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(ああ、もうなんて愚かな世界!)
  わたし、わたし、わたし
作:上月


ぁああぁぁあああああああ!
突然PC室に響き渡った甲高い叫び声に、わたしの体は飛び上がり、心臓も一緒に飛び上がった。慌てて後ろを見ると、案の定、クラスメイトの田上たがみが数人の友達と一緒に、パソコンで俗に言う「グロ動画」というものを楽しそうに笑い声を上げながら見ている最中だった。
ぎゃああああぁああああぁぁああ!
耳を塞ぎたくなるような、生理的に受け付けない叫び声がやむことなく響き続ける。わたしはキリンのように首を伸ばして、田上がいじっているパソコンの画面を覗いてみた。しかし、次の瞬間、こんなもの見なければ良かったと心の底から後悔した。イラク人だか何だか知らないが、黒人が今まさに体の中でも大切とされる首が切り落とされる瞬間をこの目で見てしまったからだ。
この男どもには倫理というものがないのだろうか。わたしはあからさまに深いため息をつくと、再び自分のパソコンと向き直った。
マウスを動かして、ダブルクリック。何度も同じ動作を繰り返しながら、調べたかったものを念入りに調べ、頭に叩き入れる。それでも、後方から笑い声と叫び声が同時に聞こえてきて、なかなか集中できない。
パソコン室独特のにおいと空気が、わたしの頭を刺激した。意識がぼんやりとして、頭がひどくガンガンと痛む。気分転換に辺りを見回してみたが、教室内は見事なほどぎゅうぎゅう詰めで、縦十五列横三列にきっちりと並べられた机の上に載っているパソコンと、それに夢中になっている生徒の姿以外は、何も見ることができなかった。窓を目の端でとらえてみたが、黒いカーテンがきっちりと光を遮っていて、窓の外に広がるはずのグラウンドも、今は見えない。
そろそろわたしがパソコンに飽きはじめたころ、ようやくグロ動画観賞会も終了したらしい。男子生徒がぞろぞろと田上から離れていくのを見た。そして、田上もわたしと同様パソコンに飽きてしまったのか、すぐにパソコンの電源を落とすと暇そうに床に寝転びはじめた。
「汚れるよ」わたしは田上の方を向いて、ぶっきらぼうに言い放った。
「ならさあ、櫻井さくらいが膝枕して」田上はわたしを見上げると、まだあどけなさの残る笑みを浮かべて、おどけたように言う。
冗談だとはわかっていても、恥ずかしいやら照れ臭いやらで、わたしはつい顔を逸らしてしまった。すかさず、田上が「あ、照れた」と鋭いツッコミを入れる。照れてない、と反論してみたものの、田上はただにっこりと微笑んだだけで、わたしの言葉はさらっと流されてしまった。
田上という男は、よくわからない。先ほどのようにグロ動画を見始めたかと思えば、次の瞬間には猫のように自由きままに寝たり食べたりし始める。落ち着きがなく子どものような感じもするのだが、時々わたしでも言葉を返せなくなるような、大人びた発言をすることもある。一言で言い表すならば、謎のベールに包まれた少年といったところだろうか。
壁に掛けられた時計をちらりと見ると、授業が終わるまでまだ残り二十分もあった。わたしはがっくりと肩を落とすと、再び田上の方に目を遣った。しかし、田上はもうすでに眠りに落ちてしまったらしく、静かに寝息を立てていた。彼の顔にかかった茶色い髪が、さらさらと床に落ちていく。何となく田上を見つめたままでいると、不意に彼の耳に目が留まった。蛍光ランプに照らされて、彼の耳に付けられている数個のピアスがキラリと光った。ああ、田上もか。わたしはわずかに顔を顰め、あからさまに嫌悪の眼差しを田上に向けると、別の場所に視線を移した。
耳に穴を開けるという行為自体、わたしにとっては自傷行為のような気がしてたまらないのに、どうして最近の人たちは耳に穴を開ける上に、そこにピアスなどという金属を付けてしまうのだろう。耳に穴を開け、そこにピアスを付ける。その行為そのものに、わたしは意義を感じられない。わたしは首を捻ってから、机に突っ伏した。
世の中には、理解のできないことが多すぎる。わたしが密かに好意を寄せている人間のことですら、理解できないことの方が多いというのに、これ以上一生掛かっても理解できないようなものを増やして、わたしにどうしろというのだろうか。きっと、わたしに今の時代は向いていないのだ。自虐的行為も、倫理観というものも、全てがわたしに向いていない。ぐるぐると世界が回って、わたしは多分、間違えて生まれてきてしまったような気がする。
後ろの方で、田上が小さく寝言を言うのが聞こえた。頭が痛む。キリキリと胸が苛まれる。

ああ、わたしは、わたし自身がわからない。


初めまして、上月こうづきと申す者です。
一応、本格的な小説に臨もうとしているのですが、なかなか挫折ばかりで進歩できません。
主人公は全く私と正反対の人間。
書いてて楽しかった反面、自分の実力のなさというものを痛感させられました。













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