アルルカンの惨劇
ジャンは元々テラの生まれだが、もの心つく前にユノに来てしまったので故郷とはいえ好奇心より恐怖心の方が勝っていた。
「なんだよこれ、ほとんど海じゃねぇか!」
ジャンのぼやきを聞いてマザーは海面を静かに指指した。
「ジャン、ようくみてごらんなさい。テラはその昔ユノに負けないくらいのメガロポリスだったのよ。ユノはテラの植民星だったのは知っているでしょ?」
「はい知ってます。でもこうして実際今のテラを見ると、想像がつかないですよね」
「そろそろアルルカン山に到着します。シートベルトを着けて下さい。正直言うとちょっと着地が自信ないんですよ」
マザーはクスリと笑うとシートベルトを着けた。
「あれがアルルカン山?山というより丘だな」
ナビゲーションで確認すると全長20キロメートルにも満たない孤島であった。
ジャンは深呼吸すると、着陸体勢を整えた。
「マザー、歯をくいしばっていてくださいね!それじゃあ行きますよ〜!」
頂上の平地に目標を定め、直立のまま着地しようとしたがバランスを崩し、ドスンと尻餅をついた。
「痛って〜!頭打った。マザー大丈夫ですか?」
「え、ええなんとか…」
「すみません!でもとりあえず第一段階成功ですね。問題はここからです」
二人はヘルメットを外し、フェニックスから降りた。
あちこちに巨大な岩が突き出ていて、その影の一つからニュッと姿を現したのはデスであった。
「待ちくたびれたぞ小僧!約束の時間はとうに過ぎた。さあ、マザーを渡して貰おうか」
「ちょっと待てよ!ピアはどうした?」
デスはキョトンとした顔で振り返った。
「あん?あれ、どこだ?」
デスは岩の後ろに下がって行くとその影からピアをまるで荷物のように担いできた。
ジャン達の目の前にドサリと置かれたピアの右手はまるで何かに食いちぎられたように白い骨がのぞき、赤い鮮血が滴り落ちている。
「ピアー!!なんてことを…」
デスはポリポリと毛の薄い頭を掻いてボソボソと言い訳を始めた。
「お前が来るのが遅いから…つい腹が減ってね。さあ、何をしている!さっさとマザーをよこせ」
いまにも殴りかかっていきそうなジャンを制してマザーは首を横に振った。
「ジャン、急がないとピアが危険です。私がデスの方に歩き始めたらすぐに彼女を連れてフェニックスに乗り込むのですよ。いいですね?」
ジャンは蒼白な顔で息も絶え絶えなピアの方を見た。
「…分かりました。マザー…俺…俺…」
マザーはニッコリと微笑んでみせた。
「これでいいのですよジャン。さあ、まだあたの仕事は残っています!」
ジャンはこっくりとうなずいた。
マザーはゆっくりとデスの前に歩み寄った。
「ヒヒヒやっと来たな。これで危険は無くなった。まったくカミュのやつめ裏切りやがって!」
デスはマザーのパイロットスーツをビリビリと引き裂いた。
マザーの白い肌が露になりデスはその体を撫でまわした。
「どこだ?どこにある?ここか?」
デスはマザーの背中にズブリとそのしわだらけの手を突っ込んだ。
「ギャアア〜…ウッ…ウウッ…」
その光景にジャンは足がすくんで動けなくなった。
「…ジャン…ジャン!逃げるのです…は、早く逃げなさい…」
ジャンはハッと我に帰りピアを背中におんぶすると猛然と駆け出した。
「クソッ…クソー!」
夢中で走り、気が付くとジャンはフェニックスの中にいた。
マザーのいた席にはピアがグッタリと座っている。
「ピア…死なないでくれ!頼むアルフ俺達を守ってくれ!」
フェニックスの足元には血だらけのデスが今にもよじ登って来ようとしていた。
「カミュのヤツ…俺達をバカにしやがって!本物はどこだ?どこに隠しやがった!?」
デスの背中がバリバリと裂けて、毛むくじゃらの皮膚がのぞいている。
ジャンの顔は恐怖でひきつっていた。
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