐに敵の別部隊に追いつかれて攻められる。
 セレネ率いるシドヴェスト王国連合軍の騎馬部隊はその数をどんどん減らしていった。

「王妃殿下! もう限界です! 退却の指示を!」

 すぐ後ろを駆けている騎士がセレネに退却の指示を求めてきた。

「まだいけるわ! なんとか敵陣を突破したいの!」

 だが何とか城塞に辿り着きたいと思っているセレネは騎士の言うことを聞こうとしない。

「しかし、今のままでは全滅してしまいます!」

 まだ味方の数は二千五、六百はいる。だが後方から一方的に削られている今の状況では部下の全滅という言葉は大げさではない。
 ルースア帝国軍は実力差を見切っていて、味方に犠牲が出ない確実な方法を取っているだけなのだ。

「でも……!」

 まだ躊躇いを見せるセレネ。そんなセレネに決断を促したのはルースア帝国軍が放った魔法だった。

「んぐっ!」

 進行方向のすぐ前で炸裂した魔法。その衝撃に驚いて暴れる馬から振り落とされたセレネは背中から地面に叩きつけられた。

「王妃殿下!」

 慌てて先に進んだ騎士たちが馬を戻そうとする。

「逃げてっ! 敵がくるわ!」

 その騎士たちに向かって、セレネは逃げるように怒鳴った。味方の後ろを敵騎馬隊はずっと追撃してきている。その敵騎馬隊がセレネに迫っていた。

「敵が来るぞ! 王妃殿下を守れ!」

 逃げろと言われて騎士が逃げるはずがない。セレネは彼らの守るべき主なのだ。
 地面に倒れたままのセレネの横を駆け抜けていく騎士たち。彼らの正面にはルースア帝国の騎馬部隊が迫っている。

「王妃殿下! 早く馬にお乗りください!」

 一人の騎士が馬を引いてセレネに近づいてくる。自分の馬を渡して、セレネを逃がそうというのだ。

「……貴方はどうするの?」

 セレネは聞かなくて良い問いを発してしまう。

「自分はここで敵の足止めをします! さあ、王妃殿下は急いで、この場を離れてください!」

 騎士がこう答えることは分かっていたはずだ。これを聞いて、セレネは騎士にどんな言葉を返せるというのか。

「私は……」

「さあ、早く!」

 敵の騎馬隊が迫ってくる。技量に劣る味方の騎士たちでは、それを防ぐことは出来なかった。セレネの下に敵が到達するのも時間の問題。
 セレネは死を覚悟した。そして思い出す。ずっと前に同じように死を覚悟した時のことを。自分が無力であったせいで、味方を死に追いやった時のことを。
 その時と今は同じだ。そして、その時は――。

 セレネの目の前で閃光が走る。それに少し遅れて届いた熱風がセレネの肌を焼く。

「な、何?」

 魔法であることは分かる。だが、その魔法は味方ではなくルースア帝国軍の騎馬隊を吹き飛ばしていた。

「第二波! 放てっ!」

 魔法の出元は分かった。ルースア帝国騎馬隊のさらに先に二百騎ほどのシドヴェスト連合王国の軍装を纏った騎馬が駆けている。魔法はその騎馬隊から放たれていた。
 軍装は自軍と同じで、ルースア帝国軍に攻撃を仕掛けている。味方と見るべきだが、シドヴェスト連合王国軍に魔法を使う騎馬部隊などいないことをセレネは知っている。

「……まさか?」

 セレネは一度だけ、こういう部隊を見たことがある。機動魔道部隊と呼ばれていた騎馬隊だ。その軌道魔導部隊を率いていたのは。

「いつまでぼんやりしてんだい!? 逃げるならさっさと逃げておくれよ!」

 懐かしい声。この声の持ち主はセレネが考えていた通りの人物だった。

「マリーさん……」

「はっ? 誰のことだい? あたいは……誰だ? 名前までは考えてこなかったね」

 マリーはいつも着ている魔道士服ではなく、騎士の恰好をしている。一応は変装のつもりなのだ。本人に隠すつもりがあるかは別にして。

「……もしかして、カムイも?」

「それも誰のことだい? いかれた馬鹿野郎なら、あそこにいるけどね」

 マリーが指差す先には、ルースア帝国軍の騎馬隊を追い落としている、これもまたシドヴェスト連合王国軍に見える騎馬隊がいた。八百ほどのその騎馬隊は三倍はいる敵騎馬隊を一方的に蹂躙している。それこそ速さが段違い。ぴったり後ろに付かれては数など関係なく、後方から順番に討たれていくだけだ。
 ルースア帝国側が部隊をいくつかに分けても同じ。同じ数に部隊を分けて、それぞれの後ろにくっついて離れない。その更に後ろに付こうとしても、さっと躱されるだけだ。

「……なるほどね。あんな騎馬隊を率いているのは、あいつしかいないわね」

 セレネが見ても力量の差は明らか。ルースア帝国軍を圧倒するだけの力を持つ軍など、かつて大陸最強と称されたノルトエンデ軍くらいしか考えられない。
 だが、セレネがカムイの軍を、カムイの強さを本当に知るのはこれからだ。
 後方で暴れまわる新手の騎馬隊に気が付いたルースア帝国軍は、軍勢のかなりの数を後方に進めてきた。城塞側ではすでにシドヴェスト連合王国軍は退却に移っている。反攻がないと分かっているので、最低限必要な数だけを残して後方の戦いに集中しようと考えたのだ。
 ルースア帝国軍の陣から抜け出てきたのは狂戦士部隊。騎馬隊に歩兵である狂戦士部隊をぶつけるつもりだ。肝心の騎馬隊が良い様にやられているので、それしかない面もあるのだろう。
 それに対してカムイは、自らも馬を降りて狂戦士部隊に向き直った。

「お~いっ! 割り込む隙間作ってくれ!」

 呑気な声が届いてきた。

「……まったくあの馬鹿は。もっと楽に戦えば良いだろうに」

 文句を言いながらもマリーは機動魔道部隊を率いてカムイのところに向かう。そのままカムイの横を通り過ぎて。

「第一波! 放てっ!」

 マリーの号令に合わせて、一斉に放たれた魔法が狂戦士部隊の隊列を吹き飛ばす。

「各個撃! 旋回離脱!」

 今度の攻撃はばらばら。それぞれが魔法を放っては馬を返して後方に下がっていく。
 そして機動魔道部隊が去った後には、狂戦士部隊の隊列の中に飛び込んだカムイの姿があった。この時点でカムイと分かっているのはカムイが率いてきた味方とセレネしかいないが。

 腕をもがれても足を失っても戦うことを止めようとしない狂戦士部隊。だが、首を飛ばされては戦うことは出来ない。戦う意思はあっても両足を斬り放されては動くことは出来ない。
 カムイの進むところ、鮮血が宙を舞い、敵兵士の体が地に沈んでいく。そのカムイを止めることは誰にも出来ない。五百ほどの狂戦士部隊は四百になり、三百になり、そして二百になったところで、とうとう背中を向けて逃げ出した。
 その場に残ったのは首と足、そしてそれを失った三百体ほどの死体と、鮮血を全身に浴びた騎士の姿。鉄の鎧さえ赤く染める壮絶な戦いを見せたカムイの姿だった。
 そのカムイに恐れを抱いたのは敵だけではない。

「……味方で良かった。改めてそう思ったよ」

 マリーもカムイのここまでの戦いを見たのは初めてだった。

「私は……良かったとは思えない」

 それはセレネも同じ。セレネの場合は味方と思われているか微妙だと分かっているので、マリーよりもはるかに恐怖の感情は強い。

「……貴様! カムイ・クロイツだな!?」

 恐怖におびえるルースア帝国軍の中から進み出来たのは、金髪の偉丈夫。帝国の勇者であるレオ・ベトールだ。

「誰ですか、それ!?」

「とぼけるな!」

 とぼけるカムイにベトールが怒鳴ってきた。

「とぼけるなと言われてもな……」

 とぼけないではいられない。バレていると分かっていても認めてしまっては隠している意味がない。半分以上は勇者への挑発だが。

「もう良い! 貴様が誰であろうと俺が討ち果たしてくれる!」

「……なるほど。さすがは勇者。自信満々だ」

「実力に裏付けされた自信だ。半端ものの人族が、我らに勝てるはずがない」

「我らって?」

「偉大なる大天使……帝国の勇者だ」

 カムイの問いに途中まで言いかけたベトールだったが、カムイには残念なことに言い直された。

「残念。でもまあ、とにかく大天使とやらが絡んでいるのは分かった。お前がそうなのか、後ろで糸を引いているのかは確かめれば分かるか」

「どうやって確かめる?」

「お前の望む通り。戦って」

「……上等だ。その思い上がり、今すぐ正してくれる」

 これを言い切るのとベトールの姿が消えるのはほぼ同時。次の瞬間には金属音が周囲に鳴り響いた。

「……なんだと?」

 振り下ろされた剣をカムイによってはじき返されたベトールは、驚きに大きく目を見開いている。

「半端ものを舐めるなよ。ぽっと出のお前には想像出来ないくらいに、努力したつもりだ」

「努力などもともとの力の差の前では無力だ!」

 ベトールの剣が縦横無尽に振るわれる。常人では銀色の光が宙を走っているのが、かろうじて認識できるくらい。だがカムイは常人ではない。振るわれる剣を身を躱すことで避け、剣で受け流し、一切その身に受けることはない。
 戦いの様子を兵士たちが息をのんで見つめる中、剣が風を切る音と金属音だけが戦場に響いている。

「……馬鹿な!?」

 数え切れないほど剣を振り続けたベトールだが、ついにその手が止まる。自分の剣を全て避けきるカムイの力が信じられない様子だ。

「驚くのは俺が勝ってからにしろ」

 互角に戦っているくらいで驚かれてはカムイは納得いかない。だが一方で攻撃を凌げていることにホッともしている。勇者の力がどの程度のものかカムイも分かっていなかったのだ。

「貴様などに負けてたまるか!」

「それはこちらの台詞」

 今度はカムイが先手を取る。一瞬でベトールとの間合いを詰めると、そのまま剣を横に薙ぎ払う。それを自らの剣を縦に構えて受けきるベトール。

「……な、なに?」

 そのベトールの口からまた驚きの声が漏れた。カムイの剣は受けた。だが、ベトールは手の指に痛みを感じて剣を取り落としてしまう。そこにさらに振るわれるカムイの剣。それを大きく後ろに跳んで躱すベトールだが、カムイもまた一足飛びでその後を追う。

「……おのれ」

 火傷した自分の指を見つめながら、デトールは呻き声をあげた。剣は囮。それにデトールの目が向いている隙に、カムイは火属性魔法で手を焼こうといたのだ。生活魔法程度でも火は火だ。術者以外が直接触れれば火傷する。

「睨むな。隙を見せるお前が悪い」

「貴様、調子にのるなよ!」

「のってない。真面目に戦っているつもりだ」

 実際にカムイに調子に乗っている余裕はない。勇者の強さは本物だった。
 ベトールの右手の平が光を放つ。その手の平がカムイに向けて振り下ろされた。それを間一髪で左に避けるカムイ。勢いを殺せずに、ベトールの手はそのまま地面に叩きつけられた。小さな爆発が起こり、地面に陥没が出来上がる。

「そんなのもありか!」

 驚きながらもカムイは動きを止めない。地面に手をついた状態のベトールに向かって剣を薙ぐ。ようやく確かな手ごたえがカムイの手に残った。

「……き、貴様」

 ベトールの右腕は肩口から切り落とされている。一気に止めを刺そうと襲い掛かったカムイだが、ベトールは大きく後ろに跳ぶことでそれを避け、そのまま背中を向けて走り去ってしまった。

「えっ……嘘だろ?」

 勇者が逃げるとは思っていなかったカムイは、不意を突かれてまんまと逃亡を許してしまう。
 さらに呆然と立っているカムイに向かって、ルースア帝国の軍勢が突き進んできた。数は二百。小部隊だが、興奮した様子から狂戦士部隊であると分かる。カムイの足止め目的だ。

「逃がしたか……」

 勇者を討つことは出来なかったが、優勢に戦いを進めることは出来た。だが、それでカムイは満足していられない。なんといっても帝国の勇者は七人いるのだ。そして恐らくは、その中かそれ以外かは分からないが、今回戦った勇者を超える強者が敵にはいる。
 予想はしていたがこの先は厳しい戦いになる。それを思ってカムイは気持ちを引き締めた。
後書きって言い訳を書くことが多くて。そして今回もやはり言い訳で。
多くても1.5話程度と思っていた話が2話書いても終わらない……展開が遅くてスミマセン。
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