黒い翼の天使
「退屈な授業だな…」我王はあくびをかみころした。
そんな様子をみてマサオがクスクス笑っている。
下手くそなやつがアリアなんて歌うなよ。
耳が腐るぜ!
「ハイ。いいでしょうもう少し高音部を丁寧に歌えるとよくなるわよ。」
音楽教師がマサオの名を呼んだ
マサオのミサ曲を聞くのも久しぶりだ。
我王は目を閉じて意識をマサオの歌声に集中させた。
テノールの美しい調べが教室に響き渡る。
拍手が起こり、マサオは柄にもなく照れてしまった。「あなた素敵な声の持ち主ね。」
音楽教師がウインクした。
マサオはいたたまれず下を向いてしまった
「オイオイ、目立つのは不味いんじゃなかったっけ?」
我王はニヤニヤしながらマサオをつついた。
「次は瀬名圭介君ね。」
「大丈夫?」「ハイ…大丈夫だと思います。」
圭介はアベマリアを歌いはじめた。
その姿に似つかわしいフェアリーボイスだ。
繊細な天使の白い翼が彼の背に見える気がした。
我王はふいにめまいがして額を押さえた
「ウグッ……」
「マ、マサオ…。」
マサオも苦し気にこちらを見ている。
その時、教室のガラスがカタカタ震えだした。
グランドピアノの上に置いてある花瓶がピシピシと音をたてて割れ、活けてある黒い薔薇がハラリと落ちた。
「いったいこれはどういうことだ…?」
我王はマサオの膝に手を置いた。
「多分…圭介の声が共鳴しているんだろう。」
マサオはギュッと我王の手を握りしめた。
ガラスが鳴くのをやめ、教室に一瞬静寂が戻ったと思ったのも束の間
「アァッ……ウッ…」圭介の顔が苦しみに歪み、そのまま床に崩れ落ちた。
我王はすかさずとびだしていき、圭介を抱き上げた。
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