第百十一話 鮮血の嵐その五
「ここぞという時に技を出すな」
「それも彼等の命を賭けた技を」
「そのうえで闘っているな」
「そうだな」
「しかしだ」
ここで一人が言う。
「狂闘士の方もあと一歩で勝てるところだったな」
「実力は伯仲しているか」
「その通りね」
「しかし聖闘士が勝利を収めている」
結果としてはそうだった。
「彼等の渾身の攻撃によって」
「そしてまた一人アーレスに近付いたか」
「オリンポスの神々の一人にか」
「近付いているな」
「しかしだ」
だがここでまた言われるのだった。
「所詮アーレスは外れ者」
「そうね、所詮はね」
「嫌われ外れていた者だ」
彼等のアーレスを見る目は実に冷たい。蔑みそのものであった。
「血の気が多いだけの粗野な者」
「その者に勝ったとしても」
「何ともないことだ」
「そうだな、結局はな」
「では」
ここでだ。彼等はその玉座に座る者に顔を向けた。そしてそのうえでその者に対して声をかけそうして問うのであった。
「この者達は大して見ることはありませんか」
「人に過ぎませんし」
「それにアテナも今はいません」
「それなら」
「そうだな。しかしだ」
その玉座に座る者はその彼等に対して言ってきた。
「アテナはいなくとも彼等はいるな」
「教皇と黄金聖闘士達ですか」
「その者達がですね」
「そうだ、その者達がいる」
玉座の男はまた言った。
「それがどう働くかだな」
「人間ではあっても」
「やるというのですね」
「狂闘士達は少なくとも人間だ」
玉座の男の言葉がまた出された。
「そうだな」
「確かにその通りです」
「八大公にしてもです」
「人と人の戦いならばわからない」
彼は話し続ける。
「だが。神ならばだ」
「今控えるのは四闘神と」
「争いの女神エリス」
彼等の名前もまた話される。
「合わせて五柱です」
「アーレス程ではありませんがタナトス、ヒュプノスに匹敵する力です」
「それだけの存在でありますが」
「それでは問題はなかろう」
玉座の男もそれを聞いて頷いた。
「それではな」
「ではやはりアーレスの勝利は揺るぎませんか」
「結局のところは」
「やはり神がいる」
玉座の男はそれが大きいという。あくまで神を人よりも上に見ている。それは決して変わらないというようにだ。そう言うのである。
「ましてやアーレスもいるのだからな」
「では地上は暫くアーレスのものになりますか」
「あの者の」
「ポセイドンでもハーデスでもなく」
「ふむ。それでは」
彼等の中のとりわけ若く狡猾そうな顔の男がだ。ここで言った。
「暫く我等は静観ですかな」
「そうだな。今はな」
「静観すべきか」
「それに」
さらにであった。
「ポセイドン様もハーデス様も間も無く動く」
「三つ巴になるか」
「ならば我等は余計に」
さらに話す彼等だった。
「今は動くべきではないか」
「そうだな。今はな」
「様子を見させてもらおう」
「我が兄弟達が動こうともそれはそれでよい」
玉座の男は何処までも冷静だった。それは全てがわかっているといった言葉ではなかった。己に対して絶対の力がありそれによってどうとでもなる、そうしたものがあからさまに見えている言葉であった。
その言葉でだ。男はまた言った。
「アーレスはハーデスとは衝突しないだろうがな」
「やはりですか」
「ハーデス様だけはアーレスに対して親しい」
「ではポセイドン様ですか」
「あの方が」
「ポセイドンもどう動くかはわからない。しかし地上を治めるべきはだ」
男もまた水面の中を見ていた。そうしてだ。
「私以外にはない」
「はい、その通りです」
「そして我等もまた」
「全ては我等の手中にある」
彼はここでも絶対の自信を込めて言う。
「何があろうともそれは変わらない」
「ではその時こそ」
「我々もまた」
「そういうことだ。ではな」
男はここまで話すとその手にある黄金の杯の中の黄金の酒を口に含んだ。そのうえでまた水面の中を見る。そこにある戦いを。
第百十一話 完
2010・4・8
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