挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
オーバーロード:前編 作者:丸山くがね
55/98

侵入者-3


 ナザリック大地下墳墓。その中央に位置するのは巨大な霊廟だ。周囲は、10メートルほどの鎧を着た戦士像が8体取り囲んでいる。そんなまるで動きかねない戦士像の足元。そこにヘッケランは僅かに身を屈めながら、霊廟の1つの方角を注意深く監視していた。
 しばらくして、霊廟から身を隠しつつ、疾走してくる5人の姿をとらえる。その影の走る姿に異変が無いこと、周囲にそれを発見するものがいないこと。そういった諸々の問題が生じることなく、ヘッケランの元に無事に駆けて来る姿に、安堵の息を吐く。

 ヘビーマッシャーの面々が接近すると、ヘッケラン周辺の音が突然消えるが、これは先ほどと同じ《サイレンス/静寂》の効果範囲に入ったためだ。
 足元から体を出して身振りをするヘッケランの元に、先頭を走っていたグリンガムが走りこむ。そして《サイレンス/静寂》の効果を打ち消したため、周囲の音が戻ってきた。

「おう、グリンガム。遅かったな」
「悪い。おれたちが最後だったみたいだな」

 ヘッケランの言葉を受け、最後に来たグリンガムは軽く謝罪の形に手を動かす。

「まぁ、無事みたいだし、問題は無いさ。ここじゃなんだ、霊廟の中でこれから先どうするか決めよう」

 ヘッケランはグリンガムを先導するように身を屈め、歩き出す。一番にここに来た関係上、ある程度は既に捜索済みだ。

「そっちはどうだった?」

 後ろから掛かるグリンガムの声。そこにあるのは隠し切れない興奮だ。つまりは先ほどのヘッケランと同じ状況ということ。
 ヘッケランはニンマリと笑みを浮かべ、懐に入れた宝の山を思い出す。そして顔だけ後ろに向けるとグリンガムに同じだけの興奮を見せる。

「かなりあったぞ、ウハウハだ」
「そっちもか。この墳墓に来て正解だな」
「まったくだ。どんな宝の山だって言うんだか。ここに葬られてる偉人さんには感謝しないとな」
「これだけ見つけると、中にはあんまり無いかもしれないな」
「いや、俺はもっとあるほうに賭けるね」
「ほほぉ。なら今回見つけた財宝を少し賭けるか?」
「いいねぇ。更に財宝を見つけて、お前さんからももらう。最高だね」

 2人で声を上げないよう、だが、大爆笑というほどのはっきりとした笑みを見せ合った。

 誰かが所有しているだろう墳墓の宝物荒らし。当然犯罪ではあるが、それを気にするような者は冒険者なら兎も角、ワーカーにはいない。もし気にするようなら、ワーカーなんかになっていなかっただろう。

「……あれは?」

 1体の巨像の足元に、石碑と言っても良い物がぽつんと置かれていたのだ。暗くあまりはっきりとは見えないが、そこには何かの奇妙な文字が書き込まれているように思われた。

「あれは?」
「あれか?」

 ヘッケランは闇の中、目を凝らすことで、グリンガムが何を疑問に思ったのか把握する。それはヘッケラン自身先ほど疑問に思った物だ。
 ヘッケランは足を止めずに、霊廟の入り口に向かいながら、調査した結果をグリンガムに告げる。本来であれば魔法を使ってまで得た情報を容易く提供するのはどうかと思われるが、今回に限っては大きなチーム――一応は協力し合う仲間だ。隠すことで全体の不利益に繋がる可能性だってある。それに書かれていた文字の内容は、ヘッケランたちもエルヤーたちも皆目検討がつかなかったもの。もしかするとグリンガムが知っているかもという淡い期待が浮かぶ。

「あれは石碑みたいなもので、文字が書かれていたんだ」
「なんと?」
「知らない言語だったんで、うちのアルシェが先ほど解読の魔法で読んだんだが、『タロスVer2.10』と書かれているみたいだな」
「……なんだそりゃ? この墳墓に関係する言葉なのか?」

 ヘッケランの声はヘビーマッシャーの面々に聞こえていただろう。だが、誰も何も言わないということは誰も知らない可能性のほうが高い。まぁ、こんなものかと、自らに浮かんでいた淡い期待を追い払い、グリンガムの質問に答える。

「アルシェの考えでは。数字が何らかの意味合いを持つんじゃないかってさ。この墳墓内のリドルに関する言葉だと思われるが……まぁ、記憶のどこかに留めておいたほうが良いかも知れないな」
「そうだな。そうしておこう」

 巨像の前を抜け、白い石材によって作り出された10段になる階段を昇ると、そこに霊廟の入り口が広がっていた。やけにひんやりとした空気がそこからは流れ出ている。

「死者の匂いだな」
「ああ。そうだな」

 グリンガムの呟きにヘッケランは同意する。墓場特有の匂いが、その冷気に混じるように僅かに漂ってくるのだ。ワーカーたるもの時折嗅いだことのある匂いだ。それはアンデッドたちが漂わせる匂いにも似て。

 中に入るとそこは大きな広間である。左右には無数の石の台が置かれており、その先には下り階段がある。その先の扉は現在、大きく開かれていた。

「こっちだ」

 ヘッケランの先導でグリンガムたちは階段を下りる。
 階段を下りて直ぐにあるのは大広間だ。まるで外部からの侵入を阻むような作りになっている部屋に、ヘッケランの仲間たち『フォーサイト』と『天武』の面々がいる。ただ、チームの数が1つだけ少ない。

「さて、これからどうする? まだ彼らが来てないようだが……」
「予定の時刻は過ぎているが……」

 ログハウス内の情報を持ってくるチームが今だこない。それは何事かあった証拠。最低でもログハウスの中には誰かがいたのだろう。
 安全策を取るなら一度撤退した方が良い。与えられた時間はまだあるのだ。無理に進む必要は無い。
 しかしながら、ある1つの思いが彼らの思考を奪う。

 それは来るまでに手に入れた宝の輝きだ。あの無数の輝きが、頭にこびりつき離れないのだ。

 ログハウスの方でも戦闘があったようには思われなかった。中の人間の茶のみ話に付き合っているのだろう。単に遅れてきているだけだ。
 そうやって、ヘッケランは己の根拠の無い想像に納得する。

「ここで待っていても仕方ないし、とりあえずは中に入ったら各自それぞれの行動を取る。ただし階段を発見しても今日は下まで降りない。こんな線でどうよ?」
「問題ないな」
「こちらもです」
「ならこの先を少しだけ調べたんだが、奥の扉を開けると、その先20メートルほどで十字路になっているんだ。そこで解散して奥を調べるということでどうだ?」
「問題ありませんね」
「了解した」
「うんじゃ、いきますか?」

 ヘッケランの提案は即座に受け入れられる。それは皆同じ思い、同じ欲望に捕らわれているからだろう。そうして彼らは一歩を踏み出す。ナザリック大地下墳墓への第一歩を。
 そして絶望への第一歩を。


 ◆


 時は僅かに戻る。
 『鉄壁』パルパトラ率いるワーカー・チームはナザリック大地下墳墓外周の壁沿いに歩き、ログハウスに近づく。近寄って分かることは、ログハウスは建築的な面では大きさを除けば極普通のものだということ。
 そのため外から観察して思うことは、せいぜい外枠が大きいので、これだけ大量に木を持ってくるのは大変だっただろうということ程度だ。それとしっかりとした作りの所為で、内部の明かりが漏れないため、中に誰かいるのか不明だ。
 正面の門は後門と同じような作りだが、大きく開かれており、役目をこれで果たしているのかという疑問が浮かぶ様だった。


 パルパトラは背負い袋から魔法の道具である千変の仮面/カメレオン・マスクを取り出すと、それを被り、顔立ちを変化させる。
 流石に友好的には振舞うが、王国の人間だろうと思われる人物の前に素顔を晒したくはない。それになんといっても既に他のチームが墳墓を荒らしている最中だ。全ての罪を被るようなことはしたくもない。

「行ってくる」

 一行に声をかけ、パルパトラはログハウスに接近する。警戒は怠らないが、流石に家の前に罠が無いか捜索しながら行くのは気が狂っている。
 当然も何事も無くログハウスに到着すると、ドアを強くでは無いが、音がしっかりと立つように数度叩く。それから声を上げる。

「申し訳ない。道に迷った者なんですが、どなたかいらっしゃいませんか?」

 温和そうに聞こえるよう、努力して作った声だ。
 少し待つが、返事が無い。もう一度声を張り上げるべきか、そう判断し、ドアを叩こうとしたところで、ドアが動く。

「ようこそ、お客様っす」

 パルパトラ一行は目を白黒させた。
 というのも、大きなドアを開けたところ――そこに立っているのはメイド服を着た美しい女性だったからだ。
 美という言葉にも色々とあるが、彼女に相応しいのは太陽のような美という言葉だろう。健康的な褐色の肌の持ち主で、ころころと表情が変わる非常に明るい女性だ。年齢的には20になる頃だろうか。
 もし彼女と大貴族の館であったなら違和感なんかこれっぽっちも覚えなかっただろうし、屈強な男や陰鬱な男がログハウスから出てきたなら別になんとも思わなかっただろう。
 しかし、目の前の女性――容姿、格好共に、このナザリック大地下墳墓の脇にあるログハウスにはあまりにも似つかわしく無い。

「どうしたっすか?」
「い、いや、思いがけず美しい女性に会えたもので……」
「うおっ。お世辞がじょうずっすね」

 てへへと笑う女性に、パルパトラの警戒心が僅かに緩む。

「ささ、中にどうぞ」
「これは失礼します」
「お仲間の皆さんもどうぞっす」

 中に人がいた場合、他のチームが墳墓内の調査に入り込んでるのを目撃されないよう、足止めをするのも役割の内だ。パルパトラは中に入ることに迷いは無い。
 しかし、全員が入ることは出来ない。当たり前だ。魔法の道具を被ることで顔立ちを変えたのはパルパトラのみ。他の仲間の顔を覚えられるわけには行かない。

 殺してしまえば簡単なのだが……。
 そんな物騒だが、酷く当たり前の考えを一瞬だけ浮かべ、パルパトラは即座に破棄する。依頼主からは騒ぎは起こさないようにといわれているのだから。
 まぁ、どうしようも無くなったら殺すしかないが。

「いや、無骨な面々です。長居はする積もりもありませんし、私だけ御呼ばれするということで」
「そうっすか?」
「ええ。それにあなたみたいな美女は独り占めしたいですから」
「……口が上手いっすね」
「いえいえ事実ですから」

 互いに笑いあう。

「なら、どうぞっす」

 入った部屋はまさにログハウスだ。ただ、かなり天井や部屋等が大きく作られており、外部から予測した部屋数が多いかもという予測は裏切られる。全体的に大きな作りのため、まるで自分が小人になった――そこまで行かなくても背が縮んでしまったような、落ち着かない気分にさせられる。

「ささ、かけてくださいっす」
「ああ、これは申し訳ないです」

 パルパトラは指し示された椅子に腰掛ける。フルプレートメイルを着用しているため、かなりの重さだったためか、椅子がミシリと嫌な音を立てた。そしてメイドはパルパトラの前に座る。

「飲み物欲しいですか?」
「ああ、お構いなく」

 心配はないとは思うが、何か入ってる可能性も考えて飲み物は断る。もはやこの辺はワーカーとして危険な仕事をしてきた者の悪癖のようなやつだ。

「いや、しかしこんな場所にあなたのような美しい方がお1人でいるとは思いませんでした」
「まぁ、今は1人っすけど、いつもじゃないっすよ?」
「そうなんですか? ……確かにご格好はメイドのようですが、もしよければご主人様に合わせてもらえればと思うんですが」
「……ご主人様っすか」

 ぴたりと口を閉ざしたメイドを見て、パルパトラは一体何が不味かったのかと考える。何も怪しい行動はしていないはずだ。

「……無理だと思いますよ。私のご主人様はお忙しい方ですから」

 突然口調が変わったメイドに対し、パルパトラは警戒感が強まるのを感じた。しかし、ここに来たのは出来る限りの情報を入手すること。ここで下がっていては仕方が無い。

「……そうですか。ところでご主人様は王国の貴族か何かで? ここを管理されているようですが」
「貴族? 違いますよ」

 メイドの目がゆっくりと細くなった。その瞬間パルパトラは寒気を感じる。前に座っているのは単なる人間のメイドだ。腕も細く、首だって細い。パルパトラが攻撃を仕掛ければ容易く命を奪えるだろう程度の。
 しかし、何故か。パルパトラは前に座っているのが巨大な獣であるかのような予感を覚えたのだ。

「……一体、何をされているので?」
「この墳墓で支配者をやっています」
「支配者……?」

 言われた意味が一瞬だけ理解できずに、パルパトラは目を白黒させる。

「そうです。支配者です。ナザリック大地下墳墓の支配者、アインズ・ウール・ゴウン様。それが私の主人の名前ですから」

 微笑む姿は非常に美しい女性のもの。しかし、その下に――その皮一枚の下に何か棘のようなものがある。
 ぎょっとしたパルパトラに、ニコリとメイドは笑いかける。

「……お忙しいといいましたけど、今頃侵入者を如何するかで忙しいんだと思います」

 椅子が倒れる音が響く。それはパルパトラが急に立ち上がったためだ。
 そしてパルパトラはドアに向かって走った。そしてドアを力いっぱい開いた。

 転がり出るようにドアから飛び出したパルパトラに、仲間達が驚きの声を上げた。

「不味い! 罠だ!」誰何の声を遮り、パルパトラは怒鳴る。「直ぐにメッセージの魔法で連絡を取れ。撤退を提案するんだ」

 パルパトラがログハウスから離れるように動きつつ怒鳴る。目はドアに向けられ、メイドが出てきたら即座に対応するつもりだ。

「……無理だ。何か妨害がされている」

 仲間の魔法使いの発言に、パルパトラは目を丸くし、即座に考え込む。

 考える中身はたったの1つだ。
 見捨てるべきか、はたまたは最低限の努力をしてみるべきか、である。

 時間的にも今頃は中央の霊廟に入り込んだ頃だろう。門をぐるっと回って宿泊地に向かうか、大墳墓を横切って向かうか。横切って向かうなら途中にある霊廟で少しだけ努力しても構わないだろう。

 他のチームのために命をかける気はしないが、それでも最低限の努力はしてやるべきである。
 というのもワーカーは冒険者のように後ろ盾やサポートをしてくれる存在がいるわけではない。確かに貴族等力ある存在が汚れ仕事等用にパトロンとなってくれる場合はあるが、それでも冒険者のように仕事柄完全に心を許すことはできない。
 そんなワーカーにとって最も信頼できるのは、ライバルである他のワーカーなのだ。確かに仕事を奪い合い、時には殺し合いに発展することもある。ただ、命や恩の貸し借りはワーカーが絶対視するものの1つだ。そんなため、ワーカーの風潮で、恩を仇で返すようなワーカーは最も嫌われ、寝首をかかれても仕方が無い存在だというのがある。

 ちらりとパルパトラはログハウスを睨む。あの女を締め上げて情報を吐かせると言うのも1つの手だ。しかし、情報を吐き出させるまでの時間を考えると非常に惜しい。

「霊廟に向かう! 続け!」

 暫し考え、結論を出したパルパトラが走り出し、正面の門を駆け抜ける。他のメンバー達もパルパトラの後ろを続く。恐らくは色々な考えがあるだろうが、リーダーの言葉に即座に従うのは良いチームの証拠だ。


 墳墓を駆け抜け、中央にある大きな霊廟への階段を駆け上る。
 そしてそこに誰もいないことを確認したパルパトラは、正面に開いた扉から中を伺う。薄暗く、地下に伸びる階段には人の気配を一切感じさせない。

「撤収するぞ! ばれてる!」

 大声で怒鳴った。
 パルパトラの声が内部で反射し、異様な音となって響いていく。パルパトラは耳を澄ませる、それに帰ってくる声は一切無い。

「パルパトラ! 下に幾人か女が来たぞ?」

 霊廟の入り口で、下を警戒していた仲間が報告の声を上げる。
 パルパトラの脳裏に浮かんだのは先程のメイドだ。まるで巨大な獣と対峙したような怖気を感じた。だが、それでも逃げ切れる自信はあった。

「戦闘が考えられる。防御魔法をかけてくれ。それから行こう」

 すべきことはした。
 パルパトラはゆっくりと武器を構える。


 パルパトラたちが霊廟の階段を降り、墓地に出るとそこにはメイド服を着た女性達が立っていた。その数は4人。
 誰もが非常に美しく、それがゆえに異常さが際立っていた。

「また会ったすね」
「…………掃討開始」
「止めなさい。シズ。アインズ様のご判断は数名は生きたまま捕まえろということよ。最後にできればという言葉がついていたけど」
「…………了解」
「……肉団子」
「……エントマも駄目よ」
「このごろ美味しい肉団子を食べてません。ルプーもそうでしょ?」
「私は揚げた芋でいいっすね。確かに肉は大好物っすけど、エンちゃんと同じものは……」
「…………合成溶液」
「いや、あれまずいっす。ミルクみたいな色だから味もそうに違いないと思った、私の期待感を返せっす。まぁ口つけたから我慢して全部飲んだっすけどね?」
「…………実はあれカロリーめちゃ高。およそ15食分」
「まじっすか!」

 ガツンとガントレット同士が思いっきり強く叩きつけられ、メイドの1人の内心の感情を意味する音が大きく響く。

「――それぐらいにしなさい? 歓迎されて無いとはいえお客様の前よ」
『はい!』

 3人の声が綺麗に調和する。敬礼しそうなほど、ぴしっと背筋を伸ばした他のメイドたちに満足したのか、代表と思われる、ガントレットを填めたメイドがパルパトラたちに正面から向き直る。

「……さて、初めまして。ボク……失礼しました……私はアインズ様に仕えるランドステュワードたるセバスの直轄メイド――それの代表を務めさせていただいているユリ・アルファと申します。短いお付き合いになるとは思いますが、お見知りおきを」

 女性――ユリは優しく微笑む。恋に落ちたとしてもおかしくは無い、そんな魅力的な微笑だ。一瞬だけ惚けそうになるが、即座に意志を強く持ち周囲に目を配る。

「アインズ様はこうお伝えするようにおっしゃっていました。『ナザリックを漁らなかった君達には生きて帰るチャンスを与えよう。ここから外に出ることが出来たなら、それ以上は決して追わない』と」

 圧倒的強者の弁。
 上位から下位を見るような物言い。
 言葉の端々にある優越感。
 パルパトラたちからすれば非常に不快なものだ。少しぐらい痛い目を見せてやりたいと思うぐらいに。しかしながら外見からとは裏腹に、メイドが強者なのではというワーカーとしての感が叫ぶ。そのため、パルパトラたちは何も言わずに睨むだけだ。

「そして皆さんのお相手をするのは――」

 ユリがガントレットを打ち鳴らす。高く響く金属音に会わせ、墓地が揺れる。

「――ナザリック・オールド・ガーダー、出なさい」

 ゆっくりと大地を割って、8体のスケルトンが姿を見せた。
 スケルトン自体は大したことが無い敵だ。パルパトラ達であれば何体でも相手に出来る。恐らくは数百体に襲われても恐怖すら感じないで、作業のように滅ぼせるだろう。
 それを考えれば地面より出てきた、たった8体程度のスケルトンなんか、敵ではないはずだ。

 しかし、今、目の前に姿を現したスケルトンたちは違う。
 パルパトラの仲間達が一斉に唾を飲み込み、無意識のうちに1歩下がる。

 どこかの国の親衛隊が使用しそうな立派なブレストプレートを着用し、紋章の入ったカイトシールドを持ち、その手には各種多様な武器を所持している。背中にはコンポジットロングボウを背負っていた。
 その手に持つ武器に盾、そして纏う鎧。それらの全てに魔法の力を感じさせる輝きを宿していたのだ。

「マジックアイテムを所持させているのか……」
「ありえんな。まったく」
「甘く見れないということか」

 口々に仲間たちが呟く。
 マジックアイテムで装備させたスケルトンが、単なるスケルトンのわけが無い。特に魔法の武器でも特殊な効果を持つ武器はかなりの高額だ。
 パルパトラたちですら各員1個持つのがギリギリぐらいだ。それを8つ。並大抵の財力では出来ないことだ。それともこの墳墓の主人が作成しているのか。

「皆さんの数的に、この程度で充分だと思われます。ご安心を私達は決して手を出しません。あなた方がこれらのアンデッドを突破して脱出できたら勝利です」
「光栄だな。これほどのアンデッドで相手にしてくれるとは。しかし――」

 パルパトラは考える。
 いくらなんでも、これほどのアンデッドを無数に用意することは容易くないはずだ。この程度の充分、そして外に出たら追わないという発言から考えると、予測される答えは1つだ。

「――これがナザリックの最大戦力か? この程度で俺達を止められるとでも?」

 パルパトラの質問に、僅かにユリが動揺したように目を動かせる。

 図星か。
 そんなユリを見て、パルパトラはそう判断する。

 侵入者に対し、外に出たら追わないという発言は奇怪極まりないものだ。だが、突破されたら打つ手が無いと考えれば理解できる。恐らくは中にいる他のチームの対策に追われてそこまで余力が無いのだろう。あとは強者っぽいメイドがどの程度いるかは不明だが、先程の発言からメイド長とも言える存在が今ここにいて、その数しか率いてないということを考えると、さほどの数はいないだろう。
 メイド4人、魔法の武具を装備したスケルトン8体。いてその倍ぐらいというところか。

 出口となる場所にかなりの兵力を集める。非常に賢い考え方だ。ならばしなくてはならないことは1つだ。

「ここにいる全てのスケルトンを倒した上で突破すれば良い、違うか?」

 後から続くだろうチームのために、ナザリックの最大戦力であるだろう、ナザリック・オールド・ガーダーは撃退すべき。そんな考えである。
 後のチームが脱出できたとしても、疲労した状態でここでぶつかったら勝てるかどうかは運次第になるだろう。それならばまだ全然疲労していないパルパトラが殲滅するのが、最も貢献した戦いかたというものだ。
 無論、ナザリック・オールド・ガーダーという初めて遭遇するアンデッドが、どの程度の強さを持つかは不明だ。しかしながら絶対に対処しきれないほどの強さではないはずだ。
 それが如何してかというと数にある。
 はるかに強いなら8体もの数はいらないだろう。もしもっといたなら、その全てに魔法の武器を持たせるだけの、財力等の力を持つことが可能というのか?

「――馬鹿馬鹿しい」

 これで全力、いや最低でも過半数だというならまだ理解できる。

「皆、あれで全部だと思うか?」
「流石にアレだけの武装をしたアンデッドがもっといるというのは考えにくいな」
「まぁ、ナザリック内部にはあと何体かいても不思議ではないけどなぁ」
「奴らを倒して道を開くとしようか」

 決意を強く固めたパルパトラたちに、少しばかりユリは驚いた顔をする。そんな答えは計算外だったのだろう。

「まぁ、そういう突破の仕方もありますね。応援してます、では頑張ってください」


 ◆


 ユリたちは困った表情で、必死に応援を繰り返す。
 あまりにも想定外な光景に困惑も隠せなかった。まさかこれほど……、そういった思いがあったのだ。

「いや、まじいっすね」
「…………これほどとは思ってもいなかった」
「コキュートス様もびっくり」
「このままじゃ……全然良いところがなく終わっちゃう」

 ユリたちの見ている前でハンマーが振り下ろされる。

「ありゃ、不味いなぁ。あれ戦士死ぬっすよ」

 胸部に雷撃を宿したハンマーの一撃を受けて、戦士が崩れ落ちる。金属がきしむような音と重い物が倒れる音。激しい戦闘が続くこの中にあっても、非常に響き渡る。

「神官さん。早く治癒魔法かけないと戦士が死んじゃいますよ」
「…………無理。今ので戦線が崩壊した」

 心配そうに呟くユリにシズが頭を横に振って答える。
 先程まで戦士が抑えていた2体のナザリック・オールド・ガーダーが自由となり、1体が神官に、1体が後衛に回ろうとしている。先程から2体受け持っていたところに更に追加の1体が入ることとなるのだ。もはや神官に魔法をかける余力はまるで無い。3方向から襲い掛かってくる攻撃を凌ぐので精一杯だ。

「盗賊では火力不足ですね。何か切り札を持ってないんでしょうか?」

 魔法使いを守って戦っている盗賊が、更に追加で1体を受け持つ形となった。これで2体だ。硬い鎧を纏うナザリック・オールド・ガーダーに盗賊の持つ軽目の武器ではあまりにも決定力に欠ける。なんとか身軽に回避しているが、疲労する人間と疲労しないアンデッドの差は大きすぎる。

「なんだか泣きそうな顔でこっち見てますね」
「手でも振っておくっすか?」
「それぐらいで良いんじゃないですか?」
「おっけっす」

 パルパトラにニコニコと笑いながらルプスレギナは手を振る。

「…………当たった」
「ルプーが注意力を散漫させるから」
「うぇー。私が悪いんすか?」
「…………頑張れ」
「そうね。彼らにも頑張って欲しいわ」

 ユリの言葉にその場にいたメイド、全員が頷く。

 パルパトラのワーカーチームとの戦闘は終始、ナザリック・オールド・ガーダーが押し捲っている形だ。もはや無駄な抵抗としかいえないような戦いっぷりは見ているユリたちのほうが哀れみを感じていた。
 最初は戦闘前の自信はなんだったのだ? とか笑っていたのだが、あまりにも良い所が無い戦闘のため欠伸が混じりだし、今ではパルパトラたちを応援しているのだ。

「いや、ここまで一方的だとなんとも言えないっすね」
「…………スペルキャスターの切り札は何か無いのかな?」
「さっき唱えた召喚魔法じゃないかな?」
「第3位階?」
「いや、あれが切り札は弱すぎでしょ。ただ、一気に召喚モンスターで壁を作ろうという考えは良かったと思うな」
「確かにっす。攻撃が届かなければ多少は立ち直しが効いたかも知れないっすからね」
「でも次の飛行の魔法を使う手段は駄目よね」
「逃げるつもりなのか、上空から魔法を使うつもりなのか不明だったけど……」
「…………射殺対象として良いマト」

 魔法使いは既に致命的な一撃を受け、地べたに転がっている。誰かがフリーになれば治癒の魔法なりポーションなりを使って戦列復帰が可能なんだろうが、今は誰にも余裕というものが無い。
 結果、盗賊がカバーに入って止めを刺されないようにするのがやっとだ。

「しかし何で彼らはこれしかいないと思ったのかな?」

 ユリにはなんとなくだが彼らの思考が読めていた。
 例えとしては不適切で変かもしれないが、つまりはこんなことである。

 親しい友人に、君に興味のある異性がいるから連れて行きたいと言われ、うきうきとした気持ちで飲み物を用意していたとしよう。そして友人が来たとき、連れてきた異性が8人もいたら、どう思うだろうか。
 まだ、あと5992人いると思うか。それともこんなにいるのかと驚くのか。さらにこれ以上の絶世の美形たちがいるとか考えていられるだろうか。
 ようは驚きで思考がパンクしたのだろう。
 いや、自分の都合の良い方向に物事を考えてしまったということもありえる。これは彼らが馬鹿なのではない。絶望から目をそらす為、自らの勇気を奮い立たせるため。人間の生存本能が最大限に働いたためかもしれないのだから。

「どうにせよ、絶望的っすね」
「そうね。ジリひんだわ」
「手段としては他の盗人どもが戻ってくるまで、防御に徹することで時間を稼ぐというのはどう?」

 エントマに全員のしらけた視線が突き刺さった。

「戻ってこれるはずが無いじゃないっすか」
「…………自明の理」
「無理よね」

 苦痛に塗れた悲鳴と共に、何かが倒れる音。4人のメイドは音の生じた方を向き、がっかりしたように話す。

「あ、盗賊も倒れた」
「こりゃ、勝負あったっすね」
「やっぱ、さっきの段階で命乞いを聞いてあげるべきだったんじゃ……」
「いやあそこまで自信満々だったのよ? 何か企んでると思うでしょ、普通」

 盗賊が撒き散らしたであろう血の濃厚かつ新鮮な匂いが、メイド達の元まで届く。

「美味しそう……」

 まるで顔を動かさずにエントマが呟くと、ギチギチギチと異様な音が顎の下辺りから響く。

「よしなさい」

 嗜めるのはユリだ。
 アインズから受けた命令は死体の回収だ。絶対なる主人の命令に理由を尋ねる必要は無い。そのため目的はまでは知らないのだが、エントマに食べられた死体を持っていくわけにもいかないだろう。

「新鮮なお肉……」
「アインズ様にあとで尋ねてみるから、今は我慢しなさい」
「しかし逃げ切られるか、どうかの実験のつもりだったんですよね?」
「そうみたいっすね」
「コキュートス様は追いついて殺せると計算されていたみたいだけど……」
「……正面から戦うとは……」
「相手の戦力を分析しないとこうなるってことね。さぁ、生き残っているのは拷問室送り、死んだのは……アインズ様にご報告しましょう」


 この夜、こうして『鉄壁』パルパトラ率いるワーカー・チームは姿を消すこととなる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ