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ナンセンス

害虫との死闘編

作者:Killgsa
 夕食を終え、食器を洗っていると、網戸の隙間から蠅が入って来た。最近の蠅は夏場、網戸にしているとその隙間を通って普通に室内に侵入してくるから困る。
 網戸の隙間から室内に侵入する方法は、網戸の穴を通り抜けられる程小さく分裂し、侵入に成功すると統一するというのが一般に広まっているが、実際は網戸の穴を通り抜けられる程小さな蠅の集合体である。外敵から身を守るため、小さな蠅達は集まって大きな蠅を象って移動するのだ。
 どうして分裂云々という説が広まっているかというと、網戸を通り抜ける際、蠅達は象っていた形を崩し、ばらばらになってそれぞれに網戸の隙間を通り、また集合してその大きな形を象る。蠅の仕組みに疎い一般の人がその様を見れば、分裂云々をしているように見えるだろう。
 余談だが、最近の蠅は飛んでいるのではなく、浮いているのだ。なんでも体内で生成されるリポノなんとか……何だか忘れたが、そんな風に呼ばれる空気より軽いガスを利用して浮遊しているらしい。この蠅の出すガスだが、人間に害があるのではとの噂が広まっていたらしいが、そういった被害や有害成分の摘出は報告されていない。更に最近、その蠅の集合体は一匹の小さな蠅が無性生殖で増殖したものであるということが発見されたらしい。とまあ、これらはとある雑誌に書いてあった内容だ。
 食器を洗い終えると、ぶんぶんとうるさく浮遊する蠅に殺虫スプレーを吹きかける。変な軌道を描きながらしばらく浮遊した後、形を崩しながら小さな死骸が散らばっていく。
 俺は急いで掃除機を持って来ると死骸を全て吸い取った。

 某製薬会社の蚊取り機の最新型、炸裂型蚊取り機を早速使ってみる。
「見せてもらおう、最新型蚊取り機の性能とやらを」
 なんて一人で呟きながらうきうきする。
 蚊がピレスロイドなどの毒に適応して早二年が経つ。因みにだがピレスロイドとは除虫菊などに含まれる有効成分である。昆虫や両生類、爬虫類の神経細胞に作用する神経毒で、鳥類、哺乳類に対する作用は弱いので安全性が高い。
 蚊がピレスロイドに適応したということは勿論、某製薬会社の電気蚊取りは蚊取りとしての効果が無くなってしまった。蚊取り線香も同様だ。当初はピレスロイドの濃度を高めてみたり、その他の安全な殺虫剤を使用してみたりと色々試したが全く効果が得られなかった。
 ピレスロイドのみならず、毒で蚊を撃退することができなくなったということで某製薬会社は心機一転、蚊に物理的ダメージを与えるということを思い立った。そして完成したのが射撃型蚊取り機である。
 射撃型蚊取り機は、蚊のあの不快な羽の音を感知し、人間に見えぬ程の小さな銃弾を蚊に撃ち込むというものだった。その画期的なアイデアの射撃型蚊取り機は十分にその能力を発揮したが、開発当初はヤカン程の大きさで、一台五万円と高コスト。流石に五万も出して蚊取りを買おうという人はわかりきったことながら、殆どおらず、全く売れなかった。
 しかし、某製薬会社蚊取り機開発チームは諦めなかった。改良に改良を重ね小型化に成功。従来の電子蚊取り程に小さくなった。そして、開発コストの大幅削減を徹底した。一年弱の月日を費やし、射撃型蚊取り機改がなんと六千円程で売り出され、大ブレイクした。銃弾が人に当たっても気づかないくらいに無害というのが更にそれを助長させた。
 しかし、蚊の適応力は凄まじいものだった。射撃型蚊取り機改が大ブレイクした次の年の夏である。射撃型蚊取り機改が全く効かなくなった、故障した、という苦情の電話が相次いだ。
 何かがおかしい、と某製薬会社は射撃型蚊取り機改を回収し、検査を行ったが異常は全く見当たらなかった。そして、回収した射撃型蚊取り機改で実機テストを行ったところ、蚊は銃弾を避けていた。
 ということで、新しく誕生したのがこの、炸裂型蚊取り機だ。射撃型同様に感知した蚊に、見えるか見えないかくらいに小さな榴弾を撃ち込み、炸裂させ、その破片を四方八方に撒き散らすというものだった。炸裂時に騒音が発生するという懸念があったが耳を済ませると、ぷちっと小さく聞こえる程度なのでこれまた大ブレイクの予感。
 これでまた蚊に刺されることは無いだろう。

 夜中、目を覚ます。多分、ムカデに噛まれた。右脚の膝の辺りが腫れている。ひりひりと痛い。
 枕の傍らに置いてある眼鏡をかけて電源を入れると、オーグメント・リアリティの情報が3Dで視界に表示される。ムカデはまだ近くにいるはずだ。
 霊感式生物探知のアプリケーションを起動する。霊気とか、霊魂とか、オカルトじみたものを探知し、その位置情報をオーグメント・リアリティで表示するものだ。こういう時のためにインストールしておいたのだ。
 なぜ、ムカデを探し出すのに霊感式生物探知機なんてものが必要かというと、彼らがステルス性を兼ね備えているからだ。目視は勿論のこと、従来の探知機では捕捉できないのだ。彼らは無に同化するらしく、他の生物には勿論、光や音の振動にも無視されるといった有り様だ。
 しかし、彼らも生物であって、地球上のほぼ全ての生物が放出しているとされる霊気なるものは彼らも放出しているのであって、それらを探知することではじめてムカデの姿を観測できる。
 というわけで霊感式生物探知機を起動したわけだが、どうも変だ。数値位置情報だと、かなり近くにいる。布団の中や下を探したが見つからない。まさか……服の中もしくは、ズボンの中かもしれない。可能性は高い。そう考えて背筋がぞっとした瞬間、腿の、股の付け根に限りなく近いところで痛みが走った。
 ズボンとパンツを下ろし、自分の恥部に目をやると、いた。腿から腰へと登って来る。咄嗟的に手でムカデを払いのけ、殺虫スプレーを吹きかける。生命力が弱まるにつれ、霊気も弱くなるようだ。やがて、オーグメント・リアリティの表示が消えて見えなくなる。死骸をかたづけなければと思ったが、もう何処にあるかがわからない。手探りで探すしかないか。
 ため息を一つついて、とりあえずパンツとズボンを穿いた。

 台所にお茶を飲みに行くと、そいつはいた。多分、日本で一番嫌われているであろう害虫が。言わずもがな、だがあえて言おう、ゴキブリであると。結構大きい、その黒い身体をこちらに向け触角をゆらゆらと動かしている。
 俺は既に殺虫スプレーを構えていた。するとブレイン・マシン・インターフェイス・ネットワークを埋め込んだ脳に音声メッセージが届く。送信方法は不明となっていた。
 内容は
「頼む、助けてくれ! 命だけは勘弁してくれ」
 という命乞い。
 この状況、このタイミングで、このメッセージ。俺がゴキブリに殺虫スプレーを向けた瞬間だ。こうなると、それはありえないと思いつつもゴキブリがこの音声メッセージを送信したのではという考えが浮かび上がる。否、その通りなのだ。これが、ゴキブリが生き抜くために手に入れた新しい機能なのである。
 人の好奇心とは時に凄まじいものであり、その届いた音声メールの宛先に返信をしてみた。
「おまえは誰だ?」
「目の前にいる、俺だ」
 ある程度会話ができるということは、学会で証明されているが、実際にできるとは、と何か間違っているような気もするが少し感動した。
「お前の名前は何だ?」
「名前など無い」
「目的は何だ?」
「俺たちは生きているだけだ」
「お前の他に何匹この部屋にいる?」
「俺たちは同胞を売らない」
「答えなければ、お前の命は無いぞ」
 ゴキブリに情けは不要。
「頼む、助けてくれ! 命だけは勘弁してくれ」
「では、何匹いる?」
「俺たちは同胞を売らない」
 殺虫スプレーをゴキブリに吹きかける。びくっと震えるように動いて、静止する。
「知っているんだよ。お前らが、定型文を送信しているってこと」
 最後にそう音声メールを送信した。そう、彼らは定型文を送信しているにすぎないのだ。かなり昔にあったアドベンチャーゲームのように決められた台詞を選択して送信しているのだ。だが、こちらの返信に対して、ある程度不自然のない返答が返ってくるということは、こちらの内容を多少は理解しているのかもしれない。
 ゴキブリの死骸をティシュに包んでゴミ箱に捨てた時に、
「音声メール送信できませんでした」
 と、エラーメッセージが届いた。
 この作品はフィクションです。
 初めて書き上げた小説になります。
 読んで頂きありがとうございました。
空想科学祭2011

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