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オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
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外伝:頑張れ、エンリさん-1

 
 首筋を流れ落ちる汗を、手の汚れてない部分――甲で拭い、エンリは毟っていた雑草を集める。それは結構な量になっており、潰れた草が青い芳香を放っていた。
 長い間の畑仕事で疲弊した体に、汗を吸い込み濡れた服が纏わりつき気持ちが悪い。
 エンリは気分を変えるために、うんと背筋を伸ばす。
 視界に入るのは一面の畑。
 そこに植えられたラール麦は先端を膨らませつつあった。これから収穫の季節に徐々に入っていき、やがて麦は金色に染まる。畑一面が黄金に染まるのは見事なものなのだが、その前に雑草取りという面倒な行為を、しっかりと行なっておかないと黄金の色が寂しいものとなってしまう。
 今はそのための苦労というわけだ。

 背筋を伸ばすことで強張った部分が緩み、がちがちになっていた体が柔らかいものとなる。そして畑仕事でほてった体に、吹き抜ける風が心地良かった。

 そんな流れる風が、エンリの元に村の騒がしい音を運んでくる。
 その騒がしさは何かを打ち込むような音や、力をあわせる掛け声等、普段であれば絶対に聞くことの無い音ばかり。


 現在、村は急ピッチで様々な計画が進行している。
 その中でも主に置かれているのが、村の周囲を囲む壁の建築。それと見張り台の建築である。そこにある要点は村の要塞化である。
 これはゴブリンリーダーとゴブリン・メイジが主となって立てた計画である。
 というのも現状では、村が襲われた場合対処できないからだ。

 村は平地に広がるように家が並び、中央に広場があるという形になっている。柵という柵は無く、誰でも簡単に入ってこられる。今の今まではこれでよかった。森が近いとはいえ、モンスターが村の近郊まで出現したことは無かったのだ。しかし、あのような凄惨な事件が起こってなお、これで良いと思えるものは誰もいなかった。
 しかしながら柵は作れても、これで安全かという問題に関しては誰も答えられなかった。

 そこに現れたのが、ゴブリンたちである。ゴブリンの持ち上げた村の要塞化という計画は、直ぐに満場一致をもって可決された。今なお魘される、悪夢が忘れられないために。

 最初に行ったことは家屋の幾つかを廃棄し、村を縮小させる所から始まった。というのも今まででは村が周囲に広がっていたために、壁で囲むとなるとかなり膨大な範囲に及ぶということで、人手の少なくなった今の村では難しい。そのため、いくつかの家を破壊することでその範囲を狭めようというのだ。
 これは村人がかなり殺されたために、家が余っているというのも大きな要因となっている。

 まずは余分な家屋を解体し、構築していた木を壁に流用する。無論それだけでは足りないので、大森林に向かい、木を切り出す作業が必要となってくる。これはモンスターに襲われる可能性があるのだが、ゴブリン・トループが周辺の警戒を行うことで簡単に問題は解決した。

 ただ、木を切り出すだけではなく、埋めるための穴を掘ったり、木を運んだりと言う膨大な作業力が当然必要になってくる。
 この力はどうしたか。

 その答えは、ナザリックの支配者であるアインズとの取引だ。アインズは金貨を回収したいと言う目的があったようで、金貨を受け取ることで労働力を提供することを約束したのだ。無論、そこにエンリからの頼みもあったという事実もある。

 何故、エンリという単なる村娘に、アインズという強大な力を持つ存在が気にかけてくれるのは、エンリ自身も良くは理解できていない。
 多分でいいのなら、妹と2人が招かれた際の食事の時に、非常に好意的になったというのは感じてはいる。だが、その時にした幾つもの話の中で、何がそこまでアインズという人物の琴線に触れたのかはエンリにとっても謎だ。

 さて、そんなわけでアインズとの細部の詰め合わせとなったのだが、村人からの何故金貨を回収したいのかと言う質問に対し――

「この周辺各国で使用されているわけでない金貨を第三者が入手することによって、あなた方が厄介ごとに巻き込まれるのを避けるため」

 ――という返答があった。つまりは珍しい金貨を求めて欲に駆られた人間が来るのを避けるという話だ。言われてみれば納得のいく答えである。確かにそんな危険性がありうるとなると、直ぐに安全に手放したいものだ。そして手放すとなると最も安全性が高いのは、最初に持ち込んだアインズしかいない。
 そのためにすぐさまアインズと、労働力の提供による金貨の交換となったのだ。

 そしてアインズが貸し出した労働力。それはストーンゴーレムと呼ばれる石の巨像3体だ。
 大きさはおおよそ3メートルほど。一応人型はしているものの、ずんぐりむっくりとした姿だ。腕は長く、足は短い。ゴリラとかをモチーフに子供が作ったような外見だ。

 貸し出されたのが奇怪な姿をした人形のようなもの。
 これに疑問を覚える者は村人にも幾人かいた。かなりの金貨との交換がこれではという声だ。しかしながら殆どの村人が、あれほどの力を持つ魔法使いが貸し出したのだから、金貨と同等の価値は絶対にあると納得していた。またゴブリンたちは、アインズがこれほどのものを貸し出すとは思わなかったと絶賛したのだ。

 ゴーレムが実際に動き出し、不満の声を上げた村人は直ぐに顔を赤め、己の見る目の無さを恥じた。それと同時にアインズという村を救った英雄の評価はさらに上がる。

 ゴーレムは疲労を感じず、命令に従って黙々と働く。しかも人間では到底出せないような力を持ってだ。多少不器用なところがあるので細かな作業は任せられないが、それでもこれらによって短縮できた時間は信じられないほどだった。
 これを目にして不満をいう者は頭のおかしい者か、嫉妬からの妬み根性が激しい者ぐらいだろう。

 ゴーレムの不眠不休の働きによって、急ピッチで壁の建築は進んだ。数ヶ月は掛かるだろう作業がほんの数日で終わったのだ。しかも多少、想定よりも広く村を囲む壁まで建築できたほど。
 壁のみにならず、見張り台の建築も容易く進んだ。これにより村の東西に見張り台が完成する運びとなったのだ。

 これらの作業を通して、村人のゴブリンに対する警戒感はほぼ完全に無くなったと言える。特に騎士という同じ人間が村人を殺して回ったのも1つの理由である。同じ種族でも命を奪う。それに対し他の種族であるゴブリンはエンリの部下として村のために働く。それなら同じ人間よりも信頼できるのではないか。そういった流れだ。
 そして何より力がある。傷を受けても神官が治癒してくれる。ゴブリンたちが戦士としての警戒に当たってくれる。

 こうして、ほんの数日で、ゴブリンたちは村に根を張り、その存在はいなくてはならないものとなったのだ。それはゴブリンの住居のある場所だけでも納得できるだろう。人間でもない種族であるにも係わらず、現在は村の中の特別に建てた――エンリの家に程近い――大きい家を本拠に暮らしているのだから。


 エンリが耳に入ってきた村の騒がしい音によって生じた物思いから帰る頃――

「エンリの姉さん、こっちも終わりましたぜ」

 ――一緒に雑草を毟ってくれていたゴブリンが、エンリに終わった旨を伝えてくる。

「あ、ありがとうございます」
「いえ、感謝なんて、滅相も無い」

 パタパタと照れたように土と草の汁に汚れた手を振るゴブリンだが、エンリはどれだけ感謝をしても足りないほどの恩義を感じていた。
 父親と母親を失ったエンリからすると、正直この畑の管理というのは厳しかったのだ。本来であれば村人の手助けを受けることが普通なのだが、村人の数が減った現状では、どこも自分の畑の管理で精一杯。しかし、ゴブリンが手助けしてくれることで、その問題も解決したのだ。
 さらにゴブリンはその他の人手の足りない者たちに、自ら進んで協力を申し出てくれたのだ。

 ここまでしてくれるゴブリンを忌避できるだろうか。
 カルネ村では人間よりもゴブリンの方がまだ良い隣人足りえるのではないか。そんな話が当然のように話題になるほど、現在のゴブリンの評価は高い。

 ぐっと背筋を再び伸ばしてエンリは空を見上げる。お昼の鐘がまだ鳴ってはいないが、時間的にも畑仕事の進み具合的にもキリの良いところだろう。

「じゃ、お昼にしましょうか?」

 ゴブリンはその潰れたような顔にはっきりと分かる朗らかな笑みを浮かべた。

「よっしゃってやつっすね。エンリの姉さんの飯は美味いからなぁ」
「そんなこと無いですよ」

 照れたようにエンリは笑う。

「いやいや、まじっすよ。エンリの姉さんの畑仕事の手伝いは、俺達の中でも最も競争率の高い仕事なんですから。美味い飯が食えるってね」
「うーん、それなら皆さんの料理も作りますよ?」

 3人分作るのも、20人分以上作るのも同じだ……なんてことは無い。火を焚く時間、料理を調理する時間や労働力。単純計算7倍の手間が掛かる。しかし、その程度、ゴブリンから恩義を受けているエンリからすれば大した問題ではない。

「いや、いや滅相も無い。姉さんの料理が食えるのは選ばれた者の特典ですから」

 優越感を感じさせる、にやりとした笑みを漂わせた小さな亜人に、エンリは困ったような笑いを向ける。
 ゴブリンたちがじゃんけんでエンリの手助けをする者を決めているのは知っているが、それほど評価が高いだけの料理を作っているかなという疑問を込めてだ。

「じゃぁ、帰って食べましょうか」
「いいですね……」

 そこまで言いかけたゴブリンは口を閉ざすと、鋭い目で遠方を見つめる。今までのおかしげな小さな亜人から、屈強な雰囲気へと急激に変わったゴブリンに息を呑み、エンリも視線の先を眺める。
 そこには一匹の黒い狼に乗ったゴブリンがいた。それが村の方に滑るような速度で、草原の中、軽快に進んでくる。

「ライダーさんですね」

 エンリの召喚したゴブリン・トループはレベル8ゴブリンが12体、レベル10ゴブリン・アーチャーが2体、レベル10ゴブリン・メイジが1体、レベル10ゴブリン・クレリックが1体、レベル10ゴブリン・ライダー&ウルフが2体、レベル12のゴブリンリーダーが1体の計19名によって構成されている。
 今現在エンリの前にいるのがレベル8ゴブリンであり、こちらに向かって進んで来る漆黒の狼に乗った毛皮付きの皮鎧と槍を持ったのが、レベル10ゴブリン・ライダーだ。

 ゴブリン・ライダーの仕事は草原を走り回り、早期警戒を行うことである。それからすると村に戻ってくるのは極当然の光景だ。

「……そうですね」

 ただ、ゴブリンの口調は重い。何か納得できないものがある。そんなニュアンスがそこにはあった。

「どうしたんですか?」
「……時間的に早いなと思いましてね。あいつなんですけど、今日は大森林方面の警戒に行ってるはずです……なんかあったのか?」

 ゴブリンの説明を聞き、エイリの胸の内に不安がこみ上げる。何かまた血なまぐさいことが起こるのではないかという不安だ。
 2人で黙ってみている内に、ゴブリンを乗せた大型の狼はエンリたちの下まで走り寄ってくる。狼は荒い息で呼吸を繰り返し、どれだけ急ぎで帰ってきていたのかを充分に物語っていた。

「どうした?」

 話しかけたのはゴブリンが先だ。それに対し、エンリに軽く一礼をするとライダーが答える。

「大森林の方で何か起こったっぽいな」
「……何がって?」
「よくは分かんねぇけど……かなりの数の何かが北上したんじゃないか?」
「それって騎士ですか?」

 2人の話にエンリは思わず口を挟む。単なる村娘であるエンリがしゃしゃり出て良い事は何も無いと分かってはいるが、どうしても聞いておきたいということはある。特に村を襲ったあの恐怖、忘れられたわけではないのだから。

「エンリの姉さん、上から失礼します。……自信は無いですがそりゃ違うと思います。木々が切り倒され通り道が出来てましたが、素足で歩いた跡が見られましたから、ありゃ人間ではないでしょうな」
「そうなんですか」

 野外を素足で歩く人間はまずいない。当たり前だ、人間の足の裏はそこまで固くないのだから。
 その答えを聞き、あからさまにほっとするエンリ。

「……じゃぁ、とりあえずリーダーに報告しますので、これで」
「はいよ、ご苦労さん」
「お疲れ様です」

 2人に一度、手を振るとライダーはオオカミを走り始める。その後姿を目で追っていくと、そのうち門のところまでたどり着き、ゆっくりと開いた門の中に体を滑らすように入り込んでいった。

「じゃぁ、帰りましょうか?」
「そうですね」



 井戸で手を洗い、家に帰ってきたエンリとゴブリンに少女の声が掛かった。 

「お帰り、お姉ちゃん」

 その声に合わせるように、ゴリゴリという石と石をこすりあうような音が聞こえる。視線をやれば家の陰になる場所で石臼のようなものを回している12歳ほどの少女がいた。
 エンリの妹であるネムである。

 石臼からは鼻を貫くような強烈な香りが漂っていた。先ほどのエンリの手から匂ってきた臭いに非常に酷似しているが、それを倍するような、少し離れたところからでも分かるほど強い臭いだ。
 ネムはもはや臭いに慣れたため、問題は無いだろうが、エンリは強烈な臭いに当てられ、目の端に涙を浮かべた。後ろに控えるゴブリンの顔には特別なものは一切表れてはいない。種族的なものか、はたまたは仕える主人の妹に当たる人物の前でそういった行動を取るのを抑えたためかは不明だが。

「ただいま。どう? ちゃんと潰せた?」
「うん。ばっちり」ネムの視線が動いた先、エンリが出かける前はこんもりと置かれた薬草が、今では残っているのはほんの少しだ。「でもお姉ちゃん、薬草の残りが少なくなってきたよ?」

 ネムの行っているのは薬草をペーストして壷に入れることで作業である。乾かして保存するタイプの薬草もあれば、潰して保存するタイプの薬草もある。

「そうなの? ならまた取りに行かないと……」

 薬草はカルネ村の大切な硬貨獲得の手段の1つだ。いや、それ以外には殆ど無いという方が正解に近い。
 確かに食べるだけなら畑の恵だけでも何とかなるが、服等の雑貨のことまで考えると薬草等の他の稼ぎは絶対に不可欠だ。
 しかし薬草を何処で手に入れるかというと、モンスターが当然のように闊歩する大森林だ。単なる村娘であるエンリにピクニック代わりに行ける場所では決して無い。

「お願いできますか?」

 だからこそ声をかけたのは、ネムに帰宅の挨拶として頭を下げたゴブリンだ。


 大森林はモンスターをその身に収めた危険極まりない場所ではあるが、カルネ村の村人に森の恵みという恩恵を与えてくれる場所でもある。それは薪、食料となる果実や植物、動物からは肉や皮、そして様々な薬草である。
 ある意味宝の山といっても良い場所だが、モンスターが存在することや、場合によってモンスターを村まで呼びかねない危険性があるため、今まではそう手を出せる場所ではなかった。
 そのため、狩人のような腕に自信と経験がある専業職たちが時折向かうのが基本だった。しかし、今現在、それを代理で行なっているのがゴブリン達である。
 そしてゴブリンたちの働きは見事であり、今までは手に入りにくかった新鮮な肉は手に入るようになり、食卓には新鮮な果実や植物が並ぶ。食糧事情は劇的に上昇したのだ。


「構いませんが……ちっとエンリの姉さんが一緒に行かれるのは難しいかもしれませんよ?」
「え? そうなんですか?」

 苦い顔をするゴブリンに、エンリは不思議そうな顔を向ける。

「ええ、先ほどのライダーの話ですが、かなりの数の何かが北上したと言っていたじゃないですか」
「ああ、はい」
「そうなりますとね、荒れるんですよ。森が」
「?」

 不思議そうな顔を再びしたエンリに、ゴブリンは細かく説明する。

「多くの何かが動いた場合、警戒の強いものなら一端自分の縄張りを離れたりするんですよ。そうなると縄張りが一時的にごちゃごちゃになることで無数の混乱が生じるんですね。ぶっちゃけ、モンスターとの遭遇確立が上昇しているため、危険度が高まってると。それに下手すると大森林の外にまで出てくる奴もいるかもしれせんしね。幾らエンリの姉さんが豪胆な方だからといって、危険に飛び込むことも無いでしょうし……」
「そうですか……」豪胆というところに疑問を抱くが、いつものお世辞なんだろうと思ってエンリは流す。「しかし困りましたね。この時期しかその薬草は取れないんです。ですから多少危険かもしれないですけど出来れば……」

 心配そうなネムに笑いかける。最後に残った家族を悲しませるような行為は避けたい。しかしそれでも大切な硬貨獲得のチャンスを逃すことをしたくは無いのだ。確かに優先度を考えると間違っているかもしれない。しかし村のために命を張っている彼らにも、自らを主人と見なしてくれる彼らにも、恩を返す必要はある。
 そう硬く決心しているエンリに、ゴブリンがちょっと待ったと手を突き出す。

「……うーん、まぁ、今のはおれの勝手な意見ですので、一応、リーダーに相談してみますよ。エンリの姉さんもそんな早く決めないでくだせぇ。適当なことを言ったなんて叱られるのも嫌なんで」
「そうですか? ……うーん……」


 大森林という危険な場所にエンリが同行することを前提とした話を2人――エンリとゴブリン――で交わすが、それは普通に考えれば奇怪なことだろう。危険な場所ならば、腕に自信のあるゴブリンだけを送り込めばよい。しかし、その考えは実は間違っている。何故なら、エンリの召喚したゴブリンたちには奇妙な弱点があったのだ。
 それは薬草の捜索や、狩った獲物の解体作業が下手だということだ。

 変な話なのだが、薬草を見せられても、目の前にある同じ薬草を見つけることができないのだ。頭を傾げるような話ではあるが、まるでそういった能力を喪失さらには習得できないようなのだ。
 まるで何者かに削られたように。

 そのため薬草を捜索するとなると、ゴブリン以外の者が行く必要がある。そしてゴブリンと同行するのは大抵がエンリだ。というのも当然だが、ゴブリンはエンリの部下であるためだ。確かにエンリが命令をすることで他の村人を連れて大森林に向かってはくれるだろう。実際、木々の伐採では幾人者村人と共に向かったのだから。だが、森の奥に踏み込むとなると、ゴブリンが最も忠義を尽くして守ってくれる人物こそ適任だという考えが村人にはある。
 これは別に村人がエンリを生贄として差し出しているのではない。何か危険が在ったとき、エンリならばゴブリンが死ぬ気で守る――即ち生還確率が最も高いと信じてだ。


 エンリが如何するかと悩みだした頃、くぅという可愛いらしい音がなった。その音にエンリは考えを一時中断する。見ればネムの不満そうな視線がエンリに向けられていた。

「お姉ちゃん、おなか減ったよ。食事にしよ?」
「そうね。ごめんね。じゃぁ、片付けたら手を洗ってらっしゃい。準備しておくから」
「はーい」

 元気の良い返事をするとネムは石臼のようなものを2つに分け、間に溜まっていた緑色のドロドロとしたモノを器用に小さな壷にヘラを使って移していく。エンリは何を作るかと考えながら、家の入り口に向かって歩き出した。

 今まで数日前に焼いた黒パン。干し肉の切れ端が入ったスープというのがお昼の一般的な内容だったのだが、先にも述べたようにゴブリンたちのよって食糧事情は急激に好転している。
 そのため、お昼は新鮮な野菜とお肉をたっぷり使ったスープは確定だ。
 エンリは口の中に広がった味に、少しばかり頬を緩ませながら家のドアをくぐった。
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