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魔王の器 作者:月野文人

第三章 皇国動乱編

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王との会話

 食堂に着くと、案内した男が自ら給仕を始めた。給仕と言っても簡単なものだ。用意されていた食事はパンと色々な食材を煮込んであるスープのみ。
 男が言うとおり、贅沢な食事に慣れている二人にとっては、質素な食事だが、ノルトエンデまでの旅を経験した後では、それがとても美味しく感じられた。
 カムイがやってきたのは、まだ二人が食事をしている最中だった。

「あっ、早過ぎました?」

「否」

「いえ、大丈夫です。お時間を取って頂きありがとうございます」

「別に平気です。引き継ぎの後は自分の時間ですから」

「普段は何をなさっているのですか?」

「勉強とか鍛錬とかですね。昼間は中々、自分の時間が取れないので」

「そうですか……」

 寝る間も削って作る自分の時間が勉強と鍛錬。この事にリタは感心した。テーレイズ皇子を常に見続けているリタである。人の上に立つ者として、当然だという思いはあるが、実際にそれが出来る者が少ない事もよく分かっている。

「そちらこそ平気ですか? 疲れていると思いますけど」

「私は平気です。ぐっすりと眠れましたので」

「それでも疲れは溜まっているはずです。しばらくはのんびりした方が良いですね」

「はい」

「話と言うのは、昼間の続きで良いですか?」

 リタを気遣う言葉を口にした後で、カムイはテーレイズ皇子に視線を向けた。

「あ、ああ」

「と言っても沢山有り過ぎて。ちょっと昼間とは話が逸れますけど、時系列で話します。この方が分かり易いと思いますので」

「たっ、頼む」

「二人が皇都を出た後、当たり前ですが、捜索が行われました。足取りは全く掴めていないはずです。まあ、掴まれては困りますけどね。さすがに偽物の足取りは掴んだようですけどね」

「偽物ですか?」

「リタさん、分かってなかったのですか? 貧民街で服を交換した相手がいましたよね?」

「そう言えば」

「それが偽物です。彼等は堂々と城門から皇都を出て、東に向かっています。それに対して、追っ手が出たようです。その後は綺麗に痕跡を消しましたので、途中までですけど」

 当然、途中まで痕跡を掴ませたのはわざと。追っ手を引きつける為の囮役だ。それにまんまと、皇国の追っ手は引っ掛かった。
 カムイの説明を聞いても、テーレイズ皇子は安心出来ない。自分の事ではない。接触した者は、他にも居るのだ。

「ひっ、貧民、がっ、街は?」

「一人捕まりました」

「すっ、すまん」

「ああ、気にしないでください。彼は捕まる為に雇われていたのですから」

「なっ?」

「彼は何も知りません。仲介役に見えますが、彼が受けた仕事は、これまた何も知らない者に話が持って行かれます。そして、その者も又、別の者に。ほとんどが途中で断られて、実際に仕事を受けていないのですが、彼はそれさえも知りません。だから、尋問されて彼が何を話そうと全く困りません」

「ひっ、人では、なく、ばっ、場所」

「そうです。あの場所で話す事が依頼なのです。聞いている人間は様々。依頼した当人も誰が受けたか分かりません」

「たっ、ただ、ばっ、働き?」

 これを気にするテーレイズ皇子はやはり少し変わっている。聞く理由はある。カムイが行っている事を、そのやり方を、とにかく知りたいという気持ちからだ。

「金儲けの為の仕事ではありませんから。情報を得る為だけなので、実際に依頼人の望む仕事をする事なんて、ほとんどありません。裏仕事を請け負う者がいるという評判を高める為に、たまに成功させてあげるくらいですね」

「なっ、なるほど」

「この話はもう良いですね? こちらは何の問題も起きていませんから気にしないでください」

「ああ」

「テーレイズ皇子殿下が皇都から消えた事は、しばらく秘匿されていました。これも当然ですね。皇国内でどんな反応が起こるか予測が付きませんから」

「うむ」

「それを公にしようと皇国が判断したきっかけは、王国との東部での戦いの結果です」

「……かっ、勝った、のか?」

 混乱が予想される事実を公表する。敗戦の中で出来る事ではない。

「はい。皇国は勝ちました」

「ごっ、誤算?」

「我々にとっては。勝てるはずが無かったのですけどね。王国は万全の準備を整えて、皇国騎士団本隊を待ち構えていました。それに、王国五万対皇国四万と戦力的には五分に思えますが、皇国の内、一万近くは真面目に戦う気はありません」

「へっ、辺境?」

「そうです。しかも、皇国騎士団本隊を率いるのは経験不足のオスカーですからね」

「ん?」

 オスカーは確かに総大将だが、実際に率いるのはバルデス元将軍。この情報をカムイが知らないはずがない。

「ああ、何とかという将軍は着陣早々に王国の刺客に暗殺されたそうです」

「……お、おい?」

「王国の刺客です。やられた皇国がそう言っているのですから、それが事実です」

「……解」

 手段を選ばず。分かっていた事だが、ここまで徹底していると、さすがにテーレイズ皇子も驚いてしまう。

「えっと、分かった?」

「そうです」

「はい。なるほど。解が分かったね。分じゃないのか」

「分は、分ける、です」

「なるほど、なるほど」

「続」

「続けろと。はい。……はい、は諾ですか?」

「……正」

「正解っと」

「続!」

「あっ、諾。えっとですね。我々にとっても王国にとっても誤算だったのは、テーレイズ皇子殿下の奥方様の行動です」

「ほう」

「まんまとやられました。奥方様は、東方中央にいた騎士団の一部、一万程です。それを率いて命令通りに北に移動するふりをして、実際は、その半分で東に向かいました」

「なっ?」

「東方中央と南部の戦線の隙間を抜けて、王国領との国境付近から北上。ほぼ王国領内と言って良い位置です」

「何故?」

「気が付かなかったかですか? 向こうの運が半分、こちらの油断が半分です。監視線は国境線ではなく、もう少し、それぞれの国の内側に張っていました。国境を超える前に動きを掴むためです」

「ふむ」

「その間を抜かれました。南北の縦を重視して、東西の横を薄くしたこちらの失敗です。重視していた縦も東方中央まで。そこから南は南部戦線に向いていました。さらに王国と皇国騎士団本隊の動きを追うために、それに人手を……。まあ、色々言っても、結局は本隊同士の決戦にばかり目を向けていた、こちらの油断です」

「……続」

「王国も同じです。自国側から敵が来るなんて思っていなかったのでしょう。その別働隊の動きに気付かなかったようです。もっとも後から調べてみると、気が付いた王国の後方部隊はいたようです。だが、それは決戦場に向かう皇国騎士団本隊の一部か、東部辺境領軍だと思い込んでいたようです」

「愚」

「具?」

「……愚かです」

 愚と具の違いが分かるリタはさすがという所か。ボケたカムイも満足気だ。

「王国としては油断というか怠慢ですね。皇国騎士団本隊であっても、どの方向から決戦場に向かうかで、戦況は変わるというのに。奥方様率いる別働隊は、皇国騎士団本隊との決戦中、どころか、いよいよ勝ちに移ろうとして、前掛かりになっていた王国本隊に真横から突入しました」

「ほう」

「王国にとっては最悪ですね。各部隊が総がかりで前進していて、国王のいる本隊の両脇は薄くなっていました。そこに突入されたのですから」

「討?」

「いえ、そこまでは。その時は、皇国騎士団本隊は、ほぼ崩壊していましたから。王国側の兵力に余裕がありました。前進していた部隊が戻った所で、国王を討つことは諦めざるを得なかったようです。まあ、正解です」

「ん?」

「正解の理由は後で。奥方様の活躍はまだ終わりませんから」

「続?」

「そうです。国王を討てなかった別働隊ですが、それで終わりませんでした。そのまま、決戦場を離脱。そのまま北西へ進みました」

「ほう」

「お分かりですね? 王国貴族軍五万の後方に出現、不意を付かれて混乱した王国貴族軍の陣をぼろぼろにして、東方伯家軍に合流です。その前に、防衛線を放棄して、軍を前進させた東方伯も流石ですね。王国貴族軍は混乱が治まっていない所に、更に東方伯家軍に押し込まれて、戦線を崩壊させました」

「つっ、つまり?」

 始めにカムイは皇国が勝ったと言ったが、単純にそう言い切れる状況ではないようにテーレイズ皇子には思われる。

「本隊決戦は王国の勝ちですが、東方北部戦線は皇国の勝ちです。ちなみに東方中央は、西方伯が塞いでいます。皇国騎士団本隊の後詰めですね」

「……つ、つまり?」

「戦線はまた膠着です。ただ奥方様の名声だけが高まりました。皇国の武の象徴の称号は、今、奥方様の上にあります」

「…………」

 この状況はテーレイズ皇子の望む所ではない。

「実際には皇国がやや優勢です。東方北部戦線は結果として、皇国から見て前進しています。東方中央は、西方伯家と、下がってきた皇国騎士団本隊が守っています。そして、何より、王国が再度の決戦を挑む勇気があるかが疑問です」

「なっ、何故、そう、おっ、思う?」

「今度の決戦は王国軍対奥方様率いる東方伯家、騎士団連合ですから。それだけだと数は王国が倍ですが、北方伯家軍が加われば、互角になります。二度も痛い目にあった相手ですからね。容易には決戦に踏み切れないのでは?」

「……解」

「そして、この機に乗じて、皇国側は講和に乗り出しました。先ほど、討てなくて正解と言ったのはこれが理由です。交渉相手がいなくなっては講和も何もありませんから」

「こっ、国王が、うっ、討たれて、も?」

「王太子が健在です。では王太子と交渉、となりますが、父親を討たれた王太子が簡単に講和に乗れるでしょうか? 戦いは長引く事になります。なんと言っても、王国は戦いに完全に破れた訳ではないのです」

「……解」

「さて講和が成立すれば、皇国と王国との戦いは一旦休戦となります。和平とは言いません。王国が諦めると俺は思えませんから」

「うむ」

「条件次第で王国は講和を飲みます、本来は奇襲で一気に皇国東部辺境領を完全に制圧する予定だったのです、それが出来ずに、仕切り直しの皇国騎士団本隊との決戦でも、勝ちきれずに、押し込まれる事になった」

「何、約?」

「……ふと思ったのですけど?」

「ん?」

「テーレイズ皇子殿下は実は普通に話せるのではないですか?」

「何故?」

「一語、二音と言っても良いですね。それは普通に話しています。長くなると、どもるのは、ただ単に口を動かし慣れていないだけでは?」

「…………」

 呆気に取られているテーレイズ皇子の横でリタが笑みを浮かべている。リタには、カムイの言った事に心当たりがある。口を開くのが面倒、この言葉を何度テーレイズ皇子の口から聞いた事か。
 実際にはそれだけではないのだが、話す練習をしないテーレイズ皇子を、リタは、じれったくも思っている。

「余談ですね。でも、暇な時に考えてみてください。何を条件に出すかですね? 皇国が講和を急いでいるのであれば、東部辺境領の割譲だと思います」

「ん?」

「皇国は変わらず辺境領を自国だと思っていません。それはご存じでは?」

「知?」

「ああ、何故、知っているかですか? ……内緒です」

「…………」

 さすがにここまでくればテーレイズ皇子にも分かる。草ではないにしても、カムイには王城内の様子を伝えてくる者が居るのだ。

「続けます。状況は講和に大きく傾いています。そうなると問題が出ます」

「何?」

「戦争を治めた功労者は誰でしょう?」

「ヒッ、ヒルダ」

「正解。そして問題は誰にとっての問題でしょう?」

「……クッ、クラウ」

「これも正解。でも、リタさんにも分かる様に説明しますね」

「あっ、はい」

「亡きソフィーリア皇女殿下が、継承権第二位で、且つ、女性の身でありながら、どうして、テーレイズ皇子殿下と皇太子位を争えたのでしょうか? しかも、一時は明らかに優勢に立っていました」

「……それは」

「ソフィーリア皇女殿下が皇太子位争いで武器としていたのは?」

「あっ、カムイ殿」

「いや、俺本人と言うより、俺に期待された次代の皇国の武の象徴って虚像です」

「ああ、そうですね。虚像?」

「剣術大会ならまだしも、戦争での武なんて一人で発揮できる訳がないから虚像です。これは良いとして、では、今その称号は?」

「ヒルデガンド様に……」

「さすがに分かりました? 奥方様に皇位継承権がある訳ではない。継承権を持っているのはテーレイズ皇子殿下です。つまり、亡きソフィーリア皇女殿下と全く同じ状況になりました。王国との戦いでの活躍は、やがて皇国中に広まるでしょう。そうなると、皇太子位、皇帝が今の状況では、皇帝位ですね。それに人々が誰を望むか」

「……テーレイズ様ですね」

「はい。これは、クラウディア皇女にとっては、大問題です。だが、幸いにも、望まれるテーレイズ皇子殿下は行方不明。打つ手は幾らでもあります」

「分かりました」

「これが、お二人が罪人にされた理由です。策略としては見事であり、愚かでもあります」

「愚か?」

「テーレイズ皇子殿下が罪人となると、奥方様はどうなりますか?」

「まさか?」

「同じ様に罪に落とされます。そうなると皇国は、せっかく手に入れた皇国の武の象徴を失う事になる。それはまだ良い。それを知って、王国がどう思うかを全く考えていない。王国が今、恐れているのは、奥方様。それが居なくなれば、又、すぐに王国は攻めてきます」

「罪、落?」

「罪に落とすか、で良いですか?」

「ああ」

「それが正式な発令が遅れている理由です。皇国の大勢は、妃殿下の立場を剥奪する程度にして臣下の立場に置いておきたいという考えでしょう。ただ、ここでまだ揉める点があります」

「何?」

「皇国騎士団長にするべきという意見と、そうしたくないという意見。更に、別の観点から皇国騎士団長にするべきという意見と、東方伯家に戻すべきという意見」

「解、無、違」

「大分分かってきました、今のは違いが分からないですね?」

「正」

「前者の説明は不要ですね。後者の皇国騎士団長にすべきは、奥方様の味方ではなく、東部辺境領などへの影響力を恐れての事です。東方伯に戻すはその逆。東部辺境領への影響力を行使して、東方の盾となって欲しいと考える者の意見」

「解」

「ちなみに、クラウディア皇女の意見は、皇国騎士団長にすべきでなく、東方伯家に戻すべきでもない。罪に落としたいけど、それをするには王国が怖い。どこかの貴族の嫁にしよう、です」

「馬鹿」

「はい。そんな事を奥方様が受け入れるはずがない。テーレイズ皇子殿下は生きている。結婚を白紙に戻すことはしないでしょう」

「……馬鹿」

 これはカムイに対しての馬鹿なのだが、これが分からないのがカムイだ。

「えっ? どうしてそうなります? まあ、夫婦の事ですから、良いですけど。それで、その馬鹿な意見はクラウディア皇女一人だけの意見ですけど、それが皇帝になる者の意見となると無下にも出来ない。中々結論は出ないと」

「どっ、どうなる?」

「実質上の皇帝不在をどう考えるかです。テーレイズ皇子殿下が生死不明となると、いつか戻ってくるのではないかという期待は消えません。そうなると中々、決められませんからね。かといって現状が良いかというと、そんな事はない。細かい事を言えば、王国との講和は誰の名で行うのか、なんて話にもなります」

「知、王?」

「王? 王国でも国王でも同じか。まだ王国は何も知りません。これを知られると、今言ったような事で揺さぶってくる可能性があるので、皇国は必死で隠しています。でも、いずれ知れるでしょうけどね」

「おい?」

 カムイの最後の言葉をテーレイズ皇子は聞き流しにはしなかった。

「いやあ、噂っていうのは自然と広がるものですからね」

 その噂の元がノルトエンデであるというだけの事だ。

「……何故?」

「講和を結べば、皇国は王国を引き込んで、ノルトエンデに攻めてくる可能性がありますから。二国の相手は、さすがに面倒で」

「単?」

「皇国だけであれば、いくらでも揺さぶりようはあります。それにこちらは最初から皇国とは戦うつもりでしたから」

「……何故?」

「裏切り者は許せません。言っておきますけど、これは個人の恨みではありませんから。そんな事で仲間を巻き込むつもりはありません」

「……レイ?」

「えっ?」

 テーレイズ皇子の口から思いがけない言葉が出た事で、カムイは驚きに目を見張っている。

「皇、血、レイ、聞」

「……全然分かりません」

「あの、皇国の皇族は魔王の血を引いていると聞きました」

「……誰から?」

「それは……、言えません」

 カムイの視線が厳しいものである事に気が付いたリタは、魔族の事を話すのを途中で止めた。
 だが この気遣いはカムイに対しては無駄な事だ。

「はい、分かった。逃亡を支援した誰かだな」

「……あ、あの、穏便に」

「それは出来ない。その魔族は禁忌に近い罪を犯した。魔族にとって、それを破るという事は、命を奪われても文句を言えない罪だ」

「そんな!?」

「ただ……。どこまで聞きました?」

「血を引いているという事だけです。それにテーレイズ様が驚かれた事で、勘違いに気が付いたようで、後は何も」

「勘違い?」

「同じようにレイと呟いたら、それで何かを知っていると勘違いしたようで」

「レイの名は聞く前から知っていた?」

「ああ」

「そうですか……。ぎりぎりかな? そうなると……、ミト」

「はっ」

 カムイの呼びかけに応えて、ミトが姿を現す。突然目の前に現れたミトに、驚きの表情を浮かべているテーレイズ皇子とリタであったが、声にする事無く、ただ黙って現れたミトを見ていた。
 その事よりも、カムイから発せられている気に圧せられているのだ。

「今の件の報告は?」

「……と、届いております」

 カムイの気に震えるミト。それが自分に向けられているのだと、ミトには分かっている。

「何故、それを俺に伝えなかった?」

「……テーレイズ皇子から話を聞いた後でと考えていました」

「庇ったのかな?」

「……い、いえ」

「ミト、お前の役目は何だ?」

「カムイ様の目となり、耳となる事です」

「では、何故、俺は自分の耳が聞いたことを知らない?」

「そ、それは……」

 声を荒げる事無く、淡々とミトに問うカムイだが、その体から発せられる怒気に、ミトはどんどん体を縮こまらせてしまう。

「お前は自分が課した自分の役割を果たしていない」

「……申し訳ございません」

「今回の件、隠さず伝えてきた事を持って、罪は不問とする。そう伝令を返しておけ」

「はっ」

「一方でミト。お前は報告を隠した」

「……はい」

「その事への罰を与える。しばらく任務に就くことは禁ずる」

「それは!」

「罰だ。その間はアウルの所に言って、鍛え直してもらえ。アウルが良しと言えば、任務への復帰を認める」

「……はい」

「……それと、ミト」

「はい」

「お前の役目は俺の目となり耳になる事じゃない。お前の目と耳で得た事を、お前の頭で考えて、何が正しいかを俺に進言する事だ」

「はっ、はい」

「それが出来ないと、いつまで経ってもアルトたちに並べない。俺を敬うばかりじゃなくて、俺を導くようにならないとな」

「はい!」

「じゃあ、行け」

「はっ!」

 カムイに怒られて落ちこんでいたミトだったが、最後にカムイの励ましを受けて、様子は一変。はずんだ声を残して、この場から消えて行った。

「みっ、見事、だな」

「……何がですか?」

「しっ、叱る、だっ、だけで、おっ、終わらずに、さっ、最後は、や、やる気に、させた」

「別に。実際に彼女にはそうなってもらわないと。かなり手が広がってきましたから。いちいち俺に聞いてこられては、その分、対応が遅れます」

「そっ、そうか」

「さて、一つ教えてください。レイの名はどこで知ったのですか?」

「爺」

「……先帝?」

「正」

「なるほど。先帝の中では、次々代の皇帝は決まっていた訳か。さすがって所かな。一度、会って話をしてみたかったな。それが出来たら……。まあ、今更か」

「……決?」

「はい?」

「魔族の方も言っていました。次の皇帝はテーレイズ様だったのかと。その意味が分からないのです」

「それは今話せませんね。今日の所はここまでにしましょう。こちらも考えなければいけない事が出来ましたし」

「……諾」

「では、又。あっ、明日とかの約束は出来ません。とにかく、数日はゆっくりと休んでいてください」

「……諾」

「では」

 席を立って、入ってきた時と同じ扉を開けて、カムイは食堂を出て行った。

「…………」

 その背中が消えても、リタはじっと視線を固めたまま黙り込んでいる。

「どっ、どうした?」

「雰囲気が、途中でがらりと変わりましたので、少し驚きました」

「……こっ、怖、かった、のか?」

「怖いと言うのとは少し違います。でも何だか、圧倒されるような……」

「ふっ」

「何がおかしいのですか?」

「とっ、当然だ。あっ、あれは、おっ、王だ」

「……そうですね。あの方は、まぎれもなく王ですね」

 カムイが発していたのはただの怒気ではなく、覇気に近いものだ。真の王者が持つ、それをカムイは身に纏っている。
 そういう人物になったのだと、テーレイズ皇子は、しみじみと感じている。自分の見る目は正しかったのだと。
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