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第九十四話 最強の聖闘士その六
「我等はそれだ」
「その世界をこの世界に出すわけにはいかん」
「人にとってもそれが最もよい世界なのだがな」
「認識が違うのじゃな」
 童虎は今述べたのはこのことだけだった。
「つまりは」
「それでいいのだな」
「そちらも考えをあらためることはあるまい」
「あらためる?何をだ」
 冷笑で返すだけだった。童虎のその言葉にだ。
「何故あらためる必要があるのだ」
「まさにそういうことじゃ」
 童虎はこうキュドイモスに返した。
「わしもまた考えは変わることはない」
「アテナの聖闘士としての考えはか」
「正義は一つ」
 彼は言った。
「人の正義。アテナはそれを認めて下さっておるのじゃ」
「人に正義なぞない」
 今二人の考えが決定的に出ていた。だがキュドイモスはそれを自覚してはいない。童虎はそれをはっきりと感じ取っていた。だが今は言葉には出してはいない。
「人は神に導かれるものだ」
「神にか」
「アーレス様にだ」
 具体的にはそういうことであった。
「アーレス様にこそ導かれるものだ」
「人は考えなくともよいのじゃな」
「その通りだ」
 また言った。自覚することなく。
「人は愚かなものだ。神はその愚かな者達を導く者なのだ」
「そう思うことそのことがじゃ」
「何だというのだ?」
「我等が永遠に闘う理由」
 それだというのである。
「そういうことなのじゃよ」
「わからんな」
 少なくとも彼にわかる話ではなかった。わかるつもりもなかった。
「神に導かれぬ人なぞ」
「アテナは人を見守って下さる」
「アテナは人に対して甘過ぎる」
 ここでもだった。決定的な違いが出ていた。だがキュドイモスはそのことに何一つとして自覚することのないままだった。そのまま話を続けていくのだった。
「全く以ってな」
「甘いのではない」
 童虎はそのことははっきりと否定した。
「アテナはだ」
「ではどうだというのだ?」
「わかって下さっているのじゃ」
「わかっているというのか」
「そう、人をじゃ」
 まさに彼等をだというのである。
「わかって下さっている。人をじゃ」
「海皇ポセイドンも冥皇ハーデス様も」
 ハーデスだけ敬称をつける。アーレスとハーデスの関係がここでも出ていた。
「人については同じだ」
「そして天のゼウスもじゃな」
「あの世界のことは我々はよくは知らない」
 それはキュドイモスもよく知らないことだった。天界のことはだ。
「だが」
「だが、か」
「同じだ。その様な戯言を言っているのはアテナだけだ」
「戯言か」
「人は所詮は泥くれでしかない」
 こうも言うのである。
「御前達人が泥ならば我等は光」
「光だというのか」
「そうだ、光だ」
 絶対の断言であった。
「貴様等を導く光なのだ。絶対のな」
「曇りのない光か」
「神は過ちを犯すことはない」
 その言葉は続く。無謬であることを確信している言葉はだ。
「アーレス様は特にだ」
「アテナもまた光」
 童虎もそれは言う。
「しかしじゃ。優しい光じゃ」
「光は光ではないか」
「違う。じゃがそれは御主にはわからん」
 こうキュドイモスに告げるのだった。
「何があろうともな」
「わかる必要もない。それではだ」
「帰るか」
「長い話だったがな」
 踵を返しての言葉だった。
「これでトラキアに帰るとしよう」
「また会うことになるな」
「貴様を倒すのは私だ」
 背中越しに彼に告げたのだった。振り向くことはない。
「あの時の聖戦から決まっていることだ」
「ではじゃ」
「また会おう」
 最後の言葉だった。
「それまでその首は預けておく」
「うむ、またな」
 別れは互いへの最後の言葉ではなかった。二人の闘いも一先終わっただけであった。しかしそれは次の闘いの前の休息に過ぎなかった。


第九十四話   完


                  2010・2・13
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