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第四話 八大公その二
「ベルゼブブのカナンだ。憶えておくのだな」
 黒い髪に深い湖を思わせる青い目を持っている男だった。その目は醒めており酷薄な青を漂わせている。その青でデスマスクを見据えていたのだ。
「地獄を司る男だ」
「地獄の主というわけか」
「如何にも」
 デスマスクに対して答える。
「アーレス様より地獄を任されている者だ」
「ほう、俺と似てるな」
 デスマスクはカナンを見据え返してまた不敵な笑みを浮かべてみせてきた。
「俺もデスマスクって名前でな。死を司る」
「死をか」
「死と地獄。どちらが上か試してみるか」
「面白い。ならここでまず黄金聖闘士が一人消える」
「どうかな。消えるのは案外手前かも知れないな」
 二人は対峙しそれぞれ地を覆わんばかりの小宇宙を放つ。しかしそこで水を差す者が出た。
「待て、カナン」
「ジーク」
 銀色の髪と目の険しい顔の男だった。その目は白目の部分が黒くなっておりそれが銀色の目をさらに強く浮かび上がらせていた。手には巨大な剣を持っている。
「御前だけ戦いを楽しむのはどうかな」
「御前もやるというのか」
「そうだ。このベールのジークの剣」
 赤い血塗られた光を放つ巨大な剣を前に構えた。
「これで断ち切られたい者はいるか」
「断ち切られたいかどうかはともかくとしてだ」
 黄金の方から出て来たのはシュラだった。
「剣ならばこのシュラも負けてはいないが」
「カプリコーンのシュラか」
「如何にも」
 ジークに対して答える。
「この俺の剣と貴様の剣。どちらが上か試してみるか」
「面白い」
 ジークもまたその言葉を受ける。身構えたまますっと一歩前に出た。
「では。どちらが倒れるか今ここで見極めるか」
「勝負でな」
 両者もまた睨み合う。こちらでも戦いがはじまろうとしていた。
 そしてまた。八大公の中からまた一人出て来たのだった。
「貴方は」
「レダ」
 彼はアフロディーテを見ていた。そのうえで名を告げた。黒い目と瞳を持っており何処か堕落した耽美的な雰囲気を漂わせている。一見すると女と見紛う。しかしその小宇宙は不気味であり女のものとはまた違うものだった。それをアフロディーテに向けているのだった。
「ベリアルのレダ」
「そうですか。ベリアルのレダ」
「ピスケスのアフロディーテか」
「はい」
 アフロディーテはレダの言葉に頷く。頷きながらその手に持っている紅の薔薇を動かす。
「その通りです」
「成程。その名は伊達ではないな」
 アフロディーテの美しい顔を見ての言葉だった。
「美の女神にも匹敵する」
「私より美しいのはアテナのみ」
 これがアフロディーテの言葉だった。
「そして美こそが全てを司るものです」
「確かに。しかしその美は」
 レダは言う。
「アテナの美ではない。アーレス様の美」
「アーレスの」
「そう。鮮血の美」
 耽美な美貌をたたえたその顔に凄みのある笑みが浮かんだ。
「それこそが美だ。この世にあるべき」
「どうやら。美という観念について齟齬があるようですね」
 アフロディーテの目が動いた。
「ならばどちらが正しい美なのか」
「決めるか」
 三人の黄金聖闘士と狂闘士達の戦いがはじまろうとしていた。だがここで一人の狂闘士が出て来た。彼は自身の同志達を止めたのだった。
「止めておきましょう」
「リーヴェ」
 三人に名を呼ばれたその男は女にも見える中性的な顔と長い金髪を持っている。穏やかな物腰だがその威圧感は。他の八大公よりも上だった。
「今ここで彼等を全員倒したとしてもこちらもただでは済みません」
「確かにな」
「それはな」
 これは彼等もわかっていた。しかしここでジークがそのリーヴェに対して言う。
「しかしだ。リーヴェよ」
「何でしょうか」
「我等狂闘士は闘いを楽しむもの」
「如何にも」
 ジークの言葉に対して頷く。それに関しては異論がないようだった。
「それに関してはその通りです」
「では何故止める」
 ジークが問うのはそこだった。
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