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第二十七話 紅の毒その三
「落ち着いてな。アフロディーテ様もおられるのだぞ」
「あっ、そうか」
「そうだった」
 言われてやっとそれに気付く始末だった。
「すいません、アフロディーテ様」
「それじゃあ」
「いえ」
 だがアフロディーテの言葉は穏やかなものだった。
「構いません。それにしても」
「それにしても?」
「この小龍包ですが」
 彼はまだそれを食べているのだった。右手に箸を持ち前には醤油が入った白い小皿がある。それに料理をつけて食べているのだった。
「実にいいですね」
「あっ、それですね」
「確かに。美味いですよね」
「はい」
 青銅の者達の言葉に対して静かに応えるのだった。
「聖域でも食べたいものです」
「けれどアフロディーテ様」
「平気なんですか?」
 ここで彼等の声が怪訝なものになった。
「あの、一個丸ごと普通に食べておられますけれど」
「中、熱くないですか?」
「熱いです」
 アフロディーテもそれは認めるのだった。
「ですが」
「ですが?」
「それがまたいいですね」
 こう言うだけであった。
「この熱さが」
「そうですか」
 しかしここで青銅の者達は顔を見合わせ合ってそのうえで話すのだった。
「本当に平気みたいだな」
「この熱さでな」
「どうなってるんだ?」
 アフロディーテがその小龍包を食べて全く平気なのを見ての話であるのは言うまでもない。
「アフロディーテ様は」
「まさか黄金聖闘士だからか?」
「馬鹿を言え。黄金聖闘士でも人間だぞ」
「それはわかっているが」
「ふむ」
 彼等の話をよそに店の者が丁寧に出してくれたその蟹の肉を食べたアフロディーテがまた言ってきた。
「この味は」
「美味いですか」
「はい、とても」
 こう他の聖闘士達に対しても答えるのだった。
「ですから貴方達も是非」
「ええ、それでは」
「今から」
 アフロディーテの言葉を受けて彼等も食べはじめる。食べてみると実際に非常に美味だった。酒の香りと味が蟹をさらにいい具合に味付けしていたのだ。
「確かに。これはまた実に」
「いいものですな」
「これが上海蟹ですか」
「流石です」
 アフロディーテは中国産白ワインを飲みながら語った。
「知られているだけはあります」
「それだけのものがあるというのですね」
「そうです。名前はただ伝わるのではありません」
 彼は言うのだった。
「そこに確かなものがあってはじめてです」
「だから広まるというのですね」
「その通りです。これは」
 言いながらさらに蟹を食べるのだった。
「この蟹は普通に出せる味ではありません」
「普通では、ですか」
「上海蟹の中でとりわけ厳選されています」
 少し食べただけでそれを見抜いているのだった。
「この蟹は」
「そういえば普段食べる蟹より美味いな」
「そうだな」
 アフロディーテの言葉を受けて聖闘士達も言い合う。
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