哀しい嘘
アーネストは必死の形相で叫び声をあげている千春の姿を目撃して慌ててて駆けよって行った。
「千春さん!どうしたんだ落ち着いて、何があった?」
「実が…実がいたのよこの会場に…ジャンは?実はジャンの隣にいたわ!」
アーネストの脳裏に千春の昔話がよぎった。
「ミノル…それって千春さんの恋人だった人だよね?でも…死んだはずじゃなかった?」
「ううん!いたの、いたのよ!」
アーネストは千春の背中に手をかけた。
「とにかくそれが本当なら後でジャンに直接聞いてみたらいいよ。でもさ…見間違えってことはないの?」
千春はブンブン頭を振った。
「証拠があるもの!マリアが持ってるわ」
アーネストはいぶかしげに眉を潜めた。
「母さんが?そういえば母さんはどこに行ったの?」
「医務室で眠ってるわ。徹夜明けに人ごみで疲れちゃったみたい」
「そうか…仕方ないな。とりあえず母さんを迎えに行こう!その証拠とやらを見せてよ」
「ええ…そうね。実は同じこの空の下にいるんですもの。きっとすぐに会えるわよね?」
アーネストは千春の不安と期待が混じった瞳をじっと見つめると、大きく頷いてみせた。
アーネストは呆れ顔でマリアの寝顔を覗き込んだ。
まったく…お騒がせの張本人がこれだもんなぁ。
アーネストはマリアの鼻をギュッと掴んだ。
「キャア何!?あら…アーネスト、試合はどうだった?」
アーネストは胸にぶら下がった金メダルをマリアの目の前に突き出した。
「これが見えない?それより母さんが眠ってる間に大変なことになってるよ」
「ええっ?そうだ!千春は…千春はどこ?」
千春は隣の部屋の窓際で、一人静かに何度もビデオを再生して懐かしい実の顔を食い入るように見ていた。
「実…ちっとも変わらない。私はすっかりおばさんなのに、どうしてそんなに昔のままなの?ううん…前より素敵になってる」
マリアは恐る恐るそっと入口から千春の様子を伺った。
「千春…怒ってるかな?」
後ろにいるアーネストにそっと囁いた。
「さぁね、多分怒ってはいないけど今から話す内容によってはどうかな?」
「もう!意地悪ね、この子ったら。いいわよこうなったら正直に話すわよ」
そう言いながらもマリアの足は一歩前に進んで行かない。
その様子にイラついたアーネストが口を開いた。
「千春さん、母さんが話があるって!」
千春の潤んだ瞳を見て、マリアは怯みそうになる心をなんとか奮い立たせようと大きく息を吸った。
「ごめんね…千春。あの電話を切ってすぐよ実さんを見かけたのは。私咄嗟に思ったの…あなたに会わせちゃいけない!なんとかしなくちゃ…って。だって結婚式は来週なのよ!なんで今ごろになって現れるの?なんでよ!」
マリアは思わず涙ぐんでしまった。
「マリア…心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ!私、マイクを愛してる。彼と幸せになるわ…これを見て思わず我を失ったけどもう平気!今は彼が生きていてくれて本当に嬉しい…それだけよ」
そんなの嘘だ!
だったらどうしてそんな目をする?
こんな千春さんを僕は初めて見た。
認めたくないけど…千春さんが本当に愛しているのはミノルなんだ。
アーネストはギュッと拳を握りしめた。
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