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魔王の器 作者:月野文人

第四章 大陸大乱編

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ディーフリートの意地

 山々から流れ出る幾つもの水の流れが一つになって小川となり、又、それが一つになって川となり、更に大河となる。南部諸国連合の支配地域にも、こんな川が流れている。ルフタ川がそれだ。
 南部を縦断し、皇国中央に至る手前で東に向きを変え、幾つかの支流に別れて、やがて海にまで流れ込んでいく。大陸でも有数の大河だ。ルフタ川は土地を豊かにした恵みの川の一つであるが、それと同時にその周りは幾つもの戦記の舞台でもある。
 そうなるのは当然だ。大きな川の渡渉可能な場所は、攻める側にとって、侵攻を進める為には、何としても突破しなければならない場所であり、その限られた渡渉箇所は、守る側にとって敵を迎え撃つに格好の場所なのだ。
 そして又、ルフタ川が戦場になろうとしていた。南部諸国連合の支配地域においては、北方に位置する比較的、水深の浅い場所。過去に何度も戦場となった場所だ。
 攻め手はルースア王国軍九万、それを迎え撃つのは南部諸国連合軍二万だ。
 南部諸国連合は、この地を迎撃場所に選んだ。共和国ではなく、南部諸国連合が。

「そろそろ動きそうだね? 準備をしようか」

「投石用意!」

 ディーフリートの言葉を受けて、カルロスが命令を発する。ルースア王国軍は、いよいよ川を渡ろうと動き出している。それ目掛けてまずは投石器による攻撃を仕掛けるつもりなのだ。

「下手すると橋が壊れるが良いのか?」

 命令を発しておきながら、カルロスは橋の心配をしている。川に架かっている橋は、それなりに頑丈に造られているはずだが、大量の投石による攻撃を受ければ、壊れないとも限らないのだ。

「壊れたものは直せば良い。今はルースア王国を撃退することが最優先だよ」

「……そうだな」

 その直すというのが一苦労なのだが、始めた戦争は勝たなければならない。カルロスは同意の言葉を口にした。ここで連合軍の上位二人が争っても何も良いことはないのだ。

「投石を突破した敵には直ぐに努砲で攻撃を。じゃあ頼む」

 カルロスに次の攻撃を告げて、ディーフリートは席を立った。

「おい? 頼むって、何処に行くつもりだ?」

 これだけではディーフリートが何をするつもりか、カルロスにはさっぱり分からない。

「前線。魔道士部隊への指示と、それでうまく敵を混乱させられたら、更に騎馬隊で敵を討つ」

 ディーフリートは前線に出て、戦うつもりだった。

「お前、自分が総大将だって分かっているのか?」

 カルロスはディーフリートの説明を聞いて、呆れた表情を見せている。総大将が討たれれば戦いは負けだ。その危険をこんな序盤で冒す必要はないとカルロスは思っている。

「こちらの何倍もの敵と戦うんだ。士気を高めないとね」

「士気を高める方法は幾らでもある。わざわざ危険な方法を選ぶ必要はない」

「危険な方法を選んだ訳じゃないよ。もっとも効果的な方法を選んだだけさ。さあ、余り無駄話をしている時間はない。もう行くよ」

「おい!?」

 カルロスの呼び止める声を無視して、ディーフリートは馬に乗って、前線に向かって駆けて行った。

「勝つ必要のない戦いで、何を熱くなってる?」

 思わずカルロスの口からぼやきが漏れた。ルースア王国はいずれ北上し、皇国中央に向かう。真剣に戦う必要はないとカルロスは思っている。だが、ディーフリートは手を抜いて戦うことを選ばなかった。
 共和国の者が選んだ一つ西の防衛戦を拒否し、戦場を一つ前に進めたのだ。
 この一つの差がルースア王国を本気にさせてしまう。ルースア王国の北上は、ルフタ川を渡ってからになる。渡る前に皇国を攻める意志を見せてしまっては、ルフタ川で足止めされる可能性があるからだ。
 倍以上の軍勢を揃えたとはいえ、城、しかも都攻めだ。籠城の準備をしっかりされていては、落とすのは容易ではない。そして皇都攻略に手間取っていれば、周辺国、特に共和国あたりが何をしてくるか分かったものではない。
 奇襲、急襲によって、一気に皇都を落とすのがルースア王国の作戦なのだ。

「……我らは来ない方が良かったな」

「えっ? あ、ああ、そういうことか」

 カルロスに声を掛けてきたのは、陣地構築に協力した共和国の魔族の一人だ。ほとんどは引き上げているのだが、陣地に不備があった時の為に数人は残っていた。アフターサービスというものだ。
 この魔族の言葉でカルロスはディーフリートが張り切っている理由が分かった。

「今までは、こんなことなかったのだがな」

「新たな国々の形が見えてきた。その国々の中の一人の王として、考えるべきことが出来たのではないかな?」

 皇国は分裂して、多くの国が独立し、幾つかの国が新たに立ち上がった。この先も、それは増えていく可能性がある。西方辺境領がオッペンハイム王国に素直に従うとは思えない。東方伯家も最後まで皇国に従うかは微妙な状態だ。
 小国乱立の今、南部はどう進んでいくのか。確かに、これを考える時期に来ている。

「案外、野心家だった?」

 南部の力を見せつける機会。カルロスは、ディーフリートがこう考えているのだと判断した。

「さあ? 意外と思うような性格なのか、我らは知らない。話したこともない相手だ」

 魔族たちは、あくまでも陣地構築の為に来たのであって、それ以外は何もしていない。ディーフリートとの話も必要最低限といっても良い状態だった。

「それもそうか。さて問題は南部にとって良いことか悪いことか」

 野心家という点ではカルロスもかなりの野心家だ。この戦乱を利用して、一気に飛躍したいという思いはある。だが、一方でカルロスは慎重でもある。勝てない戦いはしない質なのだ。

「悔しいが、まだそっちの王様には勝てる気がしない。独自の動きはちょっと早いな」

「賢明だ。それが本心であれば」

「……勿論、本心だ」

 カルロスも食えないが、魔族も負けていない。さりげなくカルロスに釘を刺している。

「無駄話をしている余裕はなさそうだな」

「何?」

 魔族の言葉に、カルロスは慌てて前線に目を向ける。投石による攻撃は終わり、魔法攻撃に移っている。投石の攻撃を免れた敵兵に、南部連合の魔法攻撃が襲いかかる。橋の上を爆風が広がっていく。それに吹き飛ばされた敵兵が川に落ちていくのが見えた。

「……上手くやっているようだが?」

 味方は敵の渡渉を防いでいるカルロスには。戦いは順調に見える。

「川上から来る」

「そんな馬鹿な?」

 渡渉地点となるような場所はかなり遡らないとない。敵軍のその動きを見逃しているとはカルロスは思えなかった。

「細かな説明が必要か。川上からイカダが流れてきていると言っている」

「何だと!?」

 魔族の言う通り、川上から幾つものイカダが流れてきている。兵士の乗ったイカダだ。

「まさか王国がこんな無茶をするとは」

 川上から斜めにイカダを流し、対岸に付けようと作戦だ。だが、着岸に失敗すれば、ずっと川下まで流されることになる。

「投石器! 弩弓! 何でも良い! 川上から来るイカダを狙え! 着岸を許すな!」

 カルロスの号令で、周囲が一気に慌ただしくなる。投石器などは、橋に照準を向けていた。それを変更しなければならない。

「とにかく撃ち込むことだ。直撃しなくてもバランスを崩せばそれで良いのだ」

「……分かってる! 細かい調整は良い! とにかく撃ち込め!」

 命令通り、直ぐに投石や弩が宙に放たれた。だが、それは目標のかなり手前で、川に落ちていく。

「少し手前だ! 調整が済んだら、直ぐに撃て!」

「ほう」

 カルロスの号令を聞いて、魔族が声を漏らした。更に手前を狙えというカルロスの指示に感心しているのだ。
 また投石は宙に放たれる。それは岸の少し先。イカダのかなり手前に落ちる。

「よし! 準備をして命令を待て!」

 こうして居る間にも、ルースア王国軍のイカダは近づいてくる。前線の動きも激しくなっている。敵の着岸に備えているのだ。

「……来た来た。よし! 放てぇっ!!」

 カルロスの号令を受けて一斉に投石や弩が放たれた。それは放物線を描いて、岸に近づいていたルースア王国のイカダに直撃した。

「続けろ! どんどん撃ち込め!」

 次々と放たれる投石。その着弾地点に吸い込まれるように敵のイカダが近づいていく。避けたくても避けられないのだ。

「……さて、何とかなったな」

 ルースア王国のイカダは一つも着岸することなく川下に流れていった。川に落ちた兵士もだ。
 ほっと一息、つく暇をカルロスは与えてもらえなかった。

「橋」

 魔族が呟いたこの一言によって。

「……嘘だろ? 目標修正! 橋に戻せ!」

 イカダを撃退したと思ったら、直ぐに橋に敵軍が押し寄せてきた。

「敵は二軍。それぞれの将が動かしている。それを忘れないことだ」

 ルースア王国軍は二軍に分かれていて、それぞれ将軍が率いている。同時並行で作戦が遂行されている。それを魔族はカルロスに忠告した。

「忠告どうも。こっちも二人居るんだけどな」

 その一人は前線に出ている。それはそれでてんてこ舞いの前線に。

「敵が来る! 陣を整えろ!」

 敵兵が押し寄せてくるのは確認して、ディーフリートは自軍に命令を発した。橋の手前で扇型のような陣形を整える。

「弓兵! 放てっ!」

 扇型の陣の両翼から一斉に矢が放たれた。交差するように敵に降り注ぐ矢。盾で防ぎきれなかった敵兵が矢を受けて、その場に倒れていく。

「魔導部隊。詠唱用意!」

 続けて魔法での攻撃だ。詠唱の声が響いた後、一斉に魔法が敵に襲いかかった。橋の上を爆風が吹きすさぶ。その爆風が治まった時。

「……何?」

 ディーフリートが驚きの声を漏らした。
 敵は陣形を乱すことなく、前進を続けている。魔法攻撃が全く堪えていないようだ。

「ディーフリート様。敵も魔法を放っていました」

 魔法部隊の魔法士がディーフリートに伝えてきた。

「相殺されたってことかい?」

「恐らくは」

「……しまった。これは誤算だったね」

 魔法融合、集団魔法と呼ばれる魔法攻撃。カムイによって辺境領に広められた戦法を、ルースア王国も使ってきた。これまでの魔法戦での優位性を失ったことになる。これは大きな誤算だ。

「しかし、王国はどうやって?」

 ディーフリートの心に疑念が浮かぶ。

「原理を知れば誰でも出来ることですので。最初に警告は受けてました」

「警告?」

「いつか敵国も同じ魔法を使うようになると」

「……そうか」

 魔法融合の仕組みは、それを使う魔法士は全員知っている。隠し通せるものではないのだ。いつかどの国でも使うようになる。これは最初から分かっていたことだった。
 ただ、その最初に、ノルトエンデもしくは辺境領側に居なかったディーフリートが知らなかっただけだ。

「敵、近づいてきます!」

 ディーフリートに考え込んでいる暇はない。今は戦闘の真っ最中なのだ。

「もう一度だ! 詠唱準備!」

 ディーフリートの命令で、又、詠唱の声が周囲に流れる。

「隊列を整えろ! 突撃する!」

 魔法の詠唱がまだ途中の段階で、ディーフリートは騎馬隊に突撃の命令を告げた。それを受けて、ディーフリートの周囲に騎馬部隊が集まってくる。
 詠唱が終わり、魔法士部隊から一斉に魔法が放たれる。

「……突撃!」

 それに少し遅れて、ディーフリートは突撃の命令を下した。正面では爆風が広がっている。それが治まるのを待つことなく、ディーフリートはその爆風の中に飛び込んでいった。
 南部諸国連合とルースア王国の戦いは、当初の予想とは異なり、初日から激戦になっていった。

◇◇◇

 南部での戦いが、思いがけない激戦になっていると知らないままに、カムイは北部のアンファングで使者を迎えていた。
 皇国、そしてオッペンハイム王国の使者だ。この二国の使者が共に訪れた意味は、聞かなくても分かっている。当然、使者の用向きも。

「この度は急な来訪にも関わらず、お目通りを許可して頂き、誠にありがとうございます」

 実に丁寧にカムイに礼を伝えているのはカルク宰相だ。これまでのカムイや共和国への言動を知っている者が、この場に居れば耳を疑うくらいだろう。
 もっともカムイもカルク宰相のこれまでの言動は良く知っている。

「共和国の門戸は、それが誰であろうと開いている。玄関の中に入れるかは別だが」

 嫌み込めて返すカムイ。

「今回は門戸だけでなく、玄関の扉も開くことを願っております」

 こういったやり取りはカルク宰相の得意のところだ。嫌みは軽く流して、カムイの言葉を使って返事をする。

「それはそちらの用件次第。さて、まずはそれを聞かせてもらおう」

 聞かなくても分かっているが、これも礼儀だ。

「はい。この度のルースア王国の西方侵攻に対し、我が国は一丸となって対することを提案致します」

 西方侵攻。この言葉を使うことで、ルースア王国の侵攻を西方全体の問題にしようとしている。こういう小細工については、カムイも感心するところだ。

「主旨は分かった。だが具体的な方策がわからなければ、中々、答えづらい問題だ」

「例えば、どのような点でしょうか?」

「一丸というが、どの様に戦うのだ? 連合軍を組むとして、その指揮権は?」

「それは……」

 カルク宰相はいきなり答えに詰まってしまう。最も答えにくい質問の一つをカムイがしてきたからだ。
 本音は皇国と答えたい。だが、こう答えればカムイが難色を示すことが分かっている。

「答えられない? まあ、良い。悩む理由は分かる。悩むことが我が国への誠意と捉えられなくもない」

 カムイが皇国に対して、好意的な姿勢を見せるのは、オッペンハイム王国の使者も居るからだ。両国をいきなり敵に回すつもりはカムイにはない。

「それでは?」

 カムイの反応が思っていたよりも悪くないとみて、カルク宰相は結論を急ごうとした。だが、それをカムイが許すはずがない。

「だが、たった一つの誠意だけで、貴国を信用しろというのは、少々、虫が良すぎる」

「……そこを何とか」

「貴国とは講話交渉をしていたはず。だが、貴国はそれを一方的に中断し、王国と結び、我が国を攻めようとした」

「交渉中断は仰る通りです。我が国の陛下が決断出来なかった点はお詫び致します。ただ言い訳をさせていただければ、長年続いた国の名を変えるというのは、それが皇族であれば尚更、決断し難いことで」

 カムイの指摘に対し、つらつらとカルク宰相は言い訳を返してきた。この点を突かれることは分かっていて、予め考えていたのだ。

「しかし、我が国を攻める決断は出来た」

「……我が国が貴国を攻めようとした事実はありません」

「それはさすがに白々しい。我が国の領土に軍を入れたのは事実だ」

「……領土に軍を? いえ、それはありません」

 カルク宰相は知らないのだ。国境の山地に街道を通そうとしたのは、亡き北方伯、ハンス政務顧問の独断だった。

「北方伯軍が攻め込んできた証拠がある」

「……北方伯軍が?」

「……まさか、知らなかったのか? それとも惚けているのか? いずれにしろ、我軍は何の理由もなく、北方伯領を攻めたのではない。これははっきりさせておく」

 嘘ではないが、真実でもない。北方伯領に侵攻することは決まっていた。そこに都合良く、前北方伯が口実を作ってくれただけだ。

「その件については今は細かく追求するべきではありません、今、大事なのはルースア王国にどう対峙するか」

「……確かにそうだ。だが、貴国を信用出来るか否か。これの解決策がない」

 どちらが先に攻めたのかは、どちらでも良いことだ。ただ、共和国の北方侵攻にも正当な理由があると主張しておきたかっただけ。カムイは、この先、他国との交渉が増えることを予想して、国の体裁というものを意識するようにしていた。

「信用していただく。これしかないのですが……」

 カルク宰相の視線がここでオッペンハイム王国の使者であるディートハルトに向いた。オッペンハイム王国は王太子であるディートハルトを使者として送ってきていた。

「貴国と皇国のこれまでの関係を考えれば、たちまち信用しろというのは難しいでしょう」

 カルク宰相の視線を受けて、ディートハルトが口を開いた。だが、内容はカルク宰相の望むものではない。西方の同盟には協力するが、オッペンハイム王国にはオッペンハイム王国の外交があるのだ。

「王太子殿下の仰るとおりです。信用するには我が国と皇国の間には色々とあり過ぎました」

 一国の王太子であるディートハルトには、カムイもそれなりの態度を見せる。普段のカムイで考えれば、カルク宰相への態度だけが冷たいのだが。

「はい。ですが今、この時だけはこれまでの恩讐は忘れて、手を組むべきと考えます。それだけルースア王国の侵攻は脅威です」

「果たしてそうでしょうか?」

 ディートハルトの言葉に、カムイは疑問を呈してきた。

「……貴国にとっては十二万の敵も脅威ではないと?」

 もしそうであれば、オッペンハイム王国としても嬉しいことだ。いずれ皇国の領土を自国のものにと考えているオッペンハイム王国だ。皇国を弱らせた上で、ルースア王国を倒せるのであれば、これ程良いことはない。

「我が国、単独では無理です。しかし、貴国、そして南部諸国連合が協力すれば対抗出来ないとは思えません」

「東部は?」

「中央諸国連合も、喜んで協力すると思います。ルースア王国の脅威をもっとも除きたいのは中央諸国連合ですから」

「……そうですね」

 全てを足しても兵数ではルースア王国に劣る。だが、単純に兵数の比較で勝敗が決まるのであれば、皇国は今の様な事態になっていない。

「ち、ちょっと待って頂きたい」

 カルク宰相が慌てて話に入ってきた。皇国抜きで話が纏まりそうな雰囲気を感じたからだ。これは正しい。

「何ですか?」

「万が一、我が国が占領を許すような事態になれば、ルースア王国軍は十二万では収まりません」

「それは皇国軍がルースア王国に従うような事態になればだ」

「それはどういう意味でしょうか?」

「皇国がルースア王国に占領されたからといって、臣民がルースア王国に従わなければならない道理はない。いや、むしろ抗うべきだと思うが?」

 シュッツアルテン皇国を滅ぼして、それでいて、その力をルースア王国のものにはさせたくない。この無理をなんとかしようとすると、カムイの話になる。

「亡国後も戦えと?」

「嘗て、辺境領は、皇国に滅ぼされた後も抗い続けた。その結果が今だ」

 これはかなり皮肉が込められている。嘗て自分たちが滅ぼした諸国と同じ様に抗い続けろと言っているのだ。

「…………」

 カムイの皮肉が分かって、カルク宰相は黙ってしまった。交渉は失敗、こう結論付けようとしている。だが、これで終わらすのであれば、カムイがわざわざカルク宰相に会うはずがない。

「だが、元辺境領とは違って長い時ではない。ルースア王国は直ぐに連合国に打ち破られるのだ。そうなった時、皇国は生まれ変わったつもりで、新たな建国を行えば良い。新たな建国に相応しい陣容で」

「……陣容?」

「皇国は何故、こうなったのか。これを反省し、同じ失敗をしないことが肝要だと思う」

 つまりクラウディアの首をすげ替えろとカムイは言っている。

「……建国を周辺国は許すでしょうか?」

 カムイの遠回しの提案に、カルク宰相は食い付いた。無能な皇帝を戴いたことが全ての元凶。これはカルク宰相もずっと思っていたことだ。これだけではない。もし建国の主導者になれれば、カルク宰相の名は、そして権力は多いに高まることになる、とカルク宰相は考えている。

「他国の事情は分からない。だが少なくとも我が国は邪魔することはしない」

 シュッツアルテン皇国以外の建国を邪魔する理由はカムイにはない。手助けをするかは別の話だが。

「我が国も。ルースア王国を追い出しても、どこかの国が皇国を手に入れてしまっては意味はない。西方のバランスが崩れてしまう」

 ディートハルトも同意を示すが、これは本音ではない。建国は出来るかもしれない。だが、今のままで再興が出来るはずがない。その時には多くの臣民が他国に流出しているはずだ。
 それをオッペンハイム王国は吸収するつもりなのだ。これは、直接の戦闘を避けたいオッペンハイム王国にとって好都合だ。

 内心を知らずに、二国の同意を得たことで、カルク宰相はカムイの提案に大きく心を傾けてしまっている。結局、いつまで経っても、カルク宰相は他国に言い様に弄ばれているだけだ。
 クラウディアが『傾国』と評されるのであれば、カルク宰相も又、『傾国の宰相』というところだ。
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